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第2部
第2部 5話 ルルティーナの怒りと決意
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「パーレスを後押しする者たちの意図は、大きく分けて二つだ。
一つ目は、ルティが持つ爵位とポーション技術を、王位継承者であるパーレスが持つべきだと考える者たちだ。
二つ目は、俺と君が結婚することに反対している者たちだ」
「わ、私たちの結婚を反対、ですか?」
衝撃でした。まさか反対している方がいるだなんて……。
シアンが理由を補足してくれます。
「これも、理由は二つほどあります。
一つ目は嫉妬です」
「嫉妬?」
「はい。団長閣下は、表向きは男爵家の三男のお産まれです。それが武功で伯爵に成り上がったので、一部のお貴族様方から妬み嫉みを買うことになりました。
さらに辺境伯に陞爵なされた上に、ミゼール領を下賜されることも内定しました。
現在のミゼール領は、魔境に侵された開墾途中の領です。しかしそれらが解決すれば、ヴェールラント王国国土の一割を満たす大領土となり、かつての豊かさを取り戻すでしょう。
加えてルルティーナ様と婚姻すれば、莫大な富と権勢を手にすることになります。
嫉妬心から、お二人の婚姻ならびに婚約を阻もうとするのは自然な流れでしょう」
「そんなのおかしいわ。ドリィが辺境伯に陞爵したのも、それだけの実力があるのも、ドリィが努力したからなのに。
私との婚約だって、利益を求めてのことではないわ」
嫌な気分です。そんな私を見て、ドリィの青い瞳が優しく細められます。
「ルティ、俺のために怒ってくれてありがとう。君やシアンたちがわかってくれているから、俺は気にしない。
……しかし、安全圏で暮らす貴族たちの考えはわからないな。
ミゼール領の魔境浄化は終わっていない。開墾と移住の受け入れも、薬草等の新しい産業作りも道半ばだ。
魔境浄化と国境警備の褒賞と予算はつくだろうが、騎士団と領地の経営で大半が消えるだろう。
それらをこなしつつ、【帝国】との防衛に従事しなければならない。
富と権力を手に入れたとして、優雅な身分には程遠いぞ」
「そこまで察せる方々は、初めから嫉妬しませんよ。まあ、中には察していてなお、団長閣下を引きずり下ろして後釜に座りたい方々もいるようですが」
「ふん。なら、俺に勝って奪えばいい。それも出来ない惰弱者に、【帝国】との国境であるこの地を預けることは出来ん。
それで、俺たちの婚約を反対するもう一つの理由はなんだ?俺も心当たりがない話だが?」
「……はい。なんと言いますか……」
シアンは珍しく、ドリィに気の毒そうな眼差しを向けました。
「もう一つの理由は、ルルティーナ様に対する同情と心配です」
「え?私が同情されているのはわからなくもないけれど、心配?」
私はとても幸せに暮らしています。なにを心配すると言うのでしょうか?
シアンが気まずそうに説明さます。
「……はい。ごく一部の方々だけですが……野心家の団長閣下が、か弱いルルティーナ様を囲い込んで無理矢理婚約したのではと……アメティスト子爵家もそれを後押ししているのではと……」
「酷い!ドリィはそんな人じゃない!私は私の意思でドリィと婚約したのよ!」
怒りのまま叫んだわ!とんでもない誤解よ!
「ドリィをそんな風に言うなんて許せない!それに!私の後見人であるお義母様たちへの侮辱でもあるわ!失礼よ!」
「ええ、私や周りの者はわかっております。
ルルティーナ様はお心の強いお方だということも、アメティスト子爵家がルルティーナ様のご意志を尊重されていることも、団長閣下がヘタレ……純情だと言うことも。
お二人のことを知らない外野が、好き勝手に妄想しているだけです」
「シアン……」
冷静な言葉に心が落ち着いてゆきます。
「そうね。騒いでごめんなさい。……え?ドリィ?どうしたの?」
ドリィは両手で頭を抱えてうつむいています。まるで雨に濡れた子犬のよう。
私が名前を呼ぶと、ビクッと肩が跳ねました。
弱々しい声が聞こえます。
「いや……その……ルティを囲い込んだと言われると否定できない……最終的に、君が俺と婚約しなければならない状況に追い込んだのも事実だ。俺と結婚することは、君にとって本当に幸せなんだろうか?……ルティ!?」
私は飛びつくようにドリィの側に行き、その両手を掴んで頭から引き剥がしました。
見開かれた青い瞳を覗き込みながら言葉を紡ぎます。
「馬鹿言わないで。確かにそういう面はあったけれど、無理矢理従わせたり洗脳するようなことはしなかったでしょう?
その……私が好きだから、ドリィしか見れなくなるよう振る舞っていたというか……」
あの頃のドリィの言動は、恋の駆け引きの範疇だったと思います。
お義母様も、ちゃんと私の気持ちを尊重して確認して下さいましたし。
「それにドリィが私を助けてくれなかったら、私はずっと不幸なままだったわ」
「し、しかし、君の窮状は、俺でなくて誰かが気づいたはず……」
「真っ先に気づいて助けてくれたのはドリィよ。初めて会った時もそうだったわ」
九年前の【蕾のお茶会】。多くの方が気づいていたそうですが、真っ先に助けに来てくれたのはドリィです。
「それに、貴方に助けてもらえたからミゼール領に来れたし、貴方と生きる幸せを知れた。
だから私は貴方を選んだのよ」
私は掴んだ手を離し、そっと抱きしめました。たくましい身体に優しい心を宿した人を。
私の大切な婚約者を。
「ルティ……」
「私の婚約者はドリィ、貴方しかいないの。貴方と結婚しない未来なんて考えたくない」
「お、俺もだ!ルティ!俺も君と結婚したいし、君としか結婚したくない!」
「ドリィ!」
私たちはぎゅっと抱きしめ合い、想いを確認しました。
ああ、幸せ。
「コホンッ!……お邪魔するのは本意ではございませんが、お話を続けてもよろしいでしょうか?」
「「!?」」
私たちはパッと身を離し、ソファの端と端に座り直しました。シアンは生温い笑みを浮かべます。
「お話を続けてよろしいですね?」
「……は、はい。シアン、ごめんなさい」
「……あ、ああ。すまん。
ともかく状況はわかった。後はどう対処するかだな。まあ、頼もしいお言葉があるが……」
国王陛下の書簡には、グルナローズ辺境伯令息の訴えが退けられたこと、しかし私へ求婚することは禁じられていないことと共に、一筆認められています。
要約すると以下の通りです。
【王家は、当事者であるルルティーナとアドリアンの意思を尊重する。
王家は、国に大きく貢献した二人の忠義に感謝している。貢献に報いるためにも、相応の権限を使う用意がある】
「つまり、国王陛下は俺たちのために王命を使うことも辞さないと書いている。
これは破格の申し出だ。
最も、わざわざ王命を出さなくともパーレス本人かグルナローズ辺境伯家を叱責してもらえば済むだろう」
ドリィの言う通りです。ですが。
「駄目よ。それでは根本的な解決にはならないわ。私たち二人で解決しなければ、似たようなことが繰り返されるでしょう。
それに何より、私とドリィの関係を誤解されたままなのは嫌」
ドリィとシアンが驚いた顔になります。
「ルティがここまで怒るなんて、初めてだね」
確かにそうです。しゅんと、怒りがおさまります。
「はしたなかったでしょうか?」
「まさか!怒ったルティも凛々しくて素敵だ!それに、それだけ俺との婚約を大切にしてくれているんだろう?」
「ええ、もちろんよ」
「ルティ!」
「ヘタレ団長閣下!抱きつくのは後にして下さい!
ルルティーナ様、それではどうなさいますか?」
どう動くか。私の中ではすでに決まっています。
考えを話すと、また二人は驚きましたが反対されません。
「そうと決まれば行動です!」
私はさっそく動き出しました。
一つ目は、ルティが持つ爵位とポーション技術を、王位継承者であるパーレスが持つべきだと考える者たちだ。
二つ目は、俺と君が結婚することに反対している者たちだ」
「わ、私たちの結婚を反対、ですか?」
衝撃でした。まさか反対している方がいるだなんて……。
シアンが理由を補足してくれます。
「これも、理由は二つほどあります。
一つ目は嫉妬です」
「嫉妬?」
「はい。団長閣下は、表向きは男爵家の三男のお産まれです。それが武功で伯爵に成り上がったので、一部のお貴族様方から妬み嫉みを買うことになりました。
さらに辺境伯に陞爵なされた上に、ミゼール領を下賜されることも内定しました。
現在のミゼール領は、魔境に侵された開墾途中の領です。しかしそれらが解決すれば、ヴェールラント王国国土の一割を満たす大領土となり、かつての豊かさを取り戻すでしょう。
加えてルルティーナ様と婚姻すれば、莫大な富と権勢を手にすることになります。
嫉妬心から、お二人の婚姻ならびに婚約を阻もうとするのは自然な流れでしょう」
「そんなのおかしいわ。ドリィが辺境伯に陞爵したのも、それだけの実力があるのも、ドリィが努力したからなのに。
私との婚約だって、利益を求めてのことではないわ」
嫌な気分です。そんな私を見て、ドリィの青い瞳が優しく細められます。
「ルティ、俺のために怒ってくれてありがとう。君やシアンたちがわかってくれているから、俺は気にしない。
……しかし、安全圏で暮らす貴族たちの考えはわからないな。
ミゼール領の魔境浄化は終わっていない。開墾と移住の受け入れも、薬草等の新しい産業作りも道半ばだ。
魔境浄化と国境警備の褒賞と予算はつくだろうが、騎士団と領地の経営で大半が消えるだろう。
それらをこなしつつ、【帝国】との防衛に従事しなければならない。
富と権力を手に入れたとして、優雅な身分には程遠いぞ」
「そこまで察せる方々は、初めから嫉妬しませんよ。まあ、中には察していてなお、団長閣下を引きずり下ろして後釜に座りたい方々もいるようですが」
「ふん。なら、俺に勝って奪えばいい。それも出来ない惰弱者に、【帝国】との国境であるこの地を預けることは出来ん。
それで、俺たちの婚約を反対するもう一つの理由はなんだ?俺も心当たりがない話だが?」
「……はい。なんと言いますか……」
シアンは珍しく、ドリィに気の毒そうな眼差しを向けました。
「もう一つの理由は、ルルティーナ様に対する同情と心配です」
「え?私が同情されているのはわからなくもないけれど、心配?」
私はとても幸せに暮らしています。なにを心配すると言うのでしょうか?
