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第2部
第2部 12話 妄想恋文とアドリアンの帰宅
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「はっ……なに、これ……」
手紙が手から滑り落ち、かさりと音を立てます。その音で、私は我に返りました。
手紙の内容が気持ち悪くて意識が飛んでいました。
要約すると。
【可愛らしい僕の妖精さん。薄紅の薔薇の君。ルルティーナ。
僕だよ。君の真実の愛、本当の婚約者であるパーレス・グルナローズだ。
ルルティーナ。君は、僕と初めて会った日を覚えているかい?
僕はすでに『美の女神が創りたもうた奇跡』と呼ばれていた。
王妹である母上からは、お美しさと高貴な血を受け継いだ。
辺境伯である父上からは、深い愛情と時期辺境伯としての期待を一身に受けた。正に奇跡的な存在だ。
当然、誰もが僕に注目して傅いたよ。まあ、それは今も変わらないけどね。
(中略)
こうして、僕らは出会った。
可憐な君は、恥ずかしがって頬を染めていたね。そう、薄紅の薔薇のように!そして細く白い肢体は白百合のように控えめで扇情的だった!
(中略)
僕らは秘密の逢瀬を重ね、身も心も一つだったね。君は僕という蜜蜂を招く花だった。
(中略)
だというのに、なんという悲劇だろう!
運命の悪戯と邪悪な魔王によって引き裂かれるなんて!
だが安心して欲しい。必ず君を、邪悪な魔王から解放してあげる。何故かって?君を愛しているからさ!
(中略)
僕は魔王に穢された君も受け入れてあげる。
君は僕に身も心も委ねて、暇な時にポーションを作ってくれればそれでいい。
僕が君の才能も財産も管理してあげる。
君はただ僕の腕の中で甘えて、僕の言うことを聞いていればいい。
僕は高貴なる血を継ぐ特別な存在だ。可哀想な君を守ってあげる】
かなり要約したのに長い!長ったらしくて気持ち悪い修飾語が多い!そして自分勝手な願望盛りすぎ!フリルとレースをつけ過ぎて台無しになったドレスみたいですね!
しかも!中略部分には出会いやら逢瀬の記憶やらが細かく書かれていましたが!
全く!一切!記憶にございません!貴方と会ったこともありません!怖い!
「こ、怖い……うっ!は、吐き気が……!気持ち悪い!」
「ルルティーナ様ぁ!お気を確かに!」
「ああー!ルルちゃん!ルルちゃんのお顔がしわくちゃを通り越して枯れてる!お母様!何を読ませたのよ!」
「僕が考えた最強の妄想小説かしら?ルルティーナ、目が腐るからほどほどになさいね」
お義姉様が手紙を拾って読みます。一瞬で顔がしかめられました。
「うわぁ。なにこれ気持ち悪い。妄想しかないじゃない。本気で書いてるの?」
「これを書いた人物にとっては真実なのよ。つくづく救い難いわ」
私は大きな衝撃を受けましたが、とにかく色々なことがわかりました。
グルナローズ辺境伯令息、想像以上に危険で妄想癖のある方ですね。
うう。まだ吐き気が……。
「ルルティーナ様、お水をどうぞ」
「ありがとう……もう読みたく無いわ……」
「読まなくていいわ。お母様、手紙は燃やしましょう」
「大事な証拠だから駄目よ。全部終わってからにしなさい」
「ううう……」
苦しんでいるとドアを叩く音がし、執事の一人が入室しました。嬉しい報せと一緒にです。
王城に行っていたドリィとお義父様が帰って来たのです。
「お迎えに行きます!」
「ルルティーナ!走らない!」
「まあまあ、仕方ないわよ。こんな手紙の後じゃねえ」
◆◆◆◆◆◆
居間を出て玄関まで迎えに来ました。
すでに執事たちが出迎えていました。たくましい人影が二つ。一つが私に気づきます。
「ルティ!」
「ドリィ!お義父様!お帰りなさい!」
ドリィから眩い笑顔を向けられます。ああ、癒される……。
私ははしたなくも駆け寄る速度を上げてしまいます。
