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第34話 エストリアの愛馬
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麗らかな朝の陽ざしを受けながら、厩舎の前でエストリアは愛馬の世話をしていた。
綺麗な茶色の毛を持つ10歳の雌だ。幼い頃から共に過ごして来た相棒であり、エストリアと同じく勇敢な女子である。
趣味の遠乗りから魔物が蔓延る戦場まで、様々な場で活躍をして来た。正真正銘、相棒と呼ぶべき存在である。
「マリーは今日も元気みたいですね」
「ブルルル」
「今綺麗にしてあげますね」
馬の世話など使用人に任せれば良い話ではあるが、エストリアは必ず自分の手でやっている。
やはり戦場で共に戦う相棒である以上は、常に健康状態を把握しておきたい。それに絆を育み続ける事も大事である。
確かに馬は乗り物ではあっても、意思のある生き物に変わりはない。道具としてではなく、友としてエストリアは接している。
だからこそマリーはエストリアに忠実であるし、戦いになってもしっかりと連携が取れる。
自分の役目を良く理解しているので、わざわざ指示を受けなくてもマリーは正確にエストリアをサポートする。
「エストリア、やはりここに居たのか」
「おはようございますオズワルド」
「ブルル」
毎朝これぐらいの時刻であれば、大体エストリアはここに居る事が多い。
エストリアとの生活に慣れて来たオズワルドは、どこに行けば彼女に会えるか凡そ把握している。
最近はこうして2人でマリーの世話をする事が増えて来ていた。
オズワルドからすればマリーもまた命の恩人である。初めて会った時に、暗殺者を1人ノックアウトしてみせた。
その感謝も込めて、時間がある時は彼も参加しているのだ。マリーの方もオズワルドに慣れて来たので、特に不快感を示す事もない。
マリーは言わば、姉夫婦と仲が良い妹の様な立ち位置である。
「そう言えば、マリーに番は居ないのか?」
「既に子供も居ますよ。番はルーカスお兄様の馬ですよ」
「なるほど、そうだったのか」
マリーの子供はルーカスの副官を務めている騎士が貰い受ける事となり、一家揃って戦場で勇敢に戦っている。
オーレルム家の馬に相応しい家族である。ルーカスの馬はマリーより2歳程年上であるが、今も現役でしっかりとその役目を担っている。
オーレルム家の馬もまた体力に秀でた血統であり、昔から続く歴史ある一族だ。その歴史は200年以上続いていると言われている。
戦場で魔物に怯えてしまう様な馬ではこの地でやっていけない。それ故に勇敢な種を集めて交配を続けて来た。
つまりマリーもまた、十分なフィジカルエリートと言って差し支えない。
「お前はもう母親だったのだな」
「ブルルル」
「たまに家族3頭で走らせたりもするのですよ」
馬にも家族愛は存在している。産んだら産みっぱなしではない。それ故に定期的に家族水入らずの時間を設けている。
ルーカスが都市内の新居に移るまでは、3頭揃ってオーレルム家で生活していた。
ただルーカスが引っ越してからは少しだけ距離が出来てしまった。これからエストリアも新居に移る事になるので、お互いの住処は結構離れてしまう。
ただエストリアが頻繫に騎士として働くので、家族3頭が揃う機会がそう極端に減る事はない。
もうすぐ行われる大城壁の一斉点検でも顔を合わせる事になる。
「昔から疑問でしたが、母親ってどんな気分なのでしょう?」
「え、エストリア!?」
「自分が結婚出来るとは思っていなかったもので」
2人の兄達が行っていた妨害については、エストリアも正確には把握していない。
ただそのせいで女性としての自分の価値を良く理解出来ておらず、婚約者なんて出来ないだろうと思っていた。
そんな頃に丁度ルーカスが結婚したので、自分が無理に結婚する必要もないと判断した。
ただ恋愛に一切興味が無かった訳ではない。女性に生まれたからには、母親になるという事についての興味だけはあった。
ただそこを追求する程の熱量はなく、それ以上に鍛錬と民達との暮らしが優先だった。
そんな自分にまさかの婚約者である。しかも物凄く好条件の。
「偉そうに家族なんて言っておきながら、私は家庭を築いた事がありませんから」
「あ、ああ。そういう話か。家庭を持つという意味は、これから分かって行くんじゃないか?」
「ちょっと、不安もあるのです。私に、ちゃんと母親がやれるのかなと」
真面目に考えてもみなかった事だから、いざ婚約者が出来た事で生まれた疑問。自分にちゃんと母親が出来るのだろうかという不安。
貴族令嬢としての教育はちゃんと受けてはいても、だからと言って絶対に良い親になれるなんて保証はない。
妻として、母として、それらは自分にこなせる役割なのかと悩んでしまうのは仕方がない。
最初から自信満々な方がおかしいのだから。エストリアの様な不安を抱く方が自然と言える。
エストリアにしては珍しく、少し弱気になっていた。そんな姿を見て、オズワルドはエストリアの手を握った。
「どうするのが良いのか、それを一緒に探すのが家族なのではないかな」
「え、えっと?」
「2人で見つけよう。俺達に一番合った家庭の形を」
最初から完璧になんて出来なくて良いのだと、オズワルドはエストリアを諭す。