シアンが気まずそうに説明さます。
「……はい。ごく一部の方々だけですが……野心家の団長閣下が、か弱いルルティーナ様を囲い込んで無理矢理婚約したのではと……アメティスト子爵家もそれを後押ししているのではと……」
「酷い!ドリィはそんな人じゃない!私は私の意思でドリィと婚約したのよ!」
怒りのまま叫んだわ!とんでもない誤解よ!
「ドリィをそんな風に言うなんて許せない!それに!私の後見人であるお義母様たちへの侮辱でもあるわ!失礼よ!」
「ええ、私や周りの者はわかっております。
ルルティーナ様はお心の強いお方だということも、アメティスト子爵家がルルティーナ様のご意志を尊重されていることも、団長閣下がヘタレ……純情だと言うことも。
お二人のことを知らない外野が、好き勝手に妄想しているだけです」
「シアン……」
冷静な言葉に心が落ち着いてゆきます。
「そうね。騒いでごめんなさい。……え?ドリィ?どうしたの?」
ドリィは両手で頭を抱えてうつむいています。まるで雨に濡れた子犬のよう。
私が名前を呼ぶと、ビクッと肩が跳ねました。
弱々しい声が聞こえます。
「いや……その……ルティを囲い込んだと言われると否定できない……最終的に、君が俺と婚約しなければならない状況に追い込んだのも事実だ。俺と結婚することは、君にとって本当に幸せなんだろうか?……ルティ!?」
私は飛びつくようにドリィの側に行き、その両手を掴んで頭から引き剥がしました。
見開かれた青い瞳を覗き込みながら言葉を紡ぎます。
「馬鹿言わないで。確かにそういう面はあったけれど、無理矢理従わせたり洗脳するようなことはしなかったでしょう?
その……私が好きだから、ドリィしか見れなくなるよう振る舞っていたというか……」
あの頃のドリィの言動は、恋の駆け引きの範疇だったと思います。
お義母様も、ちゃんと私の気持ちを尊重して確認して下さいましたし。
「それにドリィが私を助けてくれなかったら、私はずっと不幸なままだったわ」
「し、しかし、君の窮状は、俺でなくて誰かが気づいたはず……」
「真っ先に気づいて助けてくれたのはドリィよ。初めて会った時もそうだったわ」
九年前の【蕾のお茶会】。多くの方が気づいていたそうですが、真っ先に助けに来てくれたのはドリィです。
「それに、貴方に助けてもらえたからミゼール領に来れたし、貴方と生きる幸せを知れた。
だから私は貴方を選んだのよ」
私は掴んだ手を離し、そっと抱きしめました。たくましい身体に優しい心を宿した人を。
私の大切な婚約者を。
「ルティ……」
「私の婚約者はドリィ、貴方しかいないの。貴方と結婚しない未来なんて考えたくない」
「お、俺もだ!ルティ!俺も君と結婚したいし、君としか結婚したくない!」
「ドリィ!」
私たちはぎゅっと抱きしめ合い、想いを確認しました。
ああ、幸せ。
「コホンッ!……お邪魔するのは本意ではございませんが、お話を続けてもよろしいでしょうか?」
「「!?」」
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「……は、はい。シアン、ごめんなさい」
「……あ、ああ。すまん。
ともかく状況はわかった。後はどう対処するかだな。まあ、頼もしいお言葉があるが……」
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要約すると以下の通りです。
【王家は、当事者であるルルティーナとアドリアンの意思を尊重する。
王家は、国に大きく貢献した二人の忠義に感謝している。貢献に報いるためにも、相応の権限を使う用意がある】
「つまり、国王陛下は俺たちのために王命を使うことも辞さないと書いている。
これは破格の申し出だ。
最も、わざわざ王命を出さなくともパーレス本人かグルナローズ辺境伯家を叱責してもらえば済むだろう」
ドリィの言う通りです。ですが。
「駄目よ。それでは根本的な解決にはならないわ。私たち二人で解決しなければ、似たようなことが繰り返されるでしょう。
それに何より、私とドリィの関係を誤解されたままなのは嫌」
ドリィとシアンが驚いた顔になります。
「ルティがここまで怒るなんて、初めてだね」
確かにそうです。しゅんと、怒りがおさまります。
「はしたなかったでしょうか?」
「まさか!怒ったルティも凛々しくて素敵だ!それに、それだけ俺との婚約を大切にしてくれているんだろう?」
「ええ、もちろんよ」
「ルティ!」
「ヘタレ団長閣下!抱きつくのは後にして下さい!
ルルティーナ様、それではどうなさいますか?」
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