「ただいま!その紫のドレスを着てくれたんだね。とても似合って……どうしたんだ?顔色が悪いよ」
ドリィは顔を曇らせ、駆け寄った私をお姫様抱っこします。
ああ、ドリィのたくましい身体に包まれてホッとする。服越しの体温と、汗の混じった肌の匂いを堪能します。
「身体も冷えているな」
大きくて温かい手が頬を撫でて、涙が出るほど安心しました。
「おいこら!アドリアン!うちのルルティーナはまだ嫁には出さんぞ!降ろせ!」
「誰か奥様をお呼びして」
人前での大胆な接触に周囲が色めき立ちます。
私もいつもならドリィを叱りますが、もうそんな気力ありません。
「お義父様、ごめんなさい。今の私にはドリィが必要なんです」
お義父様が心配そうな顔になります。
「ルルティーナ、何かあったのか?」
「……まさか、お茶会で何かされたのか?何処のどいつだ?」
「ドリィ、違うの。とても気持ち悪い手紙を読んでしまったの」
「は?手紙?」
「団長閣下。こちらです」
実は私の側に控えていたシアンが、さっと手紙を差し出しました。
「一体、なんの手紙……は?」
手紙を読んだドリィは激怒し、危うく破り捨てる所でした。
◆◆◆◆◆
居間に戻って話し合います。私はドリィの膝の上ですが、もはや誰も何も言いません。お義母様の眼差しは厳しいですが……。
「ルティ、可哀想に……。俺はあの汚物……男に会ったが、手紙の通り不快な人物だった」
いま汚物と言いました?というか、あの令息に会った?何故?
ドリィとお義父様が王城に行ったのは、近衛騎士の訓練に参加するためです。
あの令息は王城に勤めていません。それどころか騎士ですらありません。居るはずはないのですが……。
疑問を口にする前に、お義父様が声を荒げました。
「ああ!不快だった!あの男は駄目だ!ルルティーナの夫には相応しくない!もう二度と顔も見たくない!」
今まで令息に対し一応は敬意を払っていた、誰に対しても寛容でお優しいお義父様が激怒しています。これには、私とお義姉様だけでなくお義母様も驚きました。
「落ち着いてイアン。貴方がそんなに怒るなんて、何があったの?」
「その話は俺からします」
手紙が手から滑り落ち、かさりと音を立てます。その音で、私は我に返りました。
手紙の内容が気持ち悪くて意識が飛んでいました。
要約すると。
【可愛らしい僕の妖精さん。薄紅の薔薇の君。ルルティーナ。
僕だよ。君の真実の愛、本当の婚約者であるパーレス・グルナローズだ。
ルルティーナ。君は、僕と初めて会った日を覚えているかい?
僕はすでに『美の女神が創りたもうた奇跡』と呼ばれていた。
王妹である母上からは、お美しさと高貴な血を受け継いだ。
辺境伯である父上からは、深い愛情と時期辺境伯としての期待を一身に受けた。正に奇跡的な存在だ。
当然、誰もが僕に注目して傅いたよ。まあ、それは今も変わらないけどね。
(中略)
こうして、僕らは出会った。
可憐な君は、恥ずかしがって頬を染めていたね。そう、薄紅の薔薇のように!そして細く白い肢体は白百合のように控えめで扇情的だった!
(中略)
僕らは秘密の逢瀬を重ね、身も心も一つだったね。君は僕という蜜蜂を招く花だった。
(中略)
だというのに、なんという悲劇だろう!
運命の悪戯と邪悪な魔王によって引き裂かれるなんて!
だが安心して欲しい。必ず君を、邪悪な魔王から解放してあげる。何故かって?君を愛しているからさ!
(中略)
僕は魔王に穢された君も受け入れてあげる。
君は僕に身も心も委ねて、暇な時にポーションを作ってくれればそれでいい。
僕が君の才能も財産も管理してあげる。
君はただ僕の腕の中で甘えて、僕の言うことを聞いていればいい。
僕は高貴なる血を継ぐ特別な存在だ。可哀想な君を守ってあげる】
かなり要約したのに長い!長ったらしくて気持ち悪い修飾語が多い!そして自分勝手な願望盛りすぎ!フリルとレースをつけ過ぎて台無しになったドレスみたいですね!
