【第1部、第2部完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご

文字の大きさ
106 / 107
第2部

第2部 42話 デートとプロポーズ

しおりを挟む
 大変な一日の翌朝。私はいつもの時間に目覚めました。

「ルルティーナ様、おはようございます」

「おはようシアン」

 ベッドに座り、目覚めのお茶をいただきます。
 今日のお茶は、翡翠蘭ジェードオーキッドハーブティーです。流石はシアン。たくさん食べた上、様々なことがあった翌朝に相応しいお茶だわ。
 心身の調子を整えてくれるでしょう。

「あら?いつもより明るい緑……。少し光って見えるわね?香りもとても良いわ」

 一口飲むと、爽やかな風が身体を吹き抜けるよう!清々しい気持ち。昨夜の精神的な疲労が消えていく。

「前よりも美味しい!シアンったら、またお茶を淹れる腕を上げたのね!」

 シアンは頬を染めて微笑みました。

「お褒めいただき恐縮です!ルルティーナ様に飲んでいただく為、研鑽を積んだ甲斐がありますわ!
 ところでルルティーナ様、本日のご予定ですが……」

「午前中は荷造りよね。午後はお義母様たちとお買い物に行くから、早めに済まさなくちゃ」

 そうです。明日は王都から出発するので、今日中に荷造りをしなければなりません。
 また、午後は久しぶりにお義母様と街歩きしてお買い物します。荷造りを早く終わらせて外食し、ミゼール領の皆様へのお土産などを買う予定です。
 残念ながら、ドリィは別行動です。騎士の皆様と親睦を深めるため、競馬を見に行くとか。
 競馬は本でしか知りませんが、いつか私も見に行きたいです。

「団長閣下の予定ですが、中止になったそうです」

「あら?そうなの?何かあったのかしら」

「いいえ。ふふふっ」

 シアンは堪え切れないといった様子で笑います。

「なんでも、『せっかくの王都なのに、ルティと街歩きできない』と愚痴っていたのを聞いた騎士様方が『自分たちとの交友は次回でいい。婚約者殿との時間を大切にしなさい』と手紙で伝えたそうです」

「まあ!それはお気を使わせてしまったわね!」

「ふふふ。皆様、団長閣下が婚約したことを喜んで下さっているのです。お気になさらずとも良いかと」

「そういうことなら……。ところでシアンは、どうしてそんなに笑っているの?」

「んふふっ。失礼しました。手紙を読んだ団長閣下は、ルルティーナ様と街歩きするため、アメティスト子爵夫人を説得しようとしました。
 そのため早朝から本邸にいらしたのですが、勢いあまって玄関ドアを壊してしまったのです」

「ええ!?玄関ドアって、あの大きくて分厚いドア!?」

「そ、そうです!ふふっ。ど、ドアを叩いてバキッと割って!そ、それで……くふふっ!アメティスト子爵夫妻に叱られているんです!あはは!あんなしょんぼりした団長閣下、久しぶりに見ましたよ!」

「ドリィ……勢い余ったのね。私と街歩きしたいと思ってくれているのは嬉しいけど……」

 翡翠蘭ハーブティーで爽やかに目覚めたのに、頭が痛くなってきわ。
 ……でも、ドリィと街歩きできるのは嬉しい。




 ◆◆◆◆


 その後、なんとかドリィと街歩き出来ることになりました。
 しかも荷造りはすぐに終わったので、午前中からです!
 これはシアンの有能さのおかげと、戻って来てくれたニトとリルのお陰です。
 彼女たちも私の専属侍女ですが、今回は情報収集などの裏方に徹してもらったのです。
 シアンも含めて特別手当や休暇をあげないといけませんね。


 今は馬車の中。向かい側に座るドリィがため息を吐きます。

「久しぶりにやってしまった……」

「うふふ」

 しょんぼりした顔が可愛い。
 それに軽装だと、年齢より若く見えます。
 可愛くて愛おしくて、つい笑ってしまうの。

「ルティ、笑わないでくれ。昨日からちょっと意地悪だぞ」

「ふふっ!その言い方も可愛い!」

「ルティ!」

「ご、ごめんね。小さい男の子みたいで愛おしくて……」

「は?小さい男の子!?愛おしい!?……はあ、ルティに可愛がってもらえるなら悪くないな」

「そうやって切り替えられるところは大人ね。どっちのドリィも好きよ」

「ルティ……」

「ドリィ……」

「お二人とも、私も居るのを忘れないでくださいね?聞こえてます?……駄目だ。ラピスラズリ侯爵閣下の言う通り、二人の世界ですね……」

 シアンには悪いですが、しばらく見つめあっていたのでした。




 ◆◆◆◆◆




 馬車を降りて街を歩きます。

「風が冷たい。もうすぐ冬ね」

「ルティ、俺のコートも着た方がいいんじゃないか?」

「大丈夫。歩いているうちに温かくなるわ。ドリィこそちゃんと着て」

 私は青地に花柄のワンピースを着て白いコートを羽織っています。
 ドリィは白いシャツに青いベスト着て黒いズボンをはき、濃い灰色のコートを羽織っています。
 シアンも侍女のお仕着せではなく、紺色のワンピースとコート姿です。

