あの人と。

Haru.

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本編

44 謝罪

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 かちゃりと、ドアが開いた音にふわりと意識が浮かび上がる。

「んん……?」

 あれ、僕なんで寝てたんだっけ……?

「ユキ様、お目覚めになられましたか??」

「リディア……? 僕なんで寝て……っ!!!!

ねぇリディア、ダグは?!! ダグ、僕を庇って……!」

 そうだ、ダグが竜人の第3王子の攻撃から僕を庇って、血が、いっぱいで……

 想像した最悪の事態に頭が真っ白になる。

「落ち着いてくださいユキ様! ダグラスは無事です!」

「ほ、本当……? だって、あんなに、血が……」

 あの血の量で無事だなんて信じられない。

「大丈夫です。あの後、ドラゴスニアの王太子殿下がいらっしゃって、ダグラスに治癒を施して下さったのです。今ダグラスは眠っているだけですよ」

「王太子殿下……? 第3王子はどうなったの?」

「それは……今に至るまでの全てをお話しいたしましょう」









 そう言ってリディアが教えてくれたことに呆然となる。

「僕、魔力暴走させたの……?」

「はい。といっても、完全ではなかったのでしょう。実際私どもは強い威圧は感じましたが怪我などは負いませんでしたし、竜人も命に別状はないそうです」

「そっか……」

 でも、少なからず暴走させたことには変わりない。

 あの時、僕はダグが目の前で血を流したことに、頭が真っ白になった。真っ白になって、何も聞こえなくなったのに、何かがブツリと切れたような音がして、そこからの記憶がない。
 つまりはそこから魔力を暴走させたのだと思う。……いや、その前から自分の中から何か湧き上がってくるような感覚があったから、記憶がなくなる前から暴走は始まっていたのかもしれない。

 なんにしろ、僕は魔力を暴走させた。暴走させないために、制御方法を覚えないといけない、ということは魔力の暴走はそれだけの危険があるということ。

 僕は危うく、大事な人達を危険な目にあわせるところだった……

「ユキ様、魔力を暴走なさったことについて気に病む必要はございませんよ」

「……だって、リディア達を傷付けていた可能性だってあったんだよ」

「それでも、でございます。
そもそも、今回ユキ様が魔力を暴走なさった原因は、私どもが第3王子方の侵入を許してしまったことにあります。本来このお部屋は侵入者を許すなどあってはならない、とても神聖なお部屋なのです。
たとえ他国の王族が相手だとしても、武力を行使してでも止める必要があったにも関わらず、私ども神官や騎士が侵入を許してしまった。
今回の咎は私どもにあるのですよ」

「リディア達は悪くない……!
今回のことは誰にも予想できなかったことだよ。まさかドラゴスニアの第3王子があんなにも強引に来るなんて、誰も予想できなかった。だから神官も騎士も何も悪くない! むしろ、みんな僕を守ろうと動いてくれた。
感謝することはあっても責めることなんて1つもない!」

「ユキ様ならばそうおっしゃるだろうと思っておりました。
ユキ様が私どもは悪くないと思われるように、私どももユキ様が悪いなどと思っていません。

そもそも、まだ魔力の制御についてひとつも学んでいないユキ様が魔力を暴走させることは何らおかしいことではありません。制御方法を学んだ者でさえ、時折暴走させることもあるのです。
ユキ様はこれから学び、覚えていかれればよろしいのですよ。私どももお手伝いいたしますから、ゆっくりと制御方法を覚えていきましょう」


 ……まだ納得はできない。でも、僕が僕を責めれば、その分リディア達は自分達を責めるのだろう。ならば、今回のことはもう考えないようにしよう。


 もう2度と暴走させないためにも、僕はしっかり制御を覚えないと。大事な人達を、自分の手で傷つけるようなことはしたくないから。

「うん……僕、頑張って制御の仕方覚える。頑張るからね、僕……!」

「はい、それでこそ私どもがお慕いするユキ様です。一緒に頑張りましょうね。
しかし! ご無理をなさるのだけはおやめくださいね?」

「うっ……わかってるよぉ……」

「ふふ、それならばよろしいのですよ。


……あっ! ……すみません、ユキ様。謝らなくてはいけないことが……」

「ん? なあに?」

 リディアが僕に謝らないとダメ?

「先程、ユキ様が第3王子方を気絶させたのちドラゴスニアの皇太子殿下がいらしたと申したでしょう?
……その時、私は気絶なさったユキ様とダグラスのどちらへ魔法をかけるか迷っていたのです」

「どうして?」

 僕にも魔法をかける必要があったの?

「ダグラスはもちろん出血が多く危険な状態でした。高度な治癒魔法をすぐにでもかけなければならない状態でした。
そしてユキ様は、魔力暴走によって魔力を今後使えなくなる可能性があったのです。それを回避するためには魔力回復魔法をかけなければなりませんでした」

 僕がダグのことが好きだから迷ったのだと、リディアは言った。
 ダグが死んでしまえば僕が悲しむのは絶対。でも僕は魔法を使うことも楽しみにしていた。それができなくなれば僕は悲しむだろうと。
 どちらをとっても僕が悲しむことがわかったからリディアは迷ったのだと言った。

「んん? リディアは僕のために迷ってくれたのでしょう? 今後は迷わず人命を優先して欲しいけど……いやまぁもう魔力を暴走させるつもりはないけどね?! でも、リディアが僕のことを考えて迷ってくれたのは嬉しい。何も謝ることなんてないじゃないか」

 どっちにしても僕が悲しむ、ってことを考えて悩んでくれたのに……謝られるようなことじゃないよね?

「迷ったことはもちろん謝るべきなのですが、本当に謝るべきはそこではないのです……」

 え? 違うの?

「じゃあどこ?」

「……その、迷っている時に王太子殿下方がいらっしゃいまして……ドラゴスニアの王太子殿下は勿論、我が国の王太子殿下もまた魔法に長けた方々でいらっしゃいます。ならばダグラスも任せられるだろうと思いまして……しかし、普通であれば一介の護衛のために王太子殿下方にお頼みするのは無理なのです。
なので私はこう言ってダグラスを救ってもらうほかなかったのです」

「なんて言ったの??」

「……ダグラスはユキ様の想い人なのです! ……と」

「……んんん? 僕の耳がおかしくなったのかな……」

「おかしくなってなどおりません。
私は殿下方へユキ様の想いを晒してしまいました……そのおかげで殿下方はすぐさま高度な治癒魔法をかけてくださいまして、ダグラスは助かったのですが……あの場にいた王妃陛下、我が国の王太子殿下、ドラゴスニアの王太子殿下と連れてこられた竜人数名、そしてラギアスにユキ様がダグラスへ想いを寄せていることが知られてしまいました」

 嘘でしょ?!!!! そんなに知られたの?!!!!
 竜人の人たちとか僕まだ見知ってもいないんだけど?!

 絶句してるとリディアが続けて言った。

「そして、私としたことがユキ様の想いについて口止めするのを忘れてしまいまして……」

「まさかもっと多くの人に知れ渡ったの……?」

「いえ、まだそういうわけではないのですが、それも時間の問題かもしれません……」

「嘘でしょ……ははは、頭イタイ」

「申し訳ございません!!」

「いや、うん、仕方ないよ……それでダグが助かったのなら、うん……
ああ、ダグにだけは知られないといいなぁ……」

 返事は怖いけどできるなら自分で伝えたい……

「……そうですね、私もそう思います」

「うぅ、周りから伝わる前に早く告白するべき……?」

「どうでしょう……」

「うぅ……僕今までの関係で満足してたのに、まさかまた悩むことになるとは……」

「申し訳ありません……」

「いや、リディアは悪くないよ……ははは……言いふらされてないといいなぁ……」

 レイやラギアスはまだしもアルが言いふらしてそうで怖い。



 言いふらされていないことを願うことしかできない僕なのであった。
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