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第2部
第2部 14話 近衛騎士隊特別訓練 中編(アドリアン視点)
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イアン殿が呆れたように溜め息を吐く。
「三人中三人が魔法無し体術のみで瞬殺かあ」
その隣では、近衛騎士隊長が頭を抱えていた。
「情け無い……」
そう、全く相手にならなかった。
三人は宮廷治癒魔法師たちからの治療を終え、呆然と座り込んでいる。俺は三人を見下ろしながら分析した。
「魔法発動まで時間がかかり過ぎる。発動中は隙だらけで攻撃を避けることすらできない。そもそも体の動きも遅過ぎるし、骨折程度で悲鳴をあげて狼狽える。
本当に貴殿らは騎士か?」
一応、近衛騎士隊に入隊するまでに騎士の叙勲を受けているはずだ。それには、魔法、体術、剣術、馬術などの各種技能と礼儀作法、さらには高位貴族からの承認が必要なはずだが……。
「だ!黙れ卑怯者!」
「そうだ!魔法発動中に攻撃するなど騎士の風上にもおけない!」
「体術なぞ賤しい技術は!誇り高き騎士に不用だ!」
「そうだ!流石は下賤の産まれだな!この恥知ら……」
「黙れ」
「ひっ……!」
俺は、ほんの少しだけ殺気を出した。
大きく息を吸って怒鳴る。
「騎士を名乗るなら考えを改めよ!
人間相手にせよ!魔獣相手にせよ!敵は魔法を発動し終わるまで待たない!
そもそも魔法を使えない状況におちいることもある!
だから我々騎士は!魔法以外の技術も磨くのだ!
それを怠り!敵に敗北すれば貴殿らだけでなく守るべき主君を危険にさらすことになる!
……お集まりの皆様!私の言っていることは間違っているでしょうか!」
「いいや。その通りだ」
「ベルダール辺境伯が正しい」
「異議ございません」
イアン殿と近衛騎士隊長は即答した。次いで、三人以外の近衛騎士たちが答えた。
関係者たちも同意している様子だ。一部は俺を恐怖の目で見ているが。
そんなに怖いか?
「う、うるさい!うるさい!死ね!惨殺伯爵!【火焔砲】!」
三人のうち一人が魔法を放った。炎の玉を飛ばす魔法だ。人一人焼き殺せるだけの威力がある。
ああ、ようやく発動したのか。先ほどから頑張って発動させようとしていたものな。
「【氷壁】」
ぽしゅん。情け無い音と共に、炎は氷の壁に包まれて消えた。
「なっ!わ、私の火焔砲が消えた?何故?」
「そんな馬鹿な!何かあやしい技を使ったな!」
「人間技じゃない!おかしい!」
「この化け物!彼の方の言う通り魔王に違いな……」
「黙れえ!!!」
近衛騎士隊長の一喝が訓練場を揺らした。
「いい加減にしろ!!!礼儀知らずの卑怯者どもが!!!己の未熟を棚に上げて見苦しい!!!」
大音声と憤怒の形相に、流石の三人も青ざめて黙り込んだ。
「貴様らはベルダール辺境伯をどなたと心得ているのだ!!!貴様らよりもはるかに格上の辺境伯だぞ!!!それも我が国の国土を侵す魔境浄化に邁進するお方だ!!!貴様らは以前から無礼で怠惰だったが!!!もはや若輩といえど見過ごせん!!!あまりにも無礼だ!!!」
イアン殿は近衛騎士隊長の肩を叩き、三人を見下した。
「そもそもお前ら程度の魔法なんざ、日々魔獣と戦っているベルダール辺境伯に効くわけないだろ。思い上がりも甚だしい」
「全くだ!貴様らは近衛騎士隊から除名する!一騎士、いや騎士見習いとしてやり直せ!」
「そ、そんな!横暴です!」
「わ、我々を除隊すれば彼の方が黙っていませんよ!」
「そうです!私たちの家族だって!」
また騒ぎ始めたが、誰も彼らを助けない。観客席には彼らの身内もいるが、どうやら見捨てられたな。
三人は取り押さえられ拘束された。
「処分については後だ!そこで本当の近衛騎士の実力を見ておれ!」
晒し者だが、身内からも抗議は入らない。後でまとめて近衛騎士隊長が話をつけるのだろう。
俺はというと、それからも模擬戦を続けた。流石にあの三人以外は中々の強敵で、いい訓練が出来た。
また、周囲の俺を見る目もより良くなっていった。
『お見事!』
『ベルダール辺境伯ー!頑張って下さい!』
嬉しい声援も飛ぶ。
最終的にイアン殿と手合わせした際は、場内総立ちの大盛り上がりとなった。
◆◆◆◆◆◆
時刻は昼を大きく過ぎていた。
イアン殿との模擬戦が終われば、後は汗を流して関係者を交えて遅めの昼食をとりながら歓談する手筈だという。
そこで積極的に交流しようと思ったのだが……。
イアン殿のヤル気、いや殺る気が凄かった。
「ベルダール辺境伯。いや、アドリアン。俺はお前を殺す気で攻撃する。お前もそうしろ。
いい機会だから、お前がルルティーナに相応しいか確認してやる!
