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第1章 一夜の過ちの相手と再会!?
2.任命されてしまいました……
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私は事務機器の大手メーカー、『カイザージム』で働いている。
仕事はいわゆる、Twitter中の人という奴だ。
それが全部じゃないけど。
任命されたのは約四ヶ月前の去年の九月。
もう三年も担当していた男性社員、戸辺さんから突然、任命された。
「あとは任せた」
私を会議室に呼びだし、肩を叩いた戸辺さんの、晴れ晴れとした顔は忘れられない。
商品の広告的なものしか呟かせないくせに、会社は全く効果が上がらないといつも文句を言っていた。
戸辺さんも頑張っていたけれど、上司があのとおりなので、上手くいくはずがない。
いつも青い顔で戸辺さんは胃薬を飲んでいたくらいなので、地方支店勤務なんて半ば左遷のような人事でも担当を外れてほっとしたのだろう。
とはいえ、入社二年目の私に彼さえ手に負えなかったことが務まるとは思えない。
「いやいや、無理!
無理ですよ!」
当然ながらお断りしたのだ。
なのに。
「もう伊深しか頼める相手がいないんだ。
お前がやらないのから下畑サンがやることになるんだが……」
それはそれでかなりヤバい。
もうすぐ定年の下畑さんはいまどき、一本指の雨だれ入力で、Twitterが使えるかどうかすら怪しい。
「ううっ……」
「それにお前、ツイ廃だろ?」
ニヤリ、と右頬をつり上げて実に意地悪そうに戸辺さんが笑う。
「ど、どうしてそれを……」
「うさっこたん」
その名前を出された瞬間、ピキッと一気に身体が凍った。
「ナ、ナ、ナンデ、ソレ、ヲ……」
身体はカチンコチンで、ようやく出した言葉はカタコトだ。
「さー、なんでだろーなー」
ニヤニヤ、ニヤニヤ、人の悪顔で戸辺さんは笑っているが、どうして私のアカウントがバレている!?
「仕事中にもお前、呟いてただろーが」
「ううっ」
これは、仕事さぼってそんなことと怒られるパターン……?
「別に息抜きで少しくらいやってもいいと思うけどさ。
もうちょっとバレないようにやった方がいいと思うぞ」
戸辺さんの言っていることはもっともだけど、呟きには個人どころか会社も特定されないように気を遣っている。
なのになんでバレているんだろう。
「大石課長が病欠した奴に嫌み言ったあとに、ズレカツラの上司が熱があっても仕事しろとかブラック丸出しの発言、なーんて呟いたらすぐわかるだろーが」
「そ、それは……」
確かに、そーですね。
同じ会社、しかも同じ部署にいればバレバレだ。
「とにかく。
仕事中に堂々とツイートできる、ツイ廃のお前にとって天職ともいえる仕事だ。
よかったな」
「え、えーっと……」
ぽんぽん、と決定事項のように戸辺さんは肩を叩いてくるけれど、私はまだやるとは一言も……。
「伊深が快く引き受けてくれてよかったわー。
これで大石課長に伊深が課長の悪口、ツイートしてましたよ、なんて告げ口しなくていいからな」
はっはっはーっ、なんて戸辺さんは高笑いしているが、それって!?
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
それって引き受けなかったら大石課長にバラすってことですか!?」
「伊深は引き受けてくれたから、そんなことにはならなかったがな」
「ううっ……」
まんまと戸辺さんの策略に嵌まっちゃった……?
「……わかりましたよ、引き受けます……」
「すまないなー、無理に押しつけたみたいで」
……って、全くそう思っていないですよね……。
「あ、ちなみに俺は〝青狼〟だ」
「……!」
戸辺さんが告げた名前は、私が推している絵師さんだった。
「えっ、どういうことですか!?」
「いつもふぁぼりつ、さらにはリプまでありがとうございます」
妙に芝居がかったお辞儀を戸辺さんがする。
上げた絵は瞬く間に何千、時には何万いいねとRTが付く神絵師が、戸辺さんだなんて信じられない。
「う、嘘ですよね!?」
「はぁー?
お前だって俺の書いた〝まうすくん〟、好きなイラストレーターの絵柄に似てるとか言ってただろうか」
「それはそうですけど……」
前に自社から出しているマウスシリーズにキャラクターをつけようってなった際、戸辺さんがささっと描いた絵が採用された。
タッチは違ったけど、それは青狼さんに似ていて、同じような絵を描く人もいるんだなー、って思っていたんだけど。
「ファンだからわかってくれたのかと思ってたのになー」
「うっ」
戸辺さんがふて腐れてみせ、返す言葉がない。
「う、疑って、スミマセンでした……」
「素直でよろしい。
これからもごひいきにー」
ひらひらと手を振りながら戸辺さんは会議室を出ていった。
戸辺さんには入社以来お世話になりっぱなしだし、しかもあの神絵師の青狼さんに頼まれたんだ、もう仕方ないと思う……。
その後、戸辺さんはあと少ししかないここにいる間に、できるだけ私が自由にできるように上役に働きかけて便宜を図るって約束してくれた。
そのおかげで形式上は自由に呟かせてもらっている。
……まあ、一言呟くにしても大石課長の承認が必要だけど。
仕事はいわゆる、Twitter中の人という奴だ。
それが全部じゃないけど。
任命されたのは約四ヶ月前の去年の九月。
もう三年も担当していた男性社員、戸辺さんから突然、任命された。
「あとは任せた」
私を会議室に呼びだし、肩を叩いた戸辺さんの、晴れ晴れとした顔は忘れられない。
商品の広告的なものしか呟かせないくせに、会社は全く効果が上がらないといつも文句を言っていた。
戸辺さんも頑張っていたけれど、上司があのとおりなので、上手くいくはずがない。
いつも青い顔で戸辺さんは胃薬を飲んでいたくらいなので、地方支店勤務なんて半ば左遷のような人事でも担当を外れてほっとしたのだろう。
とはいえ、入社二年目の私に彼さえ手に負えなかったことが務まるとは思えない。
「いやいや、無理!
