63 / 147
【第1部 異世界転移】 第6章:別れ編
第8話①
しおりを挟む
「ねーちゃん、吉田淳一って人知ってる?」
「そりゃ、あいつ有名人だもん。知ってるけど?」
「……どんな人?」
「えー? どんなぁ??」
リビングのソファに寝転がりながらスマホを弄っていた姉の智子が眉間に皺を寄せながら天井を眺めた。
「まあ、家は太いし見た目は良いけど、根本的にキモくてマジ無理」
ズバリと言い切った姉の言葉に圭は目をまん丸にして凝視する。
「家が太いってどういうこと? それに、キモいって」
「圭だって吉田建設くらい知ってるでしょ?」
姉の言葉に首肯する。吉田建設と言えば、国内でも屈指の大手ゼネコンである。携わる業種は本業以外にも多岐に渡り、日本人でこの会社の名前を知らないという人の方がよほどの世間知らずだろう。
「あいつ、あそこの御曹司なのよ。つまり、超金持ち。で、あの顔だから確かに最初の頃は良い玉の輿に乗れそうかもって思ったこともあったけど、あいつドルオタだからマジキモくて私には絶対無理。それに、あいつだって私みたいなタイプより可愛い系の方が好きみたいだから根本的に相いれない。ってか、そもそも論として、何かやべぇ感じがすんのよね~」
「ヤバいって? どんな?」
「一見、紳士ぶっては見えるんだけど、まず、あの笑顔がうさん臭い。あの手のタイプは絶対ヤバい性癖とか持ってるって女の勘が働いた」
智子は右のこめかみを人差し指でトントンと軽く叩きながらジト目で圭を見てくる。その目が何かを探っているような気がしてドキリとする。
横になってダラダラモードを満喫していた姉がソファに座る。ジッと半眼で睨まれ、居た堪れなくなってきた。
「てか、何で圭があいつの名前知ってんのよ」
「あっ! 俺、かーちゃんに風呂入れって言われてるんだった!」
急に思い出したかのように振る舞い、リビングから飛び出した。背後からは圭を呼び止める智子の声が聞こえていたが、部屋へと戻ることはなかった。
自室からパジャマと下着を手にして脱衣所へと駆け込む。一気に服を脱ぎ捨て、浴槽に浸かった。今日の入浴剤は青く澄んだハーブ系の香りを持つ母と姉のお気に入りのもの。心休まる香りに癒される。
(ねーちゃん、勘が良いからこえーんだよなぁ)
鼻の下まで湯に浸かり、ブクブクと泡を立てる。そして一つ溜め息を吐いた。
淳一からは今週末も呼び出しがかかっていた。流石に先週のように人前に出されるのは困ると苦情を入れると、今週は誰も呼ばないから安心してほしいとの旨が返ってきた。
心底行きたくはなかったが、弱みを握られている立場としては行かざるを得ない。まだ他人がいないのだからと自分を宥めすかした。
呼び出されているのは国内でも屈指の高級ホテル。その最上階に位置するスウィートルームだというのだから、金持ちの考えることはよく分からない。
しかし、姉が言っていた吉田建設の御曹司というのなら納得はできる。淳一が端々で見せる庶民との金銭感覚のズレは育ってきた環境の違いなのだろう。
ふと、アレクのことを考えた。彼も皇帝という立場にありながら、そこまでひどく金銭感覚がおかしいと思ったことがなかった。
圭にとって、あの世界での金の感覚というのがあまりなかったため、そんなに今の世界との比較はできない。それに使用人の数や豪華な城、そして調度品の数々は普通ではないと思う。もちろん、アレク自身も身なりの良さは際立っていた。
だが、金に糸目を付けずに珍品や貴重品などを買い漁ったり、豪遊したりしているような素振りは見られなかった。
むしろ彼は物に頓着などしていなかったし、基本的にいつも働いてばかりいた。
淳一の部屋にいた時、仲間内で盛り上がっている際に見せられた、推しであろうアイドルグループのグッズの数々などは尋常ではなかった。一体いくらつぎ込んだのか怖くなるくらいの量だったから。
それに比べて、アレクにはこだわりというものが見られなかった。
強いて言うなら圭への執着くらい。
しかし、淳一のように圭を自分好みに着飾るようなこともなく、ただ一緒にいられればそれで良いというスタンスだった。
思い出して心がズシリと重くなる。あんなに酷いことをしてきた人だというのに。
それでも圭のことを殴るようなことはなかった。淳一から受けた暴力を反芻してゾッとする。
(やだなぁ……今度は何させられるんだろう……)
重い溜め息を吐き出した。会うたびに彼には幻滅ばかりする。メールのやり取りも相変わらず多くて圭の生活の負担になっていた。
(こんな生活、いつまで続くんだろう)
浴室の天井へと首をのけ反らせた。柔らかい暖色系の明かりが柔らかく室内を照らしている。
淳一のことを考えると胃がシクシクと痛む。さっさと寝たかったが、きっと今夜も延々とメールでのやり取りをさせられるのだろう。
これが自分の取り戻したかった日常なのだろうか。最近、悩むことが増えた。
学校は相変わらず好きだ。それに、自宅も家族も嫌なところはない。
今、最も気がかりでならないのは毎夜夢に出てくるアレクのこと。気にしないようにしていても、どうしても頭の中で考えてしまう。
悶々としたまま今日もまた夢の中で見るのだろう。
せめて少しでも触れられたら良いのにと思いながら。
「そりゃ、あいつ有名人だもん。知ってるけど?」
