透明色のカンバス

石田ノドカ

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第1章 『絵描きとクラシック』

8.なれそめ?

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「――それなら、やっぱり榎本さんとこのお嬢さんだっただか。へぇ、図書館で」

 ばあちゃんが頷き言う。
 先日と同じく、夕飯の席でのことだ。

「えらい偶然なもんだが。誕生日が一緒っちゃな、運命じゃないか?」

 じいちゃんが、ラッキョウを噛み砕きながら言う。
 この人のこういうノリ、若者みたいだな。

「運命って、いやいや、今日会ったばっかの人だし」

「男は一目で惚れ易いもんだで」

 まさか、この歳の人から惚れるだのって話を聞くとは。
 いや、じいちゃんばあちゃん辺りからは普通だったりするのだろうか。今の八十、九十代の人たちは、親の決めた見合いなんかが多くて、個人間での恋愛結婚は珍しかったって話はよく聞くけれど。

「じいちゃんとばあちゃんは? どうだったの?」

「うん? 僕らけ?」

「じいちゃんの話は主観的っていうか、多分、お見合いとか政略とかが多い時代は過ぎた頃じゃないかなって」

「うーん……まあ、確かに見合い見合いの時代じゃなかったけど――」

「おじいさんの猛アタックだ、ゆうくん」

「おい聡子…!」

 丸テーブルに身を乗り出すじいちゃん。
 しかしてそんなものには構わないまま、ばあちゃんはお味噌汁を啜って続ける。

「それこそ『一目惚れ』っちゃな言われて、断っても断ってもなぁ」

 半ば呆れるように、それでいてどこか嬉しそうに。
 ばあちゃんは、当時を懐かしむように、ここじゃないどこかに目をやって言う。

「……惚れっぽいの、じいちゃんじゃん」

「アホ言いな、惚れない方がおかしいぐらいの美人だったんだ。今度、昔の写真見せてやるけぇ」

「はいはい、ご飯が冷めますよ二人とも」

 サラリと流して、またお味噌汁を啜るばあちゃん。
 でもやっぱり、ちょっと嬉しそう……?

「そうだ悠希。その子に絵を見せたっちゃな言ってただろう? 自分から見せたのか?」

「ん? あーいや、その子が見せてくれって言うから。笑わない約束って条件で見せたら、一言発する前に笑われたけど」

「そう話す割には、凹んでる訳でもなさそうだで」

「……まあ。凄かったから笑ったんだって言ってた」

 好きだな、なんて言われたことは、心の中だけに包んで置いておこう。

「そうか。それは良かったなぁ。趣味を褒められるっちゃな、嬉しいことだろう」

 じいちゃんは、優しい笑みを浮かべて言う。
 思い出の中に、そういう経験があったりするのだろうか。
 それこそ、一目で惚れたばあちゃんとの間で。

 今度、ばあちゃんに聞いてみよう。
 じいちゃんは、そういうことを話すのは恥ずかしそうだ。
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