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第2部
第2部 34話 昼食会とエディットの謎 前編
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翌日の昼。
スフェーヌ侯爵邸にて。
柔和な笑みを浮かべた執事が、ガラス張りの温室の中を案内してくれます。
「こちらです。足元にお気をつけください」
「はい。まあ、珍しい植物がこんなに。素晴らしいですね」
温室の中は様々な南国の植物が生えています。空気もしっとりとしていて、秋も半ばを過ぎたとは思えないくらい温かいです。
まるでこの中だけが夏のよう。薄手のコートも羽織っていましたが、温室の入り口で預けて正解でした。
『今回の食事会は、社交も政治も関係のない私的な会。我が家自慢の温室と庭園も案内したいし、歩きやすい軽装でいらしてね』とのことなので、軽やかでシンプルなデザインのワンピースを着ています。
色は紫で、裾にいくほど濃い色になります。髪も紫色のリボンで編み込んでまとめました。
やがて温室の中央まで来ました。
広場のような空間にテーブルセットがあり、二人のご令嬢が座っています。他、侍女が数名いるようです。
ご令嬢二人が立ち上がりました。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、お越しいただき嬉しく思います。楽になさって」
私の挨拶に、イザベルさんが蜂蜜色の瞳を細めて微笑みます。
淡い黄緑の髪は三つ編みにして背中に垂らしています。柔らかい早緑色のカーディガン、生成色のシャツ、緑色のゆったりしたズボン。爽やかで気取りがないお姿です。
「エディットさんについては、ご紹介は必要ありませんね?」
そうです。もう一人の令嬢は、コルナリン侯爵令嬢エディット様です。
赤みがかったブルネットを瞳と同じオリーブグリーンの髪飾りでまとめ、茶色に白いレース襟のワンピースを着ていらっしゃいます。
黄色い八重咲きの花のブローチを一つ着けているのですが、それがまたエディット様の可憐さを引き立たせています。
「はい。エディット様、お会いできて嬉しいです」
「……私もです。ルルティーナ様」
やはり表情と言葉がぎこちない。顔もうつむき気味です。
温室の中に整然と並べられたテーブルと椅子。
瀟洒なデザインのそれに座るのは、昼食会のホストであるイザベルさん、私、そしてエディット様だけでした。
様々な植物が植わる中で昼食を頂けるなんて素敵!と浮き立ちつつ、エディット様のことが気がかりだったのですが……。
南国の果物がたっぷり入った果実水を味わいつつ、取り止めのない世間話をしてしばらく。
イザベルさんが人払いして遮音の結界を張りました。
「さて、お食事の前に話を済ませてしまいましょう。このままではお二人とも料理の味もわからないでしょうし。
ルルティーナさん、エディットさんの様子がおかしいことには気づいていたでしょう?」
「はい。気になっていました」
ですが、エディット様の言動の謎にイザベルさんが関わっているのでしょうか?
表情で察したのかイザベルさんが説明してくださります。
昨日のイザベルさんのお茶会に、エディット様も参加されたそうです。
「イザベル様には昔からお世話になっております。特にナルシス伯爵令息との婚約を破棄した時、イザベル様がいなければ私は……。
派閥は違いますが、私はイザベル様に忠誠を誓っています」
「そうでしたか」
「忠誠だなんて固いことを言わないで。私にとっては親しい友人よ」
「っ!あ、ありがとうございます。わ、私も忠誠だけでなく、大切な友人だと思っています」
エディット様は少しはにかんだ笑みを浮かべます。お可愛らしい!まるで栗鼠みたい!
「ルルティーナさんも楽にしてね。敬語、取れてないわよ。私には要らないから」
「っ!失礼しまし……失礼したわ」
なんだか嬉しくてソワソワします。それはそうと、話は続きます。
「ルルティーナさんと昼食会することをお話したら、エディットさんが自分も参加したいと仰ったの。あまりにも真剣なご様子だからお誘いしたの」
エディット様は意を決したように顔を上げました。
その顔には苦悩と申し訳なさ……そして怯えが浮かんでいます。
「ルルティーナ様、ご心配をおかけして申し訳ございません。心のこもったお手紙にも返信せず……。手紙を出して、万が一、情報が外部に漏れたらと思うと出来なかったのです」
顔色が悪くなっていくエディット様。どうお声をかけようかと悩んでいると、エディット様は小さなバックを取り出しました。
ご自分の背中と椅子の背もたれの間に置いていたのでしょう。
そしてバックから長方形の箱のような物をだしました。
「え?まさか手紙ですか?」
「はい。私が頂いた手紙です」
そうです。箱だと思ったのは、今にも張り裂けそうにパンパンの封筒でした。しかも二個、いえ、二通あります。
「一体、誰が……」
ハッと気づきます。
分厚い手紙と言えば、私に願望を押し付けた男を思い出しました。
パーレス。グルナローズ辺境伯家から抹消されたあの男。若い女性を次々に毒牙にかけた男。
やはり、エディット様にも穢らわしい手を伸ばしていたの?だとしたら許せな……。
「私の元婚約者ジュリアーノ・ナルシス伯爵令息からの手紙です」
「へ?」
予想は裏切られ、間抜けな声が出てしまいました。
スフェーヌ侯爵邸にて。
柔和な笑みを浮かべた執事が、ガラス張りの温室の中を案内してくれます。
「こちらです。足元にお気をつけください」
「はい。まあ、珍しい植物がこんなに。素晴らしいですね」
温室の中は様々な南国の植物が生えています。空気もしっとりとしていて、秋も半ばを過ぎたとは思えないくらい温かいです。
まるでこの中だけが夏のよう。薄手のコートも羽織っていましたが、温室の入り口で預けて正解でした。
『今回の食事会は、社交も政治も関係のない私的な会。我が家自慢の温室と庭園も案内したいし、歩きやすい軽装でいらしてね』とのことなので、軽やかでシンプルなデザインのワンピースを着ています。
色は紫で、裾にいくほど濃い色になります。髪も紫色のリボンで編み込んでまとめました。
やがて温室の中央まで来ました。
広場のような空間にテーブルセットがあり、二人のご令嬢が座っています。他、侍女が数名いるようです。
ご令嬢二人が立ち上がりました。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「こちらこそ、お越しいただき嬉しく思います。楽になさって」
私の挨拶に、イザベルさんが蜂蜜色の瞳を細めて微笑みます。
淡い黄緑の髪は三つ編みにして背中に垂らしています。柔らかい早緑色のカーディガン、生成色のシャツ、緑色のゆったりしたズボン。爽やかで気取りがないお姿です。
「エディットさんについては、ご紹介は必要ありませんね?」
そうです。もう一人の令嬢は、コルナリン侯爵令嬢エディット様です。
赤みがかったブルネットを瞳と同じオリーブグリーンの髪飾りでまとめ、茶色に白いレース襟のワンピースを着ていらっしゃいます。
黄色い八重咲きの花のブローチを一つ着けているのですが、それがまたエディット様の可憐さを引き立たせています。
「はい。エディット様、お会いできて嬉しいです」
「……私もです。ルルティーナ様」
やはり表情と言葉がぎこちない。顔もうつむき気味です。
温室の中に整然と並べられたテーブルと椅子。
瀟洒なデザインのそれに座るのは、昼食会のホストであるイザベルさん、私、そしてエディット様だけでした。
様々な植物が植わる中で昼食を頂けるなんて素敵!と浮き立ちつつ、エディット様のことが気がかりだったのですが……。
南国の果物がたっぷり入った果実水を味わいつつ、取り止めのない世間話をしてしばらく。
イザベルさんが人払いして遮音の結界を張りました。
「さて、お食事の前に話を済ませてしまいましょう。このままではお二人とも料理の味もわからないでしょうし。
ルルティーナさん、エディットさんの様子がおかしいことには気づいていたでしょう?」
「はい。気になっていました」
ですが、エディット様の言動の謎にイザベルさんが関わっているのでしょうか?
表情で察したのかイザベルさんが説明してくださります。
昨日のイザベルさんのお茶会に、エディット様も参加されたそうです。
「イザベル様には昔からお世話になっております。特にナルシス伯爵令息との婚約を破棄した時、イザベル様がいなければ私は……。
派閥は違いますが、私はイザベル様に忠誠を誓っています」
「そうでしたか」
「忠誠だなんて固いことを言わないで。私にとっては親しい友人よ」
「っ!あ、ありがとうございます。わ、私も忠誠だけでなく、大切な友人だと思っています」
エディット様は少しはにかんだ笑みを浮かべます。お可愛らしい!まるで栗鼠みたい!
「ルルティーナさんも楽にしてね。敬語、取れてないわよ。私には要らないから」
「っ!失礼しまし……失礼したわ」
なんだか嬉しくてソワソワします。それはそうと、話は続きます。
「ルルティーナさんと昼食会することをお話したら、エディットさんが自分も参加したいと仰ったの。あまりにも真剣なご様子だからお誘いしたの」
エディット様は意を決したように顔を上げました。
その顔には苦悩と申し訳なさ……そして怯えが浮かんでいます。
「ルルティーナ様、ご心配をおかけして申し訳ございません。心のこもったお手紙にも返信せず……。手紙を出して、万が一、情報が外部に漏れたらと思うと出来なかったのです」
顔色が悪くなっていくエディット様。どうお声をかけようかと悩んでいると、エディット様は小さなバックを取り出しました。
ご自分の背中と椅子の背もたれの間に置いていたのでしょう。
そしてバックから長方形の箱のような物をだしました。
「え?まさか手紙ですか?」
「はい。私が頂いた手紙です」
そうです。箱だと思ったのは、今にも張り裂けそうにパンパンの封筒でした。しかも二個、いえ、二通あります。
「一体、誰が……」
ハッと気づきます。
分厚い手紙と言えば、私に願望を押し付けた男を思い出しました。
パーレス。グルナローズ辺境伯家から抹消されたあの男。若い女性を次々に毒牙にかけた男。
やはり、エディット様にも穢らわしい手を伸ばしていたの?だとしたら許せな……。
「私の元婚約者ジュリアーノ・ナルシス伯爵令息からの手紙です」
「へ?」
予想は裏切られ、間抜けな声が出てしまいました。
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