お前からの紹介とはいえあの子は俺の義娘!生半可な男には任せられん!【水玉砲】!」
「っ!【氷壁】!【氷の矢】!」
人の頭ほどある水の塊が三十個生まれた。高速で飛ぶ!
速い!速さも威力も先ほどの【火焔砲】の比ではない!まともに当たれば確実に死ぬ!
俺は避け、防ぎながら無数の氷の矢を放つ!
ドォン!ドゴォン!バシャ!ビシュ!ビュッ!
「くっ!」
氷の矢に貫かれた水の塊が飛び散る。しかし、幾つかは散った後も消えず、小さく高速の粒となって俺を攻撃する。
何発かは防ぎきれず掠った。訓練用の服が破れて血が滲む。
「初動から殺意が高いですね!【氷剣】!」
ヒュウウー!音を立てて氷の剣が十本現れ、イアン殿に斬りかかる。
「お前相手にはちょうどいいだろう【水流鞭】!」
イアン殿は笑いながら水を自在に操る。しなる水が、氷の剣を落としていく。
「本気を出せアドリアン!ルルティーナの婚約者を名乗りたいのなら、あの子に相応しいと証明してみろ!」
「っ!……わかりました。お義父様に認めてもらうため!全力を出します!【氷剣】!」
氷の剣を二十本出し、イアン殿めがけて放つ。
「まだ義父呼ばわりは早い!若造が!うちのルルティーナはやらーん!!!【水壁】!」
分厚い水の壁が阻むが、いくつかの剣が通過してイアン殿に斬りつける。
イアン殿は素早く避けている。
水と氷で視界が悪い!今だ!
「【氷柱】!」
「っ!ぐあぁっ!!」
俺は床から氷の柱を出し、その勢いを活かして跳躍。
空中の氷の剣を掴み、勢いに乗って斬りつけた。
チッ!腕で横から払われた!しかし氷の硬さには敵わない!骨にヒビが入った手ごたえがある!
俺は床を踏み締めて剣を振るう。この距離だ。畳み掛ければ倒せ……。
「【水壁】!」
「うぉっ!」
間一髪。俺は咄嗟に跳躍し、イアン殿の攻撃を避けた!通常は防御に使う水壁を当ててきたか!流石だ!
大きな歓声が上がる。
『ベルダール殿すごい!床から氷の柱を生やして自分の身体を飛ばした!』
『しかも空中で氷の剣を掴んで攻撃したぞ!』
『アメティスト子爵もだ!魔法の発動が速すぎる!』
『あんな自在に水を操れるのか!』
「ふん!やるな!初恋に浮かれて鈍ったかと思ったが!」
「当たり前です!魔境ではわずかな油断と驕りが命取りですから!」
魔法と拳と蹴りがぶつかり合う。修練場の床も壁もボロボロに崩壊していった。
「どうしたアドリアン!動きが鈍ってきたぞ!ルルティーナへの想いはそんなものか!」
「まさか!そんな訳ないでしょう!ルティと結婚するのは俺です!【氷柱】!」
イアン殿のいる床から氷の柱を射出する。くそ!やはり避けたか!
