5 / 7
⑤ 違和感
しおりを挟むバロンの案内で 連れてこられたのは、
数時間前まで 囚われていた屋敷だった。
『まさか ココに もう一度立つことになるとは!』
驚きと共に ため息がこぼれ落ちる。
先陣をきった上杉に続き、玄関に 足を踏み入れると、
変わらず 西洋甲冑が出迎えてくれた。
そりゃそうだ。
この数時間で 変化していたら その方が驚きである。
その横を通り抜け、あかねが居るという2階へと急ぐ。
++++++++++
そこは、小さな部屋だった。
ジブンたちが捕まっていた部屋は ちょっとしたパーティなら開けるくらいの大きさがあったのに対し,
この部屋は狭く そして…暗い。
そのことは 室内に入る以前…片開きのドアの時点で 判明していた、気がする。
器用に 前足を使い 扉を押し開けたバロン。
「ワン」 と一鳴きし、ジブンたちに 入ってくるよう うながす。
部屋に入ると、思い描いた通りのありさまだった。
廊下もそうだったが、室内にも 窓が一つも無く
どんよりとした暗闇が 幅を利かせていた。
中央に設られた電灯は 今は、点灯していない。
その真下に 簡素なテーブルと 椅子が2脚。
そして、その近くの床に 少女は転がされていた。
上杉は、その姿を 目にするなり
「あかね‼」 かけよった。
それに 杉田やトウイも 続く。
玄白じいなど 上に飛び乗り、
「大丈夫じゃ。
ちゃんと 心臓動いとるし、呼吸もしとる」 って言ってるけど その前に人質に登っていいのか?
猫だから 多少 人間より軽いだろうけど、それでも あまり良くない気がする!
「とりあえず 救急車呼ぶね!」
トウイが叫ぶと、それにかぶせるように
「警察もじゃ。
お父さんに 連絡するのじゃ」 玄白じいが支持する。
その間にも 上杉は
「あかね…あかね」 しきりに呼びかけている。
そのうち 体を起こそう杉に
「やめろ‼」 スルドイ声がとぶ。
ビクッ それに一同 驚き、
恐る恐る その声の発信元である 玄白じいに目を向けた。
「頭を打っとるかもしれんから 動かさん方が良い」
しかし、当の彼は 素知らぬそぶりで 静かに言い放つ。
ちなみに いつの間にか あかねの上から下りている。
「平気さ。たぶん、気を失ってるだけだ。
何も、危害 加えてないからな」
それを受けて バロンが反論するが、
その声は、もちろん 皆には ただ吠えただけにしか聞こえず 何も反応が返ってこない。
仕方ないので、今の言葉をトウイに耳打ちすると
「オマエの言うことなんか、信じられるかよ!」
敵意 むき出しの 上杉の声が飛んできた。
杉田やトウイに 目を向けるとと、
バツが悪そうに 彼らも 顔をうつむかせていた。
『まあ 仕方ないだろうな…』
さすがに この状況を目の当たりにして、
先ほどまでの 和気あいあいとした空気感ではいられないだろう。
覚悟していただろう バロンも 予想以上にこたえたのか?
ショボンと 意気消沈したように、ダラリと尻尾を垂らしたまま 立ちつくしていた。
その背後では、
風に乗って 遠くから、パトカーと救急車のサイレンの音がひびいていた。
++++++++++
警察と共に 上杉のお父上様もかけつけ、
あかねを乗せた救急車に 上杉親子と杉田の3人が 同乗した。
病人を運ぶこと が仕事の救急隊員は、黙々とただ手を動かしていたが、
一緒に来た警察官は、しきりに首をかしていた。
そりゃそうだろう。
誘拐現場にふみこんでみれば、
実行犯であるはずの魔女の姿はドコにもなく、
かわりに 人質と犬が1匹。
当たり前だが、常であるはずの 交渉や 押し問答は 一切無く、アッサリと 幕引き。
決して 人質に危害を加えて欲しかったわけではないが ナゼか 拍子抜けした感が否めないのであろう
皆 そんな表情をしていた。
ともあれ無事に、人質の搬送も終わり、
しばらくすると、
「トウイ 状況説明できそうか?」
困った顔をさらした お父上様が
上司なのか カッチリとスーツを着こんだ人を伴い 近づいてきた。
「説明…出来なくはないけど…」
歯切れ悪く 辺りをみわたすトウイ。
ジブンとバロンを確認し,次に 素早く玄白に目を移す。
すると彼は (警察官たちが踏みこんできた時点で)
すでに ぬいぐるみと 化していた。
先ほどまでは しっかり動いていたのに、早いものである。今は、テーブルの上で ぐったりと 手足を投げ出していた。
トウイはそれを確認すると
「父さんだけじゃ ダメかな⁉」 おそるおそるといった感じでお父上様に 問いかけた。
それを受け
「うーん… ちょっと相談してくる」 と言って お父上様も どこかに消えてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
しょうてんがいは どうぶつえん?!
もちっぱち
児童書・童話
しょうがくせいのみかちゃんが、
おかあさんといっしょに
しょうてんがいにいきました。
しょうてんがいでは
スタンプラリーをしていました。
みかちゃんとおかあさんがいっしょにスタンプをおしながら
しょうてんがいをまわるとどうなるか
ふしぎなものがたり。
作
もちっぱち
表紙絵
ぽん太郎。様
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。
しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。
そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。
そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる