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ヨスガラ

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セックスハウスの成り立ち@前編

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 ルルーナ・サーフェイスはオーガット街に住むB級魔法使いだった。

 上にはA級S級とありまだまだヒヨッコと揶揄されることもあるが、B級にまでなれる人材は非常に稀有で、周囲から充分褒め称えられる称号である。
 ほとんどの者がC級止まりなのだ。

 階級を上げるには魔法の研究を魔法協会に報告するか、神が創ったと語り継がれる魔界楼の攻略範囲を広げるかしなければならず――

 その日、ルルーナは同じB級魔法使いのフレディア、ニーナと共に魔界楼の攻略範囲拡大に挑んでいた。

 魔界楼は地上から天に向かって聳え立つ巨大な塔で、一層、二層、三層……といった具合に階層分けがされている。
 上の階に行くには次々出現する魔物を撃破し、階層のどこかにある昇降盤に乗るしかない。

 現在魔法協会に報告されている最大階層が三十六だ。
 ルルーナたちが到達しているのは二十三層までで、そこから上は踏み入ったことのない階層だった。

 ルルーナが得意なのは分身の魔法。自分を何人にも複製して、その偽物と一緒に攻撃魔法を使って戦うスタイルを取っていた。

 フレディアは非常に器用で、様々な魔法が使える。攻撃、防御、治癒、はたまた魔法で魔物を縛って動きを封じたり、使い魔と呼ぶ従順なしもべを召喚して戦闘させるといった術を用いる。

 ニーナは幻術系統の魔法に長けていた。敵の前に虚像を作り上げたり、仲間の姿を見えなくしたりして、戦闘が優位に運ぶようアシストする。

***

 三人は昇降盤に乗り、二十四階層に進出した。次の階層へ移動すべく、昇降盤を捜し歩いていると――

「あれれ? なんだか変なニオイがしますよー?」

 ルルーナが鼻をひくひく動かしながら言った。

 彼女の嗅覚は異常なくらい良く機能する。普通の人なら逃す些細なニオイでも感じ取ることができた。

「変なニオイだって? 誰かの死体でもあるってのかい?」
「……腐敗した死体、焼死体は絶対に御免。気持ちが悪い」
 とフレディア、ニーナ。

「いえいえ、そういう感じではなくてですねー。うーん何て言えばいいのか……。魔界楼のニオイっていうのがあるんですけど、それがこの階層の……あっちですね。向こうの方から違うのが漂ってくるんですよ」

