異世界召喚のその裏で

杜野秋人

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06.四人目そして五人目

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 小説内で四人目の聖女が召喚された。
 その聖女の名前は「タカナ」。

 いやホントにタカナなのかよ!

 校内でも新たな失踪者が話題になってて、それで「タカナ」ちゃんの詳細も判明した。アタシは知らない子だったんだけど、飛香アスカと同じクラスの二年生で、名前は「多可奈」ちゃん。やっぱり飛香と同じで、下校途中に居なくなったんだそうだ。
 多可奈ちゃんの周囲は誰も例の小説を読んでいなくて、彼女も全くの無防備だったらしい。アタシが話を聞きに行って、例の小説も読ませると、多可奈ちゃんの友達たちは「えー!じゃあカナちゃんって異世界に召喚されたん!?」「マジか」「しかも聖女てwウケるw」「じゃあこの聖女アスカって、飛香ちゃんなん!?」ってちょっとした騒ぎになっちゃった。
 それでも何とか話を色々と聞き出してみたんだけど、どうも多可奈ちゃんのご両親が高菜が大好物らしくって、それで娘にも漢字変えただけの同じ名前を付けたんだって。いやご両親酷くない!?子供の世界って無邪気に残酷だから、漢字変えたって名前の響きとかだけでも結構からかわれるしイジメのきっかけにもなるんだよ!?

 なんて、今さらツッコんでみてももう遅いんだけど。あと多可奈ちゃんは別にイジメられたりとかはしてなかったらしくて、そこはひと安心。本人も名前のことは笑い話としてネタにしてたらしいし。
 まあカナちゃんて呼ばれてたみたいだし、そう呼ぶと響きが可愛くて。本人もまあまあ可愛かったそうだ。

 小説内で聖女タカナを召喚したのは「独裁国」だった。圧倒的カリスマだった初代王、作中では国家主席、略して主席って呼ばれてるけど、その初代からもう三代続けて国を牛耳ってるって設定で。
 なんかもう、その作中設定がいちいち現実のとある国を連想させちゃって、別に作中ではそんなに酷い感じでもなさそうなんだけど、なんとなく多可奈ちゃんが可哀想になってくる。そういや現実のあの国も大昔に日本人いっぱい拉致ったらしいし。いや多分関係はないと思うんだけど。

 独裁国は帝国と仲が良くて。合衆国が帝国に宣戦布告したから、それに対抗して帝国とともに戦う、って名目での聖女召喚。そして独裁国も合衆国に宣戦を布告した。
 こうなると合衆国側は1対2って事になって、一気に苦しくなっちゃった。合衆国の聖女サナタは相変わらず戦えない無理死にたくないって駄々こねてるし、神聖国の聖女アスカは相変わらずのんびり国内浄化の旅を楽しんでるし。
 ていうかさあ、この作品に出てくる9ヶ国って、平和的な外交交渉とかしてないの?大陸内にたった9ヶ国しかなくて、しかもどこの国も中央の湖からやって来る瘴気の魔物への対応に苦慮してるんでしょ?なんでお互いに協力しないのかなあ!?

「小説内の設定にいちいちツッコむとか、無駄なことしてんねー」
「いやそうだけど!分かってるけど!」

 夏葉ナツハにツッコまれて、つい反射的にそう返しちゃった。まあ確かに彼女の言う通りなんだけどさ、それでもやっぱ言いたくなるじゃん、幼馴染ふたりも拉致られた身としてはさ。

「てかさ、次ってナッちゃんじゃないの?」
「……は?」

 だってそうじゃん。四人目がタカ「ナ」なんだから、次は「ナ」で始まって「ハ」で終わる子、でしょ?

「おおう、そっか、ウチも該当者だったわ」
「いや気にしとらんやったんかい」

 もうこれだけ校内から失踪者召喚者出してるんだから、次もうちの高校の女子高生だって決まったようなもんじゃん!そして作中では国が9つあるんだよ?ってことはこのまま行けば全部で9人が失踪する召喚されるって事じゃん!
 ……いやまあ、「ナ○ハ」だったら他にも候補者がいるにはいるんだけどね。同じ二年生で、ひらがなで「なのは」って名前の子がさ。
 アタシ的には、顔見知り程度にしか知らないなのはちゃんより、同じクラスで仲もいいナッちゃんが召喚されちゃう方がダメージは確実にデカくなる。この小説読んで経過を見守ってる同志も、早苗多サナタが召喚されて以降はナッちゃんだけになっちゃったし。今さら他の子に小説読ませてに引き込むのも、それはそれで気が引けるし。
 多加奈ちゃんの友達連中には読ませたけど、あの子たちってギャル集団だったからあんまし仲良くなれそうにないし。

「お願いだから、ナッちゃんは召喚されないでね」
「必死かよw礼愛ライアちゃん顔がマジになってんだけど」

 そりゃ必死にもなるよ!独りぼっちになるのやだもん!



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



 とか何とかやってたある日、学校にナッちゃんが来なかった。朝のホームルーム前にアタシもクラスメイトも気付いて、「あれ、ナッちゃんって今日休み?」「誰かなんか聞いてない?」「知らなーい」なんてみんなでザワザワやってる中で、アタシだけが青褪めていたのに誰ひとり気付かなかった。
 その日は小説の更新日じゃなくて、小説内では5人目の召喚者はまだ現れてはいない。どうか違いますように。単なる風邪か何かで、明日か明後日か、「いやー休んじゃったゴメンゴメン」とか言いながらまたあの人懐っこい笑顔を見せてくれますように。

 そう、必死に願ったのに。
 更新日、五人目の聖女が召喚された。

 聖女の名前は、「ナツハ」だった。

「なんで……どうして……」

 ナッちゃんが失踪したなんて話は聞いてない。先生も「夏葉はまた休みかー」とか言ってるだけだし、クラスメイトの誰も何も心配してなくて。
 けど、絶対にこれは確定だ。だって聖女ナツハの召喚後第一声が「あちゃー、やっぱ次はウチだったかあ」だったんだもん。そんなのあらかじめ召喚されるかもって懸念を持ってて、実際に召喚されちゃわないと出てこないセリフじゃん!

 でも、ホントにどうなってるのこの小説。なんでうちの学校の子たちばっかり狙って召喚するわけ!?そしてなんでこうも現実とリンクしてるの!?
 分かんない。なんにも分かんない。怖い。
 ほんとマジで、誰が何のためにこんな事してんのよ!?それをわざわざ小説に書いたりして、敢えて見せつけてくる意図って何よ!?本っ当に意味分かんない!

 聖女ナツハを召喚したのは「共和国」。他の国みたいな中世的な王様とか貴族とかのいる国じゃなくて、国政選挙で選ばれる国会議員が互選して決める首相が国のリーダーになる、民主的な国だった。
 その意味ではナッちゃんはラッキーだったかも。身分制度のない国だから表向きは国民全員が平民扱いだし、ナッちゃんも平民だからって差別される心配がない。帝国の香亜紗カアサ先輩とか貴族の連中に影で馬鹿にされてるし、先輩が惚れてる皇太子も先輩には優しいけど裏では平民風情がとか言ってるし、聖女としてこき使い倒す気満々だもん。
 まあ身分制度がないと言えば早苗多サナタの合衆国もそうなんだけど、この国はシビアな実力主義社会みたいで、死にたくない家に帰してって相変わらず泣いてばかりのサナは次第に疎まれつつある。

 すっごいな予感がするんだけど、小説を読んでるだけのアタシには、何もできることがなかった。





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