麗しの暴君サマに愛され過ぎて困っています。

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【第1部 異世界転移】 第2章:性奴隷編

第1話②

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 心地良い風が部屋の中へと吹いてくる。この国では一部を除いて四季はない。通年を通して快適な気温のもと暮らせるそうだ。その分、二毛作などに適していて農業にはもってこいらしい。
 空は見事なまでの茜色。眼下に広がる城下町は賑やかな音に包まれている。
 座学の時間を終え、夕食までの時間。特にやることもなく今日も窓から外を眺めていた。
 外に出られない圭にとって、その喧噪は至極羨ましいものであった。
 城の中でも上層部に位置するこの部屋からは、城下町で動く人たちは小人のように小さくしか見えない。それでも複数人で楽しそうに話していたり、自由に走り回ったりしている人たちを眺めていると、一人ぼっちのこの境遇が空しくなる。
 きっと、この人たちはこの後、家に帰って家族と共に夕飯を囲むのだろう。
 和気あいあいとした実家での暮らしを思い起こして気が滅入った。賑やかで気兼ねのない食卓。その日、学校であったことなどを話し、それを祖父母はいつでも楽しそうに首肯しながら聞いてくれた。母の作る手料理も大好きだったし、末っ子の圭は割と自由にさせてもらえていたと思う。
 城で出てくる食事も別に不味いわけではない。むしろ相当高級な料理であろうことは想像に易い。
 しかし一人きり、部屋の中で食べることほど味気ないものはない。家でも学校でも、食事の時は絶対に誰かが傍にいた。たわいもない話をして、笑い合って。昼食時は弁当のおかず交換で大いにはしゃいだ。
 様々な料理が食べきれないほど出てきても、その感動を共有する人もいない。いつも一人黙々と咀嚼しては飲み込むばかりだった。
 窓枠に腰をかけたまま立膝をついた。コテリと膝頭に頭を乗せる。

「……良いなぁ……俺も……外出てぇ」

 もう何度呟いたか分からない。唇を尖らせながらジト目で城下を見る。ここにいれば衣食住には困らない。それどころか庶民の何倍も良い暮らしができているだろう。
 でも、ここには自由がない。楽しみがない。ただ生きて、身を差し出すだけの生活。

「こんなの、死んでるのと何が違うんだろうな……」

 自嘲の言葉は部屋の中へと入り込んでくる風に溶ける。
 ゆっくりと瞳を閉じた。思い出すのは彼と出会った翌日のこと。
 圭の生活のほぼ全てがこの小さな部屋の中で完結するようになってしまった、あの日。
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