67 / 84
ep40 争奪戦01
しおりを挟む
スノーヴィアに帰領したその日の晩餐。
俺はメルロロッティ嬢に接触禁止令を出された為、アルヴァンドの側仕えとして控えていた。
アルヴァンドはメルロロッティ嬢に声をかけては、優しく気遣っているのだが。
対するお嬢様、めっちゃ塩対応。
どうしたよ……
昼に行われた親睦会を知る者に聞いたところ、メルロロッティ嬢はアルヴァンドからの申し出を断り続けているらしい。
そしてアルヴァンドも引き下がらず、平行線なのだそうだ。
世界は平和への道を歩んでいるというのに、難儀すぎる。
晩餐後。気遣い疲れでげんなりしているアルヴァンドに、俺は食後の紅茶を淹れていた。
場所はスノーヴィア辺境伯城一番の貴賓室だ。
「……君が言っていた通りだ、グレイ。今まで出会ったどのご令嬢よりも、頑固で融通がきかない」
眉間に皺を寄せ、アルヴァンドがそうぼやいた。
「そこが魅力のお嬢様ですので……」
俺が何とも言えない顔ではにかむと、アルヴァンドはさらに不満げな顔をする。
「何故あそこまで拒むんだ?彼女の言葉に虚勢や偽りがない分、つけ入る隙がない」
ため息混じりのアルヴァンドの言葉に、俺はちくりと胸を刺される。
「スノーヴィア領にとってもマルゴーン帝国にとっても良縁のはずだ。何故そこまで拒むのか、理由がわかるか?」
紅茶をぐいと飲むと、アルヴァンドは俺を見上げた。
この世界は平和へと歩みはじめたとはいえ、いつ不安定になるかもわからない時世だ。
スノーヴィア領は独立領になるとはいえ、マルゴーン帝国と懇意にしておくに越したことはない。
それはメルロロッティ嬢にもわかっているはず。
では何故、一度は承諾していた婚姻の件を再び拒むのか?
思い当たるのは多分アレ。
「……陛下には、その。言いにくいのですが。メルロロッティ嬢には、誰にも言えない想い人がいます」
俺のボソボソと絞り出した言葉に、アルヴァンドは意外といった顔をした。
「そうなのか?」
「ただ、誰なのかは頑なに教えてくださらなくて。私にも心当たりがなく……」
俺がごにょごにょ言っている間、アルヴァンドは口元に手をあててしばらく考え込んでいた。
そして、俺を再び見上げる。
「明日はグレイも一緒に来てくれ。おそらく、だが。ご令嬢を攻略する算段がつきそうだ」
アルヴァンドはそう言うと、不敵にも思える顔でニッコリと笑った。
ええ……アルヴァンドがメルロロッティ嬢を口説く現場に同席するの、俺?
内心テンションを限界まで下げながらも、俺は陛下の侍従兼補佐として毅然と了承した。
+++++
翌日。
この日はスノーヴィア辺境伯城内をメルロロッティ嬢が案内し、飛竜の厩舎や訓練場をアルヴァンドに見せて回ることになった。
昨晩、訓練場ではゼクスと竜騎士たち、とりたててハーシュが模擬戦をしていたそうだ。
ゼクスは異能力はもちろんなのだが、あのジェスカやサシャとも対等に渡り合えるほどの剣術を持ち合わせている。
竜騎士の中でゼクスに一本とれたのは、ダングリッド団長だけだったらしい。
飛竜の厩舎では、飛竜のうねる背中の独特な動きを眺めていたアルヴァンドが「……なるほど。これが飛竜跨ぎか」と呟き、ベテラン竜騎士たち全員がむせ返り、一斉に俺を睨むというアクシデントもあった。
『飛竜跨ぎ』とは、日々飛竜に跨り鍛えあげられた竜騎士たちに受け継がれる、快楽を最高潮に高める秘奥義みたいなものだ。
うん。確かに俺がアルヴァンド、いやヴァンに野営地で教えた。
仕方ないだろ。皇帝陛下になられるお方なんて、知らなかったんだから。
