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*WEB連載版
第58話 落ちぶれた元婚約者
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ロゼッタさんにイリーナの妊娠疑惑を告げられた翌日。
ダドリー様が赤月館にやってきた。
応接室に通されたダドリー様は、固い笑顔を私に向ける。
本当は会いたくなかった。どこかに逃げてしまいたかった……。
でも、私はこの館の主人の婚約者ですもの。その責務は果たさないとね。つまりは、お客様のおもてなしををするのは夫人の役目ってことよ。
それにルベルド殿下はいま手が離せないしね……。
……で。
久しぶりに見たダドリー様はなんだかちょっとやつれた感じがして、私は拍子抜けしてしまったのだった。
この人、昔はもっと迫力がある人だったのにな……。
「やあ、アデライザ。久しぶりだな。なんだか雰囲気が変わったな、落ち着いたというか……」
「いろいろありましたので……」
そうだ、変わったのはダドリー様だけじゃないんだ。
私だってこの短期間でずいぶん変わったわ。
婚約破棄されたり、妹に婚約者を寝取られたり、そのお陰で最愛の人と婚約したりね。
……っと。ちゃんとルベルド殿下の婚約者――未来の王子妃としての勤めは果たそう。
「ダドリー様、当館の主人ルベルド殿下派はいま忙しくておられます。ですがすぐにおいでになりますので、それまでは私が一人で対応させていただきますわ」
「そうか。アデライザ、君はもうここの人間なんだな」
寂しそうに言うダドリー様。
「……ルベルド殿下とのご婚約、おめでとう。婚約祝いとしてこれを君に。可憐な君に似合うと思ったんだが……、どうか受け取って欲しい」
そう言ってダドリー様が差し出したのは、綺麗にラッピングされた小さなプレゼントボックスだった。
「いりません」
誰がこの人からのお祝いなんて受け取るものですか。というかこの人、自分の行いが許されたとでも思ってるの? 妹に手を付けて私との婚約を解消したのに?
「そう言わずに。……そうだ、中身を見れば気が変わると思うよ」
と、ダドリー様は自分でラッピングをとっていく。中から出てきたのは薔薇の花をあしらった可愛らしい髪飾りだった。……可愛すぎて、私にはたぶん似合わないわね、これ。
もしかしてこれで私への婚約破棄だのなんだのは帳消しにしてくれ、って? だとしたら随分舐められたものね……。
「私はあなたに婚約破棄された身ですわよ? こんなもの受け取れません。これはどうぞお捨てになってくださいませ」
「そんなことを言わずに、頼むから受け取ってくれよ」
「いいえ。いりませんわ」
「……どうしても、ダメかい?」
ダドリー様は悲しげに眉を下げる。
ああ、もう! そういう表情されると放っておけなくなるのよね……。
でも。この人にされたことを……イリーナがされたことも含めて考えると、やっぱり受け取ることなんかできない。
「……すみません。私はあなたからの贈り物を受け取れません。これは、イリーナにプレゼントしてあげてください」
イリーナのほうが似合いそうな可愛らしいデザインだしね。
もしイリーナが本当に彼の子を宿しているのだとしたら。また婚約し直すことになるのだし、こういうプレゼントも必要になるでしょう。
「アデライザ」
突縁、彼は頭を下げた。
「すまなかった。あのとき俺は、君の気持ちを全く考えていなかった。本当にすまないと思っている。俺を憎むのは当然だし、軽蔑しても構わない。これを受け取らなくてもいい。だが、せめて謝らせてくれないか」
「なにを今さら言ってるんですか? 私とあなたはもう他人ですわよ」
「君の言うとおりだ。君は遠くへ行ってしまった。僕は……本当に愚かだった……」
ふっと顔をあげた彼と目が合った。
その瞳は、しょぼくれていた。
私を見るときのダドリー様の目はもっと冷たかったはずなのに。まるで昔とは別人みたいに見える。
いったいこの人になにがあったというのだろう。
「あれだけ酷いことをしたのだから許してくれるとは思っていない……だが、これだけはわかって欲しい。君は俺にとって大切な存在だった。……今さらこんなことを言っても遅いが、どうしてもそれは伝えたかった」
「………………」
ほんとに今さらだわ。じゃあなんで、イリーナに手を出したのよ……。しかもイリーナが妊娠中に他の女にまで手を出して。イリーナの妊娠は嘘だったわけだけど……。
「実は、君と別れてから僕もいろいろあってね……。イリーナが妊娠中に他の女性に手を出した……というのは知っているかい?」
「はい。イリーナから聞きました」
「……今なら分かるが……、まったく、僕は最低な男だよ。……ただ、言い訳させてもらうと……相手は美人局だった。僕は嵌められたんだ」
「え……?」
美人局……!?
