麗しの暴君サマに愛され過ぎて困っています。

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【第2部 ヘルボルナ大陸】 第5章:秘密のお出かけ編

第1話①

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 目覚めた時、柔らかな布団の中に埋もれていた。掛け布団を捲り、上半身を起こす。キョロキョロと辺りを見回すも、圭以外は誰もいなかった。

 昨夜はアレクの帰りをソファで待っていた。横になってからの記憶がないから、きっとそのままそこで寝てしまったのだろう。
 しかし、今、圭はベッドの上にいる。しかも、外出時に来ていたワンピースのままで化粧も落とさず眠ってしまったはずなのに、きちんと寝巻に着替えている。顔のごわつきもないから、きっと化粧も落としてくれているのだろう。

 こんなことをしてくれるのはアレクしかいない。従者たちは許可なく部屋の中には入れないし、勝手に圭に触れようものならアレクが許しはしないことを分かっている。起こされることはあったとしても、触ろうという猛者などいない。
 でも、その肝心のアレクが見当たらないのだ。多分、戻ってきたのだろうことだけは分かるが、姿が見えなければ昨夜の不安が蘇ってくる。

 ベッドを降りて寝室を出た。居室の方へと足を運んでみたが、そこにもアレクの姿はなかった。
 廊下へと繋がる扉を開けてみると、両側に衛兵がいてギョッとする。聞いてみると、船の中での落下事故を受けてから、ずっと部屋の中に圭たちがいる時には扉の外に衛兵が待機をしているらしい。アレクの所在を聞けば、既に会議へと赴いているそうだ。

 どうやら、随分と長い時間寝こけてしまっていたようだ。昨日、一日中城下を歩き回ったことに加えて、もしかしたらここまでの旅の疲れもあるのかもしれない。シルヴァリアではずっと城の中にいたのに、この旅行に出てからというもの、毎日新鮮な驚きで溢れているのだから。

 朝食の手配だけを頼み、また部屋の中へと戻る。下手にウロウロして、また誰かに迷惑をかけてしまうのも忍びない。
 運ばれてきた朝食を食べていたが、やっぱり一人では味気なかった。

 そう言えば、一人きりでの食事は久しぶりだ。アレクはどんなに忙しくても食事は共にしてくれることがほとんどだった。圭が一人での食事が寂しいと言っていたのを気にしてくれているのだ。

 圭のためにと多分量を減らし、代わりに種類を多めに用意してくれたであろう朝食はどれも美味しい。
 でも、一緒に食べてくれる人がいないとつまらない。会話をする人がおらず、ただ黙々と食べるのみになってしまうから。

(今日のこと、ちゃんとアレクに言っておきたかったのにな……)

 サラダを咀嚼しながらしょぼくれる。一応、出かけるのであれば許可は得ておきたかった。もう会議が始まってしまっていると言っていたから、そう簡単に会うことなどできないだろう。どうしようか少し迷ったが、元はと言えばアレクがさっさと戻って来なかったのが悪いのではないかという結論に行きつく。

(そうだよ、そもそも、あんな綺麗な人とずっと何してたってんだよ)

 今度は徐々に苛立ちが募ってきた。あれだけの美女と一緒にいて、変な気など起こさないという確信なんて全く持てない。それは男として生まれた性だ。恋愛経験のほぼない圭ですらドキドキしたのだ。もしもあんな美しい人から良からぬ誘いを受けたら、断れる自信がない。
 アレクが何時に帰ってきたのかは分からないが、伴侶を放って他の女の人と夜までずっと一緒にいるなんて言語道断だ。

(いや、もうこれ、絶対不倫だろ!)

 フォークを握っていた手に力を込める。何をしたら不倫と言えるのかなんて全く分からないが、相手が不倫だと思ったらもうダメだと勝手に結論づける。
 カップに注がれていた茶をゴクゴクと飲み干し、少し乱雑にテーブルへと置いた。

(もう怒った! そっちがその気なら、俺だって勝手にするから!!)

 平らげた朝食の皿を下げてもらい、大量の服や装飾品などが持ち込まれた部屋の扉をイライラしながら開く。これらの服だって、絶対にこんなにいらない。何の相談もなしに、勿体ないとしか思えない。
 確かに、服を汚して着替えることもあったから役に立ったことは否めない。でも、そんなのはイレギュラーだ。

(こんなにあったって、ほとんどは着ないで持って帰るんだからな! 持って帰らされる人たちの身になれ! 大変だろうが!)

 ぷりぷりと怒りながら箱から服を出していく。様々な形の服があり、よくもこんなに買い揃えたものだと呆れてくる。
 しかし、5枚目の服の箱を開けたところで動きを止めた。

(でも……これ全部、俺のために……なんだよな……)

 アレクが忙しくしていたのは傍で見ていたからよく知っている。圭もこの旅行が決まってから多忙を極めていたが、アレクの忙しさは圭の比ではなかった。そんな中、用意してくれたのだろう。楽しそうに選んだり指示したりしているアレクの姿が易々と想像できる。

 持ち帰る人のことを考えろと言ったところで、アレクが会議に出席しないデメリットの方が大きい。出席してもらうためなら、これらの荷物を運ぶ程度の労力はシルヴァリアのような大国に何ら影響がないことくらい理解している。それに、アレクに言ったところで、やめないだろうことも。仕事以外に趣味らしい趣味を持たないアレクが唯一執心しているのが圭なのだから。

 そこまで考えたところで胸がキュウゥと痛んだ。
 不倫だなんだと勝手に決めつけてはみたものの、実のところ、そんなこと思ってなどいない。
 ……いや、考えたくないというのが本当のところだ。
 アレクが圭に向けている愛情の深さはよく分かっている。この旅行中にも再確認したし、疑う余地なんかない。



 だから、ただ寂しかったのだ。



 圭よりもマリーの方が良いと言われたようで。放っておかれたようで。
 嫌だったのだ。
 握っていた服の上にポタリと雫が零れ落ちた。一つ、二つと順に服へと水滴の跡をつける。

「ばか……アレクの馬鹿ぁ……」

 ポロポロと流れる涙の止め方を知らなかった。
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