そんな城内見学を終えた頃。
城から少し離れた庭園の一角で、ティータイムを過ごすことになった。
庭園は色とりどりの春の花に彩られているが、最も多く花壇に溢れんばかりに咲き誇っているのは、背の低い小さな白い花たちだ。
サンドレアの国花。
数世代前の当主の時代、友好の証としてサンドレア王国から贈られたらしいのだが、スノーヴィアの過酷な冬にも負けず、群生してここの庭園の顔になってしまったらしい。
その不屈で強かな姿はサンドレアの国花に相応しいと、俺は思う。
そんな白い花たちに囲まれて、紅茶を淹れ給仕するのは俺の役目となった。
メルロロッティ嬢は俺がいない間、専属侍女であるアグナとソネアを従者のかわりに側に置いていた。
ソネアは今まで通りの侍女服だが、アグナの方は俺とよく似たテールコートを着用していた。
端正ですらりとしたアグナによく似合ってる。
今日も二人は少し離れた場所で待機していた。
「さて、昨日の話の続きをしても?」
テーブルを囲んだところで、早速アルヴァンドが溢れんばがりの美しい微笑みで話を切り出した。
すごーく嫌そうな顔のメルロロッティ嬢。
そして同じく、すごーく嫌そうな顔の俺。
俺はメルロロッティ嬢に接触禁止令を出された為、アルヴァンドの側仕えとして控えていた。
アルヴァンドはメルロロッティ嬢に声をかけては、優しく気遣っているのだが。
対するお嬢様、めっちゃ塩対応。
どうしたよ……
昼に行われた親睦会を知る者に聞いたところ、メルロロッティ嬢はアルヴァンドからの申し出を断り続けているらしい。
そしてアルヴァンドも引き下がらず、平行線なのだそうだ。
世界は平和への道を歩んでいるというのに、難儀すぎる。
晩餐後。気遣い疲れでげんなりしているアルヴァンドに、俺は食後の紅茶を淹れていた。
場所はスノーヴィア辺境伯城一番の貴賓室だ。
「……君が言っていた通りだ、グレイ。今まで出会ったどのご令嬢よりも、頑固で融通がきかない」
眉間に皺を寄せ、アルヴァンドがそうぼやいた。
「そこが魅力のお嬢様ですので……」
俺が何とも言えない顔ではにかむと、アルヴァンドはさらに不満げな顔をする。
「何故あそこまで拒むんだ?彼女の言葉に虚勢や偽りがない分、つけ入る隙がない」
ため息混じりのアルヴァンドの言葉に、俺はちくりと胸を刺される。
「スノーヴィア領にとってもマルゴーン帝国にとっても良縁のはずだ。何故そこまで拒むのか、理由がわかるか?」
紅茶をぐいと飲むと、アルヴァンドは俺を見上げた。
この世界は平和へと歩みはじめたとはいえ、いつ不安定になるかもわからない時世だ。
スノーヴィア領は独立領になるとはいえ、マルゴーン帝国と懇意にしておくに越したことはない。
それはメルロロッティ嬢にもわかっているはず。
では何故、一度は承諾していた婚姻の件を再び拒むのか?
思い当たるのは多分アレ。
「……陛下には、その。言いにくいのですが。メルロロッティ嬢には、誰にも言えない想い人がいます」
俺のボソボソと絞り出した言葉に、アルヴァンドは意外といった顔をした。
「そうなのか?」
「ただ、誰なのかは頑なに教えてくださらなくて。私にも心当たりがなく……」
俺がごにょごにょ言っている間、アルヴァンドは口元に手をあててしばらく考え込んでいた。
そして、俺を再び見上げる。
「明日はグレイも一緒に来てくれ。おそらく、だが。ご令嬢を攻略する算段がつきそうだ」
アルヴァンドはそう言うと、不敵にも思える顔でニッコリと笑った。
ええ……アルヴァンドがメルロロッティ嬢を口説く現場に同席するの、俺?
