宙色ラテ

あしゅ太郎

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エピローグ

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午後のカフェ。
陽の光がやわらかく差し込む窓際の席に、陽里が可愛らしい紙袋を抱えて座っていた。

「お兄ちゃん!ほら見て!」

小さな声ではしゃぐように、スマホの画面を宙に差し出す。

そこには、笑顔の陽里と隣に並んだ優しそうな男の子のツーショット。

「……えっ、陽里……これ……。」

「えへへ……ボーイフレンド……!」

ぽつりと、でも誇らしげに言って、ちょっとだけ赤くなった頬を指で触る陽里。

---

カウンターの奥でグラスを拭いていた中川も、そのやり取りを耳にして、思わず手を止めた。

「……へぇ……陽里ちゃんに彼氏か……。」

声に出してみたものの、胸の奥が少しくすぐったくて、でもその感情は前みたいな切ない憧れじゃない。

(……そういや最近、俺……。)

視線を無意識に客席に向ける。
そこにはコーヒー片手に、スマホを覗き込む冬馬の後ろ姿。

(……あいつのせいか……。)

小さく息をついて、自分の胸の奥が陽里じゃなく、今は別の誰かでいっぱいになっているのをはっきりと自覚する。

---

「へえ~……! 良かったな、陽里。」

宙は笑いながら、妹の髪をくしゃっと撫でた。

「……お兄ちゃん……応援してくれる?」

「当たり前だろ。
 ……お前が選んだ人なら、大丈夫だって思うし。」

にこっと笑う兄に、陽里も安心したように小さく頷いた。

「……ありがとう、お兄ちゃん。」

---

カウンターの奥では、グラスを拭き直しながら小さくため息をつく中川の隣で、
冬馬がカップを片手にいたずらっぽく笑う。

「……何? 淳太、寂しいの?」

「……別に。……つーか……。」

くしゃっと乱暴にタオルを置いて、そっぽを向いた中川の耳は、ほんのり赤かった。

---

「……何見てんだ、冬馬。」

「……ん? 可愛いなって。」

「……は?」

「……俺の恋人、可愛い。」

「……っ……!! 黙れっ!」

---

宙はというと、陽里の恋のスタートを嬉しそうに聞きながら、そっと心の中で思った。

(……みんな、ちゃんと前に進んでる……。)

兄として、ひとりの恋する男として。

宙もまた、隣で微笑む鈴谷のことを思い浮かべながら――
新しい日々の小さな幸せをかみしめていた。

---

休日の昼下がり。
陽射しが窓際のテーブルをふんわりと照らしていた。

おしゃれな街角の小さなビストロ。
奥の4人掛けのテーブルに、鈴谷と宙、冬馬と中川が向かい合って座っている。

---

「引っ越し、大変だったろ?」

グラスに口をつけながら、鈴谷が隣の宙の髪をそっと撫でる。

「……まぁ……でも全部、遼さんが手伝ってくれましたし……。」

そう言いながらも、思い出すだけで顔が赤くなる。

新しいカーテンを選んだり、冷蔵庫の中をふたりでいっぱいにしたり。

宙の生活の中に、鈴谷のぬくもりが当たり前に混ざっている。

---

「へぇ~、新婚さんってやつだなぁ~?」

冬馬がにやにやと茶化す。

「冬馬、やめろって。」

中川が半分呆れた声を出したが、冬馬はどこ吹く風だ。

「ねぇ淳太~、次は俺らも一緒に暮らす?」

「誰がするかっ!」

即答で突っぱねた中川の耳が赤いのを、テーブル全員が見逃さない。

---

「でも店長、最近冬馬さんにちょっと優しい。」

宙がくすっと笑うと、中川は余計に顔を背ける。

「……優しくなんかしてない!……別に……!」

「してるじゃん。夜とかさ。」

冬馬がさらっと爆弾を落として、スープを啜る宙が盛大に噴き出した。

「や、やめてください冬馬さん……!!」

「……ほんと無理……お前、口が軽すぎ……。」

俯いて耳まで真っ赤にしながら、中川はグラスの水を一気に飲み干した。

---

窓の外には、春の光が柔らかく降り注いでいる。

新しい同棲生活に胸を躍らせるふたりと、冬馬におずおずと距離を詰められて翻弄される中川。

似ているようでまったく違う4人だけど――
笑い声だけは、同じテーブルで優しく混ざり合った。



「……宙、もう一口食べな?」

鈴谷の手がそっと宙の口元へフォークを差し出す。

「……人前ですよ……。」

小さく文句を言いながらも、結局頬を染めて大人しく食べる宙。

そんなふたりをからかう冬馬と、顔を覆って耐える中川。

---

休日の昼下がり。
小さなテーブルの上で、恋と幸せが優しく揺れていた。
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