麗しの暴君サマに愛され過ぎて困っています。

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【第1部 異世界転移】 第6章:別れ編

第10話①

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 顔中で感じるくすぐったさ。こそばゆくなり、フフッと笑う。
 まどろみの中で揺蕩っていた意識が浮上する。重い瞼を持ち上げた。美しい顔で視界が埋まる。
 その顔は何度も圭の顔に触れるだけの軽いキスをしていた。笑いながら彼の頬に手を添える。

「くすぐったい」
「起きたか」

 チュッと最後に額に唇を当てると、唇同士を重ねてきた。起き抜けの濃厚なキスは寝ぼけた頭を更に蕩けさせる。
 やっと離してもらえた時には軽く息が上がっていた。

「アレク、やりすぎ」
「どれだけ離れていたと思っている。全然足りないくらいだ」
「あっ」

 アレクの指が一本、圭の後孔へと挿し込まれた。昨夜、剛直を飲み込み続けた場所は難なく侵入者を受け入れる。

「だ、め……あれく……いっぱい……した、じゃん」
「あの程度でいっぱい? 冗談だろう? ケイはすぐに落ちたし、俺のは物足りないとずっと言っているぞ」
「あっ」

 指で後孔をかき回されながら性器を押し付けられた。いつでも臨戦態勢を整えている屹立が圭の性器と擦られる。出す物などない圭の性器はフニャリと硬度を失ったままだった。

「むり……おねが、ちょっと、休ませて……」
「……仕方ない」

 アレクの性器が離れていく。ホッとしつつも、中に挿入されたままの指は引き抜かれる気配がない。ただ、動かずじっとしてくれているため、まだ刺激としては緩かった。

「アレク、ちょっとだけ聞いてもらっても良い?」
「ケイの言うことなら何でも」

 緩く首肯される。アレクの穏やかな顔を見て、今なら何でもきちんと聞いてもらえそうな気がした。

「俺、ずっとアレクに無理矢理されてばっかで、嫌になってたんだ。そしたら、元の世界に戻れた。最初は嬉しかったんだけど、実は寝る度にアレクの事が夢に出てきたんだ。で、見続けるごとに、どんどん心がしんどくなって」
「ケイも……なのか?」
「え?」

 大きく見開かれたアレクの瞳に凝視される。思ってもいなかった言葉に圭自身も同様に目をまん丸にした。

「ケイがいなくなってからずっと、俺の夢の中にもケイが見えた」
「アレクも?」

 鷹揚に頷かれる。その事実にも驚愕した。

「最初はケイがいなくなったことで、俺の頭が作り出した幻覚かと思っていた。だが、ケイが話していた見たことのない乗り物や、家族だろう者たちを見て想像力で補えるものでないと分かった。だから、きっと、これはケイが今いる場所なのだろうと結論づけた」

 後孔から指を引き抜かれ、ギュッと両手で強く抱き締められた。苦しいくらい、強く。

「あれく……」
「ケイは……あまり幸せそうじゃなかった。俺から解放されて元の世界に戻れば、ケイは幸せになれると思ってたのに。むしろ、なぜそこに俺がいないのか。悔しくて堪らなかった」

 耳元で懺悔のように零される言葉たち。胸が強く引き締められる。圭もアレクの背へと腕を回し、強く抱き締めた。

「俺も……何でアレクが苦しんでるのに、俺が傍にいないのか、ずっと悔やんでた。アレクがどんどん前みたいになっちゃって、周りの人も離れちゃって。すっごく苦しくて。でも、離れたいって望んだのは俺で。何もできないのが嫌でしょうがなかった」

 ずっと胸の内に抱え続けてきた葛藤。誰にも打ち明けられず、悶々としていたことをやっと吐き出せた。胸のつかえが取れたような気がして楽になる。

「ねえ、アレク、どうしてまた人を殺したりしたの?」

 それはずっと頭の片隅で考え続けていたことだった。アレクが訳もなく人を殺めるはずがない。そう信じていたかった。

「あれは……言われたから……」
「何を?」
「ケイを、忘れろと。代わりなどいくらでもいると。そう言われて、カッとなった」

 アレクが圭の肩へと額を擦り付けた。その言葉を聞き、また胸が締め付けられる。結局は圭の行動によって起きたことだと思うと、自責の念に駆られる。

「俺にとって、ケイに代わる者などいるはずもない。これまでも、これからも。ずっとケイだけだ。それを侮辱するようなことを言われて、許すことなんて到底できなかった。……今思えば、俺の短絡的な行動だったと恥じている。ケイがいないと、俺は自分を律することすらできない」
「違うよ。俺がアレクの傍を離れたのが悪いんだ。アレクは悪くない。俺のせいだ。そんなに自分を責めないでよ」

 好きな相手を追い詰めたくはない。好きな人には、ずっと幸せであってほしい。ポンポンと背中を軽く叩きながら言い聞かせた。アレクは圭の肩口に顔を埋めたまま首を横に振った。

「違う。俺の未熟さが招いたことだ。嫌がるケイに無理強いをしたのも。……失いたくなかった。失ってしまえば、何もかもが壊れる気がして怖かった。その結果がケイの見た通りだ。愚かだろう? せめて笑い飛ばしてくれ」

 アレクが圭を抱きしめる手に力を籠める。その手は小さく震えていた。
 こんな告白をされて笑える人間などどこにいようか。愛おしくて堪らない。ずっと胸が疼いていた。
 好きが溢れて止まらない。全身でアレクを好きだと叫びたかった。

「じゃあさ、どっちも悪いことにしよう? それでおしまい。それにアレクと離れてみて、俺、ちゃんとアレクのことが好きだって気付けた。多分ずっとここにいたままだったら気づけなかったと思うんだ。だから、これは必要なことだったって思おう? 俺は今、アレクのことがすっごく大切だし、本当に心の底から大好きだって思ってる。それに、こうしていられる今がすっごく幸せだよ?」

 アレクの肩口に圭も顔を押し当てた。彼の纏う爽やかな香りに汗の匂いが混じっている。あのまま互いに寝落ちてしまったのだろうか。フフッと笑みが零れた。

「ケイ、これから先、死ぬまで俺と一緒にいてくれるか?」
「当たり前じゃん。だって、どうせ俺がやだって言ってもアレクが許さないだろ?」
「当然だ」
「じゃあ、二人でずっと幸せになれるようにしなくちゃだね」

 アレクが肩から離れたのに気付き、圭も顔を上げる。蕩けたように幸せそうな笑みを浮かべる相手を見て、自然と圭の口角も上がった。

「愛してる、ケイ」
「俺も。愛してるよ、アレク」

 唇同士が自然と重なった。熱い舌が入り込んでくる。口内から漏れるクチュクチュという水音が部屋に響いた。
 しばらくの間、口づけを楽しむ。息苦しくなってきた頃になって、ようやく離された。唇は互いの唾液に塗れて濡れそぼっている。銀糸が唇を繋ぎ、ある程度の距離まで来たところでプツリと切れた。

 ほんの数か月前まではこんな卑猥なキスなんて知らなかったのに。それどころか、キスすらしたことなんてなく、夢に抱く程度だった。
 それが今や当たり前のように口づけを交わし、深く交わる仲になる人ができるなんて。本当に人生は分からない。

 しかし、だからこそ面白いのかもしれない。
 目の前の愛しい人と一緒なら、どんなことでも乗り切っていけると思えるから。

 アレクの美しい顔にうっとりしながら頬を緩めていた時だった。

「それはそれとして、ケイとまた会ったら確認しなければならないことがあったな」
「んー、何?」
「あの男は何者だ?」
「え?」

 ギクリと体が強張った。綺麗に笑うアレクのこめかみに青筋が浮いている。ガシリと肩を掴まれた。その手にも溢れんばかりの怒りからか、甲に筋が浮いている。それに、ワナワナと震えているのは気のせいではないだろう。

「あの~、アレクさん? 俺、肩、痛いな~なんて……」
「答えろ」
「あだだだだだ」

 ギリギリと肩に爪を立てられ、思わず悲鳴が漏れた。さすがに圭の声を聞いて力を弱めてくれたものの、離してくれそうな素振りはない。

(やっべ~! 超怒ってんじゃん!)

