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第2部
第2部 16話 コルナリン侯爵家夜会 前編
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私たちはドリィの話に呆れ返りました。
パーレス・グルナローズ辺境伯令息。暴挙にも程があります。
「しかし、思ったより馬鹿だった。よく今まで問題になってなかったな」
ドリィの言葉は最もです。令息は、悪い噂は多くとも大きな失態はなかったはず。
シアンが手を上げて発言します。
「それについては調べがついております。
令息には、グルナローズ辺境伯から有能な従者、執事、教育係、護衛騎士などが多数派遣されておりました。
しかし彼らは、グルナローズ辺境伯がお倒れになられた際に暇を乞いました。
諫言を嫌う令息はこれ幸いと許し、自身にとって都合の良い者たちだけを侍らせるようになったのです」
実際にはグルナローズ辺境伯は失脚し、毒杯を賜るのを待つ身です。お義姉様はご存知ないので伏せています。
お義父様が失笑しました。
「要するに、甘やかすだけ甘やかしていた父親がいなくなった。父親からの送金ももちろんなくなったので見捨てられたって所か」
頭が痛くなってきました。
「そして、お金と爵位目当てに私との縁談を掘り起こしたと……。本当に迷惑な話だわ」
ギュッと、私を膝の上で横抱きにするドリィの腕の力が強くなりました。
嬉しい。ホッとして擦り寄ります。
「ルティ、可哀想に……。シアン、グルナローズ辺境伯以外の家族との関係はどうだ?」
「はい。グルナローズ辺境伯閣下以外とは希薄な関係です。また、九年前から一度も領地に帰っていません」
その後、現在のグルナローズ辺境伯家の様子、親類縁者の動向、令息の取巻きや支援者についてなど必要な情報を聞きました。
ドリィが眉をひそめます。
「あの場にいた取巻きのうち、デル、デル?なんとかいう女が何者かがわからなかった」
お義父様が頷きます。
「ああ、あのごてごてしたドレスの女か。遠目だから自信はないが、赤っぽい髪と瞳をしていた。取巻きの中でも地位が高そうだったな」
「ええ、それにパーレスと親しげでした」
シアンは少し考えてから口を開きます。
「デがつく名前、令息と親しい女性、赤っぽい髪……髪の色が紫がかったピンクなら、愛人のデルフィーヌ・アザレ伯爵令嬢でしょう」
「やっぱり愛人か」
「愛人をぶら下げながら俺とルティの婚約にケチをつけたのか!?いい加減にしろ!」
ドリィの怒りで部屋の温度が下がりました。シアンの声も剣呑になります。
「アザレ伯爵令嬢は素行が悪くて有名です。アザレ伯爵家はグルナローズ辺境伯家の寄子ですが、どうも家ぐるみでグルナローズ辺境伯令息をそそのかし、甘い汁を吸っているようです。
また、領地に帰らず騎士の訓練すら受けていないパーレス・グルナローズを、グルナローズ辺境伯夫人に最も似ているからという理由で後継ぎに推しています。
それがグルナローズ辺境伯家と周辺の混乱と対立を煽りました。結果として、グルナローズ辺境伯が密輸を見抜けなかった遠因となっています。
控え目に言って下衆ですね」
現在も、令息の世話をしつつ辺境伯が令息に与えた資金を着服している。また、アザレ伯爵令嬢は毎月のように豪華な贈り物をねだっているのだとか。
全員、聞き終わる頃にはぐったりした顔になりました。
「俺たちの話は以上だ。ルティ、君たちのお茶会はどうだった?」
ぱっと明るい気分になります。私はドリィの秀麗なお顔を両手で包みます。
「ドリィ!やりました!翡翠蘭ハーブティーが好評なんです!」
「凄い!やったね!流石はルティの開発したハーブティーだ!」
お茶会の成果と掴んだ情報の詳細を話します。ドリィはとても喜んでくれました。
それは良いのですが……。
「ルティが惚気てたって?!ああ!その場にいたかった!」
「嫌よ!思い出しただけで恥ずかしいんだから!」
ドリィは私を抱きしめながら悔しそうに叫びます。私は羞恥で顔が燃えそう!
