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第2部
第2部 3話 アップルパイと不穏な報せ
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休憩後、アップルパイ作りを再開しました。休めたパイ生地を粉を振ったまな板に乗せます。
ニコラさんに教えてもらいながら進めます。
「パイ生地を麺棒で伸ばし、バターをのせて挟み、また伸ばします。これを何度か繰り返します」
「布を折り畳むようにして……こうですか?」
「はい。もう少し薄く伸ばしましょう。そうです。厚みが均一になるようにして……」
出来たパイ生地を丸い金属型に敷き、煮林檎を一枚一枚重ねて巻いて、花のような形にします。
パイ生地の上に林檎の花を敷き詰めてオーブンで焼けば……。
「焼き上がりました!」
「わあ!上手く焼けたわ!」
「ルルティーナ様!お見事です!」
林檎の甘い香りと焼きたて特有の香ばしさ。
薔薇の花束を思わせる華やかで可愛らしいパイが出来ました。
「うふふ。ドリィとのお茶の時間にお出しできるわね」
このパイは、魔境討伐から帰って来たドリィを労るために焼いたのです。甘い物好きなドリィに喜んで欲しくて……。
「ドリィは喜んでくれるかしら?」
「ええ!団長閣下も絶対に喜んで感激しますよ!こんなに素敵なパイですもの!」
「ありがとう。シアンたちの分もあるわよ。ニトたちと食べてね」
「よろしいのですか!ありがとうございます!」
ドリィの前にシアンが感激してしまいました。ちょっと恥ずかしくて、でも嬉しかったです。
◆◆◆◆◆◆◆
お昼過ぎ。私の居住区域にある応接室でドリィとお茶会をします。
時間までに着替えました。明るいオペラピンクのワンピースに、紫色のゆったりとしたカーディガンを羽織ります。髪はワンピースと同じ色のリボンでまとめ、薄化粧を施してもらいました。
着替えを終えて応接室で待つことしばらく。
ドリィは時間通りに来てくれました。シンプルな濃紺の上下とドレスシャツ姿が眩しい!
「ルティ、お招きありがとう」
ドリィは優しく微笑みながら、紅葉した枝葉と野花が詰まった花籠を渡してくれました。ドリィはいつも、自ら花を摘んで贈ってくれるのです。
「まあ!秋色の花籠ね!素敵!ドリィ、いつも綺麗な花籠をありがとう」
「君の美しさには敵わないけどね。朝焼けの女神か花の妖精かと思ったよ」
いつもそうですが、ドリィは大袈裟だし褒め過ぎです!でも、嬉しい。
「ありがとう。ドリィも素敵よ。ドリィの月のような金髪に、夜空の紺が良く似合ってるわ」
席についてもらい、切り分けたアップルパイをお出しします。もちろん私も頂きます。
うん!我ながら美味しい!
煮林檎は甘酸っぱく香り良く、パイ生地はサクサク。とても美味しいパイです。
シアンがいれてくれた紅茶とも良く合います。
「ルティが手作りしたアップルパイだって?!最高だ!美味い!」
「お口にあって良かったわ。このアップルパイも、ドリィのために作ったから」
「る、ルティ……!ううっ!お、俺は幸せ者だ……!」
ドリィにも好評で一安心です。
「あらあら。涙ぐむなんて、本当にドリィは甘いものが好きね」
「ああ!大好きだ!」
ドリィは感動しながら食べて、もう一切れおかわりしました。興奮していたのが落ち着いたらしく、しげしげとパイをながめます。
「このパイは見た目も素敵だね。おや?そういえば、この林檎の形は君が王都のカフェで食べたタルトに似ているような……」
あの日のことを覚えていてくれたのね!
私は思わず身を乗り出した!