どんな家庭にするのが正解かなんて、最初から決まっているものではないのだから。
分からない時は協力し合って、話し合って。そうして時間を掛けて作り上げて行こうと誓い合う2人を、相棒であり母親でもあるマリーが見守っていた。
綺麗な茶色の毛を持つ10歳の雌だ。幼い頃から共に過ごして来た相棒であり、エストリアと同じく勇敢な女子である。
趣味の遠乗りから魔物が蔓延る戦場まで、様々な場で活躍をして来た。正真正銘、相棒と呼ぶべき存在である。
「マリーは今日も元気みたいですね」
「ブルルル」
「今綺麗にしてあげますね」
馬の世話など使用人に任せれば良い話ではあるが、エストリアは必ず自分の手でやっている。
やはり戦場で共に戦う相棒である以上は、常に健康状態を把握しておきたい。それに絆を育み続ける事も大事である。
確かに馬は乗り物ではあっても、意思のある生き物に変わりはない。道具としてではなく、友としてエストリアは接している。
だからこそマリーはエストリアに忠実であるし、戦いになってもしっかりと連携が取れる。
自分の役目を良く理解しているので、わざわざ指示を受けなくてもマリーは正確にエストリアをサポートする。
「エストリア、やはりここに居たのか」
「おはようございますオズワルド」
「ブルル」
毎朝これぐらいの時刻であれば、大体エストリアはここに居る事が多い。
エストリアとの生活に慣れて来たオズワルドは、どこに行けば彼女に会えるか凡そ把握している。
最近はこうして2人でマリーの世話をする事が増えて来ていた。
オズワルドからすればマリーもまた命の恩人である。初めて会った時に、暗殺者を1人ノックアウトしてみせた。
その感謝も込めて、時間がある時は彼も参加しているのだ。マリーの方もオズワルドに慣れて来たので、特に不快感を示す事もない。
マリーは言わば、姉夫婦と仲が良い妹の様な立ち位置である。
「そう言えば、マリーに番は居ないのか?」
「既に子供も居ますよ。番はルーカスお兄様の馬ですよ」
「なるほど、そうだったのか」
マリーの子供はルーカスの副官を務めている騎士が貰い受ける事となり、一家揃って戦場で勇敢に戦っている。
オーレルム家の馬に相応しい家族である。ルーカスの馬はマリーより2歳程年上であるが、今も現役でしっかりとその役目を担っている。
オーレルム家の馬もまた体力に秀でた血統であり、昔から続く歴史ある一族だ。その歴史は200年以上続いていると言われている。
戦場で魔物に怯えてしまう様な馬ではこの地でやっていけない。それ故に勇敢な種を集めて交配を続けて来た。
つまりマリーもまた、十分なフィジカルエリートと言って差し支えない。
「お前はもう母親だったのだな」
「ブルルル」
「たまに家族3頭で走らせたりもするのですよ」
馬にも家族愛は存在している。産んだら産みっぱなしではない。それ故に定期的に家族水入らずの時間を設けている。
ルーカスが都市内の新居に移るまでは、3頭揃ってオーレルム家で生活していた。
ただルーカスが引っ越してからは少しだけ距離が出来てしまった。これからエストリアも新居に移る事になるので、お互いの住処は結構離れてしまう。
ただエストリアが頻繫に騎士として働くので、家族3頭が揃う機会がそう極端に減る事はない。
もうすぐ行われる大城壁の一斉点検でも顔を合わせる事になる。
「昔から疑問でしたが、母親ってどんな気分なのでしょう?」
「え、エストリア!?」
「自分が結婚出来るとは思っていなかったもので」
2人の兄達が行っていた妨害については、エストリアも正確には把握していない。
ただそのせいで女性としての自分の価値を良く理解出来ておらず、婚約者なんて出来ないだろうと思っていた。
そんな頃に丁度ルーカスが結婚したので、自分が無理に結婚する必要もないと判断した。
ただ恋愛に一切興味が無かった訳ではない。女性に生まれたからには、母親になるという事についての興味だけはあった。
ただそこを追求する程の熱量はなく、それ以上に鍛錬と民達との暮らしが優先だった。
そんな自分にまさかの婚約者である。しかも物凄く好条件の。
「偉そうに家族なんて言っておきながら、私は家庭を築いた事がありませんから」
「あ、ああ。そういう話か。家庭を持つという意味は、これから分かって行くんじゃないか?」
「ちょっと、不安もあるのです。私に、ちゃんと母親がやれるのかなと」
真面目に考えてもみなかった事だから、いざ婚約者が出来た事で生まれた疑問。自分にちゃんと母親が出来るのだろうかという不安。
貴族令嬢としての教育はちゃんと受けてはいても、だからと言って絶対に良い親になれるなんて保証はない。
妻として、母として、それらは自分にこなせる役割なのかと悩んでしまうのは仕方がない。
最初から自信満々な方がおかしいのだから。エストリアの様な不安を抱く方が自然と言える。
エストリアにしては珍しく、少し弱気になっていた。そんな姿を見て、オズワルドはエストリアの手を握った。
「どうするのが良いのか、それを一緒に探すのが家族なのではないかな」
「え、えっと?」
「2人で見つけよう。俺達に一番合った家庭の形を」
最初から完璧になんて出来なくて良いのだと、オズワルドはエストリアを諭す。
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