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3章
28 嘘ではないが、真実でもない
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健介は大きく目を見開いてゾイを見つめた後、さっと目をそらしてしまう。
(まずい! これでは嘘をついていますと言っているようなもんだ)
「え、あの、いえ……あ、えっと……」
焦りすぎて少しも取り繕えず、健介は怪しさ満点にしどろもどろの受け答えをする。
冷や汗が背中をつたい落ちた。
ゾイはその間も健介から視線を逸らさず、観察するように見つめている。
(答えを間違えたら、俺はどうなってしまうんだろう……)
すでに健介は嘘をついていることを指摘されている。それでもなお、「記憶喪失のふり」をするべきか、正直に白状するべきか、思考がまとまらない頭で一生懸命に考えた。
待たせれば待たせるほどに、ゾイの疑念は強くなる。そんなことはわかっているが、上手い返しが考えつかなかった。
「ど、どうして……その、俺に記憶があると、思ったのですか?」
健介は質問に答えずに、質問を返すことにした。
「……聞き方を変えるわね。あなたはこの国の生まれかしら?」
これは……。
イエスかノーで答える質問を逆に返されて、答えざるを得ない。
「……あ、い、いいえ」
「では、どこの出身なの?」
健介は頭の中で「そうくるよなー」と思って、遠い目をした。これに答えるということは、つまりは異世界から来たことを白状しなくてはならない。
「こ……こ、答え、られません」
怪しい。実に怪しい人物であると白状しているものだと、自分でも思う。もういっそのこと全てをゾイに話してしまおうか──。
「なぜ答えられないの?」
ゾイの声が今まで聞いたこともないほどに冷たく固くなる。このままでは、拘束されて牢にでもつながれるのではないだろうかと、嫌な考えが頭をよぎった。
「ど、どこか、わからないのです」
「帝国の出身ではないことはわかるのに?」
「はい……。気が付いたら、森で、森に倒れていたのです。でも、この国の出身ではない、のです。この国はし、知りません。知らない場所で……」
嘘は言っていない。これで納得してほしいと、健介は頭の中でいるかわからない神へ切実に願った。
「嘘……ではなさそうね」
「!? う、嘘では、ないです!」
そう、嘘は言っていない。健介は必死にゾイに訴えかける。
「た、確かに記憶が無い……というわけでは、ありません。ただ、この国がどこかも、わからないの、です」
「では、何故そんなに流暢に帝国語を話せるの?」
言葉がわかることをありがたいと思っていたが、それが逆に疑惑を深めていた。確かにこの国がどこかも知らず、この国の出身ではないと言っているのに、会話がそれと感じさせないほどにスムーズなのである。怪しいことこの上ない。
「それに、ときどき国境の方言で話していることもあったわ。どういうこと?」
(あーーーー)
健介は頭を抱えたくなった。
自動翻訳の弊害──。
ワイラーのことだろう。彼の話す言葉は自分には関西弁に聞こえるのだ。そして、その関西弁を聞いているとうつるのである。うっかり、「せやな」と返してしまうのは、誰しもしょうがないことではないのか。
「う……え、え、あの……」
「自分のことはわかるのよね? 自分が誰で、どこの出身でいままでどんなことをしてきたのか」
「はい」
「あなたは何者なの?」
異世界……からキマシタ、といったところで、信じてもらえないだろうし、体よく誤魔化していると思われかねない。もっと早いタイミングで、真実を説明したほうがよかったのではないかと後悔の念がふつふつとわいてくる。
「あ、の……信じてもらえるかはわからない、のですが……。日本という国でサラリーマンをしていました」
「ニホン?」
「は、い」
「サラリーマン?」
「はい」
「そんな国聞いたことないわ。それにサラリーマン? ってなにかしら」
ですよねー。
わかってはいたが、どちらもゾイには伝わらない言葉のようだ。
健介はどう説明したらよいのか、途方に暮れるのだった。
(まずい! これでは嘘をついていますと言っているようなもんだ)
「え、あの、いえ……あ、えっと……」
焦りすぎて少しも取り繕えず、健介は怪しさ満点にしどろもどろの受け答えをする。
冷や汗が背中をつたい落ちた。
ゾイはその間も健介から視線を逸らさず、観察するように見つめている。
(答えを間違えたら、俺はどうなってしまうんだろう……)
すでに健介は嘘をついていることを指摘されている。それでもなお、「記憶喪失のふり」をするべきか、正直に白状するべきか、思考がまとまらない頭で一生懸命に考えた。
待たせれば待たせるほどに、ゾイの疑念は強くなる。そんなことはわかっているが、上手い返しが考えつかなかった。
「ど、どうして……その、俺に記憶があると、思ったのですか?」
健介は質問に答えずに、質問を返すことにした。
「……聞き方を変えるわね。あなたはこの国の生まれかしら?」
これは……。
イエスかノーで答える質問を逆に返されて、答えざるを得ない。
「……あ、い、いいえ」
「では、どこの出身なの?」
健介は頭の中で「そうくるよなー」と思って、遠い目をした。これに答えるということは、つまりは異世界から来たことを白状しなくてはならない。
「こ……こ、答え、られません」
怪しい。実に怪しい人物であると白状しているものだと、自分でも思う。もういっそのこと全てをゾイに話してしまおうか──。
「なぜ答えられないの?」
ゾイの声が今まで聞いたこともないほどに冷たく固くなる。このままでは、拘束されて牢にでもつながれるのではないだろうかと、嫌な考えが頭をよぎった。
「ど、どこか、わからないのです」
「帝国の出身ではないことはわかるのに?」
「はい……。気が付いたら、森で、森に倒れていたのです。でも、この国の出身ではない、のです。この国はし、知りません。知らない場所で……」
嘘は言っていない。これで納得してほしいと、健介は頭の中でいるかわからない神へ切実に願った。
「嘘……ではなさそうね」
「!? う、嘘では、ないです!」
そう、嘘は言っていない。健介は必死にゾイに訴えかける。
「た、確かに記憶が無い……というわけでは、ありません。ただ、この国がどこかも、わからないの、です」
「では、何故そんなに流暢に帝国語を話せるの?」
言葉がわかることをありがたいと思っていたが、それが逆に疑惑を深めていた。確かにこの国がどこかも知らず、この国の出身ではないと言っているのに、会話がそれと感じさせないほどにスムーズなのである。怪しいことこの上ない。
「それに、ときどき国境の方言で話していることもあったわ。どういうこと?」
(あーーーー)
健介は頭を抱えたくなった。
自動翻訳の弊害──。
ワイラーのことだろう。彼の話す言葉は自分には関西弁に聞こえるのだ。そして、その関西弁を聞いているとうつるのである。うっかり、「せやな」と返してしまうのは、誰しもしょうがないことではないのか。
「う……え、え、あの……」
「自分のことはわかるのよね? 自分が誰で、どこの出身でいままでどんなことをしてきたのか」
「はい」
「あなたは何者なの?」
異世界……からキマシタ、といったところで、信じてもらえないだろうし、体よく誤魔化していると思われかねない。もっと早いタイミングで、真実を説明したほうがよかったのではないかと後悔の念がふつふつとわいてくる。
「あ、の……信じてもらえるかはわからない、のですが……。日本という国でサラリーマンをしていました」
「ニホン?」
「は、い」
「サラリーマン?」
「はい」
「そんな国聞いたことないわ。それにサラリーマン? ってなにかしら」
ですよねー。
わかってはいたが、どちらもゾイには伝わらない言葉のようだ。
健介はどう説明したらよいのか、途方に暮れるのだった。
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