【第1部、第2部完結】魔力無し令嬢ルルティーナの幸せ辺境生活

花房いちご

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第2部

第2部 43話 騒がしくも幸福な日々(第2部本編最終話)

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 あれから一ヶ月が経ちました。
 季節は冬の初め。日毎に寒さが増し、草木も彩りを失いつつあります。
 私とドリィは、ミゼール領で忙しくも楽しい日々を送っています。

 私は今日も、朝から夕方までポーションを作成しました。
 ミゼール城内のポーション作成室。大量の【新特級ポーション】を硝子瓶詰めし、一息つきました。

「ふう……。今日のポーション作成は終わったわ。早く終わったし、新しいハーブティーの開発を……」

 道具を片付けようとして……笑顔のシアンに阻まれました。

「ルルティーナ様、駄目です。これ以上は働きすぎです。片付けはポーション職人の皆様がしますし、ハーブティーの開発は後日にして下さい」

「そうですよ室長!」

「シアンさんの言う通りです。しっかり休んで下さい」

「で、でも、片付けもハーブティー作りも息抜きになるし……」

「駄目です。私と団長閣下は、ルルティーナ様が無理をしないよう監視……見守りを厳しくすると決めましたから」

「うう……ちょっとだけでも駄目?」

「んんっ!愛らしい!ですが駄目です!」

 シアンは一瞬、絆されそうな顔になりましたが、すぐに厳しい顔に戻りました。

「それに今から作業を始めると晩餐に間に合いませんよ。せっかく団長閣下とご一緒できる日だというのに、よろしいのですか?」

「あっ!そうだったわ!晩餐まで大人しくします!」

「ご理解頂けてよかったです。美味しいお茶を淹れますね」

 自室に戻り、まったりお茶を飲みます。シアンが淹れてくれたのは、翡翠蘭ジェードオーキッドハーブティーです。

「はぁ……美味しい。シアンって、本当にお茶を淹れるのが上手ね。特に翡翠蘭ハーブティーは、飲む度に美味しくなっているし、効力も上がっている気もするわ」

「……あの、ルルティーナ様。味と効力が良くなったのと、私の技術は関係ないと思われます」

「え?そうなの?」

「はい。そのことでご相談が……失礼」

 ドアがノックされて、シアンが対応します。

「ルルティーナ様、グルナローズ辺境伯閣下からお手紙が届きました」

「まあ!閣下から?火急のご用件かもしれないから今すぐ確認するわ」

 なんのお手紙かしら?
 お土産のお礼状はすでに頂いてます。まさか、グルナローズ辺境伯家でまた何か問題が……。

「え?」

 手紙を読んで固まりました。
 シアンにも読ませると「ああ、やはり」と、納得した様子です。

「これは、ドリィにも相談した方がいいわね」



 ◆◆◆◆◆◆



 晩餐の時間を遅らせて、手紙について話すことにしました。
 食堂のテーブルにて、私たちは向かい合って座っています。また、シアンもドリィの斜め後ろに立っています。
 グルナローズ辺境伯閣下からの手紙をまとめると、以下の内容になります。

【前グルナローズ辺境伯夫人の精神状態が復調した。パーレスの件で精神状態が悪化し衰弱していたが、今は生き生きと過ごされている。
 これも、ルルティーナ・プランティエ伯爵が土産に持たせた翡翠蘭ハーブティーのおかげに違いない。
 グルナローズ辺境伯家一同はいたく感激し、改めて礼をしたいと申し出ている。また、翡翠蘭ハーブティーの素晴らしさを周囲に喧伝している】

 手紙を読んだドリィが淡々と述べました。

「薬の女神様からの加護によって、翡翠蘭ハーブティーの効力が増した。その結果、心の傷を治せるようになった。
 グルナローズ辺境伯殿とご家族は、とても喜び感謝していて、周りに翡翠蘭ハーブティーの効力を広めている。
 と、いうことだね」

「そうなのだけど、ドリィもシアンも落ち着いてるわね?」

「まあ、こうなることは予想していたからな」

「ど、どうして?いつから気づいていたの?」

「確信したのは最近ですが、きっかけは【秋実の大祭】で、翡翠蘭ハーブティーが光った時です」

「俺たちは、新特級ポーションと翡翠蘭ハーブティーに新しい加護が加わったかもしれないと考えた。新特級ポーションは特に変化はないが、翡翠蘭ハーブティーについては効力の上昇が見られたので確信した」

「な、なんで教えてくれなかったの!?翡翠蘭ハーブティーが心を癒すことが広く知られれば、大騒ぎになってしまうのに!」

 そう、これまで治癒魔法もポーションも心の傷や疲労は癒せなかった。これが知られれば、騒ぎになるのは避けられないわ。

「すまない。ただ、俺とシアンも確信したのは最近だ。俺を含めて、俺たちの周りで翡翠蘭ハーブティーを飲んでいる者たちは心の傷だの病だのとは無縁なせいだな」

「ああ……それはそうよね……」

 私の身の回りで、翡翠蘭ハーブティーを一番愛飲しているのは、お義母様とイリスお義姉様。
 お二人とも快活で心がお強い。効力の上がった翡翠蘭ハーブティーを飲んでも、特に変化なかったのでしょう。
 私を含む他の人たちも似たようなものですし。

