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最終章 公開告白を許してください
3.急に素っ気なくなったのはなぜですか
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「伊深、ちょっと」
次の日の夕方、大石課長から呼ばれた。
しかもわざわざ、課内の小会議室へ私を連れていってふたりっきりになる。
「昨日の結果だが」
大石課長の次の言葉を待っている間に、軽く握った手のひらは汗でびっしょりになっていた。
「Twitter運用は継続」
俯きがちになっていた顔が、ぱっと上がる。
「しかし」
続く言葉で上昇した気持ちは、一気に下降していった。
「申請制は継続」
いままでと変わらないということか。
いや、廃止になるところが継続になっただけ、まし?
「ただし、あとからでいい。
申請というよりも確認だな。
こちらとしてもどんなことを呟いたのか把握しておく必要がある。
炎上したときの早急な対応のためにも」
今度こそ、顔が完全に上がった。
これってほぼ、私の勝利と言っていいんでは?
「お前のTwitter運用に関しては、仙道社長がすべて責任を取るそうだ。
よかったな。
そういうわけだから、仙道社長の顔に泥を塗るようなことだけはするなよ?」
「わかりました!
ありがとうございます!」
勢いよく大石課長へあたまを下げる。
こんなに彼に感謝したのは、入社してここに配属されてから初めてかもしれない。
「あっ、いや、あれはオレも、伊深がよく頑張った、いいプレゼンだったと思ったし、最近の伊深は頑張っていると思うし……その、なあ」
なぜか少し赤い顔で大石課長はごにょごにょ言っている。
もしかして彼も、少しくらい私の仕事を認めてくれている?
「と、とにかく!
仙道社長もオレも期待しているからな!」
突然、逆ギレ気味にそれだけ言って大石課長は出ていった。
「……そっか。
期待、してくれているんだ」
ずっと、仕事に理解のない、嫌な上司だとばかり思っていた。
けれど、見るところはちゃんと見ていてくれている。
そんなことも知れるなんて、このプレゼンはやってよかった。
滝島さんにはLINEで、路さん、小泉さん、橋川さんにはDMで継続決定の報告をする。
【おめでとー!
これでもっと仲良くできるわね】
路さんの仲良くはそこはかとなく危険なにおいがするのはなんでだろう。
【おめでとうございます。
これからはもっと、気楽に絡めますね】
たぶん、橋川さんは私の立場を考えて、微妙に距離を取りながら絡んでくれていた。
もうそんな、気を遣ってもらわなくていい。
【おめでとうございます。
お祝いに新商品をお送りしますので、食レポお願いします!】
小泉さんはちゃっかりしているな。
でもいまからはそんなことも気軽にできるようになる。
【おめでとう】
【よかったな】
「ん?」
滝島さんの返信が素っ気ない気がするのは……気のせい、ですか?
【滝島さんのおかげです】
【ありがとうございました】
少しのざわめきを抱えたまま、返事を打ち返す。
【伊深が頑張ったからだろ】
【俺はなにもしていない】
やっぱりなんか、硬い。
私、なにかしたのかな……?
毎日の食事の報告はもういらないと言われ、その日を限りにぱたりと滝島さんとのLINEは途絶えた。
気になる、けれどどうしていいのかわからない。
【3月3日火曜日、今日はひな祭りです。
こんなパーティはいかがでしょうか】
関連会社のオシャレなホットプレートを使った、パーティの提案を貼り付けた。
「……あれ?」
いつもは呟いたら、速攻でミツミさんからいいねが付くのだ。
そういえば最近は、ない。
他の仕事をしている間に、リプが付いていく。
「どこで売ってますか、は、こちらになります、と」
前みたいにリプするだけでわざわざ、申請しなくていいのが楽。
この落差に甘えてしまってはいけないけど。
「伊深さん、荷物が届いてます」
「ありがとうございます。
……三阪屋さんからだ」
早速のプレゼントについつい顔が緩む。
開けてみたら桜のどら焼きが入っていた。
「美味しそう。
三時のおやつにたーべよ」
楽しみができると、つい仕事がはかどっちゃう私って、現金なのかな?
