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ep10 そこに至るまでの経緯01
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サンドレア王国の北部、黒々とした針葉樹が続く静かな森。
少し奥まった崖の岩場で静かに燃える焚き火は、そろそろ新たな薪をくべても良い頃合いだ。
表面が燃えきって炭となった薪はじっくりと熱を持ち、火は赤々と一帯をゆるやかに照らしている。
そんな仄かな灯りに照らされる中。
ヴァンと俺は深く唇を重ねていた。
俺がヴァンを押し倒した状態。たまに琥珀と灰色の視線をあわせ、角度を変え、唇に短く触れては、また深く舌を絡ませる。
互いの熱を確認しては、その熱に自分の情欲を溶かすような、甘やかなキスを繰り返す。
……うん。
いや、言いたいことはわかるよ。
わかってる。
この展開に至るまでの経緯、ならびに言い訳をさせてほしい。
+++++
互いに名乗りあった俺たちは、短い問答をしばらく続けた。
とりあえず俺はストレートに尋ねる。
「君は誰に仕えているんだ?」
「誰にも」
…教える気はないらしい。
「逆に問うが、私が誰に仕えているかで君の私への振る舞いは変わるのか?」
「多少は」
「マルゴーン帝国は皇位継承争い真っ只中だからな。皇帝となり得る者と懇意にしたい、か」
「そんなところだ」
「スノーヴィアは強かだな」
「褒め言葉として受け取っておく」
ヴァンからは彼自身のことを全くと言っていいほど聞き出せなかった。
逆に俺はそのことに安堵する。
彼が密談のためにサンドレア王国へ訪問に来ているのであれば、身分は明かせないし、口外もできない。
第七皇子関係者であれば何ら問題はないが、いたずらに他の皇子と繋がりができることを俺は懸念していた。
だが、ヴァンとの出会いがマルゴーン帝国とスノーヴィア領の未来に影響することはないだろう。
その後もしばらく、ヴァンとはそんな問答を繰り返し、互いに出せる情報を出しきった頃。
俺は食後に紅茶を入れることを提案し、ヴァンは快諾した。
帝国でも茶は嗜まれる。好きなのかもしれない。
「君のグリフォンはここにはいない。明日はどうするつもりなんだ?」
携帯用マグカップに紅茶を淹れながら、明日のヴァンの予定をそれとなく探る。
「モルローなら問題ない。あの子はあれで臆病だ。近くの森に潜んでいるだろう。
明日になれば、呼び声で私の元にもどってくるさ」
そう言いながら、ヴァンはどこか嬉しそうに紅茶の入ったマグカップを受け取る。
モルロー……あのグリフォンの名か。
あの巨体で臆病なのかよ。
隙あらばすぐ居眠りするマルテが眠らず南東ばかり見ているのは、その方角にグリフォンが潜んでいるからかもしれない。
「他国との密談など、誰でもできることじゃない。君は表舞台では何をしているんだ?」
「質問が多い。次は私の番だ」
探りを入れる俺を軽くあしらい、ヴァンは紅茶をすいと飲みきる。
空になったマグカップを俺に差し出す。
ヴァンのターン。おかわり所望ね。
「グレイという名。嘘ではないが、本名でもないだろう。周りの人間にそう呼ばれているのか?」
「…あぁ」
なぜそんなことまでわかるんだ?
内心驚きつつ俺は肯定する。
俺の本当の名前はグレイじゃない。
髪と目の色が何色にも寄らない灰色だから、メルロロッティ嬢や辺境伯、親しい者たちが愛称としてそう呼んでいるだけだ。
「ふぅん、なるほどな」
ヴァンはそう呟くと、俺が紅茶を淹れる様子をじっと観察しはじめた。
ちょっとしたやりとりでも、ヴァンは何かを察してくる。
見透かされているようで、正直気が気じゃない。
やめろ。
その顔面偏差値で俺を舐めるように見るな。
手元が狂うだろ!
「紅茶の淹れ方がうまい。主人はさぞかし紅茶にうるさいのだろうな」
琥珀色の瞳を楽しそうに細める。
従者ということが、たった今バレたらしい。
何でだよ!?