「そうなの!ドリィとの初めての街歩きで食べた『リールのカフェ』の桃のタルト!あのタルトがとても美味しくて可愛らしかったから作りたくなったの!桃の時期は過ぎてしまったから林檎でやってみたのよ!」
「素敵な発想だ。しかもそれを実現できるだなんて、ルティは料理の才能も素晴らしいな」
「も、もう!ドリィったら大袈裟だし褒め過ぎよ!それに、私の思いつきを形にしたのはニコラさんだし、思いついたのはあのタルトが美味しかったお陰よ!」
「確かに、あの店のケーキはどれも美味いからな」
「お料理も美味しかったわ!」
そのまま思い出話に花が咲きました。
「また王都で街歩きして、『リールのカフェ』に行きたいが……。
【秋実の大祭】前後は予定が詰まっているし、王都に長居は出来ないな」
「ええ、流石に無理よね」
私たちは、社交シーズンの最後を飾る【秋実の大祭】に合わせて王都に滞在します。
ただし、お互いに仕事が忙しいのでミゼール領を長く空けることは出来ません。
王都への滞在期間は五日間のみです。社交で時間が割かれるのはもとより、お互いの親族や友人たちとお会いする約束があります。
どう頑張っても街歩きする余裕はありません。ですが。
「街歩き出来ないのは残念だけど、お義姉様たち普段お会い出来ない方とお話できるのは楽しみ。ドリィのご家族ともお会い出来るし……」
「そうだな。街歩きは別の機会にして、旧交を温めるのを楽しもう。そして面倒な社交はさっさと済ませて帰還して……年が明ければ俺たちの婚約式だ」
「なんとか準備が間に合いそうでよかったわ」
そうです。夏から進めていた婚約式の準備も、ほぼ終わっています。
先日届いた王城からの報せによると、貴族院で選定中ではありますが、年明けには婚約証明書が届くそうです。
届いたらすぐに婚約式ができるよう、衣装の準備、会場の手配、出席者の選定は終わらせています。
我がヴェールラント王国貴族の婚約には、貴族院と国王陛下の許可が必要です。
許可を得ると婚約証明書が発行され、それを受け取って初めて正式に婚約したと認められるのです。
結婚する時よりも厳しく審査されるので、最低でも半年はかかります。
婚約式を行うのはその後です。
高位貴族ほど大々的に祝うことが多く、準備には時間がかかります。中には、授与から一年以上間が開くこともあるそうです。
また、開催時期は社交シーズンである春から秋にかけてが多いそうですが……。
「早く式を済ませて、名実共にルティと婚約したことを知らしめたい」
ドリィの強い希望もあって、オフシーズンである冬に開催します。
「ええ、私もよ」
社交シーズンを外すのには他にも理由があります。
招待客を減らして規模を小さくしても違和感がありません。
お互いの身内中心の少人数の式にすることで、出席者の選考と警備をより厳しく出来ます。
というのも、ドリィの実母である王妃陛下がお忍びでの参加を希望されているからです。もちろん近衛騎士の護衛もあるでしょうが、やはりお迎えする側も油断できません。
息子の晴れ姿を一目見たい。王妃陛下、いえ、ドリィのお母様の想いを叶えたくて、私たちは話し合いを重ねました。
警備には辺境騎士団と、私の義実家であるアメティスト子爵家の騎士様方が派遣されます。元近衛騎士であるお義父様は、かなり気合が入っているとか。
年末にはその打ち合わせもありますので、ますます忙しくなるでしょう。
でも、幸せな忙しさだわ。
婚約式の話は終わり、明日の過ごし方を相談します。
「明日も晴れたら出かけないか?紅葉と花が綺麗な場所を見つけたんだ。遠乗りをしてピクニックしよう」
「素敵!じゃあ、ニコラさんにランチバスケットを用意してもらって……」
トントン。
はしゃいでいましたが、ドアを叩く音に口を閉じます。控えていたシアンが廊下に出て、すぐに帰ってきました。
「ベルダール団長閣下、ルルティーナ様、ご歓談中に失礼します。
国王陛下の使者が参られました。火急の要件とのことです」
私たちは即座に席を立ちました。
