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【第1部 異世界転移】 第3章:デート編
第5話①
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目覚めた圭がいたのは、暖炉のある温かな小屋の中だった。どうやらソファの上でうたた寝していたようだ。
『起きたかい?』
「マリア!」
ガバリと身を起こした。マリアは圭の対面のソファに優雅に座っている。互いのソファの間には低いテーブルが置かれており、その上にはホコホコと湯気の立ったティーカップが2つ。それに、テーブルの中央には菓子の乗った皿まで用意されていた。その皿の上の菓子を見て更に驚愕する。
「マカロンだ!」
この世界に来てからはお目にかかったことがない。それにマリトッツォやカヌレまで用意されている。
「すごい! 食べても良いの?」
『もちろん。全部ケイのために用意したのだから』
「やったー! いっただっきまーす!」
パステルピンクのマカロンを一つ口の中に放り込んだ。サクッとした独特の食感と口の中に広がる甘み。久々の味に頬が零れ落ちそうになる。
「うっまぁ~」
『それは良かった。用意した甲斐があるというもの』
「ねえ、次はティラミス食べたい!」
『分かった。用意しよう』
「やったー! ありがとう、マリア大好き」
『フフッ、可愛い童に好かれるのは悪い気などせんな』
ハクハクと菓子を口へと運んでいく。どれも丁寧に作られているのが分かる繊細な味だ。紅茶も奥深い味わいがして、ティーバッグやペットボトルしか飲んでいなかった舌には勿体ないくらいの品である。
『ケイは今日、何をして過ごしたんだい?』
「聞いちゃう~? あのね!」
そこから今日一日の冒険譚を話し始めた。秘密の通路や生誕祭で盛り上がる城下町の様子などを感想交じりで語り尽くす。
マリアはその話を至極楽しそうに相槌を打ちながら聞き続けていた。
『楽しかったかい?』
「うん! 超超超楽しかった!!」
『そうか、それは良かったな』
「また行きたいな。……それに、俺の地元の祭りも」
ティーカップを両手で握り締める。自分の言葉で少し落胆した顔が茶の表面に映っていた。
『……元の世界に帰りたいかい?』
「そりゃあ、帰りたいよ。……だって、ここは俺の住む世界じゃないもん」
『そうか……』
それまで賑やかだった部屋の中に沈黙が蔓延った。しばらく郷愁に耽っていたが、プルプルと頭を振る。
「ごめんね、マリア。暗いこと言っちゃって」
『いや、良いさ。たまには吐き出すことも大切だ』
「……うん、ありがとう」
マリアがティーポットを手に取った。意図を察してカップをソーサーの上へと置く。コポコポと注がれる茶色い液体。そして広がる紅茶の芳醇な香り。
「ねえ、マリアはずっとここに一人でいるの?」
『まあ、そうだね』
「寂しくない?」
『寂しい、か……。そんな感情、とうに忘れてしまったよ』
「え?」
『そうでもなければ、やってられないだろう?』
「あっ……そっか……」
あまりにも寂しい答えに胸が痛くなる。立ち上がり、マリアの座るソファの後ろへと回った。
そして、そっとその首を抱き込んだ。
「寂しかったら俺に言ってね。話し相手くらいにしかなれないけど、俺いつでも来るから」
『……ありがとう、ケイ』
フワリと頭を撫でられる。心地の良い感触に思わず笑みが零れた。
『私だけじゃない。ケイのその優しさで、他にも憂う相手がいたら優しくしておやり』
「うん、分かった。約束な」
右手の小指を立てて差し出し、マリアの手をとる。そして小指同士を絡ませた。
『これは?』
「指切げんまんって言ってな? ……」
『起きたかい?』
「マリア!」
ガバリと身を起こした。マリアは圭の対面のソファに優雅に座っている。互いのソファの間には低いテーブルが置かれており、その上にはホコホコと湯気の立ったティーカップが2つ。それに、テーブルの中央には菓子の乗った皿まで用意されていた。その皿の上の菓子を見て更に驚愕する。
「マカロンだ!」
この世界に来てからはお目にかかったことがない。それにマリトッツォやカヌレまで用意されている。
「すごい! 食べても良いの?」
『もちろん。全部ケイのために用意したのだから』
「やったー! いっただっきまーす!」
パステルピンクのマカロンを一つ口の中に放り込んだ。サクッとした独特の食感と口の中に広がる甘み。久々の味に頬が零れ落ちそうになる。
「うっまぁ~」
『それは良かった。用意した甲斐があるというもの』
「ねえ、次はティラミス食べたい!」
『分かった。用意しよう』
「やったー! ありがとう、マリア大好き」
『フフッ、可愛い童に好かれるのは悪い気などせんな』
ハクハクと菓子を口へと運んでいく。どれも丁寧に作られているのが分かる繊細な味だ。紅茶も奥深い味わいがして、ティーバッグやペットボトルしか飲んでいなかった舌には勿体ないくらいの品である。
『ケイは今日、何をして過ごしたんだい?』
「聞いちゃう~? あのね!」
そこから今日一日の冒険譚を話し始めた。秘密の通路や生誕祭で盛り上がる城下町の様子などを感想交じりで語り尽くす。
マリアはその話を至極楽しそうに相槌を打ちながら聞き続けていた。
『楽しかったかい?』
「うん! 超超超楽しかった!!」
『そうか、それは良かったな』
「また行きたいな。……それに、俺の地元の祭りも」
ティーカップを両手で握り締める。自分の言葉で少し落胆した顔が茶の表面に映っていた。
『……元の世界に帰りたいかい?』
「そりゃあ、帰りたいよ。……だって、ここは俺の住む世界じゃないもん」
『そうか……』
それまで賑やかだった部屋の中に沈黙が蔓延った。しばらく郷愁に耽っていたが、プルプルと頭を振る。
「ごめんね、マリア。暗いこと言っちゃって」
『いや、良いさ。たまには吐き出すことも大切だ』
「……うん、ありがとう」
マリアがティーポットを手に取った。意図を察してカップをソーサーの上へと置く。コポコポと注がれる茶色い液体。そして広がる紅茶の芳醇な香り。
「ねえ、マリアはずっとここに一人でいるの?」
『まあ、そうだね』
「寂しくない?」
『寂しい、か……。そんな感情、とうに忘れてしまったよ』
「え?」
『そうでもなければ、やってられないだろう?』
「あっ……そっか……」
あまりにも寂しい答えに胸が痛くなる。立ち上がり、マリアの座るソファの後ろへと回った。
そして、そっとその首を抱き込んだ。
「寂しかったら俺に言ってね。話し相手くらいにしかなれないけど、俺いつでも来るから」
『……ありがとう、ケイ』
フワリと頭を撫でられる。心地の良い感触に思わず笑みが零れた。
『私だけじゃない。ケイのその優しさで、他にも憂う相手がいたら優しくしておやり』
「うん、分かった。約束な」
右手の小指を立てて差し出し、マリアの手をとる。そして小指同士を絡ませた。
『これは?』
「指切げんまんって言ってな? ……」
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