無理ですよ!」
当然ながらお断りしたのだ。
なのに。
「もう伊深しか頼める相手がいないんだ。
お前がやらないのから下畑サンがやることになるんだが……」
それはそれでかなりヤバい。
もうすぐ定年の下畑さんはいまどき、一本指の雨だれ入力で、Twitterが使えるかどうかすら怪しい。
「ううっ……」
「それにお前、ツイ廃だろ?」
ニヤリ、と右頬をつり上げて実に意地悪そうに戸辺さんが笑う。
「ど、どうしてそれを……」
「うさっこたん」
その名前を出された瞬間、ピキッと一気に身体が凍った。
「ナ、ナ、ナンデ、ソレ、ヲ……」
身体はカチンコチンで、ようやく出した言葉はカタコトだ。
「さー、なんでだろーなー」
ニヤニヤ、ニヤニヤ、人の悪顔で戸辺さんは笑っているが、どうして私のアカウントがバレている!?
「仕事中にもお前、呟いてただろーが」
「ううっ」
これは、仕事さぼってそんなことと怒られるパターン……?
「別に息抜きで少しくらいやってもいいと思うけどさ。
もうちょっとバレないようにやった方がいいと思うぞ」
戸辺さんの言っていることはもっともだけど、呟きには個人どころか会社も特定されないように気を遣っている。
なのになんでバレているんだろう。
「大石課長が病欠した奴に嫌み言ったあとに、ズレカツラの上司が熱があっても仕事しろとかブラック丸出しの発言、なーんて呟いたらすぐわかるだろーが」
「そ、それは……」
確かに、そーですね。
同じ会社、しかも同じ部署にいればバレバレだ。
「とにかく。
仕事中に堂々とツイートできる、ツイ廃のお前にとって天職ともいえる仕事だ。
よかったな」
「え、えーっと……」
ぽんぽん、と決定事項のように戸辺さんは肩を叩いてくるけれど、私はまだやるとは一言も……。
「伊深が快く引き受けてくれてよかったわー。
これで大石課長に伊深が課長の悪口、ツイートしてましたよ、なんて告げ口しなくていいからな」
はっはっはーっ、なんて戸辺さんは高笑いしているが、それって!?
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!
それって引き受けなかったら大石課長にバラすってことですか!?」
「伊深は引き受けてくれたから、そんなことにはならなかったがな」
「ううっ……」
まんまと戸辺さんの策略に嵌まっちゃった……?
「……わかりましたよ、引き受けます……」
「すまないなー、無理に押しつけたみたいで」
……って、全くそう思っていないですよね……。
「あ、ちなみに俺は〝青狼〟だ」
「……!」
戸辺さんが告げた名前は、私が推している絵師さんだった。
「えっ、どういうことですか!?」
「いつもふぁぼりつ、さらにはリプまでありがとうございます」
妙に芝居がかったお辞儀を戸辺さんがする。
上げた絵は瞬く間に何千、時には何万いいねとRTが付く神絵師が、戸辺さんだなんて信じられない。
「う、嘘ですよね!?」
「はぁー?
お前だって俺の書いた〝まうすくん〟、好きなイラストレーターの絵柄に似てるとか言ってただろうか」
「それはそうですけど……」
前に自社から出しているマウスシリーズにキャラクターをつけようってなった際、戸辺さんがささっと描いた絵が採用された。
タッチは違ったけど、それは青狼さんに似ていて、同じような絵を描く人もいるんだなー、って思っていたんだけど。
「ファンだからわかってくれたのかと思ってたのになー」
「うっ」
戸辺さんがふて腐れてみせ、返す言葉がない。
「う、疑って、スミマセンでした……」
「素直でよろしい。
これからもごひいきにー」
ひらひらと手を振りながら戸辺さんは会議室を出ていった。
戸辺さんには入社以来お世話になりっぱなしだし、しかもあの神絵師の青狼さんに頼まれたんだ、もう仕方ないと思う……。
その後、戸辺さんはあと少ししかないここにいる間に、できるだけ私が自由にできるように上役に働きかけて便宜を図るって約束してくれた。
そのおかげで形式上は自由に呟かせてもらっている。
……まあ、一言呟くにしても大石課長の承認が必要だけど。
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