【第1部、第2部完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご

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第2部

第2部 33話 アドリアンの心配

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 帰りの馬車の中。ドリィは私を横向きに膝に乗せ、ギュッと抱きしめました。

「あの大司教をどこまで信じていいかわからないが、確かに【帝国】の動きは不穏だ。今まで以上に注意しておく。
 だが安心して欲しい。ルティ、君は俺たちが必ず守る」

 身体が暖かくなって強張りが解けていく。

 ホッとしたわ。

 自分が緊張していたのだと、やっと自覚しました。

「ドリィ、ありがとう。私も自分を守れるよう、そしてドリィたちの力になれるよう頑張るわ」

「頼もしいな。……だが駄目だ」

「え?」

 ドリィの青い瞳が厳しくすがめられました。固まってしまいます。
 実は最初から馬車の中にいたシアンも同意します。

「そうですよルルティーナ様!いつも無茶し過ぎなんです!」

「計画を聞いてどれだけ俺が心配したか。さっきだって、あんな怪しい聖職者をすぐ信じてしまうし……」

「ルルティーナ様は、こうと決めたら頑固なんですよ。検証と称して毒を飲みましたし」

「あ、あれは……ご、ごめんなさい。もうしません……」

 二人からジトっと睨まれて冷や汗が流れます。

【新特級ポーション】が瘴気を浄化したとわかってからのことです。

 私はビオラ師匠たちから言われました。

『言い伝え通り聖女になったんですね』

『やっぱりルルティーナ様は聖女なんだ』

『めでたいことだ』

 皆様嬉しそうに祝福して下さりましたが、私自身には自覚も何もありません。

『私は本当に聖女なのかしら?』

 そして、その、好奇心があったのです。
 だって『聖女は毒が効かない』と、言い伝えにあったんですもの!
 だからつい、少し前にやってしまったのです。

『私の身体に毒が効かなくなっているか。検証してみましょう!』

【新特級ポーション】を手元に置いた状態で毒を飲みました。こっそりと誰にも知られないように。

『飲み続けたのに吐き気も腹痛もしない。顔色も変化していないわ。本当に毒が効かないのかも。ううん。検証は始まったばかり。
 それに私は、腐りかけたパンを食べたりポーションの試作品を飲んだりしてきたから人より耐性があるはず。
 次はこの毒を……』

『ルルティーナ様?何をなさっているのですか!?』

 そして3種類試し終わったところでシアンに見つかり、シアン、ビオラ師匠、カルメ様、そしてドリィに物凄く叱られました。
 おまけにドリィは泣いていました。

『話を聞いて心臓が止まるかと思った。もっと自分を大事にしてくれ』

 と、切々と告げたのです。物凄く後悔したのは言うまでもありません。

 意識を現在に戻し、頭を下げます。

「もうしません。本当に反省しています……」

「当然だ!あと、今回のように暴漢と対決しようとしないでくれ!」

「団長閣下の仰る通りです!ルルティーナ様は一撃食らわそうとしていましたが無謀すぎます!護身術の才能は全くないのですよ!」

「うっ!は、はっきり言われると傷つくわ……」

 そうです。お義母様にも言われましたが、私は武術の才能がからっきしだそうです……。

「あの場合はとにかく身を隠すか、逃げ回って外に出ることをお考えください!」

「君は自分をもっと大切にしなさい!リラ殿たちにも心配をかけたんだぞ!」

「うう……ご、ごめんなさい……」

 それからドリィとシアンに、どれだけ心配していたか説明され、叱られたり泣かれたりしたのでした。
 大変でしたが、これも二人が私を大切に思ってくれているからだと思うと……幸せだと思います。



◆◆◆◆◆◆


 アメティスト邸に到着する頃には、二人の気持ちも落ち着いたようです。

「色々あったが、全て解決したな」

「ええ。大変でしたけど、後は残りの日程をこなして帰るだけですね」

「せっかくの王都だ。残りの日程は楽しもう」

「左様でございますね。明日は、ルルティーナ様が楽しみにされていた昼食会ですし」

「そうだったわ!明日はイザベルさんとお会いできるのよね!楽しみ!」

 そうです。明日はイザベルさん……私の友人イザベル・スフェーヌ侯爵令嬢の邸にお招き頂いているのです。
 イザベルさんは、王太子殿下の婚約者かつ薬事局の重役です。そのお邸のお庭はさながら植物園のようだとか。

「お話できるのも嬉しいけれど、お庭や温室を見せて頂くのも楽しみだわ」

「ああ、ゆっくり楽しんでくるといい」

 私は浮き浮きした気分で、明日に思いを馳せました。

 ですから、帰宅して執事から手紙を受け取るまで忘れていました。

「え?明日の昼食会には早めに来て欲しい?エディット様も来る?」

 そういえば、エディット・コルナリン侯爵令嬢の不穏な言動の謎が解明されていないことを……。





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