 ダラダラと冷や汗を流す。圭同様に離れていた時の互いの様子を見えていたというのなら、どれもこれも見えていたのだろう。圭と同じであったというのなら、日々の全てを見えていたという訳ではないだろうが、あれだけ淳一に時間を割いたのだから、ごまかしようがない。
 その前に、もう彼との間に隠し事や嘘はなくそうと誓ったばかりだ。

「ええっとぉ~、あいつは、……ん~、何て言うか、俺も不可抗力としか言えないし、脅されてあんなことになってたって言うか~」
「何度殺してやろうと思ったことか。……そうか、脅迫されてか。どう殺しても殺したりないな。ありとあらゆる拷問にかけて生まれてきたことを後悔させた後、できうる限り長く苦しめてから殺して、親族に至るまで同じ目に遭わせてやらねば……」
「うお~! ストップー!! ってか、肩! いってーよ!!」

 鬼神の表情をしたアレクに掴まれた肩に力を籠められ、涙目になった。あまりの痛さに肩から腕を引き剥がす。掴まれていた場所は手形の形で真っ赤になっていた。

「大丈夫! もうあいつには俺がちゃんと鉄槌を喰らわせておいたから!」

 思い切り蹴り上げてやった股間はさぞや痛かっただろう。あんなのを喰らえば暫くは動けないはずだ。

「それに俺だってやられっぱなしって訳じゃねーし。やられたらやり返すからな! ってビシーッと言ってやったし、多分大丈夫だと思う!」

 親指を立ててドヤ顔を作る。実際、暴露されて困るのは圧倒的に淳一の方だ。具体的な方法などは全然考えつかないが、それこそ姉や兄に相談すれば良いだろう。特に頭の良い姉はこういった類のことを考えつく天才だ。きっと何か方法を見つけてくれるに違いない。
 その前に、こうしてまたアレクの元に戻って来たのだから、そんな必要もないのだが。

「……そうか。ケイがそう言うのなら今は不問にするとしよう。だが、もしも会う機会があったなら、その時は必ずや八つ裂きにしてやる」

 ギリギリと奥歯を噛みしめ、般若の形相をするアレクの頬を両手で包み込んだ。

「わ~! アレク落ち着けって! カッコいい顔が台無しだぜ?」

 チュッと鼻先にキスをした。続いて頬、そして瞼の上と、至る所に唇を触れさせる。
 憤怒に塗れていた顔から怒りの表情が薄れていく。そのことにホッとしながら逞しい体躯をギュッと抱き締めた。

「あんな奴のこと忘れたい。せっかくアレクといるのに、他の奴の話なんてしたくない」
「ケイ……」

 抱き締め返され、彼の香りに包まれる。ホワッと心が温かくなった。
 淳一の話をされてモヤモヤしていた胸があっという間にアレクに染められる。好きと自覚してからの胸の内を占めるアレクの存在感は圧倒的だ。スリッと彼の肌に頬を擦り付ける。滑らかな肌の感触が心地良い。うっとりと幸福感に浸かっていた時だった。

「ただ、あともう一つだけ確認しなければな」
「えー? まだあんの~? もうイチャイチャしようよ」
「いや、これだけは聞いておかないと絶対にこれから先も気になって仕方ない」
「分かったよ。じゃあ、それだけね?」

 溜息を吐きながら抱擁を解いた。真剣な表情のアレクと向き合う。美形の真顔は少し怖い。

「あの女は何者だ?」
「女? ねーちゃんのこと?」
「違う。ケイとキスをしていた奴のことだ」

 喉がヒュッと鳴る。背筋がピンと伸びた。再び滝のように冷や汗が流れる。

「えーっと、ナンノコトデショウカ?」
「公衆の面前でしていたな。あの女とは、そういう仲なのか?」
「違う違う! 断じてちがーう!! あれは王様ゲームっていう遊びの中で命令だったからしただけで……」
「ほう? 王様ゲームか。なら、皇帝である俺の命令も当然聞いてもらえるよな?」

 アレクが目を細めて意地悪く笑った。怒っている。それも、とてつもなく。
 真由美とのキスについては、もう言い訳のしようもない。いくらゲームだったとは言え、きちんとその場で断れなかった圭自身に落ち度がある。

「ごめんなさい……」
「きちんと謝れるのは良いことだ。だが、自らの行いには相応の報いというのがあって然るべきだろう?」
「は、はいぃ……」

 有無を言わせない態度が怖い。今まで経験してきた数々が思い出され、フルリと体が震える。
 そんな圭をアレクは穏やかな手付きで後頭部を撫でた。

「あのぉ……お手柔らかに、お願いしますね?」
「俺が大切なケイに酷いことをするはずないだろう?」

 綺麗に笑う顔が本当に怖かった。
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