ふふん!と、鼻で笑われた。
「ルルティーナと結婚する理由はなんだ?ポーション目当てか?共同事業のためか?」
「は?」
聞き捨てならない言葉に、頭のどこかが切れる音がした。
「ふざけるな!ルティを愛してるからに決まってるだろうが!【氷の剣】!」
「三人中三人が魔法無し体術のみで瞬殺かあ」
その隣では、近衛騎士隊長が頭を抱えていた。
「情け無い……」
そう、全く相手にならなかった。
三人は宮廷治癒魔法師たちからの治療を終え、呆然と座り込んでいる。俺は三人を見下ろしながら分析した。
「魔法発動まで時間がかかり過ぎる。発動中は隙だらけで攻撃を避けることすらできない。そもそも体の動きも遅過ぎるし、骨折程度で悲鳴をあげて狼狽える。
本当に貴殿らは騎士か?」
一応、近衛騎士隊に入隊するまでに騎士の叙勲を受けているはずだ。それには、魔法、体術、剣術、馬術などの各種技能と礼儀作法、さらには高位貴族からの承認が必要なはずだが……。
「だ!黙れ卑怯者!」
「そうだ!魔法発動中に攻撃するなど騎士の風上にもおけない!」
「体術なぞ賤しい技術は!誇り高き騎士に不用だ!」
「そうだ!流石は下賤の産まれだな!この恥知ら……」
「黙れ」
「ひっ……!」
俺は、ほんの少しだけ殺気を出した。
大きく息を吸って怒鳴る。
「騎士を名乗るなら考えを改めよ!
人間相手にせよ!魔獣相手にせよ!敵は魔法を発動し終わるまで待たない!
そもそも魔法を使えない状況におちいることもある!
だから我々騎士は!魔法以外の技術も磨くのだ!
それを怠り!敵に敗北すれば貴殿らだけでなく守るべき主君を危険にさらすことになる!
……お集まりの皆様!私の言っていることは間違っているでしょうか!」
「いいや。その通りだ」
「ベルダール辺境伯が正しい」
「異議ございません」
イアン殿と近衛騎士隊長は即答した。次いで、三人以外の近衛騎士たちが答えた。
関係者たちも同意している様子だ。一部は俺を恐怖の目で見ているが。
そんなに怖いか?
「う、うるさい!うるさい!死ね!惨殺伯爵!【火焔砲】!」
三人のうち一人が魔法を放った。炎の玉を飛ばす魔法だ。人一人焼き殺せるだけの威力がある。
ああ、ようやく発動したのか。先ほどから頑張って発動させようとしていたものな。
「【氷壁】」
ぽしゅん。情け無い音と共に、炎は氷の壁に包まれて消えた。
「なっ!わ、私の火焔砲が消えた?何故?」
「そんな馬鹿な!何かあやしい技を使ったな!」
「人間技じゃない!おかしい!」
「この化け物!彼の方の言う通り魔王に違いな……」
「黙れえ!!!」
近衛騎士隊長の一喝が訓練場を揺らした。
「いい加減にしろ!!!礼儀知らずの卑怯者どもが!!!己の未熟を棚に上げて見苦しい!!!」
大音声と憤怒の形相に、流石の三人も青ざめて黙り込んだ。
「貴様らはベルダール辺境伯をどなたと心得ているのだ!!!貴様らよりもはるかに格上の辺境伯だぞ!!!それも我が国の国土を侵す魔境浄化に邁進するお方だ!!!貴様らは以前から無礼で怠惰だったが!!!もはや若輩といえど見過ごせん!!!あまりにも無礼だ!!!」
イアン殿は近衛騎士隊長の肩を叩き、三人を見下した。
「そもそもお前ら程度の魔法なんざ、日々魔獣と戦っているベルダール辺境伯に効くわけないだろ。思い上がりも甚だしい」
「全くだ!貴様らは近衛騎士隊から除名する!一騎士、いや騎士見習いとしてやり直せ!」
「そ、そんな!横暴です!」
「わ、我々を除隊すれば彼の方が黙っていませんよ!」
「そうです!私たちの家族だって!」
また騒ぎ始めたが、誰も彼らを助けない。観客席には彼らの身内もいるが、どうやら見捨てられたな。
三人は取り押さえられ拘束された。
「処分については後だ!そこで本当の近衛騎士の実力を見ておれ!」
晒し者だが、身内からも抗議は入らない。後でまとめて近衛騎士隊長が話をつけるのだろう。
俺はというと、それからも模擬戦を続けた。流石にあの三人以外は中々の強敵で、いい訓練が出来た。
また、周囲の俺を見る目もより良くなっていった。
『お見事!』
『ベルダール辺境伯ー!頑張って下さい!』
嬉しい声援も飛ぶ。
最終的にイアン殿と手合わせした際は、場内総立ちの大盛り上がりとなった。
◆◆◆◆◆◆
時刻は昼を大きく過ぎていた。
イアン殿との模擬戦が終われば、後は汗を流して関係者を交えて遅めの昼食をとりながら歓談する手筈だという。
そこで積極的に交流しようと思ったのだが……。
イアン殿のヤル気、いや殺る気が凄かった。
「ベルダール辺境伯。いや、アドリアン。俺はお前を殺す気で攻撃する。お前もそうしろ。
いい機会だから、お前がルルティーナに相応しいか確認してやる!
