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第2部
第2部 31話 神々の寵愛と聖女 前編
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大司教バティスト様は、離宮の貴賓室にいらっしゃいました。
豊かな白髪と白いお髭。清廉な空気をまとい、全てを包み込むような優しいお顔立ちをされています。
私たちが入室してすぐ、椅子から立ち上がって深く頭をお下げになられました。
「薬の女神の聖女様にご挨拶申し上げます。この度は急なお呼び立てにも関わらず、お越しいただきありがとうございます」
ああ、やはりその件でしたか。
「私が聖女?一体、何のお話でしょうか?」
淑女の笑みはうまくできているかしら?お使いの方が仰るには遮音の結界が張っているそうだけど、誰かに聞かれれば私は……。
私は、聖女にはなりたくない。
私は心を揺らしながら、『聖女』について思いを馳せます。
この世には様々な神々がいらっしゃいます。
聖女または聖人は、神の特別な寵愛と加護を受けて奇跡を起こす存在です。
現代では【帝国】にしか生まれない。そう言われています。
まさか【特級ポーション】を作り続けることで聖女になるなんて。
初夏の頃。ビオラ師匠がミゼール城に来て、【特級ポーション】……【女神の秘薬】について詳しく話して頂かなければ、一生想像すらしなかったでしょう。
◆◆◆◆◆
時は初夏の頃。ビオラ師匠が初めてミゼール城に来た日まで遡ります。
ビオラ師匠と私は泣きながら抱きしめ合い、パンセ師匠の思い出話をひとしきりしました。
その後、改めて【特級ポーション】の謎についてお聞きすることになったのです。
場所はシェルシェ様の執務室です。遮音の結界を張って人払いしました。
中に居るのは部屋の主人であるシェルシェ様、私、ビオラ師匠、シアン、カルメ様の五人です。
ビオラ師匠の固い声が響きます。
『ルルティーナさん。今から話すことは、本当に信頼できる人以外には秘密にして下さい』
『はい。かしこまりました』
『私の母パンセが貴女に教えたポーションの作り方は、母の一族の秘薬である【薬の女神の秘薬】の作り方です。
これは古代のポーションの作り方で……聖女あるいは聖人になるための儀式でもあります」
『聖女!?』
『母さん?何を言ってるの?』
『一体どういう事だい?』
私はもちろん驚きましたが、ビオラ師匠の息子であるシェルシェ様、義母であるカルメ様も初めて聞く話のようでした。
シアンが思わずといった様子で呟きました。
『薬の女神……ルルティーナ様は、ポーションを作る時かならずお祈りされている』
『ええ、そうよ。それにパンセ師匠も、お祈りが大切だと教えてくれたわ』
『仰る通りです。
【薬の女神の秘薬】は、光属性の魔石と作成者が選び抜いた七つの薬草を用意し、薬の女神様に祈りを捧げながら作ります。
この時、薬の女神様への信仰心と人を癒したいという強い想いがなければポーションにはなりません。
何故なら【薬の女神様の秘薬】は、薬の女神様に光の魔石と七つの薬草を捧げる儀式によって、その加護を得ることで出来るポーションだからです』
『ポーションの効能と薬草の効能が矛盾してるのはそのせいか!』
シェルシェ様の言葉に納得します。ですが。
『特級ポーションが普通のポーションと違う理由はわかりました。ですが、聖女になるとはどういうことでしょうか?』
『はい。【薬の女神の秘薬】を作り続ける。つまり信仰と祈りを捧げ奇跡を重ねることで、薬の女神様から特別な加護と寵愛を賜るとされています。
そしてその者は、薬の女神の聖女あるいは聖人となるのです。
また、その身体は只人ではなくなります。あらゆる病にかからず、毒が効かず、怪我の回復が早くなる』
カルメ様が深いため息をつきました。
『その話は信じがたいけれど、確かに【特級ポーション】の謎は解ける。
ルルティーナちゃん以外が作るポーションの効力が落ちるのは、薬の女神へ祈りを捧げていないから。
シェルシェも言っていたが効能に矛盾があるのは、そもそも薬草の効能に大きな意味がないからだね』
『その通りです。ただし彼らが祈りを捧げても、ルルティーナさんほどの効力があるポーションはできないと思います。
ルルティーナさんに与えられた加護と寵愛を、他者が借りる形となりますので』
『なるほど!やはり真の【特級ポーション】はルルティーナ様しか作れないんですね!しかも聖女だなんてすごいです!』
興奮するシェルシェ様をたしなめつつ、カルメ様は言いました。
『落ち着きなって。それに、話が本当ならルルティーナちゃんはまだ聖女じゃない。ミゼール城に来た時に風邪を引きかけてたからね』
『ああ、確かに。でも、ルルティーナ様は【特級ポーション】を毎日作成してます。聖女になる日も近いに決まってますよ!』
シェルシェ様の言葉に首を傾げます。
私が聖女?
