前世の婚約者ってなんですか?~溺愛御曹司と甘い現世生活~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 現世では幸せに暮らしました

9.これって嫌がらせ!?

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月曜日。
当然、仕事なんだけど、どんな顔して光志さんと会えばいいのかわからない。

「会社にあいつがいたら連絡して。
すぐに迎えに行くから」

「え、えっと……」

清人は本気で私と光志さんを会わせたくないようだけど、……まあ、それはそうだよね。
私だっていままでどおり、仕事ができる自信なんてない。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

今日も清人とキスして別れる。
ひさしぶりのいってらっしゃいのキス。
でも、いままで以上に頑張ろうって思えるのはなんでだろう?

「お、おはよう、ございまーす……」

いつもなら途中で会う光志さんには会わなかった。
こわごわ行った会社でも、硝子越しに見える社長室の中に姿はない。

「あ、涼鳴ちゃん!
これ見て、これ!」

私より先に来ている、夢子さんから渡された紙を見る。
読んでいくにつれて手がぶるぶると震えだした。

「なに、これ……?」

そこには光志さんが社長を引退すること、後継者には私を任命すると書いてある。

「み、光志さんに連絡!」

「ダメ。
繋がらない」

夢子さんが首を横に振る。
出社してきてこれを見つけ、もうすでに何度も電話したのだという。

「じゃ、じゃあ、家に」

「すでに向島くんが向かってる」

夢子さんが言い切ると同時にその手の携帯が鳴る。

「はい。
……うん、うん、わかった。
じゃ、こっち戻っておいで」

通話を終えた夢子さんが、はぁーっと重いため息をついた。

「マンション、もぬけの殻だって。
全く、なにがあったんだか……。
犯罪に巻き込まれたとかじゃなきゃいいけど」

「え、えっと……」

まさか、こんな展開が待っているだなんて予想もしていなかった。
確かに清人からは、二度と私の前に顔を見せるな、なんて言われていたけど。

「涼鳴ちゃん、なにか知ってるの!?」

「そ、その……」

微妙な反応の私に夢子さんが詰め寄ってくる。
これは話した方がいいのかな……?

「あ、あのですね……」

私は途切れ途切れだけど、夢子さんに土曜日にあったことを話した。

「まさか、そこまで拗らせていたとはね」

夢子さんは若干、呆れ気味だけど、仕方ないといえば仕方ない。

「しかも会社放り出して逃亡?
そのうえあとのことを涼鳴ちゃんに押し付け?
嫌がらせか」

薄々そんな気はしていたけど、やっぱりそうなんだ……。

「その、どうしましょうか。
私に社長なんてできるなんて思えないですし……」

「そうねぇ。
かといって向島くんじゃもっと無理だろうし」

「呼びました?」

ちょうど、戻ってきた向島くんがひょこっと顔を出す。

「光志さん、昨日のうちにマンション引き払っちゃったらしいんですよ。
急なことでご近所さんも誰も行き先知らないみたいっす。
なにがあったんですかね」

「失恋拗らせ野郎が暴走した結果、自爆したのよ」

やはり怒っているのか、夢子さんの言葉には険がある。

「あー、なんか了解っす」

了解ってなにが了解なんだろう。
それだけでわかる向島くんはある意味怖いぞ。

「それで、会社の今後なんだけど……」

夢子さんが出社してきた全員を見渡した。

「それはやっぱ、光志さんの書き置きどおり、涼鳴さんが社長するしかないんじゃないですかね」

まるで自分は無関係、みたいな口ぶりだけど。
向島くん!
これは君の問題でもあるんだぞ!

「俺が会社経営なんかしても潰すのが目に見えてますし。
かといって光志さんワンマンだったし、悪いですけど他の社員さんに務まるとは思えない。
そうなると、涼鳴さんしか……」

消去法で私なのか!?
そんな選び方で大丈夫なのか!?

