俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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魔石交易⑤

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「……まあ、つーてもお前が守ってくれる約束がなきゃあ、セネーバに行けねぇ情けねぇトップだけどな。度胸がどうの言っても説得力はねぇか」

「ゼルさんは、情けなくなんかねぇよ」

 自嘲するゼルさんを、間髪入れず否定する。

「ゼルさんが俺に安全保証を求めたのは、自分の為じゃなく、ゼルさんについてくる奴らの為だろ。自分ができることを客観的に分析して、下の奴らの為に言いたくねぇことも言えるゼルさんは、俺が尊敬する数少ない人間の一人だよ」

 極限の状態でもなお、ガキの俺を気遣えるゼルさんが、自分の命惜しさに庇護を求めるはずがない。
 無謀と度胸は違う。組織のトップがそれを混同した時、その被害を被るのは下の奴らだ。
 ゼルさんは客観的に自分ができることを分析した上で、まだ二十歳にもならない俺に庇護を求めた。自分では、下の者の為に獣人に対抗することができないと、わかっていたから。
 俺には、自分や下のものを庇護できるだけの力があると、認めてくれたから。
 それが、泣きそうなくらい嬉しい。

「安心してくれ、ゼルさん。俺は絶対ゼルさんの信頼だけは裏切らねぇよ。もしゼルさん達をセネーバに派遣している最中に思いがけず戦争が起こったとしても、転移魔法を駆使して派遣した人間全てセネーバの外に逃がすと約束する。それが俺ができる精一杯の誠意だと思うから」

「……おいおい、さすがに戦争が始まった時は、俺らを切り捨てろよ。一時的に助かったとしても、その結果辺境伯領が滅びたとしたら同じじゃねぇか。さすがにそれくらいのリスクは、俺らも覚悟してるよ。アディが尽力してくれる前の崩落事故で命を亡くす可能性に比べれば、まだ確率は低いしな」

「……でも……」

「本当、お前は変わんねぇな……お前は、優し過ぎるよ。ガキの頃からずっとな」

 筋肉がついた太い腕に、ぎゅっと抱き締められた。
 同じくらい筋肉がついたアストルディアからもヴィダルスからも抱き締められてきたが、何というかゼルさんからの抱擁は……父親から、抱き締められてるみたいで。
 実の父親がクソな俺の涙腺を、めちゃくちゃ刺激してきた。

「……お前が、【国境の守護者】で良かったよ。俺は、領主の為なら無理だが、お前の為なら命だって賭けられる」

「……ゼルさん」

「詳しくはきかねぇけど。お前の頭の中には、きっと辺境伯領全部を救うような計画があんだろ。俺はその計画を支持するよ。少なくとも俺だけは、お前のことを支持するよ」

 俺が辺境伯領、クリスがリシス王国(特に王都近辺)を第一に考えるように、ゼルさんは辺境伯領鉱夫の利益を第一に考えている。
 そんなゼルさんにとって、この言葉は俺に対して示せる最大限の誠意だ。ゼルさんは、自分の考えを無理に下の奴らに押し付けることは、できない人だから。

「……ありがとう。ゼルさん」

 だから俺も、ゼルさんには最大限の誠意を示してみせる。

「ゼルさんのおかげで、また一歩前進できた。必ず俺は、ゼルさん達が生きる辺境伯領を守ってみせるよ」

 それが俺がゼルさんに返せる、精一杯の答えだから。



「……それでさ。いざセネーバに派遣したら、たった一日で獣人の鉱夫と意気投合してんの! ゼルさん、すごくない? コミュ力高すぎない?」

『ああ。その話は俺もニュネア鉱山の獣人から聞いている。本当にいい人間を派遣してくれたと、責任者はエディに感謝していた。是非また来て欲しいと』

「ええ~、アスティへの報告でもそう言ってくれてたの? だとしたらそれ、ニュネア鉱山の人達の本音だよね。めっちゃ嬉しいんだけど」

 通信の指輪を握り締めながら、またちょっと泣きそうになる。
 獣人への恐れを一日で克服して成果を出してくれたゼルさん達も、そんなゼルさん達を受け入れてくれたニュネア鉱山の獣人達も、ただどうしようもなくありがたくて。
 途方もない夢に、また一歩近づけた気がした。

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