「照れることはない。俺だって近衛騎士隊と関係者全員の前で惚気たよ。君を愛してるって」
「少しは照れて!」
「ルルティーナ。恥ずかしがるなら、まずはアドリアン坊ちゃんの膝の上から降りなさいよ」
「どっちも恋ボケしててどうしようもないな……」
「いいから話を続けましょう。終わらないわ」
「あのヘタレ団長も成長しましたねえ」
そうです!私ったら、ずっとドリィの膝の上です!
お義母様たちの声が聞こえて、慌ててドリィの膝を降りたのでした。
◆◆◆◆◆◆◆
お茶会と訓練から一週間が経ちました。
あれから、私とドリィは幾つものお茶会と夜会に参加しました。
私とドリィの友人知人が主催し、ミゼール領出発前から参加を打診していたものだけではありません。
今までお付き合いの無かった方々からも招待を受けます。
私たちの評判はすっかり回復し、仲睦まじく共同事業も順調だと囁かれています。
今まさに二人で参加しているコルナリン侯爵家の夜会でも。
『あのお二人、とってもお似合いだわ』
『ベルダール辺境伯は、冷徹に見えるが優秀な騎士だ。騎士団長なだけあり、辺境伯に相応しい貫禄も備わっている』
『プランティエ伯爵も立派だ。【特級ポーション】ばかりか、翡翠蘭ハーブティーという新事業を確立しつつある』
私たちは好意的な噂に微笑み合いました。
カトリーヌ・コルナリン侯爵閣下も、皆様の前で私たちの婚約を祝って下さりました。
とても嬉しかったです。
カトリーヌ・コルナリン侯爵は元アンブローズ侯爵夫人の妹、私の叔母様に当たる方です。
画期的な魔石製造方法を確立し、伯爵から侯爵に陞爵した切れ者です。
また、ドリィが私を救う際に協力していただいたそうなので、私にとっては恩人の一人なのですから。
これからも友好的な関係を続けたいです。
ただ、少し気になることもあります。良い噂ばかりでもないことと、もう一つ。
エディット・コルナリン侯爵令嬢……私の血縁上の従姉妹が不可解な発言と態度をとっているのです。
パーレス・グルナローズ辺境伯令息。暴挙にも程があります。
「しかし、思ったより馬鹿だった。よく今まで問題になってなかったな」
ドリィの言葉は最もです。令息は、悪い噂は多くとも大きな失態はなかったはず。
シアンが手を上げて発言します。
「それについては調べがついております。
令息には、グルナローズ辺境伯から有能な従者、執事、教育係、護衛騎士などが多数派遣されておりました。
しかし彼らは、グルナローズ辺境伯がお倒れになられた際に暇を乞いました。
諫言を嫌う令息はこれ幸いと許し、自身にとって都合の良い者たちだけを侍らせるようになったのです」
実際にはグルナローズ辺境伯は失脚し、毒杯を賜るのを待つ身です。お義姉様はご存知ないので伏せています。
お義父様が失笑しました。
「要するに、甘やかすだけ甘やかしていた父親がいなくなった。父親からの送金ももちろんなくなったので見捨てられたって所か」
頭が痛くなってきました。
「そして、お金と爵位目当てに私との縁談を掘り起こしたと……。本当に迷惑な話だわ」
ギュッと、私を膝の上で横抱きにするドリィの腕の力が強くなりました。
嬉しい。ホッとして擦り寄ります。
「ルティ、可哀想に……。シアン、グルナローズ辺境伯以外の家族との関係はどうだ?」
「はい。グルナローズ辺境伯閣下以外とは希薄な関係です。また、九年前から一度も領地に帰っていません」
その後、現在のグルナローズ辺境伯家の様子、親類縁者の動向、令息の取巻きや支援者についてなど必要な情報を聞きました。
ドリィが眉をひそめます。
「あの場にいた取巻きのうち、デル、デル?なんとかいう女が何者かがわからなかった」
お義父様が頷きます。
「ああ、あのごてごてしたドレスの女か。遠目だから自信はないが、赤っぽい髪と瞳をしていた。取巻きの中でも地位が高そうだったな」
