【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜

花房いちご

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本編

一話 血塗れの夜会

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「私は不貞などしておりません」

 艶やかな黒髪と血のように赤い瞳の令嬢は、そう言って自害した。

 令嬢は、この国の民ではない。
 東の隣国の民だ。

 この王国では珍しい黒髪を、赤と青の宝石飾りがついたかんざしでまとめている。
 そして、首までしっかり肌を隠す赤いドレスを着ている。首と裾は、ふわふわと大きなフリルが重なっており華やかだ。だが、やはりこの王国の流行ではないデザインである。

 異国の令嬢は、公爵令嬢に不貞の罪を暴かれ断罪された。だというのに動揺することも、この場にいない婚約者に助けを求めることも無かった。

 淡々と公爵令嬢の言葉に反論し、聞き入れられないとわかるやこう言った。

「私は潔白です。不貞などしておりません。
 ですが、我々を魔獣の血を引く化け物とさげすむ貴女がたは信じないでしょう。かくなる上は……」

 そして、己の頭に手を伸ばした。

 簪を髪から抜く。まとめられていた長い黒髪がほどかれ、豊かに広がりシャンデリアの光を弾いた。

「この簪は大切な贈り物。壊したくないわ。ベルナールにお返しして頂戴ちょうだい

 令嬢に影のごとく付いていた二人の従者が動く。
 男の従者は令嬢の背後に立つ。女の従者は令嬢に歩み寄り、簪を受け取って斜め後ろに下がった。
 そして令嬢は、凛と前を向き宣言した。

「私は不貞などしておりません。私の命をもって抗議します」

 男の従者は額に汗を浮かべた緊張した面持ちで、腰の剣を抜いた。

 刀身の輝きに会場がどよめく間も無く、男は剣を掲げ横に振るった。

 一閃。

 光の筋が走った。そう思った瞬間には、全てが終わっていた。

「命ですって?一体なにをする気……ひぃっ?!」

 公爵令嬢は呆気に取られ……何が起こったか理解し、戦慄した。

 剣の一閃によって、己が断罪していた令嬢の首が切断されたのだ。
 首と共に切られた黒髪が床に広がり、首は勢いよく飛んで放物線を描く。

 その首が床に落ちる寸前。女の従者が抱き止めた。

 ブシャアッ!
 残された胴の切断面から血があふれて傾く。倒れる前に、男の従者が抱き止めた。
 衝撃からか、さらに血があふれて床に血溜まりができていく。

「ひ、あ……きゃあああああ!」

「うわあああ!ひっ!人殺し!」

「いやあ!助けて!」

 あちこちで悲鳴が上がる。無理もない。皆、荒事とは無縁で暮らしてきた貴族だ。
 男に至っては、魔獣討伐をしたことないばかりか、血を見たこともない者も珍しくない。

 会場は悲鳴と怒号につつまれ、逃げ惑う者と気絶する者たちで大混乱だ。

 この惨劇を引き起こした公爵令嬢は、呆然とした顔で呟く。

「な、何故?どうしてこうなったの?私はただ、ベルナール様を手に入れたいだけだったのに」

 公爵令嬢アレクサンドラ・リリーシア・リュミエールは、この惨劇が起きるまでの一年間を振り返った。




◆◆◆◆◆◆


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本編(15話)と番外編(11話)共に完結まで執筆済みです。
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