「わかった」
「シアン、支度の手伝いをお願いするわ」
「かしこまりました」
国王陛下の使者様、しかも火急の要件となれば一大事です。
恐らく、実子であるドリィとその婚約者の私へのご機嫌伺いではないでしょう。
ミゼール領辺境騎士団団長アドリアン・ベルダール辺境伯と、ポーション職人長ルルティーナ・プランティエ伯爵にしか対応できない何かが起こったのです。
残念ですがお茶会を中断し、謁見の準備をしました。
この後、使者様から受け取った書簡を読んで私たちは驚愕します。
ある人物が【アドリアン・ベルダール辺境伯とルルティーナ・プランティエ伯爵の婚約は無効だ。プランティエ伯爵の婚約者は自分なのだから】と、貴族院に訴えたというのです。
ニコラさんに教えてもらいながら進めます。
「パイ生地を麺棒で伸ばし、バターをのせて挟み、また伸ばします。これを何度か繰り返します」
「布を折り畳むようにして……こうですか?」
「はい。もう少し薄く伸ばしましょう。そうです。厚みが均一になるようにして……」
出来たパイ生地を丸い金属型に敷き、煮林檎を一枚一枚重ねて巻いて、花のような形にします。
パイ生地の上に林檎の花を敷き詰めてオーブンで焼けば……。
「焼き上がりました!」
「わあ!上手く焼けたわ!」
「ルルティーナ様!お見事です!」
林檎の甘い香りと焼きたて特有の香ばしさ。
薔薇の花束を思わせる華やかで可愛らしいパイが出来ました。
「うふふ。ドリィとのお茶の時間にお出しできるわね」
このパイは、魔境討伐から帰って来たドリィを労るために焼いたのです。甘い物好きなドリィに喜んで欲しくて……。
「ドリィは喜んでくれるかしら?」
「ええ!団長閣下も絶対に喜んで感激しますよ!こんなに素敵なパイですもの!」
「ありがとう。シアンたちの分もあるわよ。ニトたちと食べてね」
「よろしいのですか!ありがとうございます!」
ドリィの前にシアンが感激してしまいました。ちょっと恥ずかしくて、でも嬉しかったです。
◆◆◆◆◆◆◆
お昼過ぎ。私の居住区域にある応接室でドリィとお茶会をします。
時間までに着替えました。明るいオペラピンクのワンピースに、紫色のゆったりとしたカーディガンを羽織ります。髪はワンピースと同じ色のリボンでまとめ、薄化粧を施してもらいました。
着替えを終えて応接室で待つことしばらく。
ドリィは時間通りに来てくれました。シンプルな濃紺の上下とドレスシャツ姿が眩しい!
「ルティ、お招きありがとう」
ドリィは優しく微笑みながら、紅葉した枝葉と野花が詰まった花籠を渡してくれました。ドリィはいつも、自ら花を摘んで贈ってくれるのです。
「まあ!秋色の花籠ね!素敵!ドリィ、いつも綺麗な花籠をありがとう」
「君の美しさには敵わないけどね。朝焼けの女神か花の妖精かと思ったよ」
いつもそうですが、ドリィは大袈裟だし褒め過ぎです!でも、嬉しい。
「ありがとう。ドリィも素敵よ。ドリィの月のような金髪に、夜空の紺が良く似合ってるわ」
席についてもらい、切り分けたアップルパイをお出しします。もちろん私も頂きます。
うん!我ながら美味しい!
煮林檎は甘酸っぱく香り良く、パイ生地はサクサク。とても美味しいパイです。
シアンがいれてくれた紅茶とも良く合います。
「ルティが手作りしたアップルパイだって?!最高だ!美味い!」
「お口にあって良かったわ。このアップルパイも、ドリィのために作ったから」
「る、ルティ……!ううっ!お、俺は幸せ者だ……!」
ドリィにも好評で一安心です。
「あらあら。涙ぐむなんて、本当にドリィは甘いものが好きね」
「ああ!大好きだ!」
ドリィは感動しながら食べて、もう一切れおかわりしました。興奮していたのが落ち着いたらしく、しげしげとパイをながめます。
「このパイは見た目も素敵だね。おや?そういえば、この林檎の形は君が王都のカフェで食べたタルトに似ているような……」
あの日のことを覚えていてくれたのね!
私は思わず身を乗り出した!
「そうなの!ドリィとの初めての街歩きで食べた『リールのカフェ』の桃のタルト!あのタルトがとても美味しくて可愛らしかったから作りたくなったの!桃の時期は過ぎてしまったから林檎でやってみたのよ!」
「素敵な発想だ。しかもそれを実現できるだなんて、ルティは料理の才能も素晴らしいな」
「も、もう!ドリィったら大袈裟だし褒め過ぎよ!それに、私の思いつきを形にしたのはニコラさんだし、思いついたのはあのタルトが美味しかったお陰よ!」
「確かに、あの店のケーキはどれも美味いからな」
「お料理も美味しかったわ!」
そのまま思い出話に花が咲きました。
「また王都で街歩きして、『リールのカフェ』に行きたいが……。
【秋実の大祭】前後は予定が詰まっているし、王都に長居は出来ないな」
「ええ、流石に無理よね」
私たちは、社交シーズンの最後を飾る【秋実の大祭】に合わせて王都に滞在します。
ただし、お互いに仕事が忙しいのでミゼール領を長く空けることは出来ません。
王都への滞在期間は五日間のみです。社交で時間が割かれるのはもとより、お互いの親族や友人たちとお会いする約束があります。
どう頑張っても街歩きする余裕はありません。ですが。
「街歩き出来ないのは残念だけど、お義姉様たち普段お会い出来ない方とお話できるのは楽しみ。ドリィのご家族ともお会い出来るし……」
「そうだな。街歩きは別の機会にして、旧交を温めるのを楽しもう。そして面倒な社交はさっさと済ませて帰還して……年が明ければ俺たちの婚約式だ」
「なんとか準備が間に合いそうでよかったわ」
そうです。夏から進めていた婚約式の準備も、ほぼ終わっています。
先日届いた王城からの報せによると、貴族院で選定中ではありますが、年明けには婚約証明書が届くそうです。
届いたらすぐに婚約式ができるよう、衣装の準備、会場の手配、出席者の選定は終わらせています。
我がヴェールラント王国貴族の婚約には、貴族院と国王陛下の許可が必要です。
許可を得ると婚約証明書が発行され、それを受け取って初めて正式に婚約したと認められるのです。
結婚する時よりも厳しく審査されるので、最低でも半年はかかります。
婚約式を行うのはその後です。
高位貴族ほど大々的に祝うことが多く、準備には時間がかかります。中には、授与から一年以上間が開くこともあるそうです。
また、開催時期は社交シーズンである春から秋にかけてが多いそうですが……。
「早く式を済ませて、名実共にルティと婚約したことを知らしめたい」
ドリィの強い希望もあって、オフシーズンである冬に開催します。
「ええ、私もよ」
社交シーズンを外すのには他にも理由があります。
招待客を減らして規模を小さくしても違和感がありません。
お互いの身内中心の少人数の式にすることで、出席者の選考と警備をより厳しく出来ます。
というのも、ドリィの実母である王妃陛下がお忍びでの参加を希望されているからです。もちろん近衛騎士の護衛もあるでしょうが、やはりお迎えする側も油断できません。
息子の晴れ姿を一目見たい。王妃陛下、いえ、ドリィのお母様の想いを叶えたくて、私たちは話し合いを重ねました。
警備には辺境騎士団と、私の義実家であるアメティスト子爵家の騎士様方が派遣されます。元近衛騎士であるお義父様は、かなり気合が入っているとか。
年末にはその打ち合わせもありますので、ますます忙しくなるでしょう。
でも、幸せな忙しさだわ。
婚約式の話は終わり、明日の過ごし方を相談します。
「明日も晴れたら出かけないか?紅葉と花が綺麗な場所を見つけたんだ。遠乗りをしてピクニックしよう」
「素敵!じゃあ、ニコラさんにランチバスケットを用意してもらって……」
トントン。
はしゃいでいましたが、ドアを叩く音に口を閉じます。控えていたシアンが廊下に出て、すぐに帰ってきました。
「ベルダール団長閣下、ルルティーナ様、ご歓談中に失礼します。
国王陛下の使者が参られました。火急の要件とのことです」
私たちは即座に席を立ちました。
「わかった」
「シアン、支度の手伝いをお願いするわ」
「かしこまりました」
国王陛下の使者様、しかも火急の要件となれば一大事です。
恐らく、実子であるドリィとその婚約者の私へのご機嫌伺いではないでしょう。
ミゼール領辺境騎士団団長アドリアン・ベルダール辺境伯と、ポーション職人長ルルティーナ・プランティエ伯爵にしか対応できない何かが起こったのです。
残念ですがお茶会を中断し、謁見の準備をしました。
この後、使者様から受け取った書簡を読んで私たちは驚愕します。
ある人物が【アドリアン・ベルダール辺境伯とルルティーナ・プランティエ伯爵の婚約は無効だ。プランティエ伯爵の婚約者は自分なのだから】と、貴族院に訴えたというのです。
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