信じられません。
ララベーラ様は周囲から、癒しの聖女と呼ばれているそうです。私はララベーラ様と違って治癒魔法が全く使えない魔力無しです。さらには、容姿も華やかではありません。
そんな私が聖女だなんて……。
『ルルティーナ様、大丈夫ですか?』
沈みかけた気持ちを、シアンの優しい声が掬い上げてくれます。大丈夫と言おうとしたその時、ビオラ師匠が説明を再開しました。
『また、聖人聖女が作る【薬の女神の秘薬】は全ての怪我、病気、毒を癒し、瘴気すら浄化するそうです』
『瘴気を?!本当ですか!ビオラ師匠!』
私は思わず身を乗り出しました。
『え、ええ。言い伝えではそうなっています』
『瘴気を浄化できるなら!私は喜んで聖女になります!』
瘴気を浄化できたらミゼール領の魔境浄化が進みます!アドリアン様のお力になれる!
希望に胸を高鳴らせる私に、ビオラ師匠は厳しい顔になりました。
『ルルティーナさん、落ち着いて下さい。これは良い事ばかりではないのです』
『え?』
◆◆◆◆◆
お久しぶりです。
第2部完結まで目処がたちました。毎日更新予定です
豊かな白髪と白いお髭。清廉な空気をまとい、全てを包み込むような優しいお顔立ちをされています。
私たちが入室してすぐ、椅子から立ち上がって深く頭をお下げになられました。
「薬の女神の聖女様にご挨拶申し上げます。この度は急なお呼び立てにも関わらず、お越しいただきありがとうございます」
ああ、やはりその件でしたか。
「私が聖女?一体、何のお話でしょうか?」
淑女の笑みはうまくできているかしら?お使いの方が仰るには遮音の結界が張っているそうだけど、誰かに聞かれれば私は……。
私は、聖女にはなりたくない。
私は心を揺らしながら、『聖女』について思いを馳せます。
この世には様々な神々がいらっしゃいます。
聖女または聖人は、神の特別な寵愛と加護を受けて奇跡を起こす存在です。
現代では【帝国】にしか生まれない。そう言われています。
まさか【特級ポーション】を作り続けることで聖女になるなんて。
初夏の頃。ビオラ師匠がミゼール城に来て、【特級ポーション】……【女神の秘薬】について詳しく話して頂かなければ、一生想像すらしなかったでしょう。
◆◆◆◆◆
時は初夏の頃。ビオラ師匠が初めてミゼール城に来た日まで遡ります。
ビオラ師匠と私は泣きながら抱きしめ合い、パンセ師匠の思い出話をひとしきりしました。
その後、改めて【特級ポーション】の謎についてお聞きすることになったのです。
場所はシェルシェ様の執務室です。遮音の結界を張って人払いしました。
中に居るのは部屋の主人であるシェルシェ様、私、ビオラ師匠、シアン、カルメ様の五人です。
ビオラ師匠の固い声が響きます。
『ルルティーナさん。今から話すことは、本当に信頼できる人以外には秘密にして下さい』
『はい。かしこまりました』
『私の母パンセが貴女に教えたポーションの作り方は、母の一族の秘薬である【薬の女神の秘薬】の作り方です。
これは古代のポーションの作り方で……聖女あるいは聖人になるための儀式でもあります」
『聖女!?』
『母さん?何を言ってるの?』
『一体どういう事だい?』
私はもちろん驚きましたが、ビオラ師匠の息子であるシェルシェ様、義母であるカルメ様も初めて聞く話のようでした。
シアンが思わずといった様子で呟きました。
『薬の女神……ルルティーナ様は、ポーションを作る時かならずお祈りされている』