「そうよねー。
それに、あがり症なところをのぞけば、涼鳴ちゃんはしっかりしてるし。
なんとかなるでしょ」

夢子さん、それ、本気で言っている!?
そのあがり症が最大の問題なのに!

……なんて散々ツッコんだけど。
これで私が引き受けなきゃ、この会社はどうなるんだろう?
やっぱり、解散?
ここで終わり?
そんなの……嫌だ。

私を見つめる全員を見渡す。

向島くんは軽いけど、いざというとき頼りになる。
経理関係は夢子さんに丸投げだって光志さんは言っていた。
なら、私のそれでなんとかなるはず。
他のみんなだってたぶん、私を助けてくれるだろう。
こんなところでせっかく頑張ってきた会社を放り出すなんてしたくない。

それに、みんな私を頼ってくれている。
きっと、これが私の変わるチャンス。
ううん、清人と結婚してから、彼は私がもっと自信を持てるようにずっと手助けしてくれていた。
いまの私ならできるはず。

「わかりました、引き受けます。
その代わり、手助けよろしくお願いします」

深々とあたまを下げると、拍手が起きた。

「よっ、涼鳴社長!」

「む、向島くん、ふざけすぎ、だよ」

でもいまからはそう呼ばれることが多くなるのかな。
慣れていかないと。



社長の職に就いてからはバタバタしていた。
慣れない仕事プラス年末進行、そのうえ。

『新年から新しいホームページにしたいんだよねー』

突然、清人からそんなことを言われ、慌てた。
あれって締め切り無期限じゃなっかったけ?
口まで出かかった言葉は飲み込んだ。
そんなわけで、死ぬほど忙しい。

「涼鳴、最近ぼろぼろだけど大丈夫?」

ごはんを食べながら清人が訊いてくるけれど、誰のせいだ、なんてツッコミは口には出さない。

「年末進行なんで仕方ないの」

「ふーん。
……無理はダメだよ」

「うん」

少し開いた間は、なにか言いたいことがあったんだと思う。
私が社長になって清人と約束したのだ。
同じ社長としてわからないことは訊くし、アドバイスも受ける。
でも、仕事のことはよっぽど危ないことをしない限り口を出さないって。
だって、トネールデザインは私の、私たちの会社だから。
清人もわかっているから、余計なことは言わないけど。

清人に心配されながらも仕事を頑張っているのには理由がある。

――初めてのクリスマスをふたりで過ごしたい。

そのためには多少ぼろぼろになっても、頑張るしかないのだ。

クリスマスイブ、私はいつも以上に緊張してR.Mountainに向かっていた。
今日は清人の会社の、仮ホームページが公開される日。
これでOKが出れば納品、お正月にあわせて正式公開になる。
私も確認してみたけれど、問題はなさそうだった。

「トネールデザインの春風です」

「どうぞ」

社長室の中では当然、清人が待っている。

「本日はご足労いただき、ありがとうございます」

「いえ」

お茶を出してくれた秘書は氷見さんではなく別の男性だ。
清人が雨山ホールディングスを継がない意思表示をしたからか、柴山専務は自分の息のかかった人を引いた。
前に会った、あのいけ好かないおじさんももういない。

「それでホームページですが……」

姿勢を正し、清人の言葉を待つ。
今日はそのために、わざわざここに呼び出されたのだ。

「システムの会社にもお伝えしましたが、大変満足のいく仕上がりです。
本当にありがとうございます」

「い、いえ!
こちらこそ、ありがとうございます!」

あたまを下げる清人に、私も勢いよくあたまを下げる。

「ありがとう、涼鳴。
最高のクリスマスプレゼントだよ」

ぎゅーっと清人が私の手を握ってくる。
私もその手を握り返した。

「清人に喜んでもらえてよかった」

私が清人のためにできることはあまりない。
でもこれで、少しでも清人の役に立てたんなら嬉しいな。
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