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収穫祭②
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この笑顔を、守らなければならないといけないと思う。そして、セネーバの建国祭で見た、獣人達の笑顔も。
改めて覚悟を決めて、飲み終えたコップを亜空間に収納し、歩き出した。
「ーーそれでは、ここでネルドゥース辺境伯嫡男エドワード様から、大切なお話があるそうです」
空が茜色に染まり、収穫祭もいよいよ大詰めになった夕方。
先ほどまでは、収穫祭中でもっとも人気を集めた楽団による演奏が行われていた特設ステージに、一人立つ。
とびきりの笑みを浮かべて視線を巡らせると、広場に集まった領民も、祭りの為に領外からやって来た人々も皆一様に歓声をあげた。……アイドルにでもなった気分だわー。ここから、この空気が凍りつくのかと思うと、恐ろしいけど。
「ーーお集まりの皆様。このたびは辺境伯領の収穫祭を盛り上げていただき、ありがとうございました。辺境伯にして、この地の領主である父も、今年も祭りが盛況に終わろうとしていることを、心から喜んでおります。業務でここに来られない父に代わり、御礼申し上げます」
できるだけ、スマートに。聞いている領民をざわつかせないように、自然に。まずは祭りに関する、辺境伯嫡男らしい台詞を口にする。
「この地に住まう皆様のご尽力で、辺境伯領はこのような大規模な祭りを開催できるくらい、豊かになりました。今春からセネーバとの交易が始まったことで、ますますこの地は発展してきております。長年交流が断然していた獣人に対する忌避感はあったでしょうに、領民の皆様が私を信じて着いて来てくださったおかげです。そして私は、そんな皆様の献身に応えなくてはいけません」
重すぎる悲痛な雰囲気を漂わせてもいけないが、あまり軽過ぎるのも、それはそれで問題だ。
絶妙な感じに声音を調整し、笑みを浮かべる。
「私は戦争に勝つことではなく、戦争がない世の中をもたらすことこそが、【国境の守護者】の役割だと思っております。私は【国境の守護者】として、次の春を待ってセネーバ第二王子アストルディア・セネバ殿下に嫁ぎ、獣人との戦争に怯える必要がない社会を作りあげます。それこそが、私が皆様にできる最大の恩返しです」
当然だが、途端に集まっていた聴取はざわめきだした。
「……エドワード様が、獣人に嫁ぐ?」
「そんなの【国境の守護者】の役割じゃない! 身売りも同然じゃないか!」
「エドワード様は、我が領の英雄なのに! 嫁がせるなら、もっと他に適任がいるだろ!」
俺はこっそり魔法を使って、ざわめきに自分の声がかき消されないようにして、話を続けた。
「既に双方の王家にも連絡を取り、結婚を承諾して頂いています。アストルディア殿下は、リシス王国では失われた貴重な無属性の特性を持っていて、子を成せるほど魔力相性が良い相手は滅多にいなかったので、全属性故に子を成せる私は、セネーバからとても歓迎されました。私とアストルディア殿下の結婚をもって、二国間の絆は確かなものになるでしょう。そして私はセネーバ国内から、辺境伯領を守ることができるようになる」
「だからって、エドワード様が犠牲になることはないでしょう!」
「幸い、私は留学を経て、アストルディア殿下の人となりを知っております。彼はとても高潔な方で、私同様セネーバとリシス王国の講和に積極的でした。現在セネーバとの交易ができているのも、彼の尽力があったからこそです。彼とならば、私は新しい時代を築けると思ったからこそ、結婚を承諾したのです」
「だとしてもっ! こんなの間違っている!」
予想していた通りではあるが、あがる声は批難ばかりで、結婚を祝福してくれる声は皆無だ。
どの顔も先ほどまでの祭りの高揚は冷めきり、悲壮に顔を歪めている。
わかっちゃいたけど、やっぱりこうなるかー。
胃がキリキリ痛むのを感じながらも、笑顔を保っていたのだけど、一際大きな罵声を聞いた瞬間表情が凍った。