「ええ、それにパーレスと親しげでした」
シアンは少し考えてから口を開きます。
「デがつく名前、令息と親しい女性、赤っぽい髪……髪の色が紫がかったピンクなら、愛人のデルフィーヌ・アザレ伯爵令嬢でしょう」
「やっぱり愛人か」
「愛人をぶら下げながら俺とルティの婚約にケチをつけたのか!?いい加減にしろ!」
ドリィの怒りで部屋の温度が下がりました。シアンの声も剣呑になります。
「アザレ伯爵令嬢は素行が悪くて有名です。アザレ伯爵家はグルナローズ辺境伯家の寄子ですが、どうも家ぐるみでグルナローズ辺境伯令息をそそのかし、甘い汁を吸っているようです。
また、領地に帰らず騎士の訓練すら受けていないパーレス・グルナローズを、グルナローズ辺境伯夫人に最も似ているからという理由で後継ぎに推しています。
それがグルナローズ辺境伯家と周辺の混乱と対立を煽りました。結果として、グルナローズ辺境伯が密輸を見抜けなかった遠因となっています。
控え目に言って下衆ですね」
現在も、令息の世話をしつつ辺境伯が令息に与えた資金を着服している。また、アザレ伯爵令嬢は毎月のように豪華な贈り物をねだっているのだとか。
全員、聞き終わる頃にはぐったりした顔になりました。
「俺たちの話は以上だ。ルティ、君たちのお茶会はどうだった?」
ぱっと明るい気分になります。私はドリィの秀麗なお顔を両手で包みます。
「ドリィ!やりました!翡翠蘭ハーブティーが好評なんです!」
「凄い!やったね!流石はルティの開発したハーブティーだ!」
お茶会の成果と掴んだ情報の詳細を話します。ドリィはとても喜んでくれました。
それは良いのですが……。
「ルティが惚気てたって?!ああ!その場にいたかった!」
「嫌よ!思い出しただけで恥ずかしいんだから!」
ドリィは私を抱きしめながら悔しそうに叫びます。私は羞恥で顔が燃えそう!
「照れることはない。俺だって近衛騎士隊と関係者全員の前で惚気たよ。君を愛してるって」
「少しは照れて!」
「ルルティーナ。恥ずかしがるなら、まずはアドリアン坊ちゃんの膝の上から降りなさいよ」
「どっちも恋ボケしててどうしようもないな……」
「いいから話を続けましょう。終わらないわ」
「あのヘタレ団長も成長しましたねえ」
そうです!私ったら、ずっとドリィの膝の上です!
お義母様たちの声が聞こえて、慌ててドリィの膝を降りたのでした。
◆◆◆◆◆◆◆
お茶会と訓練から一週間が経ちました。
あれから、私とドリィは幾つものお茶会と夜会に参加しました。
私とドリィの友人知人が主催し、ミゼール領出発前から参加を打診していたものだけではありません。
今までお付き合いの無かった方々からも招待を受けます。
私たちの評判はすっかり回復し、仲睦まじく共同事業も順調だと囁かれています。
今まさに二人で参加しているコルナリン侯爵家の夜会でも。
『あのお二人、とってもお似合いだわ』
『ベルダール辺境伯は、冷徹に見えるが優秀な騎士だ。騎士団長なだけあり、辺境伯に相応しい貫禄も備わっている』
『プランティエ伯爵も立派だ。【特級ポーション】ばかりか、翡翠蘭ハーブティーという新事業を確立しつつある』
私たちは好意的な噂に微笑み合いました。
カトリーヌ・コルナリン侯爵閣下も、皆様の前で私たちの婚約を祝って下さりました。
とても嬉しかったです。
カトリーヌ・コルナリン侯爵は元アンブローズ侯爵夫人の妹、私の叔母様に当たる方です。
画期的な魔石製造方法を確立し、伯爵から侯爵に陞爵した切れ者です。
また、ドリィが私を救う際に協力していただいたそうなので、私にとっては恩人の一人なのですから。
これからも友好的な関係を続けたいです。
ただ、少し気になることもあります。良い噂ばかりでもないことと、もう一つ。
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