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ep37 静かな懺悔02
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「……グレイ。無理矢理私のもとに連れてきて、悪かった」
ソファの背もたれに体を預け首を後ろに倒し、高くて荘厳な天井を見上げながら、ヴィルゴがそう言葉を溢した。
「だが、おかげで間に合った。感謝している」
「お嬢様はあなたを慕っています。そして私も同様に。多少強引ではありましたが、お力になれたのでしたら何よりです」
正直、ホームシックやら何やらで不満を募らせたこともあったのだが、ここは100点満点の回答で俺は答える。
「フン、お人よしめ」
ヴィルゴは首だけを傾けてジトッとこちらを見るが、その後目元を和らげ微笑んだ。
その彼らしい強く慈しむような微笑みに、俺は少し俯いてしまう。
ヴィルゴは黙って俺を見つめ、何かを待っているようだった。
あぁ、そうだな。
違うな、違った。
話があるのは、ヴィルゴじゃない。
たぶん、俺の方だ。
「私……俺は、令嬢過激派です」
一人称を言い直したのは、俺の本心としてヴィルゴに聞いて欲しかったからだ。
「はは、知ってるよ」
ヴィルゴが笑う。
「俺は自分の持つ予知の力で、メルロロッティ嬢とこの大陸を、統制された完璧な世界へ導きたかった。そのためなら、彼女を虐げた王国など滅べばいいと…本気で思っていました」
俺はヴィルゴを見ることができず、俯いたまま言葉を続けた。
「誰が敵で誰が味方なのか、予知と照らし合わせながら。そうして突き進めば、正しく大陸統治は果たされ、この世界は平和になり。メルロロッティ嬢は幸せになるのだと、そう信じていました」
「おこがましいね」
「ええ、おこがましいにも程があります」
ヴィルゴは笑いながらそう言って、俺も笑ってそう答える。
「宰相閣下、貴方の姿は美しかったです。この王国を愛し、何が起ころうと、諦めることなく命を削るような日々を過ごしていた」
俺の声にヴィルゴは静かに耳を傾けている。
「……貴方に言われるまで、気づけもしなかった自分を恥じています。何と言えば、赦されるのか。どうすれば、今までの行いを肯定してもらえるのか。そんなことばかり考えて、貴方やヴァンに導かれるまで自分では何も出来なくて。
予知を手放すことを恐れ、溺れていました。ゲームクリアもメルロロッティ嬢の幸せも……俺の自己満足でしかなかった。本当に愚かです」
ヴィルゴには意味はわからないかもしれない。
それでも俺は懺悔したかった。
「グレイ。私が君を気に入っている理由は何だと思う?」
ヴィルゴは俺の懺悔を聞き終えると、優しく尋ねてきた。
「……歴史の遷移を知る予知があるからです」
「違うな。それはオマケみたいなものだよ」
「…………えっちなことが好きだから?」
「それも違う。評価は高いがね」
ぽかんとする俺に、微笑みながらヴィルゴは続ける。
「私はね、メルロロッティ嬢のことを必死に考えてる君が好きなんだ」
なんだそれ?
「君は予知をもとに、あれこれ考えている時の自分の顔を知っているか?」
メルロロッティ嬢にハーシュにイージス、そしてヴァン。
みんなに言われた。
俺の考えごとをしている時の顔?
「とてもね、優しくて良い顔をしている。周りの誰かの幸せを願うような、愛おしむような。そんな顔をしているんだ」
ヴィルゴは俺をまっすぐに見つめ、優しく言葉を続けた。
「グレイ。君を愛する者は皆、その顔にその心にたくさん救われている。
君の予知はそのためのものだ。正しさの証明ではなく、君が愛する者たちの幸せのために使えばいい」
考えごとをしている時の自分の顔など、知らなかった。
でも少なくとも今。
自分がどんな顔をしているかは、手に取るようにわかる。
首の後ろと耳が熱い。
そんなことを言われて。
恥ずかしくて嬉しくて。
泣きそうな顔になってる。
「……俺に、できるでしょうか?」
掠れた声で俺は尋ねた。
「できているよ。婚約破棄を予知し、必死な顔でメルロロッティ嬢を庇って欲しいと、この私にねだってきたのは誰だ?」
ヴィルゴは誇らしげに笑ってそう言った。
+++++
その後、俺とヴィルゴは他愛のない話を楽しんだ。
ヴィルゴに何度か休むことを進言したが、その度に俺と話したいとねばられた。
明け方近く、ようやくヴィルゴは休むと言い、いくつかの指示を俺に出して執務室の奥にある寝室へ去っていった。
去り際、俺が冗談で添い寝を所望すると、何も答えず微笑んで、触れるだけの優しいキスを残していった。
