2 / 27
2 狩人の集落
しおりを挟む
「小僧行くぞ」
教会前で号泣していた僕の肩を叩く奴がいる。
顔を上げると怖い顔の爺さんだった。
何も言わず歩き出したので、僕は慌てて後を追う。
畑の中の道を暫く歩くと、丸太小屋が密集して建っている場所に辿り着く。
板に打ち付けられた野犬や角兎の革が陰干しされており、女性達が笑いながら革を叩いて伸ばしている。
老人は、その中の古びた一軒、中心に近い丸太小屋へと入って行って行った。
小屋の中に入ると、部屋の真ん中に囲炉裏があり、その脇に小さな井戸が掘ってある。
壁には槍などの武器や防具がぶら下がっており、領都の店が思い出される。
「解体が出来るのは護衛の連中から聞いた。他に何が出来る」
「武器の手入れと防具の修繕が少し」
「ほう」
「うん、親は武具屋だった」
「それは助かる。弓は使えるか」
「弓の調整で射ったことはある」
「うむ、ここはヴェルディ村の狩人集落だ。ここでお前は狩人として生きて行く。農夫と違っておっ死ぬ確率も高いが、農夫より実入りが良いし、飢えることがない。お前は幸せ者だぞ。それじゃアーマーと武器を見繕うか」
「アーマーとナイフと山刀は親が持たせてくれた」
「どれ、ナイフを見せて見ろ。うむ、儂らの様な素人と違って、職人の作った物は見事だな。良い親を持ったな」
「うん」
「それじゃ昼まで弓で狩りの訓練だ。付いて来い」
「うん」
そして僕はヴェルディ村の狩人になった。
ーーーーー
爺さんの名前はボルグ、なんとこの狩人集落の長だった。
普通、連れて来られた連中は農夫として訓練され、問題を起こす気の荒い連中をこの集落で引き取って狩人として訓練するそうだ。
最初から教会に入ることを拒む迷惑な問題児は珍しかったらしく、揉めた末に長自ら僕を引き取ったそうだ。
ここでの僕の役割は、武具の手入れと狩りの手伝い。
武具の手入れが出来る者が少なかったらしく、それなりの報酬が貰えた。
狩りの手伝いは、弓矢での牽制と破損した武器の手渡し。
最も多いのが野犬狩りで、木柵へと追い込み槍で止めを刺す。
馬車の中から見た、兵士達よりも手慣れている感じだった。
解体は皆手慣れているので僕の出番は無い。
集落での狩りや武具の依頼が無い日は、爺さんに弓や罠の扱いを教わりながら僕自身の食い扶持を狩る。
爺さんと同居はしているが、個々が独存在で存在で互いの生活に干渉しないのが狩人の流儀らしく、爺さんも食事は自分で作るし、自分の居住スペースである一階の掃除は自分でする。
僕も同様で、与えられた屋根裏の掃除と自分の食事は自分で作る。
僕が狩る獲物は、一日で草鼠十匹に角兎が四匹。
草鼠も五匹で僕が食う肉は十分なので、残りの肉や革は町の雑貨屋で売り払い、塩や麦粉や黒パンを買い求める。
弓や罠の扱いに慣れた頃、土属性の魔法の使い方を教えてくれた。
土弾は周囲の土を霧状の尖った穂先の形状に変え射出する魔法で、草鼠程度なら一発で屠れるが角兎だと怯ませる程度の威力だった。
土質感知は、地面に手を着けて、地下の砂や粘土や砂礫などの土の性質を探る魔法だった。
土ならば十歩分、岩ならば半歩分探れるそうなので、浅い水脈なら探せるそうだ。
土魔法を爺さんから教わった帰り道、爺さんが呟くように教えてくれた。
「土属性には二種類の奴がいる、諦めの良い奴と諦めの悪い野郎だ。儂ら狩人は諦めの悪い野郎の典型で何時も足掻いておる。普段野犬や角兎、何なら狼すら狩っているから尚更じゃ、何故迷宮だと狩れないのかと試行錯誤する。昔、土を背負って迷宮に潜った奴がいる。迷宮に土が無ければ持ち込めば良いと考えたそうじゃ。だが、魔力を込めた土が土弾に変わる前に迷宮に吸い込まれてしまったそうだ。石を持ち込んだ奴もいる。辛うじて飛ばせるのが小指の先程度の石で一層の鼠すら屠れなかったと悔しがっておった。小僧もそんな時期が必ず来る。その時は遠慮無く言って気の済むまで試して来い。皆が一回潜る門だ」
ーーーーー
「クルト、私を嫁にしてよ。美味しいご飯作ってあげるからさ」
何時も通り肉と革を売ってから麦粉を買い求めていたら、雑貨屋の売り子のケイトが突然言い出した。
こいつは、僕と同じ馬車でこの村に連れて来られた、この村に一番近い町の出身者だ。
宿屋の娘だったらしく、客扱いに慣れているという理由で雑貨屋に引き取られたそうだ。
「突然だな」
「だってクルトを狙ってる子が増えて来たんだもん。早めに唾付けておこうと思ってさ」