「……どんな人?」
「えー? どんなぁ??」
リビングのソファに寝転がりながらスマホを弄っていた姉の智子が眉間に皺を寄せながら天井を眺めた。
「まあ、家は太いし見た目は良いけど、根本的にキモくてマジ無理」
ズバリと言い切った姉の言葉に圭は目をまん丸にして凝視する。
「家が太いってどういうこと? それに、キモいって」
「圭だって吉田建設くらい知ってるでしょ?」
姉の言葉に首肯する。吉田建設と言えば、国内でも屈指の大手ゼネコンである。携わる業種は本業以外にも多岐に渡り、日本人でこの会社の名前を知らないという人の方がよほどの世間知らずだろう。
「あいつ、あそこの御曹司なのよ。つまり、超金持ち。で、あの顔だから確かに最初の頃は良い玉の輿に乗れそうかもって思ったこともあったけど、あいつドルオタだからマジキモくて私には絶対無理。それに、あいつだって私みたいなタイプより可愛い系の方が好きみたいだから根本的に相いれない。ってか、そもそも論として、何かやべぇ感じがすんのよね~」
「ヤバいって? どんな?」
「一見、紳士ぶっては見えるんだけど、まず、あの笑顔がうさん臭い。あの手のタイプは絶対ヤバい性癖とか持ってるって女の勘が働いた」
智子は右のこめかみを人差し指でトントンと軽く叩きながらジト目で圭を見てくる。その目が何かを探っているような気がしてドキリとする。
横になってダラダラモードを満喫していた姉がソファに座る。ジッと半眼で睨まれ、居た堪れなくなってきた。
「てか、何で圭があいつの名前知ってんのよ」
「あっ! 俺、かーちゃんに風呂入れって言われてるんだった!」
急に思い出したかのように振る舞い、リビングから飛び出した。背後からは圭を呼び止める智子の声が聞こえていたが、部屋へと戻ることはなかった。
自室からパジャマと下着を手にして脱衣所へと駆け込む。一気に服を脱ぎ捨て、浴槽に浸かった。今日の入浴剤は青く澄んだハーブ系の香りを持つ母と姉のお気に入りのもの。心休まる香りに癒される。
(ねーちゃん、勘が良いからこえーんだよなぁ)
鼻の下まで湯に浸かり、ブクブクと泡を立てる。そして一つ溜め息を吐いた。
淳一からは今週末も呼び出しがかかっていた。流石に先週のように人前に出されるのは困ると苦情を入れると、今週は誰も呼ばないから安心してほしいとの旨が返ってきた。
心底行きたくはなかったが、弱みを握られている立場としては行かざるを得ない。まだ他人がいないのだからと自分を宥めすかした。
呼び出されているのは国内でも屈指の高級ホテル。その最上階に位置するスウィートルームだというのだから、金持ちの考えることはよく分からない。
しかし、姉が言っていた吉田建設の御曹司というのなら納得はできる。淳一が端々で見せる庶民との金銭感覚のズレは育ってきた環境の違いなのだろう。
ふと、アレクのことを考えた。彼も皇帝という立場にありながら、そこまでひどく金銭感覚がおかしいと思ったことがなかった。
圭にとって、あの世界での金の感覚というのがあまりなかったため、そんなに今の世界との比較はできない。それに使用人の数や豪華な城、そして調度品の数々は普通ではないと思う。もちろん、アレク自身も身なりの良さは際立っていた。
だが、金に糸目を付けずに珍品や貴重品などを買い漁ったり、豪遊したりしているような素振りは見られなかった。
むしろ彼は物に頓着などしていなかったし、基本的にいつも働いてばかりいた。
淳一の部屋にいた時、仲間内で盛り上がっている際に見せられた、推しであろうアイドルグループのグッズの数々などは尋常ではなかった。一体いくらつぎ込んだのか怖くなるくらいの量だったから。
それに比べて、アレクにはこだわりというものが見られなかった。
強いて言うなら圭への執着くらい。
しかし、淳一のように圭を自分好みに着飾るようなこともなく、ただ一緒にいられればそれで良いというスタンスだった。
思い出して心がズシリと重くなる。あんなに酷いことをしてきた人だというのに。
それでも圭のことを殴るようなことはなかった。淳一から受けた暴力を反芻してゾッとする。
(やだなぁ……今度は何させられるんだろう……)
重い溜め息を吐き出した。会うたびに彼には幻滅ばかりする。メールのやり取りも相変わらず多くて圭の生活の負担になっていた。
(こんな生活、いつまで続くんだろう)
浴室の天井へと首をのけ反らせた。柔らかい暖色系の明かりが柔らかく室内を照らしている。
淳一のことを考えると胃がシクシクと痛む。さっさと寝たかったが、きっと今夜も延々とメールでのやり取りをさせられるのだろう。
これが自分の取り戻したかった日常なのだろうか。最近、悩むことが増えた。
学校は相変わらず好きだ。それに、自宅も家族も嫌なところはない。
今、最も気がかりでならないのは毎夜夢に出てくるアレクのこと。気にしないようにしていても、どうしても頭の中で考えてしまう。
悶々としたまま今日もまた夢の中で見るのだろう。
せめて少しでも触れられたら良いのにと思いながら。
140
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます!
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる