討って出る! -3−

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④ バロン –トウイside–

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朝…起きたばかりで まだ よく働かない頭をかかえ、マブタをこすりながら 
「おはようー」 
居間に足を踏み入れるようとすると…瞳の片隅に 不可解なモノが写りこんだ。
『えっ⁉』  見間違いかと思い、もう一度 振り仰ぐ。
『…バロン…なんで⁉…』 そこに あるはずのない姿を認める。
ボクが、大きく目を見開いたまま 驚いていると
「おはよーさん。
ちょうど 呼びにいこうと思っておったんじゃ」
部屋の方から ひょっこりと ネコじいちゃんが顔を出した。
「どういうこと?」 わけがわからず問いかけると。
「どうやら 彼は、魔女の使いで ココに来たようなんじゃ…」
わずかに気落ちしたような ネコじいちゃんの返答があった。


急いで みんなを起こし、話を聞く。
満場一致で バロンの後について行くことにした。
代わりの案が 何も思い浮かばなかった ことと、
予想外に バロンに 「大丈夫だ!」って太鼓判を押されたから、思わず ソレに従ってしまった ところのある。
なんだかんだいって 他の人も、
前日 【一緒に 館に閉じ込められた】 という経験も手伝って
いまいち バロンのことを 【魔女の味方なんだ】 って 割り切れないみたいだ。

++++++++++

セミの大合唱がヒビく森の中を、
迷いなく ズンズンと バロンは踏み入って行く。
そんな彼の後ろを歩きながら、
『セミの声、最近 あんまり聞かなかったけど、まだ こんなに生きてたんだなー』
なんて、呑気なことを 考えていた。
そんな中、不意に 隣りを歩くレオに問いかけられた。
 「なぁ、なんか 変じゃないか?」
「へっ⁉ なにが?」
とっさに 何も思い浮かばなかったボクは、ただ相槌アイヅチを打つことぐらいしか出来なかった。
「ジブンの気のせいかもしれないが…」  と、前置きして
「2,3日…
イヤ、割と最近に、この道を通った気がするんだが…」
レオの指摘を受けて 辺りをキョロキョロ見渡してみる。
けれど、残念ながら
「そう…かもしれないけど、
ボクはレオみたく、嗅覚キュウカクとか鋭くないから、ダメみたい。
ボクには、みんな同じに見えるよ」 自分なりの感想を素直に述べると
「そうか…」 と言ったきり、レオは 黙ってしまった。

やがて…一軒の屋敷が…
『あっ?…アレ⁉…なんか 見たことある気が…』
確認しようと チラリ レオの方をうかがうけど、
素知らぬふりして ちっとも コチラを向いてくれない。
その間にも グングン 屋敷は距離を縮めてくる。

『う、うそ…マジ…』  叫び出しそうになり、思わず 口元に手を置いた。
目の前に、数時間前まで ボクたちが閉じ込められていた別荘が デデン!とソコにあった。
しかも ココが、到着地点だという。






周りを見渡すと、みんなも 同じような顔をしていた。
やっぱり…
『ビックリしたの、ボクだけじゃないんだ』 ひそかに 安心していると。
「なんで、ココに連れてきたの?」
一同を代表するように謙信が、バロンに問いかける。
その流れのまま ボクたち(レオ +プラス トウイ)にアイコンタクト。有無を言わさず 通訳役に任命された。
バロンが話したことを 
まずレオがトウイに伝え、
そのトウイが みんなに伝えるという図式である。
少々面倒 というか、まわりくどい‼ (絶対 口には出来ないが…)
みんなが 他に方法がないと力説され シブシブ引き受けた。
これは後で気づいたのだが、ネコじいちゃんにも出来るのではなかろうか?
だって…朝、バロンと話していたのは ネコじいちゃん。
それで 通じていないどころか。
キチンとその後 対処できているのである。
『ぜっーたい! その方が良かった‼』
今なら確信をもって そう言えるが、
生憎アイニク この時は 思いつかなかった。



ボクは、ドキドキ半分ワクワク(?) 半分 
そのことを ミジンも感じさせずに おとなしく レオからの通達を待つ。
しかし、しだいに 目に止まる回数が増えてゆくレオの行動 
バロンがワンワン吠える度に レオの顔が険しくなっていく。
『ナニ 話してんだろ?』 気づいてしまったが最後。
 だんだんそのことばかりが頭をしめ始め、それがイラつきを生み出すが、
それを ひたすらガマンし,見守っていると
やっと もたらされた驚愕キョウガクの事実。
【まず、あかねか、2階の部屋に居るということ。
しかも、魔女が人間の子供を誘拐しておきながら
動物をさらったぐらいにしか考えていないかったこと。
その証拠に テレビで自分が指名手配されたと知ると、
すべてをバロンに丸投げし、雲隠れしたという。
ただし やはり ペンダントは欲しいらしく、
手に入ったら 連絡するように バロンに指示して言ったという】
『ナニそれ⁉』  話を聞き終えると、衝撃のあまりに 何も言葉に出来なかった。
『こんな自分勝手な大人 居るんだ』 
それが正直な感想だった。
ボクはそれまで、【大人って…完璧なんだ】 って思いこんでた。
常識知らずで 平気で 他人に迷惑をかける人間は、大人になれないんだって 本気で信じていた。
父さん.母さん、それ以外にも 先生や近所の人にしても、そんな変な大人 居なかったから。
つくづく恵まれた環境にいたんだなーと しみじみ感じていた。
『でも今は、聞いたことを みんなに伝えなきゃ』 
再び気合いを入れ直した時


顔を真っ赤にして 拳を 手近にあった木に打ちつけているリクの姿が 目に入る。
どうやら 待ちきれなかったネコじいちゃんが、
大まかな事態を みんなに伝えたらしい。
『なら、初めからそーしてよー』 ベナヘナとその場に座りこむ。
一方で…
「じゃオレたちが ここから脱出した時…
あかね、居たのかよ?」
「魔女は ホント(本当)に オレにペンダント 運ばせようとしてるのか?
そのために オレたちを解放したって言うのかよ? 」
イキドオるリクの怒号だけが、茜色の空に空しく響いていた。

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