【第1部、第2部完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご

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第2部

第2部 22話 秋実の大祭 ルルティーナの感謝と祈り

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 【秋実の大祭】が始まりました。

 国王王妃両陛下と王太子殿下は祭壇の前に立ち、堂々と開会の挨拶をなさいます。
 次に教会から派遣された大司教様がご挨拶し、王族御一行に祝福の祝詞をあげます。

 先ほどの浮かれた空気とは違う、神聖で厳粛な空気となりました。

「天と地に満ちる神々よ。善良なる狩人たちに神々の祝福があらんことを……」

 大司教様はかなりのご高齢ですが、声は朗々と響きます。それこそ神々にも届きそうです。

 祝詞の後、御一行は狩猟に向かいます。心の中だけでドリィの名を呼び無事を祈ります。

 御見送りが終わり、残された私たちは祭壇の飾り付けをします。
 大司教様が、優しく微笑みながら監督してくださりました。

「皆様。この【秋実の大祭】は、神々にこの一年の感謝を申し上げ、次の一年に向けてお祈りする大切な儀式の場です。
 皆様それぞれが信仰されている神へ、感謝と祈りを捧げながら作業して下さい。
 声に出す必要はありません。心の中で、真摯に語りかけるのです」

 私は薬の女神様に感謝しながら、出来るだけ早く丁寧に作業します。


ーーー薬の女神様に感謝申し上げます。女神様の加護をお授け下さりありがとうございました。ミゼール領辺境騎士団は、今年も犠牲を出さずにすみました。これも薬の女神様のご加護あってのことでしょう。本当にありがとうございますーーー

 作業自体は、誰がどの作業をするか、どの作物をどこに置くかは細かく決まっているのですぐ終わります。
 最後に私が作った【新特級ポーション】、部下の皆様が作った【準特級ポーション】、そして翡翠蘭ハーブティーを置きます。

ーーー薬の女神様に感謝申し上げます。女神様のお慈悲のおかげで、多くの方々をお救いでき瘴気を浄化できましたーーー

 手を合わせて深く祈ります。最近ずっと願っていたことも含めて。

 気づけば、声に出していました。

「これからも多くの方々をお救いできますように。ポーションを飲む皆様のお力になれますように。
 ねがわくば、飲んだ方のお身体だけでなくお心もお救いできますように……」

 現状、ポーションは身体の怪我や栄養失調などは治せても、心の不調は治せません。
 心に作用する薬もありますが、人によって効きに差があります。副作用についても注意しなければなりません。
 翡翠蘭ジェードオーキッドハーブティーのように、他の薬との相性や副作用の心配がない薬はそうありません。
 難しいのはわかっていますが、病は気からと申します。治せたら、より多くの方を救えるでしょう。
 もちろん身体の不調から心を病むことも多いですが……。

 考えこみながら祈っていると、周りがざわめきだしました。

「おお!ポーションの光が増している!」

「プランティエ伯爵の祈りによるものか?なんて神々しい……」

「魔法か?いや、確か伯爵は魔力をお持ちではなかったような……」

「まあ!ポーションだけでなく、翡翠蘭ハーブティーも光ってませんか?」

「ひ、光の加減でしょう?ポーションって元々光ってる物だし。あり得ないわよ」

「た、大したことじゃないわ……」

 ハッとして周りを見回すと、何故か皆さま動揺されています。
 シアンとお義母様は動じていません。

「ポーションには光属性の魔石を使っておりますからね。良くあることです」

「そうね。後は、そちらのお嬢様の言うように光の加減かしら?」

 視線を向けられた令嬢方は、私を信じられない者を見る目で見ています。
 この反応……。

 あ。やってしまいました。【新特級ポーション】の詳しいレシピは、現時点では秘匿されています。

 私たちが祈ることで効力が上がったり、ポーションが光り輝くことを知っているのは一握りだけです。

 あああ!どうしましょう!?好奇の視線が痛い!どうやって誤魔化せば!?

 内心で慌てる私にシアンが囁きます。

「アメティスト子爵夫人からの言付けです『いずれ知られる事ですから、この機会に自然現象か何かということにしなさい』とのことです」

 な、なるほど。よかったのかしら?

 ああ、それにしても騒動を起こしてばかりで申し訳ない……。

「ルルティーナ様も団長閣下も色々と規格外ですからね。仕方ありません。私どもがフォローしますよ」

 ううう!シアン頼もしい!ありがたいわ!
 ドリィにかけあって給料を増やしましょう!
 あとお義母様には謝罪と感謝をお伝えしなければ!
 なんとか『偶然か自然現象です』と、押し切れそうでしたが……。

「大司教様これは一体……奇跡でしょうか?」

 信心深い方が大司教様にお聞きになりました。ど、どうお答えになるのでしょうか?

「ふぉっふぉっふぉ。確かに奇跡かもしれませんな」

「おお!ではプランティエ伯爵閣下は伝説の聖女では?」

「教会が認める聖女は帝国にしかいない!快挙だ!」

「まさか!あの女が聖女ですって!?」

 あああ!そんな大袈裟な話になるのですか!やっぱりやらかしてしまいました!
 涼しいのに冷や汗が流れます。しかし、大司教様様がにっこり微笑みました。
 あら?とてもお茶目なお顔です。

「祈りを捧げられたポーションが光り輝く。これはしばし起こることなのです。とはいえ、近年は見ることがなくなりました。皆様がご存知ないのも無理はありません。
 はっきりとした理由はわかりませんが……前年までポーションを奉納された方々は、お祈りをされていませんでした」

「ああ……そういえば二十数年前だったか。先代アンブローズ侯爵の頃にもあったな」

「なるほど……だから最近は見なかったのか……」

 その場に何とも言えない納得が広がり、私に対して気遣わしい眼差しが向けられます。

 先代アンブローズ侯爵とは私の祖父です。
 その後を継ぐ形で祭壇にポーションを捧げていたのは、元アンブローズ侯爵夫妻でしょう。
 あの血縁上の両親は、形だけでも祈らなかったのですね。しかも二十年間も。
 もう縁を切っていますが恥ずかしい……。

「どうしようもないクズどもでしたが、今回は役に立ちましたね」

「そうね。本当にクズだけど」

 シアンとお義母様はばっさり言い捨て、私を祭壇から離れるよう促しました。大人しく従います。

「これも神々の思し召しでしょう。そもそも、ポーションとは神から与えられた奇跡との伝説もあります。それは、このヴェールラント王国が誕生する以前の……」

 ありがたいお話しをされる大司教様と目が合いました。とても優しく、しかし何もかも見抜かれているような眼差しでした。
 多くの方々が大司教様のお言葉を聞き、眼差しを向けていましたが……私を射抜くような眼差しが一つ。

 デルフィーヌ・アザレ伯爵令嬢でしょう。

『まさか!あの女が聖女ですって!?』と、叫んだのもあの方でしたから。

 私はあえて眼差しを向けず歩き続けたのでした。

 この後はいよいよ、マリーアンヌ・イオリリス侯爵令嬢主催のお茶会です。
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