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第1部
番外編【帰還後の婚約者たち】4話(最終話)
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翌朝、すっきりした気分で目が覚めました。
シアンたちに手伝ってもらい、着替えと身だしなみを整えます。
ニトとリルが「本日の装いはこちらでよろしいのですか?」と、聞くので笑って「これがいいの」と返答します。
私の白い髪は鮮やかな青いリボンで編み込み、ハーフアップにしてもらいます。
身にまとうのは、白地に青と金の色糸の刺繍が施された衣装。そうです。ポーション職人の衣装です。
つまりは仕事着なのですが、今日の大宴会へはこの衣装がいいのです。この衣装を着ると、自分は辺境騎士団の一員なのだと強く意識できますから。
それにドリィが贈ってくれた、ドリィの色がたっぷり縫い込まれた大切な衣装なのですもの。
シアンは優しい笑顔で私を見つめます。
「ルルティーナ様、本日も良くお似合いですわ。さあ、参りましょう。大広間で皆様とご馳走が待っていますよ」
「ええ。ニトとリルも着替えたらいらっしゃい」
ニトとリルはおめかししてから参加するそうです。
シアンは私と同じく仕事着である侍女のお仕着せのままですが、水色の髪にはヘリオトロープを模した髪飾り、胸元には同じモチーフのブローチが輝いています。
「シアンもとっても素敵ね!行きましょう!」
私たちは浮き浮きと大広間へ向かいました。
◆◆◆◆◆◆◆
大広間は天上が高く、窓からの光と魔道具仕掛けのシャンデリアの灯りで明るく照らされています。
「わあ……!シアン、素晴らしい光景だわ!」
「ええ!城中の料理人たちが腕を振るいましたからね」
明かりの下、料理と飲み物がたっぷり乗ったテーブルが並んでいます。
テーブルの周りには何百人もの参加者が椅子に座ってお喋りしながら、壁際にはこのために招いた楽団たちが楽器を手に待機しながら、開会の合図をまっています。
「プランティエ職人長!おめでとうございます!」
「団長とお幸せに!」
皆さまのお声がけに答えながら、私は大広間の一番奥に向かいます。
そこは上座で、すでにドリィが座っています。ドリィの装いは、黒い騎士装束姿です。
ポーション職人の衣装を着ている私と同じように、いつもの仕事着です。
なんだかお揃いみたいで嬉しいわ。
ドリィはさっと席を立ち、私に手を差し出しました。
「ルティ、今日も眩いばかりに美しいね。夏空に咲く白百合のようだ」
ドリィったら!私は頬が熱くなりました。
照れる私をドリィは愛しそうに見つめて……嬉しくて幸せ。
でも、ドリィだって。
「ふふふ。ドリィも、いつも通り凛々しくて素敵です。理想の騎士そのものですわ」
「んっ!そ、そうか……!」
今度はドリィが真っ赤になって、二人で笑いながら並んで席に座りました。
少し離れた場所に座るシアンやオレール様たち高官が、ニヤニヤしたり呆れたご様子ですが見逃して頂きたいです。
「団長ー!いちゃついてないで開会して下さいー!」
「さっさと乾杯しましょうよー!」
「腹減ったー!」
身も蓋もない野次。がくりと頭を下げるドリィ。
「お前らなあ……」
「仕方ありませんよ。ご馳走の前ですもの」
そうです。私たちのテーブルにも素晴らしいご馳走が並んでいます。
夏野菜と花で飾られた豚や鶏のロースト、バターソース香る川魚の姿焼き、川海老や茸のフリット、野菜と肉のゼリー寄せ、何種類ものスープにシチュー、グラスにはワインや果実水……他にも沢山!
