俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
183 / 311

収穫祭①

しおりを挟む
 だけど、やるしかないんだ。
 本気で未来を変えたいと、思うのならば。



「エドワード様! 今年は収穫祭に参加されるのですね! 嬉しいです!」

「エドワード様が卒業されて初めての収穫祭なので、今年は皆特に張り切っているんですよ」

「ほんの10年前までは、食うのが精一杯で、収穫祭なんかまともに開催できるような状況じゃなかったのに……全て、エドワード様のおかげです。エドワード様がお父上様から辺境伯の地位を引き継がれる日を、領民一同心からお待ちしています」

 屋台が立ち並ぶ通りを練り歩くだけで、次々とかけられる領民達の声にキリキリと胃が痛む。

 一年の収穫を女神に感謝する収穫祭は、戦後からずっと開催されていたネルドゥース領の恒例行事だったが、俺が小さい頃は貧困からかなり規模が縮小され、領都周辺の領民が集まって酒を酌み交わすだけの、かなり小規模なものと化していた。
 様々な屋台が立ち並び、あちこちで楽団が希望に満ちた音楽を演奏し、招致した有名劇団が女神をモチーフにした劇を上演する。こんな大規模な祭を開催できるようになったのは、ここ数年のこと。噂を聞きつけた他領の人々までやって来るようになり、リシス王国では王都の祭に継いで華やかなものになってきている。
 全ては、食料改革の成功があったからこそ。そして公表こそしていなくても、その功績が親父ではなく俺のものではあることを、何故か領民は皆きちんと正しく把握している。……クリスの情報統制、本当ぱねぇ。

 立ち並ぶ屋台を見ても、ネルドゥース芋のコロッケやフライドポテト、ポテトチップス。ネルドゥース豆のスープに、豆腐を使ったデザート。ネルドゥースソバのクレープ。ネルの実を使ったサンドイッチやパスタ。ブーリ魚のフライに、串焼き。果実が埋められた色とりどりのゼリーや、クラッシュゼリー入りのジュース。セネーバから輸入した魔石を使った魔道具やアクセサリー……等など、あげていったらキリがないほど、俺が導入したものの数々が、昔からの特産品のように売られている。

 ……あ、ブーリ魚のフライのとこの店主、ディックだ。他にもいくつか新しく養殖始めさせた魚介類も、いい感じに屋台向けに調理してんな。
 ニックの方は最近店舗広げ過ぎて忙しいみたいだから、祭りにはいないか。新しい儲け話はないか、会うたびうるさいから、逆にちょうどいい。

「エドワード様! 良かったらこれ、どうぞ!」

 顔を真っ赤に染めた俺より少し年下くらいの可愛い売り子の女の子が差し出して来たのは、竹のような植物の器に入れられた、様々な果物を潰して混ぜたミックスジュース。
 これは俺の食料改革関係なく昔からある、辺境伯領名物の一つだ。

「ありがとうございます。ちょうど喉が乾いてたんです。いくらですか」

「そ、そんな。私が勝手にさしあげただけなんで。お金なんかもらえません」

「飲みたかったから、頂いたんですよ。どうか払わせてください。自領の方々に財を還元するのも、私達の役目のうちですので」

 下手に無料でもらったりしたら、他の屋台までそういう雰囲気になってしまいそうだしな。
 ぺこぺこ頭を下げる女の子に笑顔で代金を支払って、隅の方でジュースを口にする。
 魔道具で冷やされたジュースは、秋空の下で飲むのにちょうどいい温度で、器の香りが移った独特の風味が懐かしい。

 ……そういえば、セネーバの建国祭でスムージーを飲んだ時に、このジュースを思い出したっけ。

 目の前に広がる収穫祭の光景が、一年と数ヶ月前に見た建国祭の光景と重なる。
 通りを歩く人々には獣の耳もないし、売られている商品だって違う。
 それでも祭を楽しむ人々の姿は、人間も獣人も変わりなくて。
 改めて、セネーバの獣人とリシス王国の人間は、それほど違いはないのだと実感する。



しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

処理中です...