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256、レアドロップ品
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足元にあった魔素の塊は、消えることはなかった。
広範囲聖水雨は、不発に終わった。
でも、皆静かに黙祷を捧げていた。勇者までも。やっぱり仲間が亡くなるのは辛いよね。
俺は祝詞を唱える声を止め、組んでいた手を解いた。
「やっぱり気休めだった」
足元の魔素の塊を見ながらそう呟く。これで魔素が消えてくれたら、魔大陸の事もちょっとだけ希望を見いだせる気がしたんだけど。
しかもこんな小さな塊ですら消えないなんて。
小さく溜め息を吐くと、隣にいたユイが「そんなことない」と首を振った。
「ありがとうマック君。……さっきの魔物にやられちゃった騎士団の人ってさ、私たちと一緒に辺境に来た人だったんだ……勇者の力になりたいって。だから、なんか悲しくて。でもマック君が祈ってくれたおかげでちょっと立ち直れたよ。本当にありがとう」
そう言えば前に雄太が一緒に行動してる人がいるって言ってたっけ。成人したばっかりってことは、俺たちと同じような歳で。
でも、一緒に行動してたってことは、それだけその人と仲良くなってるわけで。
「ううん、こんなので役に立つなら、いくらでも」
俺は努めて笑顔でユイを見下ろした。ユイもへへへ、と笑うと、後ろに控えていた雄太の方を振り返って、そっと雄太の手に自分の手を伸ばしていた。雄太もその手を振りほどきもせず、逆にギュッと握ってから、俺に向けて薄く笑った。
「ヴィデロさん、この魔素の塊ってどうやって消すの?」
俺も一歩下がって後ろにいたヴィデロさんの横に立つと、ヴィデロさんを見上げて質問した。
さっき勇者が潰さないととか言ってたけど、どうやって潰すのか疑問だったんだ。
「あれはな、切って魔素を散らすんだ」
「切る?」
「ああ。あの空間を魔素が消えるまで攻撃を加えると、そこの魔素溜まりがなくなるんだ」
「そうなんだ」
「ああ。ほら、今から騎士団が消すみたいだぞ」
ヴィデロさんが指さしたほうに目を向けると、
濡れそぼった地面に立った辺境騎士団の一人が剣を抜いて構えた。
何かに集中するように静かに剣を構えて、ひと呼吸後、ブンと素早く剣を振る。その瞬間剣からかまいたちの様なものが飛び出した。斬撃だ。
何度か飛び出した斬撃が魔素の塊を細切れにしていく。
切れるたびにそこで分離した魔素は、ある程度小さくなると自然に宙に消えていった。
「もう少し剣のスピードが欲しいところだな」
「は! 精進します!」
え、あれじゃダメなの?
っていうかスキル使わなくてもあんなのが出せるここの世界の人たちってほんとヤバいよね。強すぎる。
はー、と感嘆の眼差しで見ていると、後ろからヴィデロさんの腕が俺の首に回ってきた。肩にヴィデロさんの腕の重さが掛かる。そして、耳元でヴィデロさんの声が。
「俺もあれくらいなら出せるからな?」
対抗してきた。可愛い。っていうかヴィデロさんが色々すごくて強いのは知ってる。こういうのが出せるのもね。ううう、可愛い。好き。
「あ、でもさっきの戦闘では出さなかったね」
「ああ。あれだけ速い魔物にあれを当てるのはさすがにまだ無理だからな」
まあ、魔法までひょいひょい避けられちゃってたから。斬撃は俺も目で追えるくらいの速さだったからなあ。アレを極めると目で追えないくらい速くなるのかな。そしたら、気付いたら切られてる、なんてことも起こりえるのかも。
勇者なら簡単にできそうだけど。
でも「まだ」ってつけるあたり、ヴィデロさんはもっと上を目指してるんだ。カッコいい。
ヴィデロさんにすっぽり包まれたまま騎士団たちの後処理に目を向けると、勇者がじっと俺を見ていることに気付いた。
目が合う。
途端に勇者はスッと目を細めて視線を外した。
今、すごく何かを言いたげだったんだけど、どうしたんだろう。
なんとなく、今の勇者の顔が脳裏の片隅に残って、消えなかった。
雄太たちと別れて、俺とヴィデロさんはちょっと早いけど帰路に着くことにした。
なかなかに珍しい物もたくさん手に入ったし、雄太たちにはたんまりとハイパーポーション系を渡してきたし。
またしても波乱万丈なデートだったけどね。
ヴィデロさんと手を繋いで、オットと砂漠都市を経由してトレの工房まで跳ぶ。
ヴィデロさんは黒い鎧を工房で脱いで、ここに置いておいて欲しいと言ってきた。
「トレ付近だったら鎧は特にいらないし、詰所に置いておくと誰かがふざけて着るかもしれないだろ。この鎧を見てマックが俺と間違えてくっついていくってのを考えると、詰所に置いておきたくない」
というのが置いておきたい理由だって。間違えないと思うんだけどでもここに置くのに否やはないよ。
部屋の隅に無造作に集められた鎧を見下ろして、今度鎧を立てるスタンドを買おうと心に決めた俺。クラッシュの所に置いてるかな。ここにヴィデロさんの鎧が立ってたらすごくいいと思う。インテリア的にも俺の目の保養的にも。
ちょっと早いけど、と夜ご飯を食べて、二人で食後のお茶でほう、と安堵の息を吐く。
さっきまでの緊張した面持ちとは違うすごくリラックスした顔のヴィデロさんを堪能していた俺に、ヴィデロさんが「そういえばさっきの魔物からこんなものが手に入ったんだ」とカバンの中から取り出した一つの素材を俺に見せてくれた。
ヴィデロさんに断ってから鑑定をすると、『サンダーボルトジャガーの皮:雷無効の防具が出来る素材 加工は難しい』と表示された。
「雷無効! え、すごいいいのが手に入ったね! これで防具作ったらもうヴィデロさんは雷が怖くないね!」
レアものだ! と大興奮すると、ヴィデロさんはそんな俺を見て苦笑した。
「違うよ。マックに何か装備をと思って。色合いもそのローブと合うし、腰巻マーロを作りたいんだ」
「ええ、ヴィデロさんの装備を作った方がいいのに。前衛だから」
「俺の装備を作るには面積が足りないしな。これだったらマックの腰巻マーロを作るのが丁度いい」
「ところでマーロって何?」
訊きなれない装備品の名称に首をかしげると、ヴィデロさんが俺に椅子から立つように言ってきた。
俺が立つと、ヴィデロさんがその布を短いパレオの様に俺の腰に巻いてしまった。ちょっとだけ俺の腰に回すにも長さが足りないから、確かにヴィデロさんの装備を作るには布面積が少ないかも。
「ここをしっかりと止めれるように加工してもらえば、ちゃんとした装備品になるから。だから、作ってもらわないか?」
「え、でも……いいの?」
「もちろん。むしろ嬉しい。だってそのブーツとインナー以外は、俺の贈ったもので身を固めてくれているだろ。だから次はインナーと、成人の儀を受けたら下着も贈りたいな」
さりげなくとんでもない発言をしたヴィデロさんに頽れる俺。そんな爽やか笑顔でのとんでも発言のギャップがヤバい。
ちょっと待ってヴィデロさん、彼女を自分好みにコーディネートする彼氏的なモノになってるよ……。でも好き。
俺だってヴィデロさんを俺色に染めたいのに、未だに成功したのは腕のアクセサリーだけってどういうことなの……。ヴィデロさんはスパダリで俺はダメダメじゃん……。
ブーツもって言いださないのはきっと、俺がこのブーツを手に入れた経緯をヴィデロさんに教えたから。防具屋さんのことを想ってのことだと思う。そんなところも好き。
「まだ防具屋は開いてると思うから、一緒に頼みに行かないか?」
そうと決まれば、と俺が返事をする前に、ヴィデロさんはすごくいい笑顔で俺の手を引いた。
防具屋さんはまだやっていた。
俺とヴィデロさんが並んでドアを潜ると、防具屋のおじさんが「いらっしゃい」と声を掛けてくれる。
「お、ヴィデロ君とマック君。お揃いで。何か探し物かい?」
「いえ、これでマックの腰巻を作って欲しいんです」
ヴィデロさんは早速さっきの皮を防具屋のおじさんに渡した。
防具屋のおじさんはそれを受け取ると、表面を手で撫でて、開いてじっと見つめて、手でくしゃっとしてみて、その皮を確かめてみる。
そして、うむむ、と唸った。
「こりゃあ加工が難しいやつだね。まあ、何とかやってみるが、上手くいくかどうかはわからん」
「信じてるので、お願いします」
難しい顔をしている防具屋のおじさんに、ヴィデロさんがにっこりと追い打ちをかける。
その言葉に苦笑した防具屋のおじさんは、「わかった」と皮をカウンターの所に置いた。そしてそこにあった巻き尺をサッと俺の腰に回してサイズを測ってすぐに巻き尺を外した。一瞬だった。これがプロの手つきか。
「三日後くらいに取りに来てくれ」
「よろしくお願いします」
頭を下げたヴィデロさんと俺に向かって頷いた防具屋のおじさんは、すぐに奥に向かって行った。
工房に帰り着いた俺たちは、二人だけのゆったりした時間を満喫し、愛し合った。
夜も更けるころにヴィデロさんを見送った俺は、そういえば自分のドロップアイテムを確認してなかったな、とお茶を片手にダイニングテーブルに落ち着いてインベントリを開いた。
「『雷火らいかの心玉しんぎょく』……って錬金素材……?」
そこには見慣れない名前の素材が入っていた。今ジョブは錬金術師を前に出してるから、素材も錬金素材が手に入るんだよな。それにしても、大仰な名前だ。
『雷火の心玉:錬金素材 あらゆるものに雷特性がつく素材 まれに雷吸収がつく(確率25%)』
鑑定結果はこんな感じ。雷吸収って、雷を吸収して回復とかパワーアップとかそういうやつ? でも四分の一の確率かあ。何と混ぜると出来上がるんだろう。レシピに載ってるかな。
思ったよりも凄い物がドロップされていて、俺はちょっとだけテンションが高くなった。
レシピを開くと、真ん中くらいにその素材の名前が載っていた。お、素材揃ってる! 作ってみようかな!
さっき愛し合ったから細胞活性剤を使ってるってのも忘れて、俺は錬金釜を取り出した。
調子に乗ってほぼすべてのMPを注ぎ込み、謎液体を満たした釜にレシピに書かれた素材を次々入れていく。
スタミナが底をつきそうなくらいギリギリのところで、釜の中身が変化した。
肩で息をしながら出来上がったものを取り出す。
ころりと中に入っていた石は、取り出してみると、周りが青いのに、中心に行くにつれて緑から黄色に変化していく、まんなかにピリピリと常に稲妻が走っている何とも神秘的な石だった。
鑑定してみると『喰雷の義玉:装飾品武器防具につけることで、雷を吸収し生命の炎を燃やすとても珍しい宝石』なんていう大層な名前のアイテムであることが判明。レシピを覗き込んでみると、未だに完成の絵が現れておらず、もしかして、とごくりと唾を飲み込む。
四分の一の方のアイテムが出来上がったってことか! やった! と喜んで、スタミナ切れでその場でへばる。
いつもの癖でスタミナポーションを取り出して、ハッと気づく。
俺、今回復できないんじゃん……。
広範囲聖水雨は、不発に終わった。
でも、皆静かに黙祷を捧げていた。勇者までも。やっぱり仲間が亡くなるのは辛いよね。
俺は祝詞を唱える声を止め、組んでいた手を解いた。
「やっぱり気休めだった」
足元の魔素の塊を見ながらそう呟く。これで魔素が消えてくれたら、魔大陸の事もちょっとだけ希望を見いだせる気がしたんだけど。
しかもこんな小さな塊ですら消えないなんて。
小さく溜め息を吐くと、隣にいたユイが「そんなことない」と首を振った。
「ありがとうマック君。……さっきの魔物にやられちゃった騎士団の人ってさ、私たちと一緒に辺境に来た人だったんだ……勇者の力になりたいって。だから、なんか悲しくて。でもマック君が祈ってくれたおかげでちょっと立ち直れたよ。本当にありがとう」
そう言えば前に雄太が一緒に行動してる人がいるって言ってたっけ。成人したばっかりってことは、俺たちと同じような歳で。
でも、一緒に行動してたってことは、それだけその人と仲良くなってるわけで。
「ううん、こんなので役に立つなら、いくらでも」
俺は努めて笑顔でユイを見下ろした。ユイもへへへ、と笑うと、後ろに控えていた雄太の方を振り返って、そっと雄太の手に自分の手を伸ばしていた。雄太もその手を振りほどきもせず、逆にギュッと握ってから、俺に向けて薄く笑った。
「ヴィデロさん、この魔素の塊ってどうやって消すの?」
俺も一歩下がって後ろにいたヴィデロさんの横に立つと、ヴィデロさんを見上げて質問した。
さっき勇者が潰さないととか言ってたけど、どうやって潰すのか疑問だったんだ。
「あれはな、切って魔素を散らすんだ」
「切る?」
「ああ。あの空間を魔素が消えるまで攻撃を加えると、そこの魔素溜まりがなくなるんだ」
「そうなんだ」
「ああ。ほら、今から騎士団が消すみたいだぞ」
ヴィデロさんが指さしたほうに目を向けると、
濡れそぼった地面に立った辺境騎士団の一人が剣を抜いて構えた。
何かに集中するように静かに剣を構えて、ひと呼吸後、ブンと素早く剣を振る。その瞬間剣からかまいたちの様なものが飛び出した。斬撃だ。
何度か飛び出した斬撃が魔素の塊を細切れにしていく。
切れるたびにそこで分離した魔素は、ある程度小さくなると自然に宙に消えていった。
「もう少し剣のスピードが欲しいところだな」
「は! 精進します!」
え、あれじゃダメなの?
っていうかスキル使わなくてもあんなのが出せるここの世界の人たちってほんとヤバいよね。強すぎる。
はー、と感嘆の眼差しで見ていると、後ろからヴィデロさんの腕が俺の首に回ってきた。肩にヴィデロさんの腕の重さが掛かる。そして、耳元でヴィデロさんの声が。
「俺もあれくらいなら出せるからな?」
対抗してきた。可愛い。っていうかヴィデロさんが色々すごくて強いのは知ってる。こういうのが出せるのもね。ううう、可愛い。好き。
「あ、でもさっきの戦闘では出さなかったね」
「ああ。あれだけ速い魔物にあれを当てるのはさすがにまだ無理だからな」
まあ、魔法までひょいひょい避けられちゃってたから。斬撃は俺も目で追えるくらいの速さだったからなあ。アレを極めると目で追えないくらい速くなるのかな。そしたら、気付いたら切られてる、なんてことも起こりえるのかも。
勇者なら簡単にできそうだけど。
でも「まだ」ってつけるあたり、ヴィデロさんはもっと上を目指してるんだ。カッコいい。
ヴィデロさんにすっぽり包まれたまま騎士団たちの後処理に目を向けると、勇者がじっと俺を見ていることに気付いた。
目が合う。
途端に勇者はスッと目を細めて視線を外した。
今、すごく何かを言いたげだったんだけど、どうしたんだろう。
なんとなく、今の勇者の顔が脳裏の片隅に残って、消えなかった。
雄太たちと別れて、俺とヴィデロさんはちょっと早いけど帰路に着くことにした。
なかなかに珍しい物もたくさん手に入ったし、雄太たちにはたんまりとハイパーポーション系を渡してきたし。
またしても波乱万丈なデートだったけどね。
ヴィデロさんと手を繋いで、オットと砂漠都市を経由してトレの工房まで跳ぶ。
ヴィデロさんは黒い鎧を工房で脱いで、ここに置いておいて欲しいと言ってきた。
「トレ付近だったら鎧は特にいらないし、詰所に置いておくと誰かがふざけて着るかもしれないだろ。この鎧を見てマックが俺と間違えてくっついていくってのを考えると、詰所に置いておきたくない」
というのが置いておきたい理由だって。間違えないと思うんだけどでもここに置くのに否やはないよ。
部屋の隅に無造作に集められた鎧を見下ろして、今度鎧を立てるスタンドを買おうと心に決めた俺。クラッシュの所に置いてるかな。ここにヴィデロさんの鎧が立ってたらすごくいいと思う。インテリア的にも俺の目の保養的にも。
ちょっと早いけど、と夜ご飯を食べて、二人で食後のお茶でほう、と安堵の息を吐く。
さっきまでの緊張した面持ちとは違うすごくリラックスした顔のヴィデロさんを堪能していた俺に、ヴィデロさんが「そういえばさっきの魔物からこんなものが手に入ったんだ」とカバンの中から取り出した一つの素材を俺に見せてくれた。
ヴィデロさんに断ってから鑑定をすると、『サンダーボルトジャガーの皮:雷無効の防具が出来る素材 加工は難しい』と表示された。
「雷無効! え、すごいいいのが手に入ったね! これで防具作ったらもうヴィデロさんは雷が怖くないね!」
レアものだ! と大興奮すると、ヴィデロさんはそんな俺を見て苦笑した。
「違うよ。マックに何か装備をと思って。色合いもそのローブと合うし、腰巻マーロを作りたいんだ」
「ええ、ヴィデロさんの装備を作った方がいいのに。前衛だから」
「俺の装備を作るには面積が足りないしな。これだったらマックの腰巻マーロを作るのが丁度いい」
「ところでマーロって何?」
訊きなれない装備品の名称に首をかしげると、ヴィデロさんが俺に椅子から立つように言ってきた。
俺が立つと、ヴィデロさんがその布を短いパレオの様に俺の腰に巻いてしまった。ちょっとだけ俺の腰に回すにも長さが足りないから、確かにヴィデロさんの装備を作るには布面積が少ないかも。
「ここをしっかりと止めれるように加工してもらえば、ちゃんとした装備品になるから。だから、作ってもらわないか?」
「え、でも……いいの?」
「もちろん。むしろ嬉しい。だってそのブーツとインナー以外は、俺の贈ったもので身を固めてくれているだろ。だから次はインナーと、成人の儀を受けたら下着も贈りたいな」