「お前なら言い寄って来る連中が一杯いるんじゃないか、俺みたいな半端者は止めておけ。羽化式前の連中を誑し込んで置けば、町に戻れるかも知れないぞ」
「それも考えたんだけどね、去年の話聞いて回ったら皆捨てられてるの。態度が豹変だってさ。蔑むような目で見られったて、皆怒ってた。それに比べればクルトは稼ぎも良いしこの村から出て行かないしね」
「それは判らないぞ、俺も一回迷宮に潜ってみる積もりだしな」
「ふーん、狩人って皆前向きだよね。農夫の連中なんて諦め切って萎れてるのに」
「ほらケイト、客が来たぞ」
「それじゃ返事は迷宮から帰るまで待ってあげる。いらっしゃませ」
僕は本気で迷宮に潜る気でいる、試したいと考えている思い付きがあるのだ。
爺さんから小指の先程度の石なら飛ばせると聞いた時に、真っ先に思い浮かべたのが石の鏃だった。
早速石の鏃を作り試したが、成功しなかった。
魔法が矢の早さに追いつけないで、鏃に纏わせた土弾が消えてしまうのだ。
諦めないで、的から半歩の距離で練習を重ねた。
最大のネックは魔力量が十二しかないことで、一日十二回試射すると魔力が尽きてしまうのだ。
感覚を掴んだと思ったのに、翌日感覚が大きく外れていることもあった。
寝る前に何百回もイメージを思い浮かべて、努力を重ねた。
こんな無駄な苦労をしなくても、腹は十分に満たせていると何度も思い、折れそうになる心を悔しさと根性で支え、なんとか乗り切った。
努力の甲斐があって、半年後に初めて半歩の距離で成功させた。
歓喜の叫び声を上げて、村中を走り回った。
そしてこの村に来てからほぼ一年、やっと二十歩の距離で魔法と鏃を重ねることが出来るようになった。
教会前で号泣していた僕の肩を叩く奴がいる。
顔を上げると怖い顔の爺さんだった。
何も言わず歩き出したので、僕は慌てて後を追う。
畑の中の道を暫く歩くと、丸太小屋が密集して建っている場所に辿り着く。
板に打ち付けられた野犬や角兎の革が陰干しされており、女性達が笑いながら革を叩いて伸ばしている。
老人は、その中の古びた一軒、中心に近い丸太小屋へと入って行って行った。
小屋の中に入ると、部屋の真ん中に囲炉裏があり、その脇に小さな井戸が掘ってある。
壁には槍などの武器や防具がぶら下がっており、領都の店が思い出される。
「解体が出来るのは護衛の連中から聞いた。他に何が出来る」
「武器の手入れと防具の修繕が少し」
「ほう」
「うん、親は武具屋だった」
「それは助かる。弓は使えるか」
「弓の調整で射ったことはある」
「うむ、ここはヴェルディ村の狩人集落だ。ここでお前は狩人として生きて行く。農夫と違っておっ死ぬ確率も高いが、農夫より実入りが良いし、飢えることがない。お前は幸せ者だぞ。それじゃアーマーと武器を見繕うか」
「アーマーとナイフと山刀は親が持たせてくれた」
「どれ、ナイフを見せて見ろ。うむ、儂らの様な素人と違って、職人の作った物は見事だな。良い親を持ったな」
「うん」
「それじゃ昼まで弓で狩りの訓練だ。付いて来い」
「うん」
そして僕はヴェルディ村の狩人になった。
ーーーーー
爺さんの名前はボルグ、なんとこの狩人集落の長だった。
普通、連れて来られた連中は農夫として訓練され、問題を起こす気の荒い連中をこの集落で引き取って狩人として訓練するそうだ。
最初から教会に入ることを拒む迷惑な問題児は珍しかったらしく、揉めた末に長自ら僕を引き取ったそうだ。
ここでの僕の役割は、武具の手入れと狩りの手伝い。
武具の手入れが出来る者が少なかったらしく、それなりの報酬が貰えた。
狩りの手伝いは、弓矢での牽制と破損した武器の手渡し。
最も多いのが野犬狩りで、木柵へと追い込み槍で止めを刺す。
馬車の中から見た、兵士達よりも手慣れている感じだった。
解体は皆手慣れているので僕の出番は無い。
集落での狩りや武具の依頼が無い日は、爺さんに弓や罠の扱いを教わりながら僕自身の食い扶持を狩る。
爺さんと同居はしているが、個々が独存在で存在で互いの生活に干渉しないのが狩人の流儀らしく、爺さんも食事は自分で作るし、自分の居住スペースである一階の掃除は自分でする。
僕も同様で、与えられた屋根裏の掃除と自分の食事は自分で作る。
僕が狩る獲物は、一日で草鼠十匹に角兎が四匹。
草鼠も五匹で僕が食う肉は十分なので、残りの肉や革は町の雑貨屋で売り払い、塩や麦粉や黒パンを買い求める。