ヴィルゴが再び眠りから醒めることはなかった。
ソファの背もたれに体を預け首を後ろに倒し、高くて荘厳な天井を見上げながら、ヴィルゴがそう言葉を溢した。
「だが、おかげで間に合った。感謝している」
「お嬢様はあなたを慕っています。そして私も同様に。多少強引ではありましたが、お力になれたのでしたら何よりです」
正直、ホームシックやら何やらで不満を募らせたこともあったのだが、ここは100点満点の回答で俺は答える。
「フン、お人よしめ」
ヴィルゴは首だけを傾けてジトッとこちらを見るが、その後目元を和らげ微笑んだ。
その彼らしい強く慈しむような微笑みに、俺は少し俯いてしまう。
ヴィルゴは黙って俺を見つめ、何かを待っているようだった。
あぁ、そうだな。
違うな、違った。
話があるのは、ヴィルゴじゃない。
たぶん、俺の方だ。
「私……俺は、令嬢過激派です」
一人称を言い直したのは、俺の本心としてヴィルゴに聞いて欲しかったからだ。
「はは、知ってるよ」
ヴィルゴが笑う。
「俺は自分の持つ予知の力で、メルロロッティ嬢とこの大陸を、統制された完璧な世界へ導きたかった。そのためなら、彼女を虐げた王国など滅べばいいと…本気で思っていました」
俺はヴィルゴを見ることができず、俯いたまま言葉を続けた。
「誰が敵で誰が味方なのか、予知と照らし合わせながら。そうして突き進めば、正しく大陸統治は果たされ、この世界は平和になり。メルロロッティ嬢は幸せになるのだと、そう信じていました」
「おこがましいね」
「ええ、おこがましいにも程があります」
ヴィルゴは笑いながらそう言って、俺も笑ってそう答える。
「宰相閣下、貴方の姿は美しかったです。この王国を愛し、何が起ころうと、諦めることなく命を削るような日々を過ごしていた」
俺の声にヴィルゴは静かに耳を傾けている。
「……貴方に言われるまで、気づけもしなかった自分を恥じています。何と言えば、赦されるのか。どうすれば、今までの行いを肯定してもらえるのか。そんなことばかり考えて、貴方やヴァンに導かれるまで自分では何も出来なくて。
予知を手放すことを恐れ、溺れていました。ゲームクリアもメルロロッティ嬢の幸せも……俺の自己満足でしかなかった。本当に愚かです」
ヴィルゴには意味はわからないかもしれない。
それでも俺は懺悔したかった。
「グレイ。私が君を気に入っている理由は何だと思う?」
ヴィルゴは俺の懺悔を聞き終えると、優しく尋ねてきた。
「……歴史の遷移を知る予知があるからです」
「違うな。それはオマケみたいなものだよ」
「…………えっちなことが好きだから?」
「それも違う。評価は高いがね」
ぽかんとする俺に、微笑みながらヴィルゴは続ける。
「私はね、メルロロッティ嬢のことを必死に考えてる君が好きなんだ」
なんだそれ?
「君は予知をもとに、あれこれ考えている時の自分の顔を知っているか?」
メルロロッティ嬢にハーシュにイージス、そしてヴァン。
みんなに言われた。
俺の考えごとをしている時の顔?
「とてもね、優しくて良い顔をしている。周りの誰かの幸せを願うような、愛おしむような。そんな顔をしているんだ」
ヴィルゴは俺をまっすぐに見つめ、優しく言葉を続けた。
「グレイ。君を愛する者は皆、その顔にその心にたくさん救われている。
君の予知はそのためのものだ。正しさの証明ではなく、君が愛する者たちの幸せのために使えばいい」
考えごとをしている時の自分の顔など、知らなかった。
でも少なくとも今。
自分がどんな顔をしているかは、手に取るようにわかる。
首の後ろと耳が熱い。
そんなことを言われて。
恥ずかしくて嬉しくて。
泣きそうな顔になってる。
「……俺に、できるでしょうか?」
掠れた声で俺は尋ねた。
「できているよ。婚約破棄を予知し、必死な顔でメルロロッティ嬢を庇って欲しいと、この私にねだってきたのは誰だ?」
ヴィルゴは誇らしげに笑ってそう言った。
+++++
その後、俺とヴィルゴは他愛のない話を楽しんだ。
ヴィルゴに何度か休むことを進言したが、その度に俺と話したいとねばられた。
明け方近く、ようやくヴィルゴは休むと言い、いくつかの指示を俺に出して執務室の奥にある寝室へ去っていった。
去り際、俺が冗談で添い寝を所望すると、何も答えず微笑んで、触れるだけの優しいキスを残していった。
ヴィルゴが再び眠りから醒めることはなかった。
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