前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第一章 新しい生活の始まり

019-4

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 歌い終えたエスナさんをラズロさんがテーブルに呼んで、一緒に祝い鶏を食べる。

「祝い鶏なんて食べるの久しぶりよ。宵鍋のは特に美味しいわね」

 目をきらきらさせながら、エスナさんも祝い鶏を口にする。いくら美味しくても二人で食べ切れる量じゃなかったから、エスナさんが来てくれて良かった。
 ラズロさん、嬉しいのは分かるけど、他にも腸詰とか、野菜の酢漬けとかも頼んでいたから。
 腸詰に添えられた粒マスタードが、脂の味にひと味加えてくれて、食べた後に口の中が重くない。

「ねぇ、アシュリー、ウサギをテイムしてるの?」

 フルールを見たエスナさんに質問される。
 今日はフルールが付いて来た。前に洗い物を手伝っていた時にザックさんと話をして、スライムをテイムしてるって話したら、次から連れて来いって言われたんだよね。
 言われなくても分かるけど、フルールに食べて欲しいものがあるって事だと思う。

「この子はフルールって言って、スライムが擬態してるんです」

 へぇぇっ、と感心したような声を出すと、エスナさんは色んな角度からフルールを眺める。

「アシュリー、これ、食わせてやってくれ」

 ザックさんが大きな器に、残り物と思われるものをたっぷりよそって持って来てくれた。
 本当は裏にフルールを行かせられたら良かったんだけど、フルールは僕から離れたがらないから、手間をかけてしまうんだけど、お皿に残り物を美味しそうに盛り合わせてもらった。
 これは食堂での残り物でもやってることだったりする。見た目が悪くなった、いかにも残り物です、というものをフルールに食べさせたくなくて、そう見えないようにフルール用の器に盛り付けてから食べさせている。
 ラズロさんは最初呆れていたけど、毎日僕がそうやっていたからなのか、フルールに愛着がわいたのか、僕と同じように残り物であっても盛り付けてくれるようになった。
 フルールは鼻をひくひく、と動かして、目の前に置かれた大盛りの料理の匂いをかいでいる。

「フルール、この器は食べちゃ駄目だよ。これを食べちゃうと、もう食べられなくなっちゃうから、上に乗ってる料理だけ食べるんだよ?」

 返事はないけど、耳がぴょこ、と前後に動いた。
 それから、両手で食べ物を器用に挟んで食べ始めた。

「何処からどう見てもウサギなのに、肉を食べてるわ……ちょっと衝撃的だけど、可愛いわね」

 エスナさんが言う。すっかり僕たちは見慣れてしまったけど、ウサギは草食だよね、確かに。
 骨もポリポリポリポリ、と良い音をさせて食べていく。
 エスナさんの視線はフルールに釘付けだ。

「見てばっかいないで、食えよ」と、ラズロさんに言われても、つい自然と目が追ってしまうと言う奴なんだと思う。食べながらエスナさんはフルールをずっと見てる。

 器の中に入っていた料理を全てフルールが平らげると、店内を回っていた店員さんが持って行って、ザックさんが次のお皿を持って来てくれた。

「スライムなんてと思ってけど、アシュリーんとこのを見ると、欲しくなってきちまうな」

 そう言って笑うと、フルールの前にまた、器が置かれる。フルールは耳をぴょこぴょこ、と動かすとまた食べ始めた。
 お客さんが多いから残り物も多いんだろうな。残り物が多いと言うことは、それだけ廃棄のお金を払わなくちゃいけないってことで、お店は本当に大変だと思う。

「アシュリー、フルールの手はどうして汚れないの? 汁も付いてる筈よね?」

 そういうところも気になってずっと見てたんだ。

「毛に見えますけど、本物の毛ではないので、触れた時には汁の部分はフルールの体内に吸い込まれてるんだと思います」

「ドロドロして、何でも吸収するだけの生物だと思ってたのに。見た目がウサギになっただけでこんなに可愛くて、ありがたい存在に思えるなんて」

 あんまりな見た目のものに覆いかぶさるどろりとしたスライム、という見た目だったら、確かにアレだけど、こうして食べさせるものもキレイにして、ウサギの見た目で食べてもらうと、可愛く見えるから、見た目って大事だなって思う。
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