内心テンションを限界まで下げながらも、俺は陛下の侍従兼補佐として毅然と了承した。
+++++
翌日。
この日はスノーヴィア辺境伯城内をメルロロッティ嬢が案内し、飛竜の厩舎や訓練場をアルヴァンドに見せて回ることになった。
昨晩、訓練場ではゼクスと竜騎士たち、とりたててハーシュが模擬戦をしていたそうだ。
ゼクスは異能力はもちろんなのだが、あのジェスカやサシャとも対等に渡り合えるほどの剣術を持ち合わせている。
竜騎士の中でゼクスに一本とれたのは、ダングリッド団長だけだったらしい。
飛竜の厩舎では、飛竜のうねる背中の独特な動きを眺めていたアルヴァンドが「……なるほど。これが飛竜跨ぎか」と呟き、ベテラン竜騎士たち全員がむせ返り、一斉に俺を睨むというアクシデントもあった。
『飛竜跨ぎ』とは、日々飛竜に跨り鍛えあげられた竜騎士たちに受け継がれる、快楽を最高潮に高める秘奥義みたいなものだ。
うん。確かに俺がアルヴァンド、いやヴァンに野営地で教えた。
仕方ないだろ。皇帝陛下になられるお方なんて、知らなかったんだから。
そんな城内見学を終えた頃。
城から少し離れた庭園の一角で、ティータイムを過ごすことになった。
庭園は色とりどりの春の花に彩られているが、最も多く花壇に溢れんばかりに咲き誇っているのは、背の低い小さな白い花たちだ。
サンドレアの国花。
数世代前の当主の時代、友好の証としてサンドレア王国から贈られたらしいのだが、スノーヴィアの過酷な冬にも負けず、群生してここの庭園の顔になってしまったらしい。
その不屈で強かな姿はサンドレアの国花に相応しいと、俺は思う。
そんな白い花たちに囲まれて、紅茶を淹れ給仕するのは俺の役目となった。
メルロロッティ嬢は俺がいない間、専属侍女であるアグナとソネアを従者のかわりに側に置いていた。
ソネアは今まで通りの侍女服だが、アグナの方は俺とよく似たテールコートを着用していた。
端正ですらりとしたアグナによく似合ってる。
今日も二人は少し離れた場所で待機していた。
「さて、昨日の話の続きをしても?」
テーブルを囲んだところで、早速アルヴァンドが溢れんばがりの美しい微笑みで話を切り出した。
すごーく嫌そうな顔のメルロロッティ嬢。
そして同じく、すごーく嫌そうな顔の俺。
20
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
転生したら親指王子?小さな僕を助けてくれたのは可愛いものが好きな強面騎士様だった。
音無野ウサギ
BL
目覚めたら親指姫サイズになっていた僕。親切なチョウチョさんに助けられたけど童話の世界みたいな展開についていけない。
親切なチョウチョを食べたヒキガエルに攫われてこのままヒキガエルのもとでシンデレラのようにこき使われるの?と思ったらヒキガエルの飼い主である悪い魔法使いを倒した強面騎士様に拾われて人形用のお家に住まわせてもらうことになった。夜の間に元のサイズに戻れるんだけど騎士様に幽霊と思われて……
可愛いもの好きの強面騎士様と異世界転生して親指姫サイズになった僕のほのぼの日常BL
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
森で助けた記憶喪失の青年は、実は敵国の王子様だった!? 身分に引き裂かれた運命の番が、王宮の陰謀を乗り越え再会するまで
水凪しおん
BL
記憶を失った王子×森の奥で暮らす薬師。
身分違いの二人が織りなす、切なくも温かい再会と愛の物語。
人里離れた深い森の奥、ひっそりと暮らす薬師のフィンは、ある嵐の夜、傷つき倒れていた赤髪の青年を助ける。
記憶を失っていた彼に「アッシュ」と名付け、共に暮らすうちに、二人は互いになくてはならない存在となり、心を通わせていく。
しかし、幸せな日々は突如として終わりを告げた。
彼は隣国ヴァレンティスの第一王子、アシュレイだったのだ。
記憶を取り戻し、王宮へと連れ戻されるアッシュ。残されたフィン。
身分という巨大な壁と、王宮に渦巻く陰謀が二人を引き裂く。
それでも、運命の番(つがい)の魂は、呼び合うことをやめなかった――。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる