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②上杉家
しおりを挟む「た…助けて…」
転びそうになりながら 上杉が 戻ってきた。
一瞬、みんな 『ギョッ!』 として、身をひるがえしそうになった。
それぐらい様変わりしていたのである。
常にパワフルな彼からは想像できないくらい、白く彩られた顔面は 半泣き状態で。
全身は、いつ倒れてもおかしくないくらいに フラフラと 心もとない。
彼は、杉田家の悲惨な状態を 目の当たりにして、
『しばらく杉田家に とどまることになるかもしれない』 と 一度 自分の家に帰ったのだった。
ところが、戻ってきたと思ったら、第一声が コレである。
そんな彼が 必死に 何かを にぎりしめていることに、トウイが気づいた。
「アレ、なんだろー?」 指差しながら疑問を口にすると同時に
ヒョイ! とそれを、玄白が取り上げる。
それは、ノートの切れ端のような紙切れで。
それには、次のような文章が 書かれていた。
【 ぼうず、妹は預かったよ。
代わりに 杉田家にある 宝石のはまったペンダントと交換だ。オマエになら 簡単なはずだよ。
受け渡しについては、また連絡する。
無事に帰して欲しけりゃ、変な気を起こさないことだね 】
読み終えた玄白は 「うーん…」 とうなったまま、目を閉じてしまった。
代わりのように 「ごめ…ごめんなさい…ゴメン…」
消え入りそうな声で、杉田が 上杉に繰り返し 頭を下げようとする。
「やめろ‼」 それをピシャリと止めたのは…上杉だった。
「…オマエの、せい…じゃない」
「だから そう何回も 謝るな」 気丈に言い放つ。
それを受けたかのように カッと 目を見開いた玄白|が。
「先ほどまでは、物理的な被害だけじゃったから、ただ傍観しようと考えておったが、
こうなったからには、話は別じゃ。
なんといっても 今回は、人命が かかっておるからのぅ」
玄白はそう言うと
「お父上は、ご在宅かな?」 トウイに向き直った。
++++++++
トウイの…駐在所で、警察官であるお父上様に 、一部始終を打ち明け、相談する。
これから どうしたら良いのか。
相談者は杉田。玄白は、あいかわらず ぬいぐるみのふりをして、杉田が抱いている。
【漁の途中で、魚がペンダントを引っかけてきたこと。
そのペンダントが 有名な品らしく、魔女が欲していること。
そのせいで 昨夜、別荘みたいな所に 閉じ込められたこと。
(因みに、どうせ信じてもらえないと思い 玄白が猫になった件は 話していない)】
話しを聞き終えると、一点をキツく睨んだまま 口を開こうとしないお父上様。
駐在所の中で、懸命に動いている空調の ゴーーという音だけが、虚しく鳴り響いていた。
++++++++
ところ変わって、上杉宅。
お父上様からの一報を受けて、近くの所轄が 動いていた。
人命がかかっているので、【警察を介入さでないわけにいかない】 というお父上様の判断だった。
宅配業者の制服を着用した警官が、ぞくぞくと家の中に入っていく。
そして 手早く電話に逆探知などを仕掛けていく。
キビキビと動く警官に対し、見事に 上杉家の面々は 荒れ果てていた。
気丈にソファに座っているのは 父親だけで、
食堂のテーブルでは、ワイシャツの襟元をくつろげた男性が、酒瓶片手に酔いつぶれている。
母親は、事態が発覚と同時に 気を失い 今は、隣の部屋で寝込んでいるという。
リクによると、もう1人 兄貴がいるそうなのだが、
彼は、止める間もなく 家を飛び出していったそうだ。
おそらく 今頃?
たった一人で 妹を探し回っていることだろう。
どんよりと 空気の重たい 上杉家を抜け出し、小学校へと向かう。
なぜなら とある現象を試してみようとしているからである。
あかねは、只今 小学一年生。
そして上杉の手には、可愛らしい花柄のパジャマが しっかりと握られていた。
そうである。
テレビドラマのサスペンスよろしく、
ジブンに 妹の匂いを嗅がせ、その足跡を辿ろうというのである。
警察犬の訓練を受けたことのないジブン。
ものすごく キビシイと思うのだが…上杉にとっては 藁にもすがる思い なのだろう。
まぁ、協力できるのなら やぶさかでない のだが…。
結果は…案の定と、いうか…おあまりに予想通りすぎて…
めんぼくない…。
『ちっとも、力に…なれなかった…』
穴があったら、そこに潜りこみたい気分である。
ズッシリとした空気が、辺りを支配しょうとし始めた時、
何かから逃げ出すように
上杉が、スクっと立ち上がり 駆け出そうとする。
そんな彼の襟元をむんずと掴み、それを止めたのは杉田だった。
「何すんだよっ!」
即座に振り返り、今にも噛みつかんばかりの勢いで 上杉が詰めよる。
それを ものともせず静かに受け止めた杉田が、淡々と問いかける。
「どこ行くの?」
まるで仇を見るように、杉田に目を向けた彼は。
「どこって…」
「あかね探しに行く に決まってんだろ!」
歯を剥き出して叫ぶ。
「だって、ドコ探すの???」
「ドコ?って」
「言われても…」
「……」
花がしぼむように 徐々に 大人しくなってゆく上杉。
「わからないよね⁉」
「そう…だな…」
あわれなくらい上杉は、捨てられた子猫のように 視線をさまよわせる。
「リクの焦る気持ち わからなくないけど、
だからって 闇雲に探し回っても…しかたないと思うんだ」
「何が…わかるんだ⁉」
突然、地を這うような一言が聞こえた後
何が引き金になったのかは、わからないが、上杉は、怒りが再燃したらしく。
「そんなこと!わかってるよ!!」
「じゃあ、どうしろって⁉」
「アカネを 見殺しにしろっていうのかよ?」
怒りにまかせ、杉田の胸もとを掴み捻りあげる。
そして、フッと一瞬 微笑むと
「そーだよなー。
今回さらわれたのが オレの妹だから、
オマエはそんなに呑気にかまえてられるんだよ」
「コレがもし オマエの身内?
例えば、じいちゃんだったとしたら
オマエは どうしてた?」
「たぶん オレと同じ…?」
「イヤ⁉ それ以上に取り乱してたかもな‼」
最後は、挑発するように 顔を突き合わせ、間近で 言い捨てた。
グッと 唇を噛み押しだまる杉田。
一色速発の空気が流れる中、ソレを打ち破って 口を開いたのは、玄白だった。
「こういう時 だからこそ、焦ったら負けなのじゃ」
「そこで提案なんじゃが…
とりあえず 事件の発端である宝石(魔性の石)を 探しながら、
なりゆきを整理してみる というのは どうかのぅ?」
玄白に うながされ、
「悪ぃ…」
上杉は 杉田の胸元から くずれるように 手を離した。
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