弓や罠の扱いに慣れた頃、土属性の魔法の使い方を教えてくれた。
土弾は周囲の土を霧状の尖った穂先の形状に変え射出する魔法で、草鼠程度なら一発で屠れるが角兎だと怯ませる程度の威力だった。
土質感知は、地面に手を着けて、地下の砂や粘土や砂礫などの土の性質を探る魔法だった。
土ならば十歩分、岩ならば半歩分探れるそうなので、浅い水脈なら探せるそうだ。
土魔法を爺さんから教わった帰り道、爺さんが呟くように教えてくれた。
「土属性には二種類の奴がいる、諦めの良い奴と諦めの悪い野郎だ。儂ら狩人は諦めの悪い野郎の典型で何時も足掻いておる。普段野犬や角兎、何なら狼すら狩っているから尚更じゃ、何故迷宮だと狩れないのかと試行錯誤する。昔、土を背負って迷宮に潜った奴がいる。迷宮に土が無ければ持ち込めば良いと考えたそうじゃ。だが、魔力を込めた土が土弾に変わる前に迷宮に吸い込まれてしまったそうだ。石を持ち込んだ奴もいる。辛うじて飛ばせるのが小指の先程度の石で一層の鼠すら屠れなかったと悔しがっておった。小僧もそんな時期が必ず来る。その時は遠慮無く言って気の済むまで試して来い。皆が一回潜る門だ」
ーーーーー
「クルト、私を嫁にしてよ。美味しいご飯作ってあげるからさ」
何時も通り肉と革を売ってから麦粉を買い求めていたら、雑貨屋の売り子のケイトが突然言い出した。
こいつは、僕と同じ馬車でこの村に連れて来られた、この村に一番近い町の出身者だ。
宿屋の娘だったらしく、客扱いに慣れているという理由で雑貨屋に引き取られたそうだ。
「突然だな」
「だってクルトを狙ってる子が増えて来たんだもん。早めに唾付けておこうと思ってさ」
「お前なら言い寄って来る連中が一杯いるんじゃないか、俺みたいな半端者は止めておけ。羽化式前の連中を誑し込んで置けば、町に戻れるかも知れないぞ」
「それも考えたんだけどね、去年の話聞いて回ったら皆捨てられてるの。態度が豹変だってさ。蔑むような目で見られったて、皆怒ってた。それに比べればクルトは稼ぎも良いしこの村から出て行かないしね」
「それは判らないぞ、俺も一回迷宮に潜ってみる積もりだしな」
「ふーん、狩人って皆前向きだよね。農夫の連中なんて諦め切って萎れてるのに」
「ほらケイト、客が来たぞ」
「それじゃ返事は迷宮から帰るまで待ってあげる。いらっしゃませ」
僕は本気で迷宮に潜る気でいる、試したいと考えている思い付きがあるのだ。
爺さんから小指の先程度の石なら飛ばせると聞いた時に、真っ先に思い浮かべたのが石の鏃だった。
早速石の鏃を作り試したが、成功しなかった。
魔法が矢の早さに追いつけないで、鏃に纏わせた土弾が消えてしまうのだ。
諦めないで、的から半歩の距離で練習を重ねた。
最大のネックは魔力量が十二しかないことで、一日十二回試射すると魔力が尽きてしまうのだ。
感覚を掴んだと思ったのに、翌日感覚が大きく外れていることもあった。
寝る前に何百回もイメージを思い浮かべて、努力を重ねた。
こんな無駄な苦労をしなくても、腹は十分に満たせていると何度も思い、折れそうになる心を悔しさと根性で支え、なんとか乗り切った。
努力の甲斐があって、半年後に初めて半歩の距離で成功させた。
歓喜の叫び声を上げて、村中を走り回った。
そしてこの村に来てからほぼ一年、やっと二十歩の距離で魔法と鏃を重ねることが出来るようになった。
16
あなたにおすすめの小説
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。
実家を没落させられ恋人も奪われたので呪っていたのですが、記憶喪失になって呪わなくなった途端、相手が自滅していきました
麻宮デコ@SS短編
恋愛
「どうぞ、あの人たちに罰を与えてください。この身はどうなっても構いません」
ラルド侯爵家のドリィに自分の婚約者フィンセントを奪われ、実家すらも没落においやられてしまった伯爵家令嬢のシャナ。
毎日のように呪っていたところ、ラルド家の馬車が起こした事故に巻き込まれて記憶を失ってしまった。
しかし恨んでいる事実を忘れてしまったため、抵抗なく相手の懐に入りこむことができてしまい、そして別に恨みを晴らそうと思っているわけでもないのに、なぜか呪っていた相手たちは勝手に自滅していってしまうことになっていった。
全6話
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる