これは報われない恋だ。

朝陽天満

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695、不思議アクセサリーの性能

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 アリッサさんの所に跳ぶと、アリッサさんは既に魔道具作りの準備をして待っていてくれた。

 そして、ヴィデロさんを見て一言「どういうこと?」と。

 すごく怪訝な顔をしている。

 なに、何かあったの?



「ヴィデロあなた、まさか転移装置でこっちに戻ってきちゃってたりはしないわよね……さっきまではそんなことなかったのに、何があったの……?」



 ヴィデロさんの身体をバンバン叩いて、背中の方を覗き込んで、顔を見上げて、首を傾げる。



「さっきと何も変わりない。マックと一緒にジャル・ガーの所に行って、その後クワットロの呪術屋に行って、そこで勇者たちに逢ってここに来ただけだ」

「でも、あなたマーカー表示されてるわ。ちゃんと魔道具付けてるわよね。どうして……」

「マーカー?」



 アリッサさんの言葉に、俺とヴィデロさんはすぐに地図を開いてみた。

 そこには、現地の人の色で、ヴィデロさんが表示されていた。え、何で。

 アリッサさんの魔道具は、このマーカー自体を表示させないようにするやつだったよね。

 一瞬だけ驚いた顔をしたヴィデロさんは、ハッとしたように耳に手を添えた。



「これの性能じゃないか?」



 レガロさんに貰ったピアスをスッと外す。

 すると、今度はマップに全くマーカーが映っていなかった。レガロさんに貰ったピアス、どういう原理なんだろ。



 

 アリッサさんは本当にすぐに結界の魔道具を作ってくれた。ちょっとだけ待っていてね、と言われたので、じゃあお茶でも出して待ってようかな、なんて思ってお茶を淹れて、祈りを唱え終えたところで出来たと言って持ってきたんだ。早い。せっかくだから、と皆でお茶を飲んでからアリッサさんの部屋を辞することにした。



「ログアウトする前に、一度寄りたいところがあるんだ」



 手を繋いて魔法陣を描こうとした俺に、ヴィデロさんはそう言った。

 いいか? と聞かれて否やはないよ。どこに行くにも連れてくよ。

 ニコニコと了承すると、ヴィデロさんはすごくホッとした様な顔で笑った。

 どこに行きたいのか訊くと、トレの街の、門の詰所。



「マルクスに、怒られるのはわかってるけど」



 顔を見せたいんだ、と言ったヴィデロさんに、俺は抱き着いた。もちろん、顔出そう。マルクスさん、俺に絡むくらい首を長くしてヴィデロさんの無事な姿を待ってるから。めちゃくちゃ心配してるから。





 トレの工房に帰ってきた俺たちは、そのまま外に出て、散歩気分で門まで歩いた。

 途中店の人が「ヴィデロ! 久しぶり!」とか声をかけてくれたり、知らないプレイヤーの人が挨拶してくれたりしていたのを、ヴィデロさんが微笑で返す。

 門が見えてくると、門番さんが二人門の所に立っていた。兜をかぶってるから誰だかわからないけれど、こっちを向いて、動きを止めた後、俺たちを指さして反対側にいる門番さんに「ヴィデロだ!」と叫んでいるのが聞こえる。

 そして門の見張りを放り出して、こっちに走り出してきた。

 往来の人々が見てる中、鎧のまま物凄いスピードで走り寄って来た門番さんが、ヴィデロさんにその勢いのまま抱き着く。

 少しだけ後ろによろけたけどなんてことなくその勢いでくっついて来た門番さんを抱きとめたヴィデロさんは、さっきの微笑とは違う笑みで、門番さんの背中をバンバン叩いた。



「お前無事だったのかあ! まあマックがいるから、何があっても大丈夫だとは思ってたけどな! 顔が見れてよかった!」

「パブロもな。皆、元気だったか?」

「もちろん! 今ロイが皆にヴィデロが来たことを伝えてるよ!」



 ヴィデロさんに抱き着いたまま背中をバンバン叩きまくる門番さんが言った通り、わらわらと詰所の入り口から人が出てきていた。

 皆、ヴィデロさんを出迎えるために出てきたみたい。

 中には鎧を着てないマルクスさんもいて、俺たちを視界に入れた瞬間、走り出した。



「ヴィデロ――!」



 その勢いのまま、捕獲されたままのヴィデロさんに抱き着く。

 そして「パブロ邪魔! 俺にも抱擁させろ!」とヴィデロさんに抱き着いたまま二人の喧嘩が始まろうとしていた。

 ヴィデロさんは、困ったような顔で笑うと、ちらりと俺の方を見てから、二人に「抱き着かれるなら俺はマックがいいんだけど」とハッキリと言った。

 二人とも苦笑しながら離れて行く。そして、俺の方を見て、「ごめん。感極まって。焼きもち妬くなよ」とか言って頭を撫でた。子供じゃないんだけど。

 マルクスさんは間接抱擁とか言って俺にも両手を広げて来るもんだから、ヴィデロさんに一撃貰っていた。相変わらずだね。

 ぞろぞろ出てきた門番さんたちにもみくちゃにされたヴィデロさんは、いつもよりも楽しそうな顔で、皆の無事を喜んでいた。



「ところでヴィデロ。もうここには戻らないのか?」

「ああ。もっと他で学ぶこととやることが沢山出来たんだ。でもマメに顔を出すよ」

「そっか。たまには一緒に森に狩りにでも行こうぜ。見回りがてら。お前が辞めてから明らかに戦力不足でよ。皆タタンとガレンにひたすら扱かれてるよ」

「頑張れ。強くなって悪いことはないから」

「ああ。頑張って強くなって、かっこいい俺様にベタぼれの女の子をゲットするぜ」

「それは……ガンバレ」



 マルクスさんがドヤ顔でした宣言に、ヴィデロさんはフッと遠くを見て、カタコトで返す。そんな何気ないやり取りが面白くて、ずいぶん懐かしくて、俺の胸はなんだかすごく温かくなった。





 工房からログアウトすると、俺はヴィデロさんのいる部屋に向かった。ヴィルさんの部屋の玄関をノックすると、ヴィデロさんがすぐさま顔を出してくれた。

 ヴィルさんは下に行ってるらしい。仕事だろうなあ。



「兄から健吾にメモを預かっているんだ」



 そう言って、ヴィデロさんは俺に一枚のメモをくれた。

 そこには「責任もってヴィデロに美味い昼飯を食わせること。俺たちは所用で外に出るから、そこで食ってくる」と書いてあった。

 ヴィデロさんはこの文字は読めないらしいので、内容を伝えると、わかった、と頷いた。

 というわけで、ヴィデロさんと二人のお昼ご飯。

 サラダと野菜タンメンと冷凍餃子とご飯を出すと、ヴィデロさんは美味いを連発しながら全て綺麗に食べてくれた。



 どんぶりと皿を下げて、二人で洗う。

 満足そうなヴィデロさんに俺も満足したので、ちょっと買い物デートに誘ってみることにした。

 ヴィルさんにもヴィデロさんの服を見に行けって言われてたし。



「ヴィデロさん。今日はまだ手続きとか行かないんでしょ。だったらさ、一緒に買い物に行かない?」

「買い物? そういえば兄にも言われてたな。でも、服はもういらないと思うんだけど」



 そういえばタンス一つ分の服が用意されてたって言ってたっけ。



「じゃあ……行かない?」

「いや、ケンゴと並んで歩くのもいいな。行こう」



 頷いてくれたヴィデロさんに嬉しくなって顔を綻ばせると、ヴィデロさんも同じように目を細めて顔を緩ませた。好き。



「じゃあ、上着持ってくるね」

「俺もケンゴの部屋に一緒に行っていいか?」

「もちろん」



 上着を手にしたヴィデロさんと共に、ヴィルさんの部屋を出ると、俺は自分が使っている部屋にヴィデロさんを迎え入れた。



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