しかも!中略部分には出会いやら逢瀬の記憶やらが細かく書かれていましたが!
全く!一切!記憶にございません!貴方と会ったこともありません!怖い!
「こ、怖い……うっ!は、吐き気が……!気持ち悪い!」
「ルルティーナ様ぁ!お気を確かに!」
「ああー!ルルちゃん!ルルちゃんのお顔がしわくちゃを通り越して枯れてる!お母様!何を読ませたのよ!」
「僕が考えた最強の妄想小説かしら?ルルティーナ、目が腐るからほどほどになさいね」
お義姉様が手紙を拾って読みます。一瞬で顔がしかめられました。
「うわぁ。なにこれ気持ち悪い。妄想しかないじゃない。本気で書いてるの?」
「これを書いた人物にとっては真実なのよ。つくづく救い難いわ」
私は大きな衝撃を受けましたが、とにかく色々なことがわかりました。
グルナローズ辺境伯令息、想像以上に危険で妄想癖のある方ですね。
うう。まだ吐き気が……。
「ルルティーナ様、お水をどうぞ」
「ありがとう……もう読みたく無いわ……」
「読まなくていいわ。お母様、手紙は燃やしましょう」
「大事な証拠だから駄目よ。全部終わってからにしなさい」
「ううう……」
苦しんでいるとドアを叩く音がし、執事の一人が入室しました。嬉しい報せと一緒にです。
王城に行っていたドリィとお義父様が帰って来たのです。
「お迎えに行きます!」
「ルルティーナ!走らない!」
「まあまあ、仕方ないわよ。こんな手紙の後じゃねえ」
◆◆◆◆◆◆
居間を出て玄関まで迎えに来ました。
すでに執事たちが出迎えていました。たくましい人影が二つ。一つが私に気づきます。
「ルティ!」
「ドリィ!お義父様!お帰りなさい!」
ドリィから眩い笑顔を向けられます。ああ、癒される……。
私ははしたなくも駆け寄る速度を上げてしまいます。
「ただいま!その紫のドレスを着てくれたんだね。とても似合って……どうしたんだ?顔色が悪いよ」
ドリィは顔を曇らせ、駆け寄った私をお姫様抱っこします。
ああ、ドリィのたくましい身体に包まれてホッとする。服越しの体温と、汗の混じった肌の匂いを堪能します。
「身体も冷えているな」
大きくて温かい手が頬を撫でて、涙が出るほど安心しました。
「おいこら!アドリアン!うちのルルティーナはまだ嫁には出さんぞ!降ろせ!」
「誰か奥様をお呼びして」
人前での大胆な接触に周囲が色めき立ちます。
私もいつもならドリィを叱りますが、もうそんな気力ありません。
「お義父様、ごめんなさい。今の私にはドリィが必要なんです」
お義父様が心配そうな顔になります。
「ルルティーナ、何かあったのか?」
「……まさか、お茶会で何かされたのか?何処のどいつだ?」
「ドリィ、違うの。とても気持ち悪い手紙を読んでしまったの」
「は?手紙?」
「団長閣下。こちらです」
実は私の側に控えていたシアンが、さっと手紙を差し出しました。
「一体、なんの手紙……は?」
手紙を読んだドリィは激怒し、危うく破り捨てる所でした。
◆◆◆◆◆
居間に戻って話し合います。私はドリィの膝の上ですが、もはや誰も何も言いません。お義母様の眼差しは厳しいですが……。
「ルティ、可哀想に……。俺はあの汚物……男に会ったが、手紙の通り不快な人物だった」
いま汚物と言いました?というか、あの令息に会った?何故?
ドリィとお義父様が王城に行ったのは、近衛騎士の訓練に参加するためです。
あの令息は王城に勤めていません。それどころか騎士ですらありません。居るはずはないのですが……。
疑問を口にする前に、お義父様が声を荒げました。
「ああ!不快だった!あの男は駄目だ!ルルティーナの夫には相応しくない!もう二度と顔も見たくない!」
今まで令息に対し一応は敬意を払っていた、誰に対しても寛容でお優しいお義父様が激怒しています。これには、私とお義姉様だけでなくお義母様も驚きました。
「落ち着いてイアン。貴方がそんなに怒るなんて、何があったの?」
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