【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep39 再びの帰領01

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 マルゴーン帝国に新たな皇帝が即位し、サンドレア王国との同盟宣言、そしてサンドレア王国の幼き王が庇護下に入ると大陸中に知らされて数ヶ月。
 大陸には暖かな春が訪れていた。

 サンドレア王国は派閥対立以前の平穏さを取り戻し、全盛期にも劣らぬ豊かな姿を取り戻していた。

 マルゴーン帝国も新たな皇帝のもと大きく在り方を変えようとしている。属国や属領としていた国や領地と、盟約を持って関係を築き直すための模索をしているようだ。
 因縁の歴史が長いシカーテ諸島連合国との関係も、少しずつ雪溶けの気配を帯びていた。

 時を同じくして、スノーヴィア領は王国との離縁を期に、独立自治領となることを宣言した。
 その後ろ盾として名乗りをあげたのは、かの閉鎖国家であるバルツ聖国だ。
 バルツ聖国も同じく、その閉鎖的な国の体制を変革することを宣言。
 女王が自ら国民の前に姿を現し、その麗しい姿と白く愛らしい耳と尻尾は、誰もが驚きつつも「かわいい」と絶賛されたようだ。
 大陸に一大お耳ブームを巻き起こそうとしていた。

 この世界は確実に、平和な道へと導かれていた。



「スノーヴィア領へ行くのか?」
 俺はアルヴァンドに目を輝かせて確認した。

「あぁ。ようやく帝国と王国の面倒ごとが片づいてきたことだし。それに手紙も貰っている。一度君のご令嬢に会いに行かなくては」
 アルヴァンドは手にした書類に一通り目を通すと、ぽいと机に投げて俺にそう告げた。

 俺はあれから、ヴィルゴに続きアルヴァンドの補佐兼侍従として、共にサンドレア王国とマルゴーン帝国を行き来する、目まぐるしい日々を送っていた。

 ヴィルゴが王城に籠り執政をとっていた3ヶ月、もっとも近くにいた俺を補佐とするのは必然の流れだった。
 ヴィルゴは表向きはいまだ人を憚りながら、王国復興にむけて執政をとり行っていることになっている。

 これ以上混乱をもたらさないための嘘。
 そのために書き上げられた6年間の再建計画。

 そして亡きヴィルゴにかわり、アルヴァンドはサンドレア王政を整えるべく奔走していた。
 王国の有力貴族と会い、その能力を持って、王国を正しく導くであろう人選を行った。
 彼よりこの役割にふさわしい者はいない。
 偽りを見抜くのはもちろんだが、アルヴァンドは人望にあつく聡明だ。

 賢王として大陸に名を残す皇帝となるのだろう。



 サンドレア王国とマルゴーン帝国は俺の予知から外れた歴史を歩んでいる。
 しかし、おそらくは特異点が関わらなかった歴史の遷移は変わることはないようで、近隣諸国での出来事や一定の確率で発生する自然災害の類について、俺の予知はヴァンの助けになっていた。

 正直、少しだけ救われた気持ちになった。

 ちなみに。
 そんな俺たちを最も助けてくれ、活躍したのはゼクスの転移魔法だ。
 アルヴァンドも大変重宝していた。

 通常、飛行種で移動してもサンドレア王国の王都とマルゴーン帝国の帝都間は10日近くを要する。
 それが3秒。
 ゼクスのご機嫌をとれば3秒で移動可能なのだ。

 楽ちんすぎる。
 異世界の力ばんざい。チートばんざい。

 そんなわけで。
 転移魔法でスノーヴィア領へ行くのもまた一瞬なのだが、一応マルゴーン帝国皇帝陛下が赴くわけなので、事前に書簡で知らせ、当日ゼクスを伴い転移する運びとなった。



 メルロロッティ嬢。
 その名の懐かしさと愛しさに胸が焦がれる気持ちになった。

 最後の別れは昨年の初冬。
 もう半年近くも会えていなければ話もできていない。

 俺は毎週手紙を送っていたが、一度も返事は返ってこなかった。

 ハーシュにも手紙を送り、彼女の様子は間接的に聞いていた。
 俺の手紙は読んではいるものの、読み終わった瞬間悍ましいものを見たような顔で暖炉に投げ入れていたらしい。

 そうだと思ってました。たまらん♡

 「寂しがっていないか?」という質問については「別にフツー」とハーシュに言われた。
 ……ハーシュの観察が足りないんだろ。

 まだ怒っているだろうか?寂しがってくれているだろうか?
 メルロロッティ嬢のもとに戻れると知って、俺は胸の高鳴りが抑えられなくなっていた。


+++++


 スノーヴィア領へ訪問当日。

 ドキドキしながら、すっかり見慣れた転移の光に包まれる。点と線で紡がれる不思議な陣。

「転移」

 ゼクスが点と線を描ききって、呟いた瞬間。

 瞬きをして次に目に入ったのは、スノーヴィア辺境伯城の懐かしい玄関ポーチ。
 そこにはずらりとマルゴーン皇帝陛下を迎える面々が並んでいた。

 ダグラス団長にクラウス副団長、ハーシュ。コルトーも興味津々顔で竜騎士団の隊列からこちらを覗いている。
 ポレロ辺境伯と辺境伯夫人は俺をみると優しく微笑み、口パクで「おかえり」と言ってくれた。

 そして。

 彼らの前には、スノーヴィアの伝統織物で作られた豪華絢爛な藍色のドレスを身に纏い、しかしそのドレスも霞むほどの美貌を讃えたメルロロッティ嬢が佇んでいた。
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