 淡く燐光を放つ石造りの階層。
 ルルーナが指差した方を二人は見遣って、

「行ってみるか。ルルーナの鼻は無視できないからね」
「……賛成」

 今まで一緒のパーティーを組んできた中で、数々の危機を乗り切ったり、幸運を運んできたりしたのは、ほとんどルルーナの嗅覚によるところが多かった。

 無下にはできず、昇降盤探しを保留して、三人はニオイの正体を探りに行く。やがて通路の途中で立ち止まり、ルルーナが他と何ら変わらない壁を見据えた。

「ここに何かあるってのかい?」
「はい。フレディアさん、魔法でこの壁壊してくれませんか?」
「おう。任せな」

 フレディアは応じて、圧力系の魔法を唱えた。
 壁が凹み、鈍い音を立てて崩れる。壁が幾つものブロック状になって落ち、砂塵が舞い上がった。

「けほけほっ……。どうせなら、炎で溶解させてほしかった……。そしたら砂で悩まされることもなくて済んだ……」
「分かってないね。壁や岩は破壊するもんなのさ」

 咳き込むニーナに、フレディアが言った直後だった。

「あっ、見てください!」
 とルルーナ。

 叫んで、たった今崩れ去った壁の奥を指差した。

 そこは狭い宿屋の一室くらいの広さがあった。ベットなどの最低限度の物しか置けないような――

 とはいえその空間にあるのは、楕円状の輪だった。人ひとりが余裕で通り抜けられる程の大きさで、円の中は水面みたく三人が近づくと波を生んで揺れた。

「なんだか鏡みたいですね」
「あたしらの顔は映らないけどね」
「……で、これは何?」

 ニーナが疑問を口にするも、答えは出なかった。ルルーナもフレディアも同じ心情だったのだ。
 すなわち目の前のモノが何なのか分からない。

「二人とも下がりな」
 フレディアが言って、一歩前に出た。両手をかざして魔法を唱える。
「どうやら転移系の魔法がかかっているようだね」

 彼女は解析の魔法で調べた。

「転移系……? それってS級魔法使いでも使える人が限られる難しい魔法じゃないですか!」
「……ここは魔界楼。神が創ったとされる塔。何があっても不思議じゃない」

 驚くルルーナに淡々とニーナが説明し、

「フレディア。この転移魔法の行き先はどこ?」
「……さぁーな。そこまでは分からねえ」

 口端を吊り上げるフレディア。

「さすが魔界楼だぜ。ちっとも解析できやしねえ」
「な、なんで喜び顔なんですか……?」

 ルルーナが問うと、

「なんでだって? そんなのゾクゾクワクワクするからに決まってるだろう? あたしはこういう未知や面白れえ出来事が大好きなんだよ」

 旺盛な笑みをたたえ、フレディアは興奮した様子で転移魔法の施された楕円の輪に近付く。

「フレディアさんっ、何が起こるか分かりませんっ、危ないですよ……っ」
「……でも調査するべき」

 忠告するルルーナと反対にニーナは賛成派だった。フレディアの後を追って歩を進める。

「あわわわ……っ」
 取り残されたルルーナはまごつき、離れていく二つの背中を見守っていたが――もおおぉぉぉ~っ、と唸って、

「置いてかないでくださいよぉー!」
「お、んじゃ三人で行くか」
「……パーティーなら当然」

 そうして――三人は楕円状の輪を潜り抜けた。まずはフレディアが、続いてニーナが、最後にルルーナが。

「ふぇっ?」
 ルルーナはポカンとした顔になった。

 視界に広がったのは、見たこともない街並み。硝子と質の良さそうな石で作られた大きな建物や、馬に繋がれていないのに動く荷馬車のような箱。
 道を行き交う人々は、皆変わった格好をしていた。ローブや甲冑を着た人は一人もいない。

「何なんです、ここ……?」
 気の抜けた呟きがルルーナの口から漏れる。

「お、おいお前……っ」
 困惑気味のフレディアが通行人を引き止めた。
「?」
 白い服(ワイシャツ)で首元から布切れを垂らした男(サラリーマン)が、ルルーナたちローブ姿の三人を怪訝な目で眺める。

「ここは何て街だ?」
「あー、すみません外国語は詳しくなくてね……」
 男性は顔をしかめると、
「I don’t speak English. OK?」

「フレディアさん、この人なんて言ったんですか?」
「……さあ? どうやらあたしらの国とは違うところみてえだ。言語精通の魔法を唱えるよ」

 互いに喋っていることが伝わらない。しかしフレディアが魔法を唱えたことで、会話が可能になった。

「ここは何て街だ?」
「あれ? なんだ、日本語喋れるじゃん。ていうか街?」

 男性は聞き慣れない単語を耳にしたという風な顔をして、

「……ここは宮崎だけど」
「ミヤザキ?」

 フレディアは形の良い眉を寄せる。

「それはどこの大陸だい?」
「た、大陸……?」
 またしても男性は街を訊かれた時と同じ表情になって、

「いや日本だよ、日本」
「ニホン……?」

 怪訝な目付きになるフレディア。

「ルルーナ、ニーナ、聞いたことあるかい?」
「いえ。わたしは初めて耳にしました」
「……私も」

 三人ともが知らない国、大陸。
 服装や街並みを見るにまるで文化形態が異なり、自分たちが居て良い環境ではないと本能的に悟る。

「……とりあえず一度戻りませんか? 魔界楼に転移魔法の存在する隠し部屋があったと魔法協会に報告するべきですよ」
「そ、そうだな……」
「……賛成。正直、ここは落ち着かない」

 ルルーナの提案に、フレディアもニーナも頷く。
 いくら人々から尊敬されるB級魔法使いであっても、未知の文明を前には畏怖を覚えるものだ。

 男性が去っていき、三人は強張った体を後ろに向ける。

 と――

「なっ、ないぞっ!?」

 フレディアが驚きの悲鳴を上げた。

 それもその筈。三人の前にはもう、楕円状の輪が存在していなかったのだ。繁華街にあるような建物が軒を連ねているだけである。

「……良い匂いがする。暖簾の奥が気になる」
 とニーナ。

「お、お腹を空かせている場合じゃないですよ!」
「全くだ! ニーナっ、あんた食べ物欲しさに幻影の魔法で転移の門を隠しているんじゃないだろうね!?」

 帰り道が消え、慌てふためく二人。

「……ひどい言いがかり。そんなことしない」

 ニーナは表情に変化が現れない少女だ。声音だけが不満を訴えていた。

「じゃあどういうことですか……!?」
「くそっ、魔力探知の魔法にも引っかからねえぞ……っ!」

 ルルーナは泣きそうな目になり、フレディアは歯噛みする。
 二人は完全に転移の魔法が消滅したと知り、帰れないことを危惧して、恐慌状態に陥っていた。

「……非常事態」

 ただ一人ぼーっとしているだけだが一応冷静ではあるニーナが呟いて、周りを覇気のない眼で眺める。

「とりあえず調査するべき」
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