「はは。そうだな。俺も早く食べたい」
「ええ」
私たちは頷き合い、グラスを手にして席を立ちます。
大広間は静まり返り、ドリィの良く通る声が響き渡ります。
「始める前に二ついわせてくれ。
一つ目だ。俺とルティの婚約を祝ってくれてありがとう。聞いていなかったから驚いたぞ。まあ、お前らが宴会したかっただけだとは思うが」
ドッと盛り上がる皆様。私も笑ってしまいました。
少し落ち着くのを待って、ドリィが続けます。
「二つ目だ。俺のやり方に、ここまで付いてきてくれてありがとう」
今度は皆さまの顔が真剣なものになりました。
「お前たちがミゼール領辺境騎士団に入った事情は、それぞれだ。
自ら望んで入った者もいれば、ここに入るしかなかった者もいる。身を持ち崩した果て、無理矢理入らされた者もいた。
だが、今日まで俺のやり方に従い己の職務を果たした点は同じだ。騎士たちだけではない。文官、兵士、治癒魔法師、ポーション職人、料理人、侍従侍女、下働き達もだ。今日までよく働いて辺境騎士団を支えてくれた。
国王陛下から褒賞を賜るのも、魔境浄化の目処がたったのも、開墾が進んでいるのも、お前たちの働きあってのことだ。
本当にありがとう。これからもよろしく頼む。
今日は俺とルティのための宴だが、お前たちも楽しんで英気を養って欲しい!乾杯!」
一瞬、痛いほどの沈黙が降り……。
「乾杯!ミゼール領辺境騎士団万歳!」
地鳴りがするほどの歓声が響きわたりました。
「団長かっこいいー!」
「これからも付いていきます!訓練キツいけど!」
「ああ!よろしく頼む!引き続き訓練に手は抜かないから覚悟しろよ!」
「酷え!手加減してくださいよー!」
皆さまは騒ぎながら席につき、楽団が明るい音楽を流します。大広間中が喜びに包まれ、歓喜で空気が震えています。
私は少し涙目になりながら、隣にいるドリィと目を合わせました。
誇りと喜びに輝く鮮やかな青い瞳。何よりも美しい人。
「ドリィ。私、本当に辺境騎士団に来れて、貴方と再会できて良かった……幸せ」
「ルティ……。俺も君と再会できてよかった。これからも君に幸せだと思ってもらえるよう頑張るよ」
「私も、ドリィを幸せにするわね。私だけじゃなくてドリィも……ドリィ?」
「ははっ!……いや、すまない。ルティは意外と負けず嫌いなところがあるなと」
「もう!そうじゃないわ!わ、私も貴方が大切で愛しているから……」
「ルティ……」
「ドリィ……」
ドリィの顔が近づいてゆきます。あら?これはひょっとして?
く、口付けをしようとしているのでは?え?こんな人前で?
戸惑いつつも、逃げることも拒絶することも出来なくて……私は近づく唇を受け入れようとしました。ですが。
グーっと、お互いのお腹の音が重なったのです。
「……」
「……ふふっ。腹が減っては戦はできぬ。ですね。ドリィ」
「ぐっ……そうだな。腹ごなしして仕切り直しだ」
ギラギラした目が怖いです。ですが。
私はそっと耳元で囁きます。
「二人きりの時なら、いつでもキスしていいから」
「!」
感極まったドリィに抱きしめられ、またお腹の音が鳴って笑い合ったのでした。
三日間の大宴会がとっても楽しかったのは言うまでもありません。
それからの日々も幸せに満ちあふれていました。
◆◆◆◆◆
今は秋。
私は相変わらずポーションを作成したり、職人の皆様に指導をしたり、各種勉強をしたりと忙しなく過ごしています。
私が買い込んだ種苗の産業化の目処が立ったり、アンブローズ領から逃がされていたポーション職人たちを受け入れることが決まったり、国内外からミゼール領や騎士団を見学したいと要望されたり、春の表彰式に向けて準備をしたり……特に忙しいのは表彰式の準備です。なんといっても国王陛下と王太子殿下をお招きしますから!
それに私とドリィの婚約式も、婚約の承認後に行うと決まったのですが……王妃陛下がお忍びで参列されるのです!
