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10月3日 金曜日
第50話 近づく終わり
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ほとんど我を忘れて聞き惚れている間に、「旅路」が終わってしまった。
曲の余韻が会場からゆっくりと消えていく。名残惜しいけれど、今日はいかんせん時間がないのだ。私は気持ちを切り替えてマイクの準備をする。
次を含めてあと三曲紹介すれば、司会は後半を担当する輝にバトンタッチだ。そこからはきっと、自分の出番まであっという間だろう。
三曲目はバラード調だった。優しく染み渡るような女声パートが聴く者の感傷を誘い、一方重厚感のある男声パートが曲を引き締めている。「想いよ永遠に」というタイトルに名前負けしない、印象的な一曲だ。
そんな大人っぽい雰囲気とはうって変わって、四曲目ははっと目が覚めるようなはつらつとした歌い出しの曲だった。アップテンポなメロディーと朗らかな歌詞が、エネルギーに満ちあふれた高校生にぴったりだと思う。
(……うん。なかなか飽きさせない構成になっている気がする)
選曲組であれこれ考えながら決めた曲順とはいえ、それが功を奏するかはそのときになってみなければわからない。
でも今のところは、贔屓目かもしれないけれどうまくいっているように思える。
私は頃合いを見てマイクのスイッチを入れた。
「続きまして、『蜃気楼の果てに』」
例によって作詞者と作曲者、指揮者と伴奏者を紹介して壁際へと退く。そして、待っていた輝にマイクと司会原稿を手渡した。
「ありがと。あとはまかせて」
そう囁いてきゅっと口角を上げた輝に、私は黙って頷く。正念場はこれからだ。
一曲、また一曲と進むたびに、私たちは終わりへと近づいていく。
私が選んだ曲──最後に控えている「夢の翼」は、合唱祭の終わりへの始まりだ。
今年の合唱祭を締めくくるのはどんな合唱だろう、と注目されるだろうか。それとも、連続で九曲も聴いた後では、みんな合唱そのものに飽きてしまっているだろうか。
参加者だって大半はステージを終え、プレッシャーや緊張から解放されているのだ。聴衆がどんな状態になっているかはわからない。
それでも私たちは歌うだけだ。メロディーに、歌声に、歌詞にメッセージを乗せて、ただ歌うだけだ。
曲の余韻が会場からゆっくりと消えていく。名残惜しいけれど、今日はいかんせん時間がないのだ。私は気持ちを切り替えてマイクの準備をする。
次を含めてあと三曲紹介すれば、司会は後半を担当する輝にバトンタッチだ。そこからはきっと、自分の出番まであっという間だろう。
三曲目はバラード調だった。優しく染み渡るような女声パートが聴く者の感傷を誘い、一方重厚感のある男声パートが曲を引き締めている。「想いよ永遠に」というタイトルに名前負けしない、印象的な一曲だ。
そんな大人っぽい雰囲気とはうって変わって、四曲目ははっと目が覚めるようなはつらつとした歌い出しの曲だった。アップテンポなメロディーと朗らかな歌詞が、エネルギーに満ちあふれた高校生にぴったりだと思う。
(……うん。なかなか飽きさせない構成になっている気がする)
選曲組であれこれ考えながら決めた曲順とはいえ、それが功を奏するかはそのときになってみなければわからない。
でも今のところは、贔屓目かもしれないけれどうまくいっているように思える。
私は頃合いを見てマイクのスイッチを入れた。
「続きまして、『蜃気楼の果てに』」
例によって作詞者と作曲者、指揮者と伴奏者を紹介して壁際へと退く。そして、待っていた輝にマイクと司会原稿を手渡した。
「ありがと。あとはまかせて」
そう囁いてきゅっと口角を上げた輝に、私は黙って頷く。正念場はこれからだ。
一曲、また一曲と進むたびに、私たちは終わりへと近づいていく。
私が選んだ曲──最後に控えている「夢の翼」は、合唱祭の終わりへの始まりだ。
今年の合唱祭を締めくくるのはどんな合唱だろう、と注目されるだろうか。それとも、連続で九曲も聴いた後では、みんな合唱そのものに飽きてしまっているだろうか。
参加者だって大半はステージを終え、プレッシャーや緊張から解放されているのだ。聴衆がどんな状態になっているかはわからない。
それでも私たちは歌うだけだ。メロディーに、歌声に、歌詞にメッセージを乗せて、ただ歌うだけだ。
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