小会議室のテーブルを借りて写真を撮り、お茶を淹れてくる。
「いただきます、と」
「おっ、伊深、いいもん食ってるな」
まさしく口に入れようとした瞬間、大石課長から声をかけられた。
さらに嫌みが続くのかと身構えたものの。
「旨そうだな」
彼の口から出た言葉に拍子抜けした。
いままでなら仕事サボってなに食っているだ、だったのに。
「食べますか?
ただし、食レポお願いします」
「お、おうっ」
大石課長はひとつ受け取って、席に戻っていった。
もう一度食べようとして、袋に戻して置いた。
席を立ってお茶を淹れて戻ってくる。
「どうぞ」
「……どうしたんだ?」
大石課長の視線が私と湯飲みの間を往復した。
「食レポ、もらわないといけないので」
「あ、ああ。
そうか」
「はい」
うん、こういうこともあっていいのだ、たまには。
ただ嫌うだけじゃなくて。
「えっと……」
【三阪屋さんから新商品の食レポをせよと指令をいただきました。
桜色のどら焼き、可愛いですよね。
甘いあんこに塩漬けの桜の、しょっぱいのが効いて永遠に食べていられそうで危険!
これからの時期に、お勧めですよ~】
画像をつけて送信する。
しばらくしてリプが付いていた。
【レポありがとうございます!
永遠に食べてください!】
いやいや永遠に食べてって三阪屋さん、それじゃ元の体型にすぐ逆戻りだよー。
「ん?
んん?」
いつもならこんなツイートしたら、ミツミさんから【食べ過ぎたら運動ですね】なんてリプが付くのだ。
なのに、ない。
「忙しいのかな……?」
けれど、いくら待ってもミツミさんからのリプはなかった。
それからずっと、ミツミさんの反応がずっとおかしい。
LINEと相まってますますなにかやったんじゃないかって気になってくる。
そのうち、路さんがお祝いをしようと提案してくれて、来週の金曜に集まることになった。
今週は小泉さんに出張が入っていて都合が悪いんだって。
そのとき、滝島さんに会えるよね?
なにかしたのか訊いてみよう。
次の日の夕方、大石課長から呼ばれた。
しかもわざわざ、課内の小会議室へ私を連れていってふたりっきりになる。
「昨日の結果だが」
大石課長の次の言葉を待っている間に、軽く握った手のひらは汗でびっしょりになっていた。
「Twitter運用は継続」
俯きがちになっていた顔が、ぱっと上がる。
「しかし」
続く言葉で上昇した気持ちは、一気に下降していった。
「申請制は継続」
いままでと変わらないということか。
いや、廃止になるところが継続になっただけ、まし?
「ただし、あとからでいい。
申請というよりも確認だな。
こちらとしてもどんなことを呟いたのか把握しておく必要がある。
炎上したときの早急な対応のためにも」
今度こそ、顔が完全に上がった。
これってほぼ、私の勝利と言っていいんでは?
「お前のTwitter運用に関しては、仙道社長がすべて責任を取るそうだ。
よかったな。
そういうわけだから、仙道社長の顔に泥を塗るようなことだけはするなよ?」
「わかりました!
ありがとうございます!」
勢いよく大石課長へあたまを下げる。
こんなに彼に感謝したのは、入社してここに配属されてから初めてかもしれない。
「あっ、いや、あれはオレも、伊深がよく頑張った、いいプレゼンだったと思ったし、最近の伊深は頑張っていると思うし……その、なあ」
なぜか少し赤い顔で大石課長はごにょごにょ言っている。
もしかして彼も、少しくらい私の仕事を認めてくれている?
「と、とにかく!
仙道社長もオレも期待しているからな!」
突然、逆ギレ気味にそれだけ言って大石課長は出ていった。
「……そっか。
期待、してくれているんだ」
ずっと、仕事に理解のない、嫌な上司だとばかり思っていた。
けれど、見るところはちゃんと見ていてくれている。
そんなことも知れるなんて、このプレゼンはやってよかった。
滝島さんにはLINEで、路さん、小泉さん、橋川さんにはDMで継続決定の報告をする。
【おめでとー!
これでもっと仲良くできるわね】
路さんの仲良くはそこはかとなく危険なにおいがするのはなんでだろう。
【おめでとうございます。
これからはもっと、気楽に絡めますね】
たぶん、橋川さんは私の立場を考えて、微妙に距離を取りながら絡んでくれていた。
もうそんな、気を遣ってもらわなくていい。
【おめでとうございます。
お祝いに新商品をお送りしますので、食レポお願いします!】
小泉さんはちゃっかりしているな。
でもいまからはそんなことも気軽にできるようになる。
【おめでとう】
【よかったな】
「ん?」
滝島さんの返信が素っ気ない気がするのは……気のせい、ですか?
【滝島さんのおかげです】
【ありがとうございました】
少しのざわめきを抱えたまま、返事を打ち返す。
【伊深が頑張ったからだろ】
【俺はなにもしていない】
やっぱりなんか、硬い。
私、なにかしたのかな……?
毎日の食事の報告はもういらないと言われ、その日を限りにぱたりと滝島さんとのLINEは途絶えた。
気になる、けれどどうしていいのかわからない。
【3月3日火曜日、今日はひな祭りです。
こんなパーティはいかがでしょうか】
関連会社のオシャレなホットプレートを使った、パーティの提案を貼り付けた。
「……あれ?」
いつもは呟いたら、速攻でミツミさんからいいねが付くのだ。
そういえば最近は、ない。
他の仕事をしている間に、リプが付いていく。
「どこで売ってますか、は、こちらになります、と」
前みたいにリプするだけでわざわざ、申請しなくていいのが楽。
この落差に甘えてしまってはいけないけど。
「伊深さん、荷物が届いてます」
「ありがとうございます。
……三阪屋さんからだ」
早速のプレゼントについつい顔が緩む。
開けてみたら桜のどら焼きが入っていた。
「美味しそう。
三時のおやつにたーべよ」
楽しみができると、つい仕事がはかどっちゃう私って、現金なのかな?
小会議室のテーブルを借りて写真を撮り、お茶を淹れてくる。
「いただきます、と」
「おっ、伊深、いいもん食ってるな」
まさしく口に入れようとした瞬間、大石課長から声をかけられた。
さらに嫌みが続くのかと身構えたものの。
「旨そうだな」
彼の口から出た言葉に拍子抜けした。
いままでなら仕事サボってなに食っているだ、だったのに。
「食べますか?
ただし、食レポお願いします」
「お、おうっ」
大石課長はひとつ受け取って、席に戻っていった。
もう一度食べようとして、袋に戻して置いた。
席を立ってお茶を淹れて戻ってくる。
「どうぞ」
「……どうしたんだ?」
大石課長の視線が私と湯飲みの間を往復した。
「食レポ、もらわないといけないので」
「あ、ああ。
そうか」
「はい」
うん、こういうこともあっていいのだ、たまには。
ただ嫌うだけじゃなくて。
「えっと……」
【三阪屋さんから新商品の食レポをせよと指令をいただきました。
桜色のどら焼き、可愛いですよね。
甘いあんこに塩漬けの桜の、しょっぱいのが効いて永遠に食べていられそうで危険!
これからの時期に、お勧めですよ~】
画像をつけて送信する。
しばらくしてリプが付いていた。
【レポありがとうございます!
永遠に食べてください!】
いやいや永遠に食べてって三阪屋さん、それじゃ元の体型にすぐ逆戻りだよー。
「ん?
んん?」
いつもならこんなツイートしたら、ミツミさんから【食べ過ぎたら運動ですね】なんてリプが付くのだ。
なのに、ない。
「忙しいのかな……?」
けれど、いくら待ってもミツミさんからのリプはなかった。
それからずっと、ミツミさんの反応がずっとおかしい。
LINEと相まってますますなにかやったんじゃないかって気になってくる。
そのうち、路さんがお祝いをしようと提案してくれて、来週の金曜に集まることになった。
今週は小泉さんに出張が入っていて都合が悪いんだって。
そのとき、滝島さんに会えるよね?
なにかしたのか訊いてみよう。
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