「ふふ、君はわかりやすい。考えごとをしている時それが顔によく出ている。
あまり嘘をつくのに向いていない性分だと、自覚した方がいい」
またしても俺の考えごとしてる顔について。
……もう何とでも言ってくれ。
「今日、縁ができたのが君でよかった」
俺のやりづらそうな態度を察したのか、ヴァンは口元に笑みを浮かべたまま、視線を焚き火にもどしてそう言った。
ヴァンはそれ以上は何も言わない。
彼の中ではこれ以上の探り合いは終わりにしたいようだ。
「気に入ってもらえたなら、光栄だ」
俺もそれ以上は何も言わない。
少し奥まった崖の岩場で静かに燃える焚き火は、そろそろ新たな薪をくべても良い頃合いだ。
表面が燃えきって炭となった薪はじっくりと熱を持ち、火は赤々と一帯をゆるやかに照らしている。
そんな仄かな灯りに照らされる中。
ヴァンと俺は深く唇を重ねていた。
俺がヴァンを押し倒した状態。たまに琥珀と灰色の視線をあわせ、角度を変え、唇に短く触れては、また深く舌を絡ませる。
互いの熱を確認しては、その熱に自分の情欲を溶かすような、甘やかなキスを繰り返す。
……うん。
いや、言いたいことはわかるよ。
わかってる。
この展開に至るまでの経緯、ならびに言い訳をさせてほしい。
+++++
互いに名乗りあった俺たちは、短い問答をしばらく続けた。
とりあえず俺はストレートに尋ねる。
「君は誰に仕えているんだ?」
「誰にも」
…教える気はないらしい。
「逆に問うが、私が誰に仕えているかで君の私への振る舞いは変わるのか?」
「多少は」
「マルゴーン帝国は皇位継承争い真っ只中だからな。皇帝となり得る者と懇意にしたい、か」
「そんなところだ」
「スノーヴィアは強かだな」
「褒め言葉として受け取っておく」
ヴァンからは彼自身のことを全くと言っていいほど聞き出せなかった。
逆に俺はそのことに安堵する。
彼が密談のためにサンドレア王国へ訪問に来ているのであれば、身分は明かせないし、口外もできない。
第七皇子関係者であれば何ら問題はないが、いたずらに他の皇子と繋がりができることを俺は懸念していた。
だが、ヴァンとの出会いがマルゴーン帝国とスノーヴィア領の未来に影響することはないだろう。
その後もしばらく、ヴァンとはそんな問答を繰り返し、互いに出せる情報を出しきった頃。
俺は食後に紅茶を入れることを提案し、ヴァンは快諾した。
帝国でも茶は嗜まれる。好きなのかもしれない。
「君のグリフォンはここにはいない。明日はどうするつもりなんだ?」
携帯用マグカップに紅茶を淹れながら、明日のヴァンの予定をそれとなく探る。
「モルローなら問題ない。あの子はあれで臆病だ。近くの森に潜んでいるだろう。
明日になれば、呼び声で私の元にもどってくるさ」
そう言いながら、ヴァンはどこか嬉しそうに紅茶の入ったマグカップを受け取る。
モルロー……あのグリフォンの名か。
あの巨体で臆病なのかよ。
隙あらばすぐ居眠りするマルテが眠らず南東ばかり見ているのは、その方角にグリフォンが潜んでいるからかもしれない。
「他国との密談など、誰でもできることじゃない。君は表舞台では何をしているんだ?」
「質問が多い。次は私の番だ」
探りを入れる俺を軽くあしらい、ヴァンは紅茶をすいと飲みきる。
空になったマグカップを俺に差し出す。
ヴァンのターン。おかわり所望ね。
「グレイという名。嘘ではないが、本名でもないだろう。周りの人間にそう呼ばれているのか?」
「…あぁ」
なぜそんなことまでわかるんだ?
内心驚きつつ俺は肯定する。
俺の本当の名前はグレイじゃない。
髪と目の色が何色にも寄らない灰色だから、メルロロッティ嬢や辺境伯、親しい者たちが愛称としてそう呼んでいるだけだ。
「ふぅん、なるほどな」
ヴァンはそう呟くと、俺が紅茶を淹れる様子をじっと観察しはじめた。
ちょっとしたやりとりでも、ヴァンは何かを察してくる。
見透かされているようで、正直気が気じゃない。
やめろ。
その顔面偏差値で俺を舐めるように見るな。
手元が狂うだろ!
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琥珀色の瞳を楽しそうに細める。
従者ということが、たった今バレたらしい。
何でだよ!?
「ふふ、君はわかりやすい。考えごとをしている時それが顔によく出ている。
あまり嘘をつくのに向いていない性分だと、自覚した方がいい」
またしても俺の考えごとしてる顔について。
……もう何とでも言ってくれ。
「今日、縁ができたのが君でよかった」
俺のやりづらそうな態度を察したのか、ヴァンは口元に笑みを浮かべたまま、視線を焚き火にもどしてそう言った。
ヴァンはそれ以上は何も言わない。
彼の中ではこれ以上の探り合いは終わりにしたいようだ。
「気に入ってもらえたなら、光栄だ」
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