「責めるようなことを言ってごめんなさい」

「気にしないでくれ。ただ、一つだけ確認させて欲しい」

 青い瞳が真摯な輝きを放ち、私をとらえた。

「ルティ。仮定の話だ。
 俺たちが、【秋実の大祭】時点で翡翠蘭ハーブティーの効力が上がったことを確信し、君に教えたとする。
 その場合、君は騒ぎになることを避けるため、グルナローズ辺境伯殿に翡翠蘭ハーブティーを贈らなかったか?」

「まさか!効力が上がっているとわかっていたら、もっと沢山贈ったわ!
 ……あっ」

 ドリィは目を細めて頷いたわ。

「うん。それでこそ俺が愛した君だ。君は誰かを癒すためなら、君自身を危険にさらすことをいとわない人だ。
 そして、それは変えられない。俺もシアンも、【秋実の大祭】の件で思い知った。
 だから俺たちは覚悟したよ。これからもこういう事はあるだろうが対処してみせる。君を守る」

「ええ。それに、翡翠蘭ハーブティーの効力については誤魔化しがききます。
 あのハーブティーは、もともと心を安定させる効力がありますし、元魔境で栽培した翡翠蘭を使っています。何とでも言いようがあります。
 それに身体の傷と病と違って、心の傷と病は目に見えません。
 なにか言われたら『気のせいです』『思い込みによる錯覚です』『ハーブティーのお陰で体調が整ったからでしょう』と、言い張りましょう」

「そうだな。イリス殿たちシトリン商会にも話を通しておこう」

「国王陛下や大司教猊下にもご協力頂きますか?」

「わざわざ言う必要はないだろう。【秋実の大祭】の時のように、こちらに合わせて下さるさ。ルティ、こんな対応でいいかな?」

 呆然としていた私は、ドリィの問いかけに正気に戻った。

「え?あ、うん。……ドリィ、シアン、本当にいいの?私、二人に負担をかけて……」

「いいんだよ。俺たちは、ルティが好きなんだ。ルティには、心のままに生きて笑っていて欲しい。幸せでいて欲しい。
 それが俺たちの幸せなんだ」

「ドリィ……」

「ルルティーナ様、団長閣下の仰る通りです。
 ……危険なことをしたり、御身を蔑ろにしたら止めますし怒りますが」

「俺もだ。……いっそ、どこかに閉じ込めてしまいたくなる。【帝国】の動きもきな臭いしな……」

 ひっ!?ふ、二人とも目が本気だわ!

「も、もう少し慎重に行動するようにするわ!心配かけてごめんなさい!」

 涙目で叫ぶ私。二人は微笑み優しい声で話す。

「ルティ、安心してくれ。冗談だよ。……半分くらいは」

「ええ。ですから、そんなに怯えずともよろしいですよ?」

「あ、安心できない!半分は本気ってことよね?ドリィ、シアン、目を逸らさないで!」

「あははは!全部冗談だよ!ルティ!」

 ドリィは声を上げて笑いながら席を立ち、私の側まで来て……。

「きゃあ!?」

 私を軽々と抱き上げたわ!
 向かい合った状態で、片腕で私の背中を支え、もう片腕で両脚を支える態勢で!
 私はドリィを見下ろし、眩しい笑顔に釘付けになったの。
 ああ!ドリィの笑顔の明るさったら!黄金色の向日葵よりも、天に輝く太陽よりも眩しいわ!

「はは!俺とシアンは、ルティがどんなに心配でも閉じこめたりしないよ!
 ずっと不自由な思いをしていたルティには、自由に生きていて欲しいからね!」

「ドリィ……」

 私を尊重してくれる言葉が嬉しい。少し泣いてしまったわ。

「嬉しい。ドリィも心のままに生きてね。難しい時もあるだろうけど、私とシアンは何があってもドリィの味方よ」

「っ!ありがとうルティ!シアンはともかく君にそう言ってもらえれば百人力だ!」

「喧嘩売ってるんですか?浮かれ団長閣下」

「別に売ってない。被害妄想が過ぎるぞ。口煩い毒舌侍女殿」

「は?口煩い?自己紹介ですか?」

「あぁ?舌の毒が頭に回って耳が遠くなったか?」

「え?ど、ドリィ?シアン?」

 その後。ドリィとシアンが口喧嘩をはじめたので叱ってやめさせたり、ドリィが私を膝に乗せたまま食事をしたがったり、拒絶しきれなくて「あーん」と、食べさせあいっこしたり、シアンが呆れ返ったりしたの。
 とても疲れたし、色々と問題が山積みのままだけど……私は幸せ。

 だから今日も寝る前に、私は薬の女神様に祈りを捧げるの。

「この騒がしくも幸せな生活が、ずっと続きますように!」


 第2部 おしまい


◆◆◆◆◆


第2部本編完結いたしました。
番外編や続編を更新するかもしれませんが、一旦完結表示とさせて頂きます
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感想 3

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みんなの感想(3件)

かかし
2025.06.04 かかし

最近見つけました!続きが読みたいと思わせてくれる作品です!
楽しみです😊

2025.06.04 花房いちご

コメントありがとうございます!
続きを書くかは未定ですが、とても励みになります!

解除
operahouse
2024.08.21 operahouse

一度読んで気に入ったのに、お気に入り登録していなかったので、再度探すのに大変でした。

2024.08.22 花房いちご

コメントありがとうございます。お気に召して頂き嬉しいです。

解除
k
2024.07.31 k
ネタバレ含む
2024.07.31 花房いちご

感想ありがとうございます。公爵とルルティーナの元家族の末路は、かなり力を入れて考えて書いたので嬉しいです。

解除

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