ダドリー様が赤月館にやってきた。
応接室に通されたダドリー様は、固い笑顔を私に向ける。
本当は会いたくなかった。どこかに逃げてしまいたかった……。
でも、私はこの館の主人の婚約者ですもの。その責務は果たさないとね。つまりは、お客様のおもてなしををするのは夫人の役目ってことよ。
それにルベルド殿下はいま手が離せないしね……。
……で。
久しぶりに見たダドリー様はなんだかちょっとやつれた感じがして、私は拍子抜けしてしまったのだった。
この人、昔はもっと迫力がある人だったのにな……。
「やあ、アデライザ。久しぶりだな。なんだか雰囲気が変わったな、落ち着いたというか……」
「いろいろありましたので……」
そうだ、変わったのはダドリー様だけじゃないんだ。
私だってこの短期間でずいぶん変わったわ。
婚約破棄されたり、妹に婚約者を寝取られたり、そのお陰で最愛の人と婚約したりね。
……っと。ちゃんとルベルド殿下の婚約者――未来の王子妃としての勤めは果たそう。
「ダドリー様、当館の主人ルベルド殿下派はいま忙しくておられます。ですがすぐにおいでになりますので、それまでは私が一人で対応させていただきますわ」
「そうか。アデライザ、君はもうここの人間なんだな」
寂しそうに言うダドリー様。
「……ルベルド殿下とのご婚約、おめでとう。婚約祝いとしてこれを君に。可憐な君に似合うと思ったんだが……、どうか受け取って欲しい」
そう言ってダドリー様が差し出したのは、綺麗にラッピングされた小さなプレゼントボックスだった。
「いりません」
誰がこの人からのお祝いなんて受け取るものですか。というかこの人、自分の行いが許されたとでも思ってるの? 妹に手を付けて私との婚約を解消したのに?
「そう言わずに。……そうだ、中身を見れば気が変わると思うよ」
と、ダドリー様は自分でラッピングをとっていく。中から出てきたのは薔薇の花をあしらった可愛らしい髪飾りだった。……可愛すぎて、私にはたぶん似合わないわね、これ。
もしかしてこれで私への婚約破棄だのなんだのは帳消しにしてくれ、って? だとしたら随分舐められたものね……。
「私はあなたに婚約破棄された身ですわよ? こんなもの受け取れません。これはどうぞお捨てになってくださいませ」
「そんなことを言わずに、頼むから受け取ってくれよ」
「いいえ。いりませんわ」
「……どうしても、ダメかい?」
ダドリー様は悲しげに眉を下げる。
ああ、もう! そういう表情されると放っておけなくなるのよね……。
でも。この人にされたことを……イリーナがされたことも含めて考えると、やっぱり受け取ることなんかできない。
「……すみません。私はあなたからの贈り物を受け取れません。これは、イリーナにプレゼントしてあげてください」
イリーナのほうが似合いそうな可愛らしいデザインだしね。
もしイリーナが本当に彼の子を宿しているのだとしたら。また婚約し直すことになるのだし、こういうプレゼントも必要になるでしょう。
「アデライザ」
突縁、彼は頭を下げた。
「すまなかった。あのとき俺は、君の気持ちを全く考えていなかった。本当にすまないと思っている。俺を憎むのは当然だし、軽蔑しても構わない。これを受け取らなくてもいい。だが、せめて謝らせてくれないか」
「なにを今さら言ってるんですか? 私とあなたはもう他人ですわよ」
「君の言うとおりだ。君は遠くへ行ってしまった。僕は……本当に愚かだった……」
ふっと顔をあげた彼と目が合った。
その瞳は、しょぼくれていた。
私を見るときのダドリー様の目はもっと冷たかったはずなのに。まるで昔とは別人みたいに見える。
いったいこの人になにがあったというのだろう。
「あれだけ酷いことをしたのだから許してくれるとは思っていない……だが、これだけはわかって欲しい。君は俺にとって大切な存在だった。……今さらこんなことを言っても遅いが、どうしてもそれは伝えたかった」
「………………」
ほんとに今さらだわ。じゃあなんで、イリーナに手を出したのよ……。しかもイリーナが妊娠中に他の女にまで手を出して。イリーナの妊娠は嘘だったわけだけど……。
「実は、君と別れてから僕もいろいろあってね……。イリーナが妊娠中に他の女性に手を出した……というのは知っているかい?」
「はい。イリーナから聞きました」
「……今なら分かるが……、まったく、僕は最低な男だよ。……ただ、言い訳させてもらうと……相手は美人局だった。僕は嵌められたんだ」
「え……?」
美人局……!?
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