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12話 再会2
しおりを挟む最後に会った時から10年がすぎ、立派に出世してアドフォートン男爵となったアルフレッド様は… まるで子供のようにモジモジと気まずそうに、指を動かしながら黙りこんでいる。
「それで… 今日はどのような用件で、いらっしゃったのですか?」
「……」
「アルフレッド卿?」
私が問いただすとアルフレッド様は、そらしていた視線をようやく私に向けて口を開いた。
「…何か、君の力になれないかと思って」
「私の力に…?」
「オレにできることなら、何でも言って欲しい… マリオン」
気まずそうにしていたアルフレッド様は、気持ちを切り替えたらしく、迷いのない瞳で私をジッ… と見つめてくる。
「今さらおそいと思うだろうけど… それでもマリオン、君の力になりたいんだ…」
昔と変わらない誠実そうな瞳が、私のくすぶっていた怒りに火をつけた。
「……っ」
ええ、本当におそいわ。 私が何度も手紙を出して、婚約を解消したくないとお願いした時は、返事もかえしてくれなかったくせに! それで私がどれだけ傷ついたかなんて、あなたには関係ないのね?!
「マリオン… 何かいってくれ」
「アルフレッド卿、私は結婚した人妻です。 そのように呼ばれますと… 使用人に聞かれたら、私の不貞を疑われます」
おだやかに対応しようと思っていたけれど、もうやめた!
私は冷ややかにアルフレッド様を見つめて指摘し、2人の間に線を引く。
「…っ?! す… すまない、オレの配慮がたりなかった。 マリオン…伯爵夫人…」
「……」
「どうやら君の気分を害してしまったようだな」
「ええ。 それにアルフレッド卿、義理も何もない他人のあなたに、何ができるというのですか?」
本当にこの人は何を考えているの? こんなにも無神経で、浅はかな人ではなかったはずなのに。
「君の言いたいことは理解できる。 だけどオレのせいでこんな苦境に立たされた君を… 見過ごすことはできない。 だから君のために何かしたい」
「私のため? 王弟殿下に紹介された女性と結婚したくて、私と婚約解消した人が… よくもそんなことを言えますね!」
アルフレッド様の顔が青ざめた。
「マリオン、待ってくれ! そんなふうに思っていたのか?! それは違う!」
「何が違うのですか? 私が隣国にいるあなたのことを、何も知らないと思っていたのですか? 残念ながらあなたのお父様から… 私と婚約解消が正立すると、すぐに次の女性と婚約したと聞きました」
「違うんだ! 本当に… オレは君のためを思って婚約を解消したんだ。 信じてくれマリオン!」
アルフレッド様はあわてて私に弁解するが、私の気持ちは少しも動かない。
「あなたの言い訳が本当だったとしても… どうせノエル様のように、爵位と財産を継げなくなった私とは、いずれは婚約解消したのでしょうね」
ノエル様と婚約を解消してから、何度も考えてきたことで… 何年も月日をかけて、やっぱり私はすてられる運命だったのだと… すべてを受けいれることができた。
それなのに、今さら私の前にあらわれて心をかき乱すなんて!
「マリオン、どうかオレの言い訳を聞いてくれ! オレの結婚には複雑な事情があって… 本当に君が考えているようなことではないんだ」
「……」
10年も前の話を今さら聞きたくないわ。
○ ○
※息子が爵位を継承し結婚すると称号は嫁にうつり、母親は『ファーストネーム×称号』で名乗るらしいのですが(それでマリオン伯爵夫人にしました)…少し知識があやふやです。 こういう設定の世界だと受け入れて下さるとありがたいです。
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