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⑦ 捕り物
しおりを挟む父上様の心情を表すような くもり空であった。
おまけに 日差しはないが、湿気を含んだ空気が どんよりと重く垂れこめている。
いつ 空が泣き出してもおかしくない
そんな陽気である。
どう連絡をとったかは 定かではないが
指示された場所は、魔女の屋敷だった。
相手 (今回の場合 魔女なわけだが) 彼女を信用させるため
今 バロンは、見つけたペンダントをくわえ 屋敷内で待っている。
その屋敷を ぐるりと取り囲み 警察官が配備されていた。
【アリの子 一匹 通さない】 という意気ごみが伝わってくる。
そんな中、我々(トウイとジブン)も 近くの茂みに身を隠し、待機していた。
周囲に張りつめた ピリリ…とした緊張が
ただでさえ 重たい空気を さらに増長させているようだった。
茂みに隠れながら
『早く終わらないかなー』 そんな不謹慎なことを考えていた。
森の中なのだから、なにもこんな狭い場所に集まらなくても良いのに、ジブンとトウイも含め 計5人が詰めている。
だから、通常の蒸し暑さだけではなく
汗臭い というか、むさ苦しい⁉…
とにかく 非常に 気分が悪いのである(まあ、吐くほどではないが)。
それにさっきから 一つ 気になっていることがある。
あんなに屋敷を、警官で埋めつくしていて、魔女はノコノコ現れるのだろうか?
それって 罠だらけ中に自ら飛び込むようなもの。
まるで 捕まえてくださいって 懇願しているみたいではないか?
それに、もし まだ魔女が 屋敷に到着していないとしたら?
屋敷に近づくことさえ 出来ず、取り逃してしまうのではナイだろうか?
その場合、何か代替え案はあるのだろうか?
そんなことばかりを ウツウツと 考えていたら…
実に あっけなく…終わった。
抵抗らしい 抵抗も無く…魔女はお縄になったのである。
その一報を受けて
『皆 犯罪者が、魔女みたく マヌケだったら
もっと検挙率も上がって、
平和な世の中になるんじゃないだろうか」と思わずにはいられなかった。
『ってか、ジブンたちが 待機してる意味…あったのか?
ひょっとすると、必要なかったんじゃないか?』
次々に湧く 不平不満と戦いながら、現場を後にした。
++++++++==
そして後日。
なぜかジブンの隣りに バロンが座っていた。
同じように 駐在所の入口で、足を折りたたみ 伏せのポーズをとっている。
不本意(?)にも
バロンは、魔女の元に潜入していたと認められ
お咎めなしになり ココ(トウイの家)に返された。
そして本当なら、
元々 この家の飼い犬ではナイのだから
そのまま サヨナラになるハズだったのだが。
「どこにも行くところが無いのだから 可哀想」 と母上が言い出し、それに
「そうだな」 お父上様も 賛同し始め、
終いには 家で飼うことに決定。
めでたく(?) ジブンと同じ立場で 落ちついた。
どうやら この家のおせっかい体質は、人だけが対象 ではナイようである。
暖かい というより、
ジリジリという音が聞こえてきそうな日差しを 眺めながら
「そういえば、仕返し出来たのか?魔女に」
「うーん…オレとしては、ハラ六分目ってとこカナ⁉
まだ腹ん中で くすぶってる。
あーぁ、もー少しうまく出来ると思ってたんだけどな」
隣りのバロンに問いかけると、そんな答えが返ってきた。
「でも彼女、塀の中にぶち込んだし もう会うこともナイだろう。
だから、このあたりで 終いにしないか?」
「オマエさんにとっては、不本意だろうけど。
ジブンとしては、これ以上 この家の人たちを 巻き込みたく無いんだ」
「たのむ‼」 言いつつ、頭を下げていると
「そう…だよな…」
「わかった…」
わずかな沈黙ののち、かすれた声でバロンは絞り出した。
「恩にきる」 頭を下げながら、
そう近くないうちに バロンは姿を消す そんな予感めいたものが フッと 頭を横切る。
『まさか!』 『ジブンの気のせいだよな…』
脳内から その意識を追い払いたくて
頭をしつこく ブンブン振っていると
「レオ・バロン、二人とも中に入りなよ!
そんなところにいたら、フランクフルトみたいになっちゃうよ!」
室内から 笑いを含んだトウイの呼ぶ声が聞こえてくる。
室内は、クーラーが効いていて とても快適そうだ。
この場所も、お父上様が よしずを設置してくれているので 他所より涼しいのだが、
この時期のクーラーには 敵わないだろう。
「ねえ、レオ・バロン 聞いてるー?」
再度、トウイのじれた声がして
「行くか」 バロンに声をかけ、立ち上がる。
ジブンの声に 無言でうなずいたバロンは、
スクッと立ち上がり 先に歩みだした。
そんな姿に 『若いなぁー』 心内で呟くと
それに呼応するように、セミがジジッと鳴いた。
『あぁ…夏も終わりだな…』
そんなことを しみじみ思いながら、
ジブンも ゆっくりと 足をふみ出した。
おしまい
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