『ええ、そうよ。それにパンセ師匠も、お祈りが大切だと教えてくれたわ』
『仰る通りです。
【薬の女神の秘薬】は、光属性の魔石と作成者が選び抜いた七つの薬草を用意し、薬の女神様に祈りを捧げながら作ります。
この時、薬の女神様への信仰心と人を癒したいという強い想いがなければポーションにはなりません。
何故なら【薬の女神様の秘薬】は、薬の女神様に光の魔石と七つの薬草を捧げる儀式によって、その加護を得ることで出来るポーションだからです』
『ポーションの効能と薬草の効能が矛盾してるのはそのせいか!』
シェルシェ様の言葉に納得します。ですが。
『特級ポーションが普通のポーションと違う理由はわかりました。ですが、聖女になるとはどういうことでしょうか?』
『はい。【薬の女神の秘薬】を作り続ける。つまり信仰と祈りを捧げ奇跡を重ねることで、薬の女神様から特別な加護と寵愛を賜るとされています。
そしてその者は、薬の女神の聖女あるいは聖人となるのです。
また、その身体は只人ではなくなります。あらゆる病にかからず、毒が効かず、怪我の回復が早くなる』
カルメ様が深いため息をつきました。
『その話は信じがたいけれど、確かに【特級ポーション】の謎は解ける。
ルルティーナちゃん以外が作るポーションの効力が落ちるのは、薬の女神へ祈りを捧げていないから。
シェルシェも言っていたが効能に矛盾があるのは、そもそも薬草の効能に大きな意味がないからだね』
『その通りです。ただし彼らが祈りを捧げても、ルルティーナさんほどの効力があるポーションはできないと思います。
ルルティーナさんに与えられた加護と寵愛を、他者が借りる形となりますので』
『なるほど!やはり真の【特級ポーション】はルルティーナ様しか作れないんですね!しかも聖女だなんてすごいです!』
興奮するシェルシェ様をたしなめつつ、カルメ様は言いました。
『落ち着きなって。それに、話が本当ならルルティーナちゃんはまだ聖女じゃない。ミゼール城に来た時に風邪を引きかけてたからね』
『ああ、確かに。でも、ルルティーナ様は【特級ポーション】を毎日作成してます。聖女になる日も近いに決まってますよ!』
シェルシェ様の言葉に首を傾げます。
私が聖女?
信じられません。
ララベーラ様は周囲から、癒しの聖女と呼ばれているそうです。私はララベーラ様と違って治癒魔法が全く使えない魔力無しです。さらには、容姿も華やかではありません。
そんな私が聖女だなんて……。
『ルルティーナ様、大丈夫ですか?』
沈みかけた気持ちを、シアンの優しい声が掬い上げてくれます。大丈夫と言おうとしたその時、ビオラ師匠が説明を再開しました。
『また、聖人聖女が作る【薬の女神の秘薬】は全ての怪我、病気、毒を癒し、瘴気すら浄化するそうです』
『瘴気を?!本当ですか!ビオラ師匠!』
私は思わず身を乗り出しました。
『え、ええ。言い伝えではそうなっています』
『瘴気を浄化できるなら!私は喜んで聖女になります!』
瘴気を浄化できたらミゼール領の魔境浄化が進みます!アドリアン様のお力になれる!
希望に胸を高鳴らせる私に、ビオラ師匠は厳しい顔になりました。
『ルルティーナさん、落ち着いて下さい。これは良い事ばかりではないのです』
『え?』
◆◆◆◆◆
お久しぶりです。
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