呟くのは宣伝だけじゃありません!~仕事も恋もTwitterで!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 味方ができれば頑張れる

1.こんなのは仕事じゃない、ただのお遊びだ

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朝ごはんの画像をおはようとかのスタンプと共に送る。

「いただきます」

今日の朝食は昨晩、買って帰ったコンビニのサラダと低糖質パン、それにゆで卵。
食べていたらチロリロリンと携帯が鳴り、見てみたら滝島さんから返事が来ていた。

【まあ合格】

なにがまあ、だ。
偉そうに。
とか突っ込みつつ、完食。
彼が私の痩せなきゃ呪縛を緩和してくれたおかげで、また食べようって気になっていた。
それに、しっかり食べないと反対に痩せないって注意されたのもある。

滝島さんからはダイエットの一環として毎食、食べたものの画像を送るようにって命令された。

……うん、命令なのだ。

私に拒否権はなかった。
まあ、拒否する理由もないけど。

出社したら大石課長はまだ来ていなかった。
ということは昨日、わざわざ飲みを断って帰り、作った報告書と申請書はそのままだということだ。

「……残業の意味ないよね」

わかっていたけれど、ムッとする。
いやいや、いまはまだ仕方ないのだ。
そのうち、絶対見返してやるんだから!

思いついたことがあって、机の中のイケてる男子付箋コレクションから、できるだけ滝島さんに似ているのを探す。

「なんか微妙に違うんだよなー」

少し考えて、眼鏡を描き加えてみた。

「バッチリ!」

設定が後輩男子なのはあれだけど、生意気そうな感じは滝島さんにそっくりだ。
上機嫌でメモ欄にペンを走らせる。

【できることからコツコツと!
焦らない!】

昨日、滝島さんから言われた言葉。
焦ってなにかしようっていうのは失敗の素だって。
確かにTwitter担当になってからずっと、焦っていた。
早く会社が求める成果を上げなきゃ、って。
でも現実ではそれが空回っていた。

「うん、よし!」

できあがった付箋をパソコンの画面の上に貼る。
こうやって滝島さんに見張られている気分になればきっと、丸まりがちな背筋も伸びる。

パソコンを立ち上げ、Twitterの画面を開いた。

「おっ?
おおっ?」

急いで昨日の報告書と見比べた。
フォロワーがいつもにもなく増えている。

「ほら、宣伝効果バッチリじゃない」

昨日帰ってチェックしたら、SMOOTHさんもサガさんも、三阪屋さんもミツミさんだってうちの名前を出してくれていた。
サガさんが【カイザージムちゃん、ちっちゃくてぷにぷに可愛くて、妹にしたいくらい】なんて呟くもんだから、【妹爆誕】なんてリプがけっこう踊っていた。

「私も早く昨日のこと、呟きたいよー」

そわそわしているうちに始業時間になり、仕事をはじめる。
とりあえず、昨日、出掛ける前に出して戻ってきていた申請書どおりに朝のツイート。

【1月15日水曜日です。
今日は手洗いの日。
インフルエンザが流行っています。
こまめな手洗いうがいが大切です。
手洗いといえばこちらもお勧めです】

手をかざすだけで一回分のアルコール除菌液が出てくる自社商品の宣材写真を貼ってリンクを貼る。

「……あと二日でお休みです。
頑張りましょう、は削除、と」

赤い線が引かれたそれにため息が出る。
たったこれだけでも現状は認めてくれない。
でも、そのうちきっと、変えてやる。

「伊深ぁ」

大石課長が不機嫌な声で私を呼び、ちょいちょいと手招きした。
行きたくない、が席を立って重い足で十歩歩き、彼の前に立つ。

「皆と仲良くお散歩してきました、なんて報告書がまかり通るとでも思ってんのかぁっ!」

バシッ! と大石課長が机の上に叩きつけたファイルが大きな音を立てる。
瞬間、水を打ったように静かになった。
響くのは電話の着信音だけ。

「……Twitterに人気の他企業に我が社の名前を出していただくことによって、いまより周知の幅が広まり、それによって……」

「はぁっ?
そんなことは訊いていない。
昨日お前が仕事と称してやったことは、ただの散歩だよなぁ?」

ギリッ、と強く奥歯を噛みしめたせいか、軽く頭痛がする。
なにか口を開けばそれと共に涙が落ちそうで、きつく唇を結んで耐えた。

「散歩だよなぁって訊いてるんだ!」

バシッ、と再び、彼がファイルで机を叩く。

「……違います」

「どこがどう違うんだ、ええっ!?」

「何度も繰り返しますが、我が社を広く知っていただくための宣伝活動です。
現に昨日の会に参加する前に比べ、フォロワーの数は……」

「そんなことはどうでもいいんだよっ!
それともなにか、その増えたフォロワーサマが全員、うちの商品をお買い上げでもしてくれたのか?」

小馬鹿にしたようにはっ、と大石課長が笑い、一部から同時に失笑が起きた。
そんな認識ならばTwitterの運用などやめてしまえばいい。
どうせ、無料でできるし、他の企業もやっているからうちもやらないと、くらいの気持ちなんだろうから。

「とにかく、昨日のお前は仕事をサボってただ散歩に行っただけだ。
その分、どうしたらいいかわかるよなぁ?」

肘をついて指を組んだ上にあごを置き、大石課長がにたぁっといやらしい笑みを浮かる。

「……はい」

突き返された報告書を受け取る手は悔しさで震えていた。

「今後二度と、このようなことがないようにな」

「……はい。
すみません、でした」

それだけをかろうじて絞り出し、席に戻る。
一緒に挟まれていたツイート申請書には大きく×がしてあり、【こんなことをさらすは会社の恥】と赤字で書き殴ってあった。

「ちゃんと許可をもらって行ったのに……」

なにもかも結局、無駄だった。
それでも、俯いてばかりだと涙が出そうだから顔を上げる。
目に付いたのは滝島さん……に見立てた付箋。

「うん、もっと上司にわかってもらえる報告書に作り替える……」

うじうじ落ち込んでいても仕方ない。
わかってもらえないのなら、わかってもらえるようにするしかないのだから。

気がついたらお昼になっていた。
しっかり食事は取るようにと滝島さんから厳命されたし、行きたいところなんだけど。

「伊深ぁ。
お前、昼になんか行けるご身分かぁ」

席を立とうとしたら、大石課長が絡んできた。

「……はい」

仕方なく、椅子に座り直す。

「そうそう。
お前は昨日、サボった分を取り返してもらわないといけないんだからなぁ」

なにもおかしくないのにわはははと愉快そうにお腹を揺すって笑い、大石課長は出ていった。

「……はぁーっ」

いなくなってため息が漏れる。
サボった、サボったと彼は繰り返すが、ちゃんと出るまでに昨日の仕事はこなしていったのだ。
なのになんで、こんなに責められなきゃいけないのだろう。
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