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第二章 マレビト
031-4
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ミルクコーヒーまで一気飲みして、リンさんは去って行った。リンさんの後ろ姿を見送りながら、ラズロさんがぽつりと呟いた。
「相変わらず、アイツは謎の勢いがあるなぁ」
確かに、リンさんはいつも元気いっぱい。疲れてぐったりしてても、僕のぐったりとはちょっと違う気がする。
「とりあえず仕込みも終わったし、オレらも少し休憩しようぜ」
「はーい」
ラズロさんが、リンさんのミルクコーヒーを入れる時に、僕のも一緒に作ってくれていたみたいで、ミルクコーヒーの入った器が目の前に差し出された。
「ありがとうございます」
気が付けば器にコーヒーの粉が入ったものをフルールが両手で持っていた。いもの皮は食べ終えて、今度はコーヒーの粉なんだね。
「フルール、裏庭で休もう」
ぴょこ、と耳を揺らすフルールを連れて、裏庭に出る。
春も中頃で、咲いていた花の中には、種を飛ばし終えて、枯れたり萎れたりしてるものもある。
そう言った花を摘んでいたら、フルールが器を差し出してきた。
おかわりをあげるのに、フルールに器を出して、って何度か言っていたら、器を差し出すことを覚えたみたい。
フルールって頭良いよね。あれかな、トキア様がくれた核が凄い奴だったからかな。
摘んだばかりの枯れた花をフルールの器に入れる。嬉しそうに花をひくひくさせる。
村では枯れ葉なんかを集めて堆肥にしていたけど、ここではそう言ったことをしないから、枯れ葉や枯れた花なんかはフルールのものになる。枯れ枝なんかは集めて城の貯蔵庫に持って行く。
みんながみんな魔法を使える訳じゃないし、ずっと使い続けられる訳じゃないから、部屋を暖めるのは暖炉だし、もう片方の食堂では変わらずに薪で火をおこしてるって聞いてる。
切り株に腰掛けてミルクコーヒーを飲む僕の横で、フルールがせっせとコーヒーの粉を口に運ぶ。三人分しかなかったから、あっという間に食べ終えたフルールは、裏庭を散策する。
落ちた葉は枯れた花を手にしては持って来て、僕に食べて良いか確認をするものだから、立ち上がって庭を歩いて回って、フルールが食べられそうなものを拾っては、フルールの器に入れた。
『何をやっとるんだ、おまえたちは』
呆れたような声がして、振り向くとマグロがいた。
「フルールのおやつ探し」
『見れば分かる』
そうだろうけど、他に答えようがないです。
『第一王子が、ベッドから出たぞ』
「本当?! 凄いね、もう歩いたりしてるの?」
『騎士が王弟の命を受けて明日から第一王子の散歩に付き合う事になった』
クリフさんがいれば、安全だろうし、王子が転けそうになってもすぐに助けてくれそうだから、安心だね。
『魔法使いの長が、魔力のこもった杖をあらかじめ作っていたからな、それを手にしながら歩くだろう。
奴らは本格的に動かざるをえんだろうなぁ』
そう言ってパフィがくっくっ、と笑う。なんだか悪者みたいだけど。
「じゃあ……ダンジョンに侵入しようとしてくる、ってことだよね?」
『そうだ。三日ほど普通に侵入しようとするだろう。それから、別の手段でダンジョンに入ろうとする筈だ。そうなったら、ダンジョンに奴らの手先が入れるようにしてやろう。後はジャッロ達が何とかする』
パフィはそう言うけど、ジャッロたちに危害を加えられるのは嫌だし、ダンジョンの中にはメルとコッコもいる。
そのことについてパフィに尋ねる。
『確かにな。明日にでも第二層を作っておくか。当面は第一層と同じようにしておけば、メルもコッコも困らんだろう』
「ジャッロたちは……」
『問題ない。前にも話したが、ダンジョン蜂はとても凶暴だ。巣には百を優に超える働き蜂がいる事だろうし、あの大きさが何百匹と襲う。無事では済むまいよ。
おまえが心配しているのは、ジャッロ達の事だろうが、どれぐらい被害が出るかは正直分からん。そこに関しては諦めろ。罠を仕掛ける事は可能だが、それでは奴等が諦めん』
ジャッロたちが可哀想だと僕が言ったとして、そうなったらあの人たちが僕を狙うようになるだけ。
「もっと穏便に第二王子たちに諦めさせることは出来ないの?」
呆れたように半目になるマグロ。
『今やってる事がもっとも穏便だろうに。病弱だから自分達が成り代われるのではと言う野望を、分かりやすく挫いてやってるだろう。第一王子は健全な身体を取り戻そうとしているし、元々後見となっている二人は有力者だ。そこに魔女がついた。それだけでも頭があるなら、諦めるに充分だ』
……そうなんだよね。
それでも諦められないのは、手に入ると思ってしまったから、なんだろうなぁ……。
