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霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 公開告白を許してください

8.え、なんで酔ってるんですか

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「おわっ、たー」

始末書を何度も書き直しさせられ、終わったときは十時を回っていた。

「ヤバっ、めっちゃ心配されてる」

LINEには滝島さんから、まだかかるのか、もしかして怒られているんじゃないか、大丈夫か、と何度もメッセージが入っていた。
返信はできなかったが、既読にはしたので生存確認はできているはず。

「えっと。
終わりました、すぐに出ます、と」

帰る準備を済ませ、最後だったので電気を落として会社を出る。

「おっせーぞ」

外ではすでに、滝島さんが待っていた。
毎度毎度思うけど、なんで近くのお店で待っていないのかな。

「まだ夜はさみーし、腹減ったし。
いくぞ」

いつもと似たような台詞を吐き、私の腕を掴んで歩きだす。
入ったのはやはり、いつものビアバーだった。

「ヴァイツェンとアップルエール、シーザーサラダと自家製ソーセージ。
とりあえず、以上で」

メニューも見ずに滝島さんは注文を済ませてしまった。

「あの課長から怒鳴られなかったか?」

届いたビールを口に運びながら、眼鏡の下で眉を寄せ訊いてくる。

「それほど。
始末書は嫌みのごとく何度も書き直しさせられましたけど」

「ま、しゃーないわな。
それだけのことしたんだし」

「ですね」

悪戯が成功した子供のようにふたりで笑いあう。
うん、それくらい気分がいい。

「滝島さんこそ、大丈夫だったんですか。
……その、会社」

「満見社長は仙道社長以上に、ああいうことを面白がる人だから問題ねーな。
上司も似たようなもんだし。
帰ったら勝手に式場候補は挙げられてるわ、茉理乃のブライダル痩身エステプランまで作られはじめてたぞ。
いいモニターだーって」

「うっ」

いいのか、ミツミ。
そんな緩い会社で。

「んで、式はいつにするよ?」

ニヤリ、と滝島さんが右頬を歪めて笑い、フォークに刺したレタスがポロリと落ちていった。

「えっ、はっ、式!?」

仙道社長も満見社長も、滝島さんだって気が早すぎない!?

「んー、まあ、とりあえずは俺がどんだけ、茉理乃を愛しているかを伝えるのが先決だけどなー。
まあそれはこの週末全部かけたらわかるだろうけど」

ニヤニヤと愉しそうに滝島さんは笑っているが、悪い予感しかしないのはどうしてですかね……。

「てかですよ。
す、好きならなんで、最初からちゃんといってくれなかったんですか。
勘違いだー、とか言って突き放して」

「それは……」

滝島さんはそれっきり黙って俯いてしまったが、最初からちゃんと伝えてもらっていれば、こんなことにならなかった。

「……慣れてないんだ」

「は?」

らしくなく、ぽつりと彼が呟く。

「自信をなくした茉理乃が、再び自信を取り戻す手伝いができればそれでいいと思っていた。
なのに想定外に好意を向けられて、混乱して、突き放して……」

「はぁ……」

いつも何倍飲んでもけっろとしているこの人が、耳まで真っ赤にしてなにを言っているのかわからない。

「自分の好きな子から好きだって言われることに慣れてないんだ。
なんとも思ってない女なら平気なんだが」

俺様滝島様が照れながらこんな発言をするのは完全に想定外で、どう反応していいのかわからない。
いや、なんだかこっちの方が照れくさくなってくる。

「ああ、うん。
そうですか」

「それに思い切って告白したのに茉理乃はなにも言わないし、元彼の話ばっかりするし、脈はないんだと諦めたのに」

「えっと……」

告白って、いつ?
全く覚えがない。

「男友達として続けるのは嫌だから突き放したら、小泉さんとキスしようとしてるし?
なのに俺が傷つけたみたいな顔するし?」

ぐいっとグラスを空け、新しいビールを頼んでいる、が。

「滝島さん、酔ってます……?」

「俺がこれくらいで酔うわけないだろ」

じろっと眼鏡の奥から睨んでくる目は完全に据わっていた。

「えっと……そう、ですね」

いつもの彼ならこれくらいで酔ったりしない。
でもこれは、完全に酔っている。

「その。
……そろそろ出ましょうか」

「そうだな」

最後に届いたビールを、滝島さんは一息に飲み干した。
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