「ーー我が領の英雄が、獣人に掘られて、子どもを生ませられるのか!? 情けなくて、涙が出るぜ。【国境の守護者】の誇りはどこ行ったんだよ!」
改めて覚悟を決めて、飲み終えたコップを亜空間に収納し、歩き出した。
「ーーそれでは、ここでネルドゥース辺境伯嫡男エドワード様から、大切なお話があるそうです」
空が茜色に染まり、収穫祭もいよいよ大詰めになった夕方。
先ほどまでは、収穫祭中でもっとも人気を集めた楽団による演奏が行われていた特設ステージに、一人立つ。
とびきりの笑みを浮かべて視線を巡らせると、広場に集まった領民も、祭りの為に領外からやって来た人々も皆一様に歓声をあげた。……アイドルにでもなった気分だわー。ここから、この空気が凍りつくのかと思うと、恐ろしいけど。
「ーーお集まりの皆様。このたびは辺境伯領の収穫祭を盛り上げていただき、ありがとうございました。辺境伯にして、この地の領主である父も、今年も祭りが盛況に終わろうとしていることを、心から喜んでおります。業務でここに来られない父に代わり、御礼申し上げます」
できるだけ、スマートに。聞いている領民をざわつかせないように、自然に。まずは祭りに関する、辺境伯嫡男らしい台詞を口にする。
「この地に住まう皆様のご尽力で、辺境伯領はこのような大規模な祭りを開催できるくらい、豊かになりました。今春からセネーバとの交易が始まったことで、ますますこの地は発展してきております。長年交流が断然していた獣人に対する忌避感はあったでしょうに、領民の皆様が私を信じて着いて来てくださったおかげです。そして私は、そんな皆様の献身に応えなくてはいけません」
重すぎる悲痛な雰囲気を漂わせてもいけないが、あまり軽過ぎるのも、それはそれで問題だ。
絶妙な感じに声音を調整し、笑みを浮かべる。
「私は戦争に勝つことではなく、戦争がない世の中をもたらすことこそが、【国境の守護者】の役割だと思っております。私は【国境の守護者】として、次の春を待ってセネーバ第二王子アストルディア・セネバ殿下に嫁ぎ、獣人との戦争に怯える必要がない社会を作りあげます。それこそが、私が皆様にできる最大の恩返しです」
当然だが、途端に集まっていた聴取はざわめきだした。
「……エドワード様が、獣人に嫁ぐ?」
「そんなの【国境の守護者】の役割じゃない! 身売りも同然じゃないか!」
「エドワード様は、我が領の英雄なのに! 嫁がせるなら、もっと他に適任がいるだろ!」
俺はこっそり魔法を使って、ざわめきに自分の声がかき消されないようにして、話を続けた。
「既に双方の王家にも連絡を取り、結婚を承諾して頂いています。アストルディア殿下は、リシス王国では失われた貴重な無属性の特性を持っていて、子を成せるほど魔力相性が良い相手は滅多にいなかったので、全属性故に子を成せる私は、セネーバからとても歓迎されました。私とアストルディア殿下の結婚をもって、二国間の絆は確かなものになるでしょう。そして私はセネーバ国内から、辺境伯領を守ることができるようになる」
「だからって、エドワード様が犠牲になることはないでしょう!」
「幸い、私は留学を経て、アストルディア殿下の人となりを知っております。彼はとても高潔な方で、私同様セネーバとリシス王国の講和に積極的でした。現在セネーバとの交易ができているのも、彼の尽力があったからこそです。彼とならば、私は新しい時代を築けると思ったからこそ、結婚を承諾したのです」
「だとしてもっ! こんなの間違っている!」
予想していた通りではあるが、あがる声は批難ばかりで、結婚を祝福してくれる声は皆無だ。
どの顔も先ほどまでの祭りの高揚は冷めきり、悲壮に顔を歪めている。
わかっちゃいたけど、やっぱりこうなるかー。
胃がキリキリ痛むのを感じながらも、笑顔を保っていたのだけど、一際大きな罵声を聞いた瞬間表情が凍った。
「ーー我が領の英雄が、獣人に掘られて、子どもを生ませられるのか!? 情けなくて、涙が出るぜ。【国境の守護者】の誇りはどこ行ったんだよ!」
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