 私たちは街を散策しながらお土産を買いました。
 あらかじめミゼール領の皆様に希望を聞いています。
 特にポーション職人の皆様と騎士の皆様には、私たちの王都滞在が伸びたのでご迷惑をおかけしたので、しっかり買わないといけません。
 もちろん、ビオラ師匠たちの分もです。

 お洒落なマフラー、手袋、マント、ベルト、髪飾り、香水、手鏡。
 紅茶の茶葉、王都で流行のお菓子、娯楽本、女優の絵姿などなど。

「この髪飾り模様が華やかで素敵!どれがいいかしら?」

「ルティには桃色か青かな?ほら、君の銀髪に良く映える」

「もう!私じゃなくてユーリさんたちに似合う髪留めを選ぶの!」

「団長閣下に聞いても仕方ありませんよ。ポーション職人のユーリさんは私服が華やかですし、こちらがよろしいかと。他の方は……」

 買い上げたお土産は、梱包してアメティスト邸に運んでもらいます。
 身軽に歩き回れることもあり、楽しくてつい夢中になりました。

「これで全部ですね」

「ああ、やっと終わった」

 全て買い終わる頃には、お昼を少し過ぎていました。
 シアンが微笑みます。

「私は先にお邸に戻ります。お二人はデートを楽しまれて下さい」

 私とドリィは頷き、ある店に向かいました。店はもちろん……。

「ずっと、また君と来たかったんだ」

「私もよ」

 二人の思い出の店である【リールのカフェ】です。

「少し急ごう。ランチタイムのラストオーダーが近い」

「それはいけないわ!走りましょう!」

 私たちは子供のように声を上げながら、王都の街を走りました。


 クリーム色の壁と緑色の屋根。そして、季節の花々に包まれている可愛らしいカフェに到着しました。

「間に合った。席も空いてるみたいだ」

「運がいいわね」

 ご機嫌で席に座る私たち。
 テーブルに飾られた紫のアスターまで微笑んでいるかのよう。
 メニューを真剣に見つめて相談します。

「前回は名物のミートパイセットとケーキだったから、今回はチキンのクリーム煮セットとケーキにしようかな」

「私はキッシュセットとケーキにするわ。ケーキはどれにしようかしら。葡萄のチーズケーキ、ショコラとナッツのケーキ、栗のパウンドケーキ……アップルパイも美味しそう!ドリィは何にする?」

「うーん。アップルパイ以外だな」

「あら?どうして?」

 ドリィは片眉をあげて、悪戯っぽい顔でいいました。

「アップルパイは、ルティが焼いたものが一番だからね」

「うふふ。嬉しい。帰ったら焼くわね」

「うん。ルティ、どうか毎年アップルパイを焼いて欲しい」

「え?」

 急に真剣な眼差しを向けられ驚いていると、ドリィの手が私の手を包みます。
 そして、左手の薬指に何かがはまる感触がしました。
 まさか……。

 ドリィの手が離れて私の手が見える。左手の薬指の上で、青と薄紅の輝きが煌めく。
 小粒ながら鮮やかな色彩を放つ宝石が二つ。銀の……指輪の上に並ぶ。ドリィと私の瞳の色。

「これ……婚約指輪?」

 そう、お互いの瞳色の宝石を使った指輪は、本来なら婚約式の時に互いの指にはめる婚約指輪。ドリィが今ここではめた意味は……。

「改めて伝えるよ。ルティ、俺と結婚してほしい。
 今回のようなことはこれからもあるだろう。俺も君も、色々と事情があるからな。
 だけど俺は君と一緒になりたいし、二人でなら乗り越えられると信じている」

 きゅうっと、愛しさで胸が一杯になる。
 もちろん、私の答えは決まってる。

「ドリィ。貴方の指輪をちょうだい。私の未来の旦那様の指にはめたいから」

 ドリィは私の大好きな眩しい笑顔で頷き、指輪を渡してくれた。そして私はドリィの左手の薬指に指輪をはめる。
 ……少しだけ時間がかかったのは、喜びと緊張で指が震えたせい。
 同じ輝きを指にして、私たちは見つめ合う。

「ドリィ。もちろん求婚を受けるわ。私と結婚して」

「ああ、結婚しよう。ルティ……」

「「「わあああ!おめでとうございます!!!」」」

「へ?」

「あっ……」

 店が揺れる大歓声に、ここが何処か思い出したの。

 わ、私たち人前でなんてことを!

 顔が熱い。ドリィもそう。きっと、ドリィも人前だということを忘れていたのね。もう!

 でもまあ、いいわ。色々と今更だし、手遅れだし。皆様、お祝いしてくれてるし。

「きゃー!プロポーズを生で見れるなんて素敵!」

「その指輪、婚約指輪ですよね?お二人によく似合ってるわ!」

「ご婚約おめでとうございます!お幸せに!」

 私はドリィをうながして席を立ち、晴れやかな気持ちで前を向く。

「ありがとうございます!婚約証明書の発行を受け、私たちは正式に婚約しました!これからも二人で幸せに生きていきます!」

 万雷の拍手が鳴り響く。幸せすぎて涙が出そう。



◆◆◆◆◆◆


ここまでお読み頂きありがとうございます。明日で第二部本編完結です。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

山猿の皇妃

夏菜しの
恋愛
 ライヘンベルガー王国の第三王女レティーツィアは、成人する十六歳の誕生日と共に、隣国イスターツ帝国へ和平条約の品として贈られた。  祖国に聞こえてくるイスターツ帝国の噂は、〝山猿〟と言った悪いモノばかり。それでもレティーツィアは自らに課せられた役目だからと山を越えて隣国へ向かった。  嫁いできたレティーツィアを見た皇帝にして夫のヘクトールは、子供に興味は無いと一蹴する。これはライヘンベルガー王国とイスターツ帝国の成人とみなす年の違いの問題だから、レティーツィアにはどうすることも出来ない。  子供だと言われてヘクトールに相手にされないレティーツィアは、妻の責務を果たしていないと言われて次第に冷遇されていく。  一方、レティーツィアには祖国から、将来的に帝国を傀儡とする策が授けられていた。そのためには皇帝ヘクトールの子を産む必要があるのだが……  それが出来たらこんな待遇になってないわ! と彼女は憤慨する。  帝国で居場所をなくし、祖国にも帰ることも出来ない。  行き場を失ったレティーツィアの孤独な戦いが静かに始まる。 ※恋愛成分は低め、内容はややダークです

29歳のいばら姫~10年寝ていたら年下侯爵に甘く執着されて逃げられません

越智屋ノマ
恋愛
異母妹に婚約者と子爵家次期当主の地位を奪われた挙句に、修道院送りにされた元令嬢のシスター・エルダ。 孤児たちを育てて幸せに暮らしていたが、ある日『いばら病』という奇病で昏睡状態になってしまう。 しかし10年後にまさかの生還。 かつて路地裏で助けた孤児のレイが、侯爵家の当主へと成り上がり、巨万の富を投じてエルダを目覚めさせたのだった。 「子どものころはシスター・エルダが私を守ってくれましたが、今後は私が生涯に渡ってあなたを守ります。あなたに身を捧げますので、どうか私にすべてをゆだねてくださいね」 これは29歳という微妙な年齢になったヒロインが、6歳年下の元孤児と暮らすジレジレ甘々とろとろな溺愛生活……やがて驚愕の真実が明らかに……? 美貌の侯爵と化した彼の、愛が重すぎる『介護』が今、始まる……!

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る

gacchi(がっち)
恋愛
両親亡き後、薬師として店を続けていたルーラ。お忍びの貴族が店にやってきたと思ったら、突然担ぎ上げられ馬車で連れ出されてしまう。行き先は王城!?陛下のお妃さまって、なんの冗談ですか!助けてくれた王宮薬師のユキ様に弟子入りしたけど、修行が終わらないと店に帰れないなんて…噓でしょう?12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】異世界からおかえりなさいって言われました。私は長い夢を見ていただけですけれど…でもそう言われるから得た知識で楽しく生きますわ。

まりぃべる
恋愛
 私は、アイネル=ツェルテッティンと申します。お父様は、伯爵領の領主でございます。  十歳の、王宮でのガーデンパーティーで、私はどうやら〝お神の戯れ〟に遭ったそうで…。十日ほど意識が戻らなかったみたいです。  私が目覚めると…あれ?私って本当に十歳?何だか長い夢の中でこの世界とは違うものをいろいろと見た気がして…。  伯爵家は、昨年の長雨で経営がギリギリみたいですので、夢の中で見た事を生かそうと思います。 ☆全25話です。最後まで出来上がってますので随時更新していきます。読んでもらえると嬉しいです。

処理中です...