お前からの紹介とはいえあの子は俺の義娘!生半可な男には任せられん!【水玉砲】!」
「っ!【氷壁】!【氷の矢】!」
人の頭ほどある水の塊が三十個生まれた。高速で飛ぶ!
速い!速さも威力も先ほどの【火焔砲】の比ではない!まともに当たれば確実に死ぬ!
俺は避け、防ぎながら無数の氷の矢を放つ!
ドォン!ドゴォン!バシャ!ビシュ!ビュッ!
「くっ!」
氷の矢に貫かれた水の塊が飛び散る。しかし、幾つかは散った後も消えず、小さく高速の粒となって俺を攻撃する。
何発かは防ぎきれず掠った。訓練用の服が破れて血が滲む。
「初動から殺意が高いですね!【氷剣】!」
ヒュウウー!音を立てて氷の剣が十本現れ、イアン殿に斬りかかる。
「お前相手にはちょうどいいだろう【水流鞭】!」
イアン殿は笑いながら水を自在に操る。しなる水が、氷の剣を落としていく。
「本気を出せアドリアン!ルルティーナの婚約者を名乗りたいのなら、あの子に相応しいと証明してみろ!」
「っ!……わかりました。お義父様に認めてもらうため!全力を出します!【氷剣】!」
氷の剣を二十本出し、イアン殿めがけて放つ。
「まだ義父呼ばわりは早い!若造が!うちのルルティーナはやらーん!!!【水壁】!」
分厚い水の壁が阻むが、いくつかの剣が通過してイアン殿に斬りつける。
イアン殿は素早く避けている。
水と氷で視界が悪い!今だ!
「【氷柱】!」
「っ!ぐあぁっ!!」
俺は床から氷の柱を出し、その勢いを活かして跳躍。
空中の氷の剣を掴み、勢いに乗って斬りつけた。
チッ!腕で横から払われた!しかし氷の硬さには敵わない!骨にヒビが入った手ごたえがある!
俺は床を踏み締めて剣を振るう。この距離だ。畳み掛ければ倒せ……。
「【水壁】!」
「うぉっ!」
間一髪。俺は咄嗟に跳躍し、イアン殿の攻撃を避けた!通常は防御に使う水壁を当ててきたか!流石だ!
大きな歓声が上がる。
『ベルダール殿すごい!床から氷の柱を生やして自分の身体を飛ばした!』
『しかも空中で氷の剣を掴んで攻撃したぞ!』
『アメティスト子爵もだ!魔法の発動が速すぎる!』
『あんな自在に水を操れるのか!』
「ふん!やるな!初恋に浮かれて鈍ったかと思ったが!」
「当たり前です!魔境ではわずかな油断と驕りが命取りですから!」
魔法と拳と蹴りがぶつかり合う。修練場の床も壁もボロボロに崩壊していった。
「どうしたアドリアン!動きが鈍ってきたぞ!ルルティーナへの想いはそんなものか!」
「まさか!そんな訳ないでしょう!ルティと結婚するのは俺です!【氷柱】!」
イアン殿のいる床から氷の柱を射出する。くそ!やはり避けたか!
ふふん!と、鼻で笑われた。
「ルルティーナと結婚する理由はなんだ?ポーション目当てか?共同事業のためか?」
「は?」
聞き捨てならない言葉に、頭のどこかが切れる音がした。
「ふざけるな!ルティを愛してるからに決まってるだろうが!【氷の剣】!」
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