さりげなくとんでもない発言をしたヴィデロさんに頽れる俺。そんな爽やか笑顔でのとんでも発言のギャップがヤバい。
ちょっと待ってヴィデロさん、彼女を自分好みにコーディネートする彼氏的なモノになってるよ……。でも好き。
俺だってヴィデロさんを俺色に染めたいのに、未だに成功したのは腕のアクセサリーだけってどういうことなの……。ヴィデロさんはスパダリで俺はダメダメじゃん……。
ブーツもって言いださないのはきっと、俺がこのブーツを手に入れた経緯をヴィデロさんに教えたから。防具屋さんのことを想ってのことだと思う。そんなところも好き。
「まだ防具屋は開いてると思うから、一緒に頼みに行かないか?」
そうと決まれば、と俺が返事をする前に、ヴィデロさんはすごくいい笑顔で俺の手を引いた。
防具屋さんはまだやっていた。
俺とヴィデロさんが並んでドアを潜ると、防具屋のおじさんが「いらっしゃい」と声を掛けてくれる。
「お、ヴィデロ君とマック君。お揃いで。何か探し物かい?」
「いえ、これでマックの腰巻を作って欲しいんです」
ヴィデロさんは早速さっきの皮を防具屋のおじさんに渡した。
防具屋のおじさんはそれを受け取ると、表面を手で撫でて、開いてじっと見つめて、手でくしゃっとしてみて、その皮を確かめてみる。
そして、うむむ、と唸った。
「こりゃあ加工が難しいやつだね。まあ、何とかやってみるが、上手くいくかどうかはわからん」
「信じてるので、お願いします」
難しい顔をしている防具屋のおじさんに、ヴィデロさんがにっこりと追い打ちをかける。
その言葉に苦笑した防具屋のおじさんは、「わかった」と皮をカウンターの所に置いた。そしてそこにあった巻き尺をサッと俺の腰に回してサイズを測ってすぐに巻き尺を外した。一瞬だった。これがプロの手つきか。
「三日後くらいに取りに来てくれ」
「よろしくお願いします」
頭を下げたヴィデロさんと俺に向かって頷いた防具屋のおじさんは、すぐに奥に向かって行った。
工房に帰り着いた俺たちは、二人だけのゆったりした時間を満喫し、愛し合った。
夜も更けるころにヴィデロさんを見送った俺は、そういえば自分のドロップアイテムを確認してなかったな、とお茶を片手にダイニングテーブルに落ち着いてインベントリを開いた。
「『雷火らいかの心玉しんぎょく』……って錬金素材……?」
そこには見慣れない名前の素材が入っていた。今ジョブは錬金術師を前に出してるから、素材も錬金素材が手に入るんだよな。それにしても、大仰な名前だ。
『雷火の心玉:錬金素材 あらゆるものに雷特性がつく素材 まれに雷吸収がつく(確率25%)』
鑑定結果はこんな感じ。雷吸収って、雷を吸収して回復とかパワーアップとかそういうやつ? でも四分の一の確率かあ。何と混ぜると出来上がるんだろう。レシピに載ってるかな。
思ったよりも凄い物がドロップされていて、俺はちょっとだけテンションが高くなった。
レシピを開くと、真ん中くらいにその素材の名前が載っていた。お、素材揃ってる! 作ってみようかな!
さっき愛し合ったから細胞活性剤を使ってるってのも忘れて、俺は錬金釜を取り出した。
調子に乗ってほぼすべてのMPを注ぎ込み、謎液体を満たした釜にレシピに書かれた素材を次々入れていく。
スタミナが底をつきそうなくらいギリギリのところで、釜の中身が変化した。
肩で息をしながら出来上がったものを取り出す。
ころりと中に入っていた石は、取り出してみると、周りが青いのに、中心に行くにつれて緑から黄色に変化していく、まんなかにピリピリと常に稲妻が走っている何とも神秘的な石だった。
鑑定してみると『喰雷の義玉:装飾品武器防具につけることで、雷を吸収し生命の炎を燃やすとても珍しい宝石』なんていう大層な名前のアイテムであることが判明。レシピを覗き込んでみると、未だに完成の絵が現れておらず、もしかして、とごくりと唾を飲み込む。
四分の一の方のアイテムが出来上がったってことか! やった! と喜んで、スタミナ切れでその場でへばる。
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