『表彰式には行けないのだから、せめて婚約式だけは……』とのことですが、今からドキドキです。ドリィも実母様の訪問を喜びつつ頭を抱えています。
王妃陛下だと知られないよう警備を強化して、滞在する場所にも気をつけて……ドリィだけでなく私も知恵を絞ります。
ドリィの執務室。隣り合って座りながら話し合いました。
「ルティ、君も忙しいのにすまない」
「気にしないで。貴方が困っているなら力になりたいの」
「ルティ!俺は幸せ者だ!」
「はい。これからも何かあれば一緒に乗り越えて、幸せに暮らしましょうね」
珍しく私からドリィの頬にキスすれば、ドリィは心から幸せそうに笑うのでした。
おしまい
◆◆◆◆◆
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。また番外編を更新するかもしれないので、その時はよろしくお願いします。
シアンたちに手伝ってもらい、着替えと身だしなみを整えます。
ニトとリルが「本日の装いはこちらでよろしいのですか?」と、聞くので笑って「これがいいの」と返答します。
私の白い髪は鮮やかな青いリボンで編み込み、ハーフアップにしてもらいます。
身にまとうのは、白地に青と金の色糸の刺繍が施された衣装。そうです。ポーション職人の衣装です。
つまりは仕事着なのですが、今日の大宴会へはこの衣装がいいのです。この衣装を着ると、自分は辺境騎士団の一員なのだと強く意識できますから。
それにドリィが贈ってくれた、ドリィの色がたっぷり縫い込まれた大切な衣装なのですもの。
シアンは優しい笑顔で私を見つめます。
「ルルティーナ様、本日も良くお似合いですわ。さあ、参りましょう。大広間で皆様とご馳走が待っていますよ」
「ええ。ニトとリルも着替えたらいらっしゃい」
ニトとリルはおめかししてから参加するそうです。
シアンは私と同じく仕事着である侍女のお仕着せのままですが、水色の髪にはヘリオトロープを模した髪飾り、胸元には同じモチーフのブローチが輝いています。
「シアンもとっても素敵ね!行きましょう!」
私たちは浮き浮きと大広間へ向かいました。
◆◆◆◆◆◆◆
大広間は天上が高く、窓からの光と魔道具仕掛けのシャンデリアの灯りで明るく照らされています。
「わあ……!シアン、素晴らしい光景だわ!」
「ええ!城中の料理人たちが腕を振るいましたからね」
明かりの下、料理と飲み物がたっぷり乗ったテーブルが並んでいます。
テーブルの周りには何百人もの参加者が椅子に座ってお喋りしながら、壁際にはこのために招いた楽団たちが楽器を手に待機しながら、開会の合図をまっています。
「プランティエ職人長!おめでとうございます!」
「団長とお幸せに!」
皆さまのお声がけに答えながら、私は大広間の一番奥に向かいます。
そこは上座で、すでにドリィが座っています。ドリィの装いは、黒い騎士装束姿です。
ポーション職人の衣装を着ている私と同じように、いつもの仕事着です。
なんだかお揃いみたいで嬉しいわ。
ドリィはさっと席を立ち、私に手を差し出しました。
「ルティ、今日も眩いばかりに美しいね。夏空に咲く白百合のようだ」
ドリィったら!私は頬が熱くなりました。
照れる私をドリィは愛しそうに見つめて……嬉しくて幸せ。
でも、ドリィだって。
「ふふふ。ドリィも、いつも通り凛々しくて素敵です。理想の騎士そのものですわ」
「んっ!そ、そうか……!」
今度はドリィが真っ赤になって、二人で笑いながら並んで席に座りました。
少し離れた場所に座るシアンやオレール様たち高官が、ニヤニヤしたり呆れたご様子ですが見逃して頂きたいです。
「団長ー!いちゃついてないで開会して下さいー!」
「さっさと乾杯しましょうよー!」
「腹減ったー!」
身も蓋もない野次。がくりと頭を下げるドリィ。
「お前らなあ……」
「仕方ありませんよ。ご馳走の前ですもの」
そうです。私たちのテーブルにも素晴らしいご馳走が並んでいます。
夏野菜と花で飾られた豚や鶏のロースト、バターソース香る川魚の姿焼き、川海老や茸のフリット、野菜と肉のゼリー寄せ、何種類ものスープにシチュー、グラスにはワインや果実水……他にも沢山!