「仕方がないんだろうけど、どちらにもあんまり被害が出ないと良いなって思う」
『おまえだけでも、そう祈ってやると良い』
「うん……」
「相変わらず、アイツは謎の勢いがあるなぁ」
確かに、リンさんはいつも元気いっぱい。疲れてぐったりしてても、僕のぐったりとはちょっと違う気がする。
「とりあえず仕込みも終わったし、オレらも少し休憩しようぜ」
「はーい」
ラズロさんが、リンさんのミルクコーヒーを入れる時に、僕のも一緒に作ってくれていたみたいで、ミルクコーヒーの入った器が目の前に差し出された。
「ありがとうございます」
気が付けば器にコーヒーの粉が入ったものをフルールが両手で持っていた。いもの皮は食べ終えて、今度はコーヒーの粉なんだね。
「フルール、裏庭で休もう」
ぴょこ、と耳を揺らすフルールを連れて、裏庭に出る。
春も中頃で、咲いていた花の中には、種を飛ばし終えて、枯れたり萎れたりしてるものもある。
そう言った花を摘んでいたら、フルールが器を差し出してきた。
おかわりをあげるのに、フルールに器を出して、って何度か言っていたら、器を差し出すことを覚えたみたい。
フルールって頭良いよね。あれかな、トキア様がくれた核が凄い奴だったからかな。
摘んだばかりの枯れた花をフルールの器に入れる。嬉しそうに花をひくひくさせる。
村では枯れ葉なんかを集めて堆肥にしていたけど、ここではそう言ったことをしないから、枯れ葉や枯れた花なんかはフルールのものになる。枯れ枝なんかは集めて城の貯蔵庫に持って行く。
みんながみんな魔法を使える訳じゃないし、ずっと使い続けられる訳じゃないから、部屋を暖めるのは暖炉だし、もう片方の食堂では変わらずに薪で火をおこしてるって聞いてる。
切り株に腰掛けてミルクコーヒーを飲む僕の横で、フルールがせっせとコーヒーの粉を口に運ぶ。三人分しかなかったから、あっという間に食べ終えたフルールは、裏庭を散策する。
落ちた葉は枯れた花を手にしては持って来て、僕に食べて良いか確認をするものだから、立ち上がって庭を歩いて回って、フルールが食べられそうなものを拾っては、フルールの器に入れた。
『何をやっとるんだ、おまえたちは』
呆れたような声がして、振り向くとマグロがいた。
「フルールのおやつ探し」
『見れば分かる』
そうだろうけど、他に答えようがないです。
『第一王子が、ベッドから出たぞ』
「本当?! 凄いね、もう歩いたりしてるの?」
『騎士が王弟の命を受けて明日から第一王子の散歩に付き合う事になった』
クリフさんがいれば、安全だろうし、王子が転けそうになってもすぐに助けてくれそうだから、安心だね。
『魔法使いの長が、魔力のこもった杖をあらかじめ作っていたからな、それを手にしながら歩くだろう。
奴らは本格的に動かざるをえんだろうなぁ』
そう言ってパフィがくっくっ、と笑う。なんだか悪者みたいだけど。
「じゃあ……ダンジョンに侵入しようとしてくる、ってことだよね?」
『そうだ。三日ほど普通に侵入しようとするだろう。それから、別の手段でダンジョンに入ろうとする筈だ。そうなったら、ダンジョンに奴らの手先が入れるようにしてやろう。後はジャッロ達が何とかする』
パフィはそう言うけど、ジャッロたちに危害を加えられるのは嫌だし、ダンジョンの中にはメルとコッコもいる。
そのことについてパフィに尋ねる。
『確かにな。明日にでも第二層を作っておくか。当面は第一層と同じようにしておけば、メルもコッコも困らんだろう』
「ジャッロたちは……」
『問題ない。前にも話したが、ダンジョン蜂はとても凶暴だ。巣には百を優に超える働き蜂がいる事だろうし、あの大きさが何百匹と襲う。無事では済むまいよ。
おまえが心配しているのは、ジャッロ達の事だろうが、どれぐらい被害が出るかは正直分からん。そこに関しては諦めろ。罠を仕掛ける事は可能だが、それでは奴等が諦めん』
ジャッロたちが可哀想だと僕が言ったとして、そうなったらあの人たちが僕を狙うようになるだけ。
「もっと穏便に第二王子たちに諦めさせることは出来ないの?」
呆れたように半目になるマグロ。
『今やってる事がもっとも穏便だろうに。病弱だから自分達が成り代われるのではと言う野望を、分かりやすく挫いてやってるだろう。第一王子は健全な身体を取り戻そうとしているし、元々後見となっている二人は有力者だ。そこに魔女がついた。それだけでも頭があるなら、諦めるに充分だ』
……そうなんだよね。
それでも諦められないのは、手に入ると思ってしまったから、なんだろうなぁ……。
「仕方がないんだろうけど、どちらにもあんまり被害が出ないと良いなって思う」
『おまえだけでも、そう祈ってやると良い』
「うん……」
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