前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第一章 新しい生活の始まり

016-5

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 宵鍋に行くと、イースタンさんがいた。

「よっ、アシュリー、元気してたかなー?」

「はい、元気です。イースタンさんも、お元気そうでなによりです」

 僕とイースタンさんの会話を、ラズロさんが聞いて笑う。元気だったかを確認する程、顔を合わせない期間があった訳じゃないんだけど、僕は子供だから城の外にあまり出ない。

「ラズロにこき使われてない? 大丈夫?」

「おぅ、毎日こき使ってるわ」

「わー、最悪な職場だねー。こんないたいけな子供に何て事を」

 軽口を叩きながら、運ばれてきたエールを二人は口にする。僕はジュース。王都は水がキレイじゃないから、一度沸かしてからじゃないと使えない。だから水屋さんが存在する。魔法で水を出して売る。僕は弱いけど魔法が使えるから、買った事はないけど。
 煮込まれた料理がテーブルに置かれると、イースタンさんが皿に取り分けてくれた。

「いただきます」

 室内とは言え、空気は冷たい。料理から上る湯気は、良い香りをさせながら消える。
 今日の煮込みは芋煮だ。僕の好きな料理の一つ。

 口に入れた芋は、ほろほろと崩れる。染み込んだ味と、芋の甘さが口の中に広がる。

「美味しいです」

「いっぱい食べなー」

 ニコニコしながらイースタンさんが別の料理を取り分けてくれる。

「イースタン、マヨネーズの作り方をアシュリーに教えてくれないか?」

 ラズロさんがそう言うと、イースタンさんは手を差し出した。

「しっかりしてんなぁ」

 頭を掻きながら、ラズロさんは銀貨1枚を渡す。

「足りない。3枚」

「取りすぎだろ」

 文句を言いながらラズロさんは銀貨を追加で渡す。後で返さなくちゃ!

「まいど」

 イースタンさんは懐から紙とペンを取り出すと、作り方を書いていく。勉強したから、何て書いてあるのか読める! 前ならきっと分からなくて、ラズロさんに読んでもらったりしたと思う。

「はい、コレ」

 紙を受け取ると、ラズロさんと読んだ。

「なるほどな」

 コツについても書いてある。親切。

「出来上がったら食べさせてねー」

「食わせる訳ねぇだろ。このレシピの内容からして銀貨3枚はボッタクリ過ぎだ」

 えへ、とイースタンさんが誤魔化すように笑う。
 そういうものなのかと思ってたけど、どうやら違うみたい?

「あ、銀貨返そうか?」

「いらねぇよ。代わりにおまえには絶対食わせない」

「ぅわぁん、アシュリー、助けてー」

 僕に泣きつこうとしたイースタンさんの頭を、ザックさんが叩いた。ザックさん、むっとしてる?

「おまえ、今日からここでの飲み代、倍だ」

「えっ?! それ酷くない?!」

「子供相手にふっかけたおまえが悪い」

 ……これは、止めた方が良いのかな?

「それにこの前寄越した香辛料、半分しけてたぞ」

 ザックさんの言葉にイースタンさんの笑顔が固まる。
 ……なるほど。商売人は逞しいって聞くけど、こういう事なのかな? 兄さんは信用商売だって言ってたけど、そこが行商との違いなのかも?

「あれは、わざとじゃないし、だからいつもより値段下げただろ?」

 悲鳴のように必死に弁解するイースタンさんだけど、ザックさんは聞く耳を持つ気がないみたいで、奥に戻ってしまった。それをイースタンさんが追いかける。

「悪い奴じゃねぇんだけどな、たまにこう言う事をするからな、気を付けろよ」

「はい」

 と言っても、それすら気付けないかもだから、しっかりしないと。

「気にしないで肉食え、美味いぞー」

「はーい」
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