「はは。そうだな。俺も早く食べたい」
「ええ」
私たちは頷き合い、グラスを手にして席を立ちます。
大広間は静まり返り、ドリィの良く通る声が響き渡ります。
「始める前に二ついわせてくれ。
一つ目だ。俺とルティの婚約を祝ってくれてありがとう。聞いていなかったから驚いたぞ。まあ、お前らが宴会したかっただけだとは思うが」
ドッと盛り上がる皆様。私も笑ってしまいました。
少し落ち着くのを待って、ドリィが続けます。
「二つ目だ。俺のやり方に、ここまで付いてきてくれてありがとう」
今度は皆さまの顔が真剣なものになりました。
「お前たちがミゼール領辺境騎士団に入った事情は、それぞれだ。
自ら望んで入った者もいれば、ここに入るしかなかった者もいる。身を持ち崩した果て、無理矢理入らされた者もいた。
だが、今日まで俺のやり方に従い己の職務を果たした点は同じだ。騎士たちだけではない。文官、兵士、治癒魔法師、ポーション職人、料理人、侍従侍女、下働き達もだ。今日までよく働いて辺境騎士団を支えてくれた。
国王陛下から褒賞を賜るのも、魔境浄化の目処がたったのも、開墾が進んでいるのも、お前たちの働きあってのことだ。
本当にありがとう。これからもよろしく頼む。
今日は俺とルティのための宴だが、お前たちも楽しんで英気を養って欲しい!乾杯!」
一瞬、痛いほどの沈黙が降り……。
「乾杯!ミゼール領辺境騎士団万歳!」
地鳴りがするほどの歓声が響きわたりました。
「団長かっこいいー!」
「これからも付いていきます!訓練キツいけど!」
「ああ!よろしく頼む!引き続き訓練に手は抜かないから覚悟しろよ!」
「酷え!手加減してくださいよー!」
皆さまは騒ぎながら席につき、楽団が明るい音楽を流します。大広間中が喜びに包まれ、歓喜で空気が震えています。
私は少し涙目になりながら、隣にいるドリィと目を合わせました。
誇りと喜びに輝く鮮やかな青い瞳。何よりも美しい人。
「ドリィ。私、本当に辺境騎士団に来れて、貴方と再会できて良かった……幸せ」
「ルティ……。俺も君と再会できてよかった。これからも君に幸せだと思ってもらえるよう頑張るよ」
「私も、ドリィを幸せにするわね。私だけじゃなくてドリィも……ドリィ?」
「ははっ!……いや、すまない。ルティは意外と負けず嫌いなところがあるなと」
「もう!そうじゃないわ!わ、私も貴方が大切で愛しているから……」
「ルティ……」
「ドリィ……」
ドリィの顔が近づいてゆきます。あら?これはひょっとして?
く、口付けをしようとしているのでは?え?こんな人前で?
戸惑いつつも、逃げることも拒絶することも出来なくて……私は近づく唇を受け入れようとしました。ですが。
グーっと、お互いのお腹の音が重なったのです。
「……」
「……ふふっ。腹が減っては戦はできぬ。ですね。ドリィ」
「ぐっ……そうだな。腹ごなしして仕切り直しだ」
ギラギラした目が怖いです。ですが。
私はそっと耳元で囁きます。
「二人きりの時なら、いつでもキスしていいから」
「!」
感極まったドリィに抱きしめられ、またお腹の音が鳴って笑い合ったのでした。
三日間の大宴会がとっても楽しかったのは言うまでもありません。
それからの日々も幸せに満ちあふれていました。
◆◆◆◆◆
今は秋。
私は相変わらずポーションを作成したり、職人の皆様に指導をしたり、各種勉強をしたりと忙しなく過ごしています。
私が買い込んだ種苗の産業化の目処が立ったり、アンブローズ領から逃がされていたポーション職人たちを受け入れることが決まったり、国内外からミゼール領や騎士団を見学したいと要望されたり、春の表彰式に向けて準備をしたり……特に忙しいのは表彰式の準備です。なんといっても国王陛下と王太子殿下をお招きしますから!
それに私とドリィの婚約式も、婚約の承認後に行うと決まったのですが……王妃陛下がお忍びで参列されるのです!
『表彰式には行けないのだから、せめて婚約式だけは……』とのことですが、今からドキドキです。ドリィも実母様の訪問を喜びつつ頭を抱えています。
王妃陛下だと知られないよう警備を強化して、滞在する場所にも気をつけて……ドリィだけでなく私も知恵を絞ります。
ドリィの執務室。隣り合って座りながら話し合いました。
「ルティ、君も忙しいのにすまない」
「気にしないで。貴方が困っているなら力になりたいの」
「ルティ!俺は幸せ者だ!」
「はい。これからも何かあれば一緒に乗り越えて、幸せに暮らしましょうね」
珍しく私からドリィの頬にキスすれば、ドリィは心から幸せそうに笑うのでした。
おしまい
◆◆◆◆◆
ここまでお付き合い頂きありがとうございます。また番外編